なぜ立入禁止?芝職人・池田省治が語る「本当の芝の使い方」

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なぜ立入禁止?芝職人・池田省治が語る「本当の芝の使い方」

味の素スタジアムやJヴィレッジなど全国31面で芝生の管理を担当しているヘッドグラウンドキーパーの池田省治が、5月11日放送のサッカー番組『FOOT×BRAIN』(テレビ東京系、毎週土曜24:20~)にゲスト出演。サッカーにおける芝生の重要性や芝生管理へのこだわりを明かした。

池田は毎年250~300回もの芝刈りを実施。アメリカ製の大型芝刈り機を使い、決まって“胸ポケットのない上着”に“サングラス”を装着。胸ポケットから持ち物を落とすのを防ぎ、サングラスによって「芝生の先が黄色くなっている部分」や「茶色く土が見えている部分」を見やすくし、病気など芝生の状態を把握する。そして、指先から指関節のシワまでの距離を使って芝の長さを測り、匂いや色艶、手でこねてもダマにならないかなど、様々な感覚を使って状態をチェックする。さらに、メインスタンドから芝生を眺め、観客席やテレビから伝わるピッチの見え方も確認。チームと観客のことを考える、まさにエンターテインメントの一翼を担う存在だ。

スタジアムの芝を管理する上で大切なのがホームチームのプレースタイル。味の素スタジアムをホームにするFC東京からは「ボールスピードを速くしたい」という要望を受け17mmに刈っている。カシマスタジアムの20mm、パナソニックスタジアム吹田の20~25mmと比べると3mm以上短いことになる。芝が短いほどボールにかかる抵抗が減るため減速しづらくなり、結果、パススピードが速くなる。現在、Jリーグ首位と好調なFC東京の鋭い攻撃を支える大きな要素の一つに「完璧な芝の管理」があると言っても過言ではないだろう。番組アナリストの福田正博も「芝の長さや種類によってやりやすさはぜんぜん違う。チーム戦術やプレースタイルに大きな影響を与える」と重要性を説明した。

試合に向けた芝管理では、当日の朝、試合直前、試合後と1日で3回も芝刈りをすることがあるという。さらに、試合前練習、ハーフタイム、試合の後には荒れた芝の補修を行い、選手をサポートする。試合のない日にもマメに芝刈りは行われ、これによって葉先を整え、均等に陽の光を当たるようにし、芝と芝の隙間の芽を増やし密度を上げていく。これらの作業は、季節によって変わる芝の種類や葉の大きさなどを鑑みた上で、どうしたらチームが望むものになるか考えながら行われていく。この話を聞いた番組MCの勝村政信は「芝生も戦術の一つなんですね」と感嘆した。

そんな池田と芝生の出会いは1989年に初めて東京ドームで行われたNFLのプレシーズンマッチまで遡る。実はこの試合、3日間使える天然芝の練習場を2面用意しないと契約できないというものだった。当時、イベント会社で働いていた芝生の知識ゼロの池田に対して主催者は「芝生も一緒にやって」と無茶振り。それからジョージ・トーマというグラウンドキーパーに出会ったことで、その後の人生が決まったという。

実はこの人物、スーパーボウルの第1回大会から全大会の芝管理を担当し、ロサンゼルス五輪やアメリカワールドカップなどのビッグイベントも任された芝の第一人者。池田は、彼に師事し、94年からはスーパーボウルのグラウンドクルーを20年以上に渡り担当している。また、雨の多いサンディエゴでは「芝が乾かないから大きな送風機を手配した」と言われ、ヘリコプターをホバリングさせて芝を乾かすというスケールの大きなシーンにも遭遇。「グラウンドにヘリコプターを呼んで良いのかと驚いたが、持てる力を最大限に利用し、最高のステージを作ることに力を注ぐ。その大切さを知った」と話した。

そんな池田が、日本の芝生事情に対して3つ提言を行った。まずは「日本人は芝生の使い方を知らない」と指摘。日本では芝生が立ち入り禁止になっていることが多いことに疑問を呈し、「雪国の子供はどんな雪の上でも遊べるが、雪が降らない地域の子供は滑って転んだりして遊べないですよね? 海外の選手は小さい頃から芝生で遊んでいるから、どんな状態の芝でも考えることなく“昔、コレで遊んでいたな”と思い出すだけ」と分析。福田も「プレーに間違いなく影響を及ぼす」と述べ、「芝生でやってきた今の選手はスライディングが上手い。我々の小さい頃は土だったので、スライディングは痛くて嫌でしたから上手くならないですよね」と納得の様子。

2つ目の提言は「ギリギリまでやらせて」。「時期や種類によるが、芝は1日に1cm伸びると言っても言い過ぎではない。しかし、Jリーグでは試合開始3時間前に芝管理を終えなければならないというルールがある。もし、イベントの進行を阻害しないのであればギリギリにやってあげたい」と、少しでも最高の状態に近づけてピッチを渡したいと話した。

そして最後に「好きなだけ傷めつけてくれ!」という熱い思いを吐露。勝村が「ゴールを決めた選手が膝で滑って芝がめくれるのを見てどう思う?」と尋ねると「最高の気持ちです!」と即答。「やってくれるのは、それだけピッチが良いからだと思うし、やり甲斐を感じる」と力強く答え、この姿に勝村は「選手も心丈夫ですよね。今日も幸せな気持ちになりました」と満面の笑みを見せていた。

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