脳科学者・中野信子が語る「スポーツではキレた方が良い」の意味とは?

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脳科学者・中野信子が9月14日放送のサッカー番組『FOOT×BRAIN』(テレビ東京系、毎週土曜24:20〜)にゲスト出演。スポーツでも社会でも使える上手な"キレ方"を解説した。

昨今、スポーツでもビジネスでも、キレずに平常心を保つことが重要とされるが、中野は「スポーツではキレた方がいい場面がある」と違った見解を示す。キレることで血圧や心拍、血糖値を上げ、結果として筋肉を動かしやすくなり、さらに集中力・判断力を上げるなど、パフォーマンスに好影響を及ぼすことがあるという。もちろん、キレるといっても感情のままに振る舞って良いわけではなく、あくまでもコントロールしながら思いを発露することが大事。また、その伝え方も重要で「ふざけるな」という程度なら自分がキレていることが伝わるので良いこともあるが、「お前はこういう性格だから失敗する」など人格攻撃が入ってしまうと人間関係の修復が難しくなってしまう。こういった暴力的で過激な言葉を使わないためにはボキャブラリーを多くすることが重要だという。

一方で、もし誰かに傷つけられたとき、どのように伝えると効果的か。「何でそんなひどいことを言うの?」「そんなことを言われると傷つく……」この場合、前者は相手が主語で、後者は自分が主語になっている。実は、主語を自分にして気持ちを伝えることが、原則として相手との関係を悪くせずに嫌な気持ちを伝える方法として正解とされている。これを「アサーティブ(相手を尊重しながらの自己表現)」という。

また中野は、喧嘩をするときは100:0で勝つのではなく、51:49で勝つべきだと提言。自身も得をし、相手も矛を収めやすくなり後腐れをなくせる。さらにお互いの関係も断絶することなく、自分が有利な関係で保つことができるという。100:0で勝ってしまうと、相手との関係を断つことにも繋がり、それまで相手から受けていたメリットも失ってしまう良くない勝ち方だという。

そんな中、日本人はキレることがヘタだと中野は指摘。日本では、幼い頃から仲良くしないと集団から外れてしまう恐怖があり、集団の中にいないとメリットを享受できないと刷り込まれているという。集団との関係が断たれるリスクがあるため、なかなかキレるという経験を積むことができないのだとか。

このような集団生活への順応がキレることがヘタな後天的要因だとする一方で、近年の研究で先天的要因もあることがわかってきた。そこで大事なのが安心感などを得る脳内ホルモンのセロトニン。別名・闘争ホルモンとも呼ばれるノルアドレナリンを鎮める働きがある。日本人にはセロトニンの量を調節するタンパク質が世界的に見ても少ない人が多く、2008年の調査結果では、アメリカやヨーロッパ、アフリカの29か国と比べて最も少ないことがわかった。セロトニンが少ないと感情的で爆発的にキレる傾向が強く、日本人に多い我慢し続けて最後にキレてしまうタイプもこれに当てはまるという。

そのセロトニンの量を自己判断する心理テストを京都大学が開発。「2人で1万円を分けなさい。片方が配分を自由に決めることができ、もう片方には拒否権があり、拒否権を発動すると互いにもらえる額が0円になる。ここであなたの配分が100円になったらどうする?」というもの。このとき100円でも貰った方が合理的だが、フィフティ・フィフティではないと納得ができないと考える人が日本には少なくない。これは悔しい気持ちの値段として置き換えることができ、この値段が高い人ほどセロトニンが少ないとされる。セロトニンが少ない人は常識的で生真面目な人が多く、少額を手にするよりフェアを好むため拒否権を発動するという。欧米人などセロトニンが多い人は、100円でももらえたら得とポジティブに考える傾向にあるのだとか。

このように個人としてキレる要因を知ることが出来るが、スポーツのチームや会社など集団になる途端に難しくなる。集団バイアスによる集団極性化という現象が起こり、普段はまともな意見を持つ人でも、意思に反することがあっても反論できず同調してしまうようになる。しかし、上手にキレることができればそうした局面でも打開することができると説いていた。

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