『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』風間太樹監督とエスムラルダ

お久しぶり! ホラー系ドラァグクイーンのエスムラルダよ!

いきなりだけど、みなさんは、木ドラ25『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京ほか、毎週木曜25:00~)をご存じかしら。

これは、豊田悠さんの同名の人気コミック(通称「チェリまほ」)を原作とした連続ドラマ。童貞のまま30歳を迎えたことで“触れた人の心が読める魔法”を手に入れた主人公・安達清(赤楚衛二)が、同期のイケメン・黒沢優一(町田啓太)の心を読み、自分への恋心を知ってしまうことで動き出すピュアなラブストーリーで、関連ワードがTwitterの世界トレンド入りするなど、大きな注目を集めているの。

今回はテレビドガッチ編集部さんに土下座して、監督を務める風間太樹(かざまひろき)さんにインタビューさせていただくことに。撮影の裏話から今後の見どころまで、いろいろとお話をうかがってきたわ!

第1話 出勤途中の安達清(赤楚衛二)
第1話 出勤途中の安達清(赤楚衛二)

エスムラルダ(以下エスム):私がこのドラマのことを知ったのは、今年の9月。町田さんの大ファンの友達が興奮気味に、「(町田)啓太が今度、これに出るの!」って教えてくれて、ずっと楽しみにしていました。ただ、男性同士の恋愛を描いた作品って、当事者的には「どんなふうに描かれるんだろう」と心配になってしまう部分があって、ドキドキもしていたんです。でも、実際にドラマを見てみると、予想をはるかに上回る面白さだったし、すごく丁寧に作られていたので、「これは安心して見ることが出来るし、人にもすすめられるわ!」とホッとして(笑)、すっかり“チェリまほ沼”にハマってしまいました。同じように思った人が多かったのか、ドラマの評判が口コミで広まり、チェリまほファンが、私のまわりでも、今も増殖中です。新宿二丁目界隈の視聴率、かなり高いはず。

風間太樹 監督(以下風間監督):“丁寧だ”と言ってもらえて嬉しいです。第1話の放送日は現場の真っ最中だったので、僕らもみんなドキドキしながら放送が始まるのを待っていました。今はTwitterなどのSNSで広がっていく作品がたくさんありますが、その一つとしてこのドラマが盛り上がっているのはすごくありがたいですね。

エスム:このお仕事の話が来た時、どんな第一印象をお持ちになりましたか?

風間監督:プロデューサーの本間(かなみ)さんから声をかけていただいたんですが、企画書を読んだとき、「これは“人の心”を描く作品」であるという言葉にすごく共鳴しました。「表に見えているものだけが本人をかたどっているわけではなく、心の内側に隠された言葉や思い、そこに向き合って描いていくこのドラマは<自分の思いを伝える>という行為を肯定してくれる・前向きにさせてくれる」という思いが書かれていて。

自分の中で独り言みたいに思っている心の声を表に出すことって、ふつうはほとんどないですよね。でも、安達が、まわりの人たちの心の声一つひとつと真剣に向き合って、人の多面性に気付いたり、共感したり、寄り添い努力する姿は、見ている人にとっても救いや癒しになるんじゃないかって。「恋愛ものをやってみたい」という気持ちもありましたが、それ以上に、「心の声や伝えられずにいた思いに対して、人が少しずつ正直に、素直になっていけるような物語」に取り組みたい、ぜひやってみたいと強く思いました。

エスム:第1話の監督を務めることについて、プレッシャーなどはありましたか?

風間監督:連続ドラマの監督をすること自体、今回初めてなんですが、既存の魅力ある映像作品に近づけようといった考えはなく、とにかく自分の好きで溢れた世界を作っていこう、という気持ちで現場へ入っていったので、そこまでプレッシャーはありませんでした。

エスム:原作がある作品のドラマ化という点ではいかがでしたか?

風間監督:シナリオ打ち合わせの時に、豊田先生が、「ドラマにはドラマの良さがある」とおっしゃっていたと聞いたので、あまり気負わずに作ることができました。また、「なぜ漫画原作をわざわざ映像化するのか」という疑問に対して、自分では「映像は映像で、新たな魅力を生み出していけたらいい」と常々意識しているので、原作に寄り添いながらも、新たな世界観をしっかり作りこんでいきたい、それが少しでも伝わったらいいな、と思いました。

エスム:原作者の先生がそのようにおっしゃってくださると、制作側としても勇気が出ますよね。ちなみに、風間監督の担当回ではありませんが、第4話で藤崎さん(佐藤玲さんが演じている安達と黒沢の同僚)のキャラ設定が原作と変わっていることに気づいた瞬間、鳥肌が立ちました。「そこに踏み込んだか!」「チェりまほ、やるなあ!」って(笑)。

風間監督:脚本の打ち合わせの段階で、藤崎希のキャラクターを原作から変えるなど、いろいろなチャレンジをしていて。撮影に入る前から、「このチームには臆さない前向きさと、柔軟さがあるな」と思いました。

エスム:少し詳しくお話しすると、原作の藤崎さんは腐女子的なキャラクターなんですが、ドラマでは「恋愛することに関心がないけれど、人前ではそれを隠している」という設定になっていたんですよね。そうした気持ちがなかなか理解されず、悩んでいる人は一定数いると思うんですが、日本のテレビドラマで、そこをきちんと描いた作品は、私が知る限り、今まであまりなくて。作り手チームの本気を感じました。

第4話 男たちにからまれた安達(赤楚衛二)と藤崎(佐藤玲)を助ける黒沢(町田啓太)
第4話 男たちにからまれた安達(赤楚衛二)と藤崎(佐藤玲)を助ける黒沢(町田啓太)

風間監督:安達と黒沢の関係もそうですが、恋愛のあり方や愛の表現の仕方ってたくさんあるよね、という話を、スタッフともキャストともしていて。今、言葉としてあるものにカテゴライズするよりも、恋愛や他者との向き合い方を“彼らなりのカタチ”として描いていくことを大切にしました。

本間プロデューサーもおっしゃっていましたが、“ただあるもの”として描く。2人なりの愛情の表現のあり方を、力まずに映しこんでいこうという気持ちで撮っているので、押し付けがましくないというか、「なんかいいな」と思ってもらえる2人になっているのではないかと思いますし、藤崎さんのキャラクターも、同じように受け止めてもらえたんじゃないかと感じています。

エスム:公式Twitterなどでキャストのみなさんのオフショットもアップされていて、現場の雰囲気の良さがとても伝わってきます。赤楚さんや町田さんが、オフでも仲の良さそうなところが垣間見えて、イチ視聴者としてもほっこりさせていただいています。

風間監督:2人には、あくまで自然体でいようとする姿勢を感じました。“安達と黒沢の空気”作りに無理がないから、それぞれの魅力が存分にキャラクターに投写されているように思います。

エスム:監督が、特に現場で心がけていらっしゃったことなどはありますか?

風間監督:僕、俳優一人ひとりとめちゃくちゃ話すんですよ。撮影に入る前、衣装に着替え終わった頃に、こそこそっと彼らの控室へ行って時間をもらうんですけど、そこでいろいろな議論をして、自分たちが組み立ててきたお芝居の齟齬をなくしてから現場に入るんです。

そうすることで、お互いに安心して現場に入れますし、自由に意志をぶつけ合う状況をつくることは、今回は特に必要だったと思います。この作品は、普通の恋愛ドラマだとすっ飛ばしてしまうような過程を丁寧に描いているじゃないですか。1歩間違えると、表現の方が感情を追い越してしまいかねない。だから現場もお互いに歩み寄りながら、表情が行き過ぎていないかとか、このニュアンスで言葉を伝えてしまってよいかとか、そういった会話は、毎回綿密にしていました。

エスム:その丁寧さがワンシーンワンシーンから伝わってきます。登場人物の距離感の変化も、このドラマの重要なポイントですものね。

風間監督:たとえば、黒沢の“思い”には、長年の歴史があります。能力に目覚めたことで、その思いを安達が知り、物語が動き出すわけですが、黒沢がなぜ、長年思いを抱え続けたのか、もっと早くに近づくことはできなかったのか、といったあたりは、町田さんに、常に意識して演じていただきました。

ちなみに、第1話の冒頭で安達が転んでしまう場面があるのですが、それを黒沢が遠くから見ていていち早く気付くというシーンは、シナリオには書かれておらず、現場で追加させていただきました。

誰よりも安達を見ていて、本当は近くに行きたいんだけど、自分の気持ちは胸に秘めて……。その歯がゆさを、第1話で随所に出していきたいとそのシーンを入れたのですが、町田さんもその気持ちを汲み取ってくださいました。

エスム:私は、おそらく多くの視聴者の方同様、第1話のラスト、黒沢が安達にマフラーを巻いてあげるシーンで、まずホロっときてしまったのですが、演出をされる際に、特にこだわった部分はありますか?

第1話 安達にマフラーを巻く黒沢、その時黒沢の心の声が聞こえてきて
第1話 安達にマフラーを巻く黒沢、その時黒沢の心の声が聞こえてきて

風間監督:このドラマは「触れる」という、ただそれだけの描写に込められる思いが多いように思いました。安達への想いを言葉に出来ない分、「触れる」という行為の中で黒沢の優しさや、抱えてきた切なさを、手の微細な動き一つで伝わるようにしたいと町田さんには話しました。

あと、安達を通して聞こえてくる「心の声」って、嘘偽りの無い気持ちじゃないですか。今まで本心を表に出してこられなかった黒沢の表情と心の声とのギャップの面白みを、全話を通して出していきたいとも思いましたし、ふだん、意識しようもないほどささやかな行為の中にも、黒沢の思いは溢れているのだと、第1話で注目して頂けるように丁寧に描写しました。

今後、黒沢にとっての心の声=本心の部分が、どんどん表に出ていくはずです。

エスム:手の繊細な動き、すごく伝わりました。作品の質って、そういうちょっとしたところにあらわれますよね。黒沢の心の声も、下手すると下世話になりかねないけど、もやっとすることが全然なく、純粋に楽しんで見られるので、作り手のみなさんの誠意に、いつも感謝しています(笑)。

風間監督:近くに置いておいて何回も見直したい作品って、みなさんそれぞれにあると思うんですが、このドラマもその一つになれたらいいですね。観客として作品を眼差すとき、その作品世界の隅っこでもいいから、心はちゃんと近くに居たいと思いますよね。僕はどんなジャンルの作品でも、同じ空間に気持ちを置いて一喜一憂することを許してくれる覚悟と温かさがある作品が好きで。だから今回も、オフィスの片隅から、そこにいる微笑ましい2人の様子を見守っているような、高い解像度でみなさんに楽しんでいただけるような作品にできていたらいいなと思っています。

エスム:ほかの回を担当されている湯浅弘章監督と林雅貴監督も、おそらくそうした思いを共有されていますよね。

風間監督:撮影前の衣装合わせの時に、キャラクターとどう向き合うのかといったことについて、俳優を交えてお話ししています。湯浅さんや林さんは寄り添ってくださいましたし、お互いに、自分の担当回以外の現場にも行けるときは行って意見交換を重ねてきたので、そのあたりの感覚は共有できていると思います。あと、キャストが他の監督と議論しているところもしばしば見ましたし、みんな自分たちから出てくる言葉で戦っているな、と感じましたね。

エスム:スタッフもキャストも、みなそれぞれに思いを持ち、ぶつけ合いながら、この作品を作ってきたんですね。

風間監督:はい。赤楚くんも町田さんも、毎回自分が出るシーンについて、めちゃくちゃ考えてきてくださって。特に町田さんは、綿密に演技プランを練ってきているな、と感じました。以前から、コメディに挑戦したいという思いがあったらしく、表情の作り方など、いろいろと工夫されていましたね。ちょっと眉を動かすだけで、すごく面白い表情になったり、発見も多かったです。町田さんの中から出てくるものが、そのまま黒沢の面白みにつながっていて、とてもいいなと思いました。

エスム:そのさじ加減は大事ですよね。そして町田さんの場合、笑わせにいっても決していやらしくならない。

風間監督:コミカルなシーンを撮る時は、毎回、「どこまでなら、黒沢のキャラクターとしてみなさんに愛してもらえるか」といった議論をしました。たとえば、第1話の、安達のうなじのホクロに関するシーンも、心の中の高ぶりをどこまで表情に出すか、町田さんと話し合ったうえで、「じゃあ、とりあえず一回やってみよう」ということになって。実際に演じていただいたら、ホクロを発見したときのハッという絶妙な表情が自然と出てきて、すごく面白かったので、活かそうということになりました。コメディ部分は、そんな試行錯誤を重ねながら撮っていきましたね。

赤楚くんも、自分では不器用だといっていますが、僕の言葉に対する反応がすごく軽やかで。今回は、目線や手のお芝居について、かなり細かく演出させていただいたのですが、柔軟に対応してくれました。

第1話 残業する安達を手伝う黒沢
第1話 残業する安達を手伝う黒沢

エスム:お2人のその感じ、わかる気がします。しかしチェリまほって、放送時間の30分が一瞬なんですよね。ゆっくり丁寧に話が進んでいくのに、毎回「ああ、もう終わっちゃった」って!

風間監督:脚本のバランスがいいんですよね。コミカルな部分もあれば、きゅっと切なくなるシーンもあって。一方で、柘植×湊ラインは、安達×黒沢とは違うアプローチで恋愛を育んでいくので、そのへんもいいスパイスになっているのかなと思います。

この記事のライター

エスムラルダ

1994年よりドラァグクイーンとしての活動を開始し、各種イベント、メディア等に出演。2002年8月、東京都の『ヘブンアーティスト』ライセンスを取得。ライター、脚本家としても活動中。2018年、及川眠子・中崎英也のプロデュースにより、ドラァグクイーンディーヴァユニット「八方不美人」を結成し、CDデビューを果たす。

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