原博実と考える!VAR導入で改めてわかる判定の難しさ

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VARについて語る原博実
VARについて語る原博実

Jリーグ副理事長の原博実が、5月23日放送のサッカー番組『FOOT×BRAIN』(テレビ東京系、毎週土曜24:20~)にゲスト出演。2020シーズンからJ1で導入がスタートしたVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)について語った。

まずVARの仕組みを改めて解説。ピッチ上の審判とオペレーションルームにいるVARが連携を取りながら「得点かどうか」「退場かどうか」「PKかどうか」「警告・退場の人違い」の4条件において明らかな間違いがあった場合に介入する。すべてのプレーで正しい判定をすることを目的としているものではない。

ワールドカップロシア大会では、各スタジアムからの映像を首都モスクワにあるオペレーションルームに集約。Jリーグでは、オペレーションルームの設備を搭載したトラックを7台用意し、各スタジアムに出動する形をとっている。1ヵ所にまとめれば移動コストが軽減できるなどのメリットがあるが、日本では回線代や台風などの自然災害で回線が遮断されるなどの様々なリスクを考慮し、この形にしたという。Jリーグが運用するトラックのオペレーションルームは、およそ4畳の広さで、各種モニターや通信設備、エアコンなど機材がびっしり。また、通常の試合中は出入口が閉じられているが、新型コロナウィルス対策として、マスク着用やドアを開放し換気をするなどの対応を考えているという。

試合中は、中央にVAR、左隣にアシスタントVAR、右側にリプレイオペレーターが座る。VARには「1画面をフルに使ったモニター」と「4分割画面のモニター」の2種類を用意。前者はリアルタイムの映像、後者は3秒遅れの映像がそれぞれ表示され、確認が必要だと感じたシーンを瞬時に再確認することができる。さらに詳しい検証が必要となった場合には、右側のリプレイオペレーターがタッチパネル式のモニターを駆使し、10台以上あるカメラの中から適した映像を選択しVARに送る。ピッチ上の主審が確認するオンフィールドレビュー用のモニターもここで選択した映像が表示される。

番組はJ1初導入となった2020シーズン開幕戦、湘南ベルマーレvs浦和レッズの舞台裏を取材。この試合は、以前番組にも出演し、ワールドカップでも笛を吹いた経験を持つ西村雄一がVAR、佐藤隆治が主審を担当した。すると早速、VARが介入する瞬間が2-2で迎えた後半23分にやってきた。湘南がペナルティエリア内に侵入し、ゴールライン方向にドリブル。マークについた浦和ディフェンダーがボールを奪ったかに思えたが、ボールがラインを割る直前に手に当たってピッチ内に残り、そのままカウンターにつなげていた。問題の瞬間から1分19秒後、佐藤主審はVARの介入でオンフィールドレビューを実施。ハンドと判定しペナルティボックスを指さした。

原はVAR導入にあたり、オンフィールドレビューで見ている映像は、会場の大型スクリーンにも映し出すようにしたという。実はJリーグならではの工夫で、選手や観客など、そこにいるすべての人が「何が起きたか」を確認でき、更に会場全体で同じ映像を共有することで透明性を保つ狙いもあるのだとか。

ジャッジを下した佐藤主審は電話インタビューに応じ、「ハンドの判定は、意図的かどうかの微妙なところで変わる」と述べ、その瞬間に判断をせずVARに持ち越したという。また、観客が今回のような反則を肉眼で確認することは難しく、意味が分からないままPKになった可能性に言及。「あの得点差と雰囲気を考えれば、選手や監督、サポーターが見られる使い方は良かったのではないか」と考察した。さらに、VAR介入までに1分以上要したことについては「VARがプレーを強制的に止めるのは簡単ではない。ですが、それをコンマ1秒でも早く詰めなくてはいけない」と課題を確認。一方で原は、コーナーキックやフリーキックなどのポジション争いに変化が起きており、「ビデオで見られているためファウルが少なくなり、リスタートまでの時間を短縮できている」と判定の正確性とは違った効果が上がっていると紹介した。

さらに番組では、昨年12月に行われた審判団によるVARのトレーニング合宿の模様を紹介。大学生の試合を使った実戦形式でトレーニングは行われ、クローズアップされたのがドリブルするFWとGKのコンタクトシーン。主審は接触がないにもかかわらずFWが倒れたとしてシミュレーションの判定でイエローカードを提示。VARは接触があったとしてPKを提案した。そして、オンフィールドレビューを行うが両者で意見が食い違ってしまう。主審は、GKがわずかにボールに触れたことに気づいており、ビデオで確認してもこの程度のFWとの接触でPKを取ることはできないと主張。(ただしこの時、主審はGKがボールに触れていることを伝えていない)一方、VARはGKが先にボールに触れたことに気づいていない状態で、FWとの接触があったとしてPKを改めて進言。最終的に主審は、GKがボールに対してコンタクトし、その後でFWと接触したために転倒したとして両者正当なプレーと判定。イエローカードを取り消し、ドロップボールでの再開を選択した。

試合後、このケースについて審判団が検討会を実施。ここで強調されたのが情報共有の難しさ。審判インストラクターは「主審はGKがボールに触れていることに気づいていたが、VARは気づいていなかった」と、この時の問題点を指摘し、主審が「GKが先にボールに触れている」と伝えられていたら、VARの認識も変わったはずだとレクチャーした。VAR側だけでなく、主審が現場で見た情報を正確に共有することが時間短縮や精度を上げていくことにつながっていくと解説していた。

この様子に、番組MCの勝村政信が「想像以上に難しいですね」とつぶやくと、原も「選手も命懸けだけど、審判も命懸けでやっている」と述べ、あまり公にはされないが、審判もミスをすると試合から外され、その間に勉強をし直すなどのペナルティがあることを明かし、VARという形を取ってはいるが、選手と審判がお互いに認め合えるのがベストだと改めて語った。

さらに番組が目を付けたのは、VARの判定画面や主審の左腕にある「TOP」の文字。実はこれ、愛知・名古屋を中心にオフィス環境のトータルプランニングを手がける企業のロゴ。JリーグオフィシャルVAR・フェアプレーパートナーとして、J1各クラブが負担しなければならないVARに関する費用をサポートしている。

しかし、VARは毎試合必ず介入するとは限らない露出面では厳しい仕組みでもある。悪条件にも関わらずスポンサー契約を結ぶことについて、TOPの小田悟社長は「NOと言わない男」と笑いながら、「元々スポーツが好きで、スポーツを通じて社会貢献をしていきたい」と熱い思いを告白。佐藤レフェリーも「レフェリーに特化してサポートしていただく機会は多くない。褒められることがない仕事だと思っているので、レフェリーのサポートをしていただけるのはうれしく思います」と感謝の思いを伝えていた。

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