代理人・田邊伸明が語る“移籍のトレンド”と“選手との関係”

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左から田邊伸明、都並敏史
左から田邊伸明、都並敏史

サッカー選手の代理人の第一人者、田邊伸明(ジェブエンターテイメント代表取締役)が、5月30日放送のサッカー番組『FOOT×BRAIN』(テレビ東京、毎週土曜24:20~)に出演。知られざる代理人の仕事内容を明かしていく。

まず番組がテーマにしたのは海外移籍のトレンド。12-13シーズンと14-15シーズン、ドイツ・ブンデスリーガの1部クラブに11人もの日本人選手が所属するなど日本人ブームが到来していた。現在は状況が変わり、19-20シーズンは3人に減った一方で、若くして海外ビッグクラブに行く選手が増えている。日本人の海外移籍に今、何が起きているのか?

田邊は、ドイツの人数が減った理由の一つとして「活躍しなくなってきたこと」と指摘。リーグ毎に獲得する選手のトレンドのようなものがあり、今はクラブの目が他国の選手に向くようになったという。Jリーグの移籍制度の変化も大きな要因で、2008年までは、契約満了後でも移籍の際に元所属クラブの承諾が必要で、移籍金も発生するローカルルールを適用していた。しかし、2009年からそのルールが撤廃され自由な移籍が可能に。高校卒業時に3年契約でプロ入りし、21歳の契約満了時にフリー移籍する、いわゆる“ゼロ円移籍”が増えた。ドイツの日本人ブームの背景には、このゼロ円移籍の活用があったのだ。しかしその結果、選手を育てたJクラブに移籍金が入らないという課題が生まれ、現在は移籍元と移籍先がWin-Winになるようにゼロ円移籍は少なくなっているという。

一方で、若手のビッグクラブへの移籍が増えている。FC東京からレアル・マドリードに移籍した久保建英を筆頭に、安部裕葵は鹿島アントラーズからFCバルセロナ、ガンバ大阪の食野亮太郎と川崎の板倉滉は共にマンチェスター・シティと契約。彼らの共通点は、それぞれがレンタル移籍をして別クラブでプレーしている点。ビッグクラブによる青田買いが起きているのだ。

これについて田邊は「ビッグクラブがレンタルに出すことで、その選手がヨーロッパの市場で見てもらえるようになる」とメリットを感じ、これはトレンドになると予測していた。しかし、FIFAはこれを問題視。レンタル移籍を1クラブあたり8人までに制限することを検討している。「日本人選手の代理人という立場だけでいうと制限は良くないと思う。ただ、日本や世界のサッカー界にとってそれが良い判断かどうかが大事」と話した。

そんな中、新たなトレンドとなっているのがセカンドグループへの移籍。最初から5大リーグ(イングランド、スペイン、ドイツ、イタリア、フランス)に行くのではなく、ベルギーやポルトガル、オランダなどからステップアップを目指すというもの。去年、オーストリアのザルツブルグからイングランドのリヴァプールに移籍した南野拓実はまさにその成功例。ドイツのフランクフルトからシント=トロイデンにレンタル移籍し、結果を出したことでレンタルバックされた鎌田大地も好例の1つだ。冨安健洋はアビスパ福岡からシント=トロイデンに移籍し、イタリアのボローニャへ。ステップアップを重ね、堅守が伝統のイタリアで絶賛されるディフェンダーとなった。

ステップアップという点では、Jリーグでは個人昇格が目に付くようになった。例えば藤本憲明は、JFLを経て、J3の徳島ユナイテッドに移籍。そこで2年連続得点王になると、2018年にJ2大分トリニータへ移籍し6年ぶりのJ1昇格に貢献。J1でもゴールを量産し、シーズン中にヴィッセル神戸へ移籍。自らのゴールでクラブを天皇杯優勝に導いた。J3とJ2で連続して得点王となり、今シーズンからJ1浦和レッズに移籍したレオナルドも好例だろう。

また、呉屋大翔や一美和成は、J1でレギュラーを取れず互いにガンバ大阪から下のカテゴリーに移籍して活躍。今シーズン、別のチームでJ1返り咲きを果たした。田邊は「自分のキャリアを修正して戻ってきたタイプ。エージェントと話し合って良い選択をした例」と分析。さらに田邊は「選手のライフプランと契約はリンクしていることが重要。将来海外に行きたいのであれば、それを叶えるための内容が契約書に書かれていなければならないので、選手よりも少し先を常に見て考えなければならない」と話した。

ここで改めて代理人と選手の契約を紹介。選手が支払うのは年俸の5~10%が相場で、提供するサービスによってパーセンテージが変化する。仕事内容も契約や移籍の交渉に目が行きがちだが、実は年間でいえば1~2日程度の仕事なのだという。田邊のオフィスでは「選手が“選手”に集中できる環境作り」「選手がスキルアップするために何ができるか」をメインに考え、選手に様々な角度から力を貸しているのだとか。

契約以外の仕事とは何なのか? 選手の年俸が収入に直接関係してくるので、代理人としても選手の年俸アップを考えなくてはならない。そのために田邊のオフィスはスタッフ全員がサッカー指導者のC級ライセンスを取得。活躍するにはどうしたら良いかを考え、毎試合のプレー動画を作り、詳細なプレーデータを選手に渡すなどして成長を手助けする。更にはセカンドキャリアや財産管理、資産運用のアドバイス、現在はコロナ禍とあってオンライントレーニングも実施。様々な角度から選手を支えている。

最後に田邊は「年俸のつり上げとかのイメージが強いと思いますが、それは1年間の中で1日とか2日の仕事。ですが、その契約のために残りの360日を使っています」と語り、代理人が選手やサッカー界のために何を考えているかを明かしていた。

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