池上彰が見たワールドカップのトレンドは「多様性」

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池上彰
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ジャーナリストの池上彰が、9月1日、8日の2週連続にわたりテレビ東京系で放送されるサッカー番組『FOOT×BRAIN』(毎週土曜24:20~)にゲスト出演。1日の放送では、池上ならではの視点で、ワールドカップから見たサッカーのトレンドについて語った。

これまで80カ国以上を取材してきた池上は、難民キャンプの取材時に子どもたちが1つのボールを追ってサッカーを楽しみ、支援団体もサッカーボールをプレゼントする姿を多数見てきたと言い、「ああいうのを見ると、サッカーは世界の言葉だと思いますよね」と話した。そんな池上が、ロシアワールドカップで何を感じたのか? 今大会、上位3カ国(フランス、クロアチア、ベルギー)の共通点の一つに「多様性」があると指摘した。

優勝したフランス代表は、ヤングプレイヤー賞に輝いたエムバペをはじめ23人中19人が異国にルーツを持つ。池上は、フランスの移民の多さについて「第一次世界大戦前、アフリカ大陸は約3分の1がフランスの植民地で、公用語がフランス語だったため、フランスでの生活は他国へ行くよりも有利だった」と語り、5年以上居住すれば移民でも国籍が与えられ、社会福祉など、フランス人同様の手厚い待遇が受けられるなど、フランスが移民大国として知られるようになった理由を説明。現在では、総人口およそ6700万人のうち約2割が移民と言われ、その恩恵をサッカー代表チームが受けるのは当然だと分析した。

また勝村が、「98年にワールドカップ初優勝した際は、ジダンが移民の子だったことから初めてフランスが一つにまとまったと言われている」と紹介。しかしその後、フランスではサッカーに限らず、移民排斥の気運が高まり、国として空中分解寸前しかけた。そんな中で、20年越しのワールドカップ優勝を果たしたことは、フランス移民にとって希望の象徴になったと言い、ギニアにルーツを持つポグバが決勝戦の後に語った「肌の色なんか関係ない。黒でも黄色でも、何でもいいじゃないか。僕らはみんな、一つだ」という言葉を紹介した。

一方で、すべての国がフランスのように上手くいくわけでない。例えばドイツは、高度成長期時代、安い人件費で雇えるトルコ人を移民として受け入れた。するとドイツ国籍を取得した人たちが家族を呼び寄せ、トルコ系移民が増加。それはドイツ代表のメンバー編成にも現れ、ワールドカップでの優勝とグループリーグ敗退という対極な結果を短期間で経験することになった。池上は「勝つと移民のおかげだよねと言うけれど、今回のように思わぬ形で負けたりすると、トルコにルーツに持つ人がいたたまれなくなる」と、リアルな国民感情を冷静に分析。

そして、今大会旋風を巻き起こしたクロアチアの複雑な成り立ちにも言及。かつてクロアチアはユーゴスラビアの一部で、ユーゴスラビアは「1から7までの国」と言われていた。これは、アルファベットとキリル文字をといった2つの文字を持ち、キリスト教(いわゆるカトリック)とセルビア正教、イスラム教の3つの宗教。そして4つの言語、5つの民族、6つの共和国、7つの国と境を接していることを意味する。池上は「東西冷戦時代までは、ユーゴスラビアには多彩な人たちが居て、危機感からまとまっていた。しかし、ソ連が崩壊し冷戦が終わると、そのタガが外れて、言葉も宗教も民族も違うということで独立しようとして、結果的にバラバラになってしまった」と、91年から95年にかけて繰り広げられ、死者20万人、250万人もの難民を出したクロアチア紛争について語った。

ちょうどその時、ユーゴスラビアの代表監督を務めたのが、オシム元日本代表監督。日本が初めてワールドカップに出場した98年のフランス大会でクロアチアと対戦したのは、紛争が終わってからわずか3年後のことだった。それから20年、旧ユーゴ時代に色々な所から移り住んできた人々がいたこともあり多様性を持ったクロアチアは、今大会で大きな躍進を遂げた。

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