勝敗だけではない!U-18プレミアリーグ設立で得たサッカー界の経験値

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勝敗だけではない!U-18プレミアリーグ設立で得たサッカー界の経験値

都内屈指の進学校・暁星高校で43年にわたりサッカー部の指揮を執り強豪校に育て上げた名将・林義規が、2月29日放送のサッカー番組『FOOT×BRAIN』(テレビ東京系、毎週土曜24:20~)にゲスト出演。JFA理事で東京都サッカー協会会長でもある重鎮がユース年代の育成について語った。

Jリーグ開幕から28年、Jクラブユースと高校サッカー部の関係にある変化が起きている。2010年南アフリカワールドカップの日本代表メンバーは、高校サッカー出身が19名、クラブユース出身が4名だったが、去年開催された2019年カタールワールドカップアジア2次予選では高校サッカー12名、クラブユース11名と均衡。U-17やU-20ワールドカップメンバーに至ってはクラブユース出身が7割を超えた。

なぜ、クラブユース出身の代表選手が増えたのか? 番組アナリストの北澤豪は、クラブユースには全国からプロを目指す選手たちがセレクションによって入団が決まるので、それだけレベルは上がる。それにすぐ横でプロが練習しているのを見ると、それをやればたどり着けるのかなという感覚になれる。近くにいるかいないかは大きな違い」と話し、クラブユースのレベルが上がった要因を分析。このような恵まれた環境によって続々と日本代表入りを果たす選手を輩出するようになった。

そんな中、クラブユースと高校サッカーの融合は日本サッカーの更なる発展につながると考え、林が中心となって2011年に立ち上げたのがU-18プレミアリーグ。東西10チームずつに分かれ、年間を通してホーム&アウェーで争われるリーグ戦で、立ち上げ当初は実力派の選手が揃うクラブユースが強さを見せつけた。しかし、次第に高校サッカーも力をつけて優勝するチームが出現。昨シーズンは青森山田高校が2016年に続く2度目の日本一となった。

林は「年間のリーグ戦をホーム&アウェーでやれるようになったのは良かった。ホームで相手チームを迎え入れて、逆にアウェーにも行く。そういった経験がユース年代にはなかった。世界のスタンダートを見てやっていかなくてはならない」と勝敗だけではない大きな経験を得るための機会創出の意味合いもあると話した。

一方で、高校サッカーが得意とするのが指導の一貫性。北澤は「ここ最近、高校サッカーがものすごく面白くなっている」と語るように、各校にスタイルや指導者の哲学があり、それを求めて選手たちが集まっている。高校サッカーの監督と比べて、クラブユースの監督はトップチームの事情などで監督が代わることも少なくない。さらにサッカーのスタイルだけでなく、高校サッカーでは人間性の育成に力を入れており、林は「生き方や価値観も監督によって植え付けられる」と話した。

そこで番組では、全国高校サッカー選手権に23年連続出場で優勝2回、プレミアリーグを2度制した全国屈指の強豪校・青森山田高校を取材。まず番組スタッフを驚かせたのは、すれ違う選手全員がスタッフにあいさつをしてきたこと。

青森山田一筋25年、黒田剛監督は「あいさつをすること自体に意味があるのではなく、あいさつすることにどういう目的や意味があるのかが大事。(知らない)お客さんだとしても間接的に自分たちがお世話になっていると思えば、あいさつや礼節で感謝の気持ちを出せる」と語った。さらに、自分のストロングポイントを一生懸命練習する頑張り屋は多くいるが、本当は向き合いたくない自分のウィークポイントから目をそらさずにトレーニングして克服する作業をやれる努力家になることが重要だと説明。それを実践したのが青森山田出身の日本代表・柴崎岳だという。そうやって数々の名選手たちを輩出したことで、先輩たちに憧れて高校サッカーにやってくる選手たちも増えた。中には、クラブのジュニアユースで育ちながら、人間性を伸ばしてくれる指導に魅力を感じ高校サッカーを選ぶ選手も少なくない。

しかしながら、ユース年代の育成の中で大きな課題もある。それがパワハラ問題。林は「非常に難しい。例えば100人部員がいた時にだらしない格好をしたり、やる気がない練習をしたりしている生徒がいたら叱責しますよね。暴力がなくても“やる気がないなら出ていけ!”と言ったことを紙に書かれると“なんて酷いことを……”となってしまう」と悩みを吐露。北澤も「ネルシーニョ監督なんかはホワイトボードをわざと叩いて、選手たちが行った後に“これで良かったか?”と笑っているわけですよ。怒っていたのは演技なわけですよ。それを本気と捉えられてしまうと非常に難しくなってしまう」と語り、林も「信頼関係の上でやっている中で、第三者が“あんな言葉遣いをしている”とニュースになって処分されてしまう非常に難しい時代」と話した。

また、高校サッカーのユニフォームのスポンサードをJFAが主催しているプレミアリーグなどでは許可するようになった。資金運用の透明性を確保したうえで遠征費の負担低減や環境整備に役立てているという。林は「今、勝てていても、勝ち続けられる可能性がなくなってしまうと子供たちにとって痛手なので、育成にお金と人材をかけていくべきだと思う。時間はかかるが、一人ではできないので、学校もクラブも仲間を増やして、私にできることをこれからもやっていきたい」と意気込みを話していた。

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