那須川天心と久保建英、神童たちの共通点は「頭脳」にあった

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キックボクサーの那須川天心が、7月6日放送のサッカー番組『FOOT×BRAIN』(テレビ東京系、毎週土曜24:20~)にゲスト出演。36戦無敗28KO、20歳にしてキックボクシング世界3冠王者に君臨する男の“頭脳”に迫った。

那須川が格闘技の世界に入ったのは5歳に始めた空手がきっかけだった。その後、テレビでK-1や総合格闘技を見て「ああいう舞台に立ちたい」と思いキックボクシングをスタート。その後、15歳で迎えたプロデビュー戦をKOで飾り、その後、RISEバンタム級王者、ISKAオリエンタルルール世界バンタム級王者、ISKA世界フェザー級王者に君臨。その活躍は周知のとおりだ。

しかし、いかに神童と言えども15歳で大人とのボディコンタクトはつらそうに思える。番組アナリストの福田正博が「大人相手でもやれる自信はあった?」と問いかけると、「パワーでは全然勝てないですが、5歳から格闘技はやっていたので技術と経験を活かしてやれると思っていました」と返答。さらに「チャンピオンにこだわっていなくて、ベルトも要るか要らないかで言ったらそんなに必要ない」と驚きの発言。しかし続けて「目的はチャンピオンではないんです。勝つこともそうですが、自分の価値を上げていくこと。自分の団体のベルトが一本あれば充分」とその真意を語り、番組MCの勝村政信を「20歳でしっかりしている」と驚かせた。

そんな那須川にも意外な一面が。福田が「戦うことは好きだったの?」と素朴な疑問をぶつけると「好きじゃないですね」と即答。「昔から怖がりでビビリ。夏にやっている怖い番組とかやる必要あるのかなって(笑)」「ヤンキーも怖いので目を合わせない」とお茶目な姿を見せてスタジオを和ませた。

しかし、「ビビり」と言いつつも、試合中に人気マンガの主人公・範馬刃牙の技“トリケラトプス拳”を繰り出して相手を牽制することも。「(攻撃に)来ないタイプの選手だったので相手を動かすため」と狙いを明かし、さらに「周りを盛り上げるのも仕事だと思っています」とプロとしての意識の高さを見せた。さらに那須川の強さを生み出す練習法の話題になると、「ほぼ基本の練習。それができないと応用も絶対にできないし、一番難しい」とコメント。どんな時も平常心を保つことが重要で、多くのアスリートが取り入れるルーティンも「それにとらわれるようなら必要ないと思います」と自らの考えを伝えた。

これらの言葉に、福田は「プロフェッショナルだね。そこまで気が配れるということは余裕があって周りが見えている」と感嘆。さらに、レアル・マドリードに移籍した久保建英と比較し、「彼がこれまでの選手と何が違うかと言ったら、いつも周りが見えていて、良い判断を伴った上で技術を出せる。ピッチの中で整理がついているからコメントもしっかりしている。きっと一緒なのだと思う」と2人の天才の共通点をあげた。

さらに番組では、齋藤学、都倉賢といったアスリートが注目しているメンタルトレーニングの第一人者・辻秀一との対談の様子を紹介。辻が「人間の脳は過去のことを考えすぎたり、始まってもいない未来のことを心配したりする。これをタイムワンダリング(時間迷走)というのだけれど、どう思う?」と質問。すると那須川は「先のことを考えることはありますが、今できなくて先はないだろうという感覚はあります。だから“今”を大事にしています」と返答。さらに「結果にとらわれることは?」と聞かれると「周囲のKOへの期待などがあり、一時期は“倒さなきゃ”という感覚でいましたが、倒せるはずのシーンで力んでしまって倒せなかった経験がある。“倒せ”と言われても“はい”と言いながら冷静にいられるようにしています」と返答。さらに「集中しすぎると逆に良くない。そこしか見えなくなる」という言葉には辻も驚嘆。このような那須川の思考法を心理学では「フロー」と言い、最適なパフォーマンスを発揮できる集中とリラックスが上手く共存した状態だという。

この「フロー」は、かの剣豪・宮本武蔵が目指していた状態と言われ、辻は「武蔵は、集中しすぎるとまわりが見えなくなってやられてしまうし、リラックスしすぎてダラッとしても上手くいかないと言っている」と紹介。兵法書「五輪書」に記された戦いの心構え「観の目、見の目」(平常心を保ち、相手を見すぎず、全体を俯瞰してみること)を会得していると話した。

この話を聞いた勝村は、故・井上ひさしさんが生前に書いた戯曲「ムサシ」のエピソードを披露。井上さんは巌流島の絵を見ながら、武蔵と佐々木小次郎の戦いについて語り始めたという。この戦いで武蔵は、何時に太陽がどの方角から昇るかなど島の詳細を把握。さらにわざと遅刻したあげく、相手を煽る言葉で平常心を奪い、その間に自分の背に太陽が来るように移動。苛立つ小次郎の目を逆光で眩ませ勝負を制したという。

しかし、那須川が小次郎となってしまった試合もある。2018年、大晦日にKO負けを喫したメイウェザー戦。ボクシングルールのエキシビジョンマッチとして組まれたこの試合、那須川がキックの素振りを見せただけでも罰金5億円という中で行われた。さらにメイウェザーは試合当日に遅刻した上に、那須川にバンテージの巻き直しを要求し、アップする時間もなくゴングが鳴らされたという。

実は、この時ばかりは那須川も平常心を保てなかった。当初の予定では1~2ラウンドは様子を見て3ラウンドで勝負にいく作戦だったが、あまりの怒りのため1ラウンドから当てに行ってしまい、その後のシーンへと繋がってしまった。「どんな場面でもどんな相手でも、いつも通りにしないと良いパフォーマンスは出せないと感じました」と平常心の大切さを改めて伝えた。

そして最後に、サッカー界への提言を求められると、格闘家ならではの1対1の秘訣を伝授。「相手と向き合っていると、何かしてくるとわかる瞬間がある」と述べ、「そう思ったら自分が先に動くよう意識しています。本当に一瞬なので迷うとやられてしまう。相手の目や足などの動きを見て一瞬で判断する。あとは自分を信じて動く。迷って動くのと自分を信じて動くのでは全然パフォーマンスが違う」と刹那の判断と自分を信じることの大切を伝えた。

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