ラグビー界が一丸となって実行!“にわかファン”獲得戦略

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ラグビー界が一丸となって実行!“にわかファン”獲得戦略

日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターの中竹竜二が、9月28日放送のサッカー番組『FOOT×BRAIN』(テレビ東京系、毎週土曜24:20~)にゲスト出演。ラグビー界が行っている “にわかファン”獲得について語った。

ラグビーワールドカップ2019日本大会が開幕し、日本は初戦でロシアに勝利。この試合を観るために4万5千人超が東京スタジアムに駆け付け、パブリックビューイングも大盛り上がりとなった。その中で目についたのが、ラグビー観戦は初めてだという“にわかファン”の存在。

そこで改めて考える“にわかファン”の重要性とは? 日本ラグビー界にとって新たなファンをつかむ大きなチャンスが2015年にあった。ラグビーワールドカップの前回大会、日本は優勝候補の南アフリカに対して劇的な展開でジャイアントキリングを達成。多くのラグビーファンが狂喜乱舞したのはもちろん、日本のみならず世界中のメディアが「スポーツ史に残る番狂わせ」と称賛した。これによって一気に注目が高まったラグビー界。しかし、ワールドカップ終了後に開催されたトップリーグの試合は、チケットが完売していたにもかかわらず客席はガラガラ……。実は、2万人のキャパシティに対して、チケットが企業などへの招待券に1万5千枚、一般客に5千枚と配分していたのだ。これによって、ワールドカップの活躍を見て興味を持ったにわかファンのほとんどがチケットを手にすることができなかった。現状以上の人気を獲得するにはにわかファンの動員が必須なことが明らかになり、完全な配分ミスにより、自らそのチャンスを不意にしてしまったのだ。

すると番組MCの勝村政信は「光がパッと当たったあとにどうやってキープするかは難しい問題」と言って、サッカー界ではなでしこジャパンが苦労していると指摘。実際、2011年のサッカー女子ワールドカップで優勝すると平均動員数は912人から2796人と約3倍にアップ。しかし、2018年には1414人とピーク時の約半分にまで低下している。ラグビートップリーグの平均観客動員数も2015年のワールドカップ後のシーズンは6470人と前シーズンの4719人と比べて2000人増加したが、それ以降は増減しながら5153人となり、元の数字に近づいている。

ラグビー界では、その反省を踏まえてにわかファンを大事にしようと新たな取り組みをスタート。ラグビー協会は大会のキャッチフレーズを「4年に一度じゃない。一生に一度だ。」として初観戦の価値をアピール。大会スポンサーのハイネケンもCMで「にわかで、いいじゃないか。ラグビーワールドカップ」と大胆なメッセージを打ち出した。

同じく大会スポンサーの三菱地所は、自社が所有する丸ビル内に小さなラグビーコートを設営。にわかファンからコアファン、さらに選手まで一緒になって楽しめるラグビーボールを使ったレクリエーションを行うことで、多くの人がラグビーに感じているハードルの高さを下げ、魅力を伝えようと試みた。

さらに架空の街を作る「丸の内 15丁目Project.」では、美術館の展示物として音楽家・小澤征爾、彫刻家・舟越桂、空間デザイナー・橋本夕紀夫といった一流アーティストにラグビーボールをテーマにした作品の作成を依頼。ほかにもラグビー映画『BY THE RUGBY』を制作するなど、街にある機能をラグビーの要素と掛け合わせて体感してもらうことで間口を広げようとしている。さらにコピーライターの糸井重里と「ものすごく気楽にラグビーを見に行こう2019」という企画を「RUGBY NIWAKA DE GOMEN」という合言葉のもと実施。中竹は「美味しいカレーを食べていたらたまたまラグビーをやっていたくらいの感覚のイベント」と笑ったが、ラグビーを知らなくても大丈夫という空気感を作り出すことでにわかファン獲得を目指し、1410人ものにわかファンが、カレーを食べながらラグビー観戦を楽しんだ。

一方で中竹は「観戦に来てくれたけれど、ラグビーのことがよくわからなくて騒いでしまう人に対して“うるさいな”と言ってしまうオールドファンがいる。総論賛成・各論反対みたいなところがあるので、もっと心を広く持ってもらいたい」と投げかけた。続けて「コアになると視野がせまくなってしまう。にわかファンの人たちが感じた疑問やちょっとしたアイデアがイノベーションを生む。観客動員だけでなく、アイデアをくれるイノベーションプロジェクトの立役者として捉えることが大事」と話した。

また番組では、様々なスポーツが行っているにわかファンを取り込むための施策を紹介。まずJリーグでは、2018年からフライデーナイトJリーグを開始。金曜の夜、仕事帰りの観戦を促進するなど、これまでとは違ったアプローチを行っている。そして、変革を起こしたのがフェンシング。2018年全日本選手権の決勝戦、舞台となったのは普段は演劇などを上演する東京グローブ座。大型ビジョンや照明のエフェクトで試合内容をわかりやすく演出し、さらにビジョンには選手の心拍数をリアルタイムで表示するなど新たな見せ方を披露し注目を集めた。

これらを見た中竹は「ラグビーは、ありのままが良いとしてきたため演出の観点が全くない」と反省。さらに女性ファン、特に子供の母親へのアプローチの重要性に着目。「子供がラグビーをやりたいといっても、“ラグビーは危ない”と言われるとストップがかかってしまう。このところ“サッカーをやりなよ”という構造が続いてきた。そう考えると今のファンの人数を増やすことも大事ですが、今若い女性が将来、子供に“ラグビーやってみたら?”と言ってもらえるようにすることも大切だと思っている」とイメージつくりの大切さについても語っていた。

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