フィリピンの貧困層を支援するフィンテックを使った無担保ローン<モーサテ>

公開: 更新: テレ東プラス

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現地に駐在するビジネスパーソンだからこそ知っている情報を聞く「なるほど・ザ・新興国」。今回はフィリピンの首都マニラから、アジア開発銀行(ADB)のチーフエコノミスト澤田康幸さんにお話を聞きました。

ーーフィリピンの新型コロナウイルスの感染状況はいかがでしょうか。

感染者は今年4月に1万人を超えた日もありましたが、現在はフィリピン全体で1日約5000人ほどに減っていまして、マニラ首都圏では600人程度で推移しています。首都圏では一般的なコミュニティ隔離措置(GCQ)を実施。屋内、屋外問わず外出時にはマスクとフェイスシールドの着用が義務づけられています。深夜0時から4時までは夜間外出が禁止ですけれど、経済活動はある程度戻り、賑やかさを取り戻しつつあります。

ーーフィリピンではワクチンの接種は進んでいるんでしょうか。

フィリピンのワクチン接種は日本と同様なんですが、自治体が窓口になって展開していまして、ショッピングモールにも接種会場が設定されています。ワクチンの2回接種完了率は3%強、1回のみ接種率は9%と日本よりもかなり低くなっています。私が所属しますADBでも、新型コロナに対する200億ドル(約2兆1600億円)の支援パッケージを昨年4月に発表しています。追加的に開発途上加盟国にワクチン調達支援というものを行っています。

ーーワクチン支援が進むことで、フィリピンの経済活動は回復し始めているのでしょうか。

根本的にはワクチンの普及が大切ですが、集団免疫を達成するには時間がかかります。ワクチンに加えて、フィリピンでは新型コロナの影響で仕事を失ったり、困窮している人の生活支援が必要ですので、ADBでも独自の支援を行っています。

ーーコロナ禍での貧困層独自支援策とはどういった支援なのでしょうか。

貧困対策としてADBでは、人工衛星からの写真を元に、AIを駆使して貧困マップを作成しました。3月のロックダウンの際には、このマップをもとに支援が必要な貧困地域を短時間で割り出しました。この割り出した地域に食料を袋に詰めて届けました。

もう一つ、ビッグデータ、ITを生かして貧困対策につなげる取り組みもしています。フィンテックを活用した貧困層向けのローン支援です。庶民の交通手段としてフィリピン全土で使われている「トライシクル」という、オートバイにサイドカーをつけたタクシーのような乗り物があります。ドライバーは貧困層出身者がほとんどです。新型コロナ拡大で交通規制もありましたので、トライシクルの利用者が激減をして、収入がなくなってしまう事態に直面しています。

経済活動が戻り、ドライバーがまた仕事を再開したいと思っても、担保がなくローンが組めず、トライシクルを買えないという状況です。そこでGMSという日本のベンチャー企業が開発した通信装置をトライシクルに取り付けることを条件に、担保なしでも融資を受けられるようになりました。

ーーどういう仕組みで融資を受けられるのでのでしょうか。

この通信装置は遠隔でエンジンをオンオフでき、万が一ローンの返済が滞った際には持ち逃げができないようにエンジンがかからなくなります。厳しいようにも聞こえますが、装備すれば担保がない貧しい人でも金融機関からの融資を受けやすく、できるだけ早く運転の仕事に戻ることを支援できる。新しいテクノロジーを使った、先進的な取り組みと考えられると思います。


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