Jリーグのプレー自体には感染リスクが少ない!注意するべきはコレだった

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Jリーグのプレー自体には感染リスクが少ない!注意するべきはコレだった

エボラウイルスやSARS流行の際に最前線で収束に奔走し、2月に新型コロナの集団感染が発生したダイヤモンド・プリンセス号でも活躍した感染症対策のエキスパート、神戸大学の岩田健太郎教授が、8月29日放送のサッカー番組『FOOT×BRAIN』(テレビ東京系、毎週土曜24:20~)にゲスト出演。サッカーでよくある6つのシーンの感染リスクや、延期となっているワールドカップ予選と東京オリンピック・パラリンピックの開催について語った。

まず、選手や監督、スタッフなどにも感染が確認されているJリーグの現状について、岩田教授は「あまり気にする必要はない」と評価。社会生活には必ず感染リスクがあり、マスクを付けるなどして低減することはできてもゼロにすることは不可能。今後も一定の割合で感染が起こるのは仕方がなく、ゼロリスクを求める考えは捨てるべきだと提言した。そして、「感染者に対するバッシングや誹謗中傷はもってのほか」と過剰な反応を示す一部の人々に釘を差した。また、Jリーグの対応については「常に専門家に相談し、状況を考え臨機応変に対応しているのはすごく良い」と語り、70ページ以上に及ぶ感染症対応ガイドラインもきめ細かく気配りがされていると話した。

そして、Jリーグが2週間に1度行っているPCR検査については「今の段階では妥当」と所感を述べ、「流行中に定期的なPCR検査はそこそこ有効だと思います。逆に感染者が減っている時期は、ウイルスがほとんどいないのでPCRをやるメリットはなくなってくる」と解説。今後もしっかりと状況判断しながら検査の実施を決めていくべきだと話した。

また、なぜ新型コロナウイルスがここまで人々を混乱させているのかを聞くと、非常に特殊なウイルスなのが原因ではないかと推察。「ざっくり言うと普通はエボラウイルスのような致死率が高いウイルスと、風邪のように勝手に治ってしまう致死率の低いウイルスの2種類があるのですが、新型コロナウイルスはその両面性を持っています。ほとんどの方が勝手に治ったり症状がなかったりする一方で、一部の方は重症化して亡くなってしまう。多くの人がこのウイルスを軽く考えて良いのか、重く考えるべきなのか困っている」と解説し、岩田教授の知見をもってしても立ち位置が難しいという。

感染症のエキスパートさえも悩ませる新型コロナウイルス。選手やスタッフはどのように対応するべきなのか? そこで番組では「接触プレー」「ゴールパフォーマンス」「給水タイム」「審判への抗議」「ハーフタイム」「監督の指示」というサッカーでよく目にする6つのシーンをピックアップ。

まずはサッカーでは避けられない「接触プレー」について。「JリーグではPCRを実施しており、選手たちがウイルスを持っている可能性はゼロではないが非常に低く、プレーによる感染リスクは非常に小さい」と評価。「肩と肩がぶつかり合って感染が成立することは殆どない。一番心配されるのは手の平で、そこから口や鼻、目などに持っていくことでウイルスの感染は成立する。選手に推奨されている肘タッチはとても合理的な方法であると言えます」と語り、「ゴールパフォーマンス」も、唾液の飛沫に気をつければリスクは少ないと話した。

むしろ気をつけなくてはならないのが「給水タイム」。これまではボトルを共用する姿が見られたが、対策ガイドラインでは飲水ボトルの共用を避けるように求められており、一度使ったボトルを再びクーラーボックスに入れることはNGと定められている。

岩田教授を悩ませたのが「監督の指示」。選手のすぐそばで情熱的に指示を出す姿に対して「これは微妙ですね。比較的年齢の高い方をどうケアするのかは一つのテーマだと思います。理想的には近くで指示するときはマスクを付けたほうが良いですし、もうちょっと距離を保った方が良いと思いますが、現実的には難しそう」と話した。そして「審判への抗議」についても同様で、ヒートアップすると、つい顔を近づけてアピールしたくなるが、それでは感染リスクが上がってしまうので、距離を保ったり、ジェスチャーで抗議したり工夫が求められる。

そして、岩田教授が最も気にしたのは「ハーフタイム」のグラウンドキーパー。芝を手入れするために顔を地面に近づけて作業することになるが「ピッチ上には選手の吐いた唾や鼻や口の飛沫が落ちている可能性があり、地面をひっくり返す瞬間にしぶきが飛んで来る可能性がある」と指摘。マスクや手袋、手指消毒、できればフェイスシールドのようなもので、目からの感染も予防した方がいいと指摘した。

一方で、サポーターも試合を楽しむ上で気をつけなければならないことがある。それはスタジアムでの声を出しての応援もそうだが、スタジアムまでの移動だ。バスや電車、駅からスタジアムまでの道のりなど、感染リスクの意識が薄れがちになる移動で密を避けることが大事だという。

そして、これらの感染対策の正しい情報を伝える上で、岩田教授が大事にしているのが「リスク コミュニケーション」。あるリスクをどうやって伝えるかを指す言葉で、この意思疎通がとても重要だという。例えばアベノマスクは、なぜ1世帯に2枚なのか、布マスクが如何に感染対策に有効かなどの満足な説明がなく、国民と政府で意思疎通がはかれなかったため批判が集まった。また、海外ではロックダウン解除に向けての指針が示されている国もあったが、日本はロックダウンではないが緊急事態宣言で何を目指し、個人がどうしたら良いのかわからないという状況に陥った。「情報を伝える際は、受け取る側が分かり易いよう、納得できるように目的や理由を明確にする必要がある」と話した。

さらに岩田教授は、コロナの影響で日本の問題がもう一つ見えたという。それが「固定観念に縛られすぎる」こと。「例えばマスクがそうです。マスクをすれば大丈夫とか、マスクをしても意味がないとか、二律背反的な議論になりがち。根拠を見るとか、そのデータを調べるとか、ちょっと立ち止まってみることが重要」と指摘した。満員電車がなくならないことについても「回避する方法はたくさんあると思う。世界中どこを見渡しても満員電車はほとんど発生していないことを考えると、単に人口が多いから満員電車が発生するというのは間違いだとわかる。思い込みで決めつけないことが大事」と話した。

最後に、ワールドカップアジア予選や東京オリンピックなど、様々な国際大会の今後について。サッカーのUEFAチャンピオンズリーグは準々決勝以降をホーム&アウェーからポルトガルで行われる一発勝負に変更。無観客試合にすることで人の移動を大幅に減らして実施された。これらを例に「工夫は必要かもしれませんが、ワールドカップ予選についてはやってやれないことはない」と結論。一方で、東京オリンピック、パラリンピックについては「非常に難しい」と評価した。「競技数も参加国数も比較にならないほど多い。世界中から選手村にアスリートが集まって寝泊まりするような、本来の形で開催するのはものすごく難しい。例えば競技ごとの時期をズラして、開催地を分散させるとか。体操などの採点種目については、1か所に集まる必然性は比較的乏しいので分散して行い、別の場所でスコアを付けるのも一つの考え方だと思います」と述べ、「もしやるとすれば我々が認識しているオリンピック・パラリンピックとは違う形になるのではないか」と持論を展開。「この現実と理想の折り合いをつけるということかもしれません」と難しい判断であることに伝えていた。

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