五輪メダリスト竹内智香「日本人には無理」を覆した“気付き”

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五輪メダリスト竹内智香「日本人には無理」を覆した“気付き”

2014年のソチオリンピックのスノーボード女子パラレル大回転で銀メダルを獲得した竹内智香が、5月19日に放送されたサッカー番組『FOOT×BRAIN』(テレビ東京系、毎週土曜24:20~)にゲスト出演。「日本人にメダル獲得は無理だ」と言われていたスノーボードのアルペン種目で、世界トップクラスに駆け上がるまでの“気付き”について語った。

竹内は、02年のソルトレークシティ大会でオリンピック初出場を果たして以降、今年開催された平昌大会まで5大会連続出場するなど、日本のスノーボードアルペン競技を牽引し続けている。竹内が挑むパラレル大回転は、2人1組で同時に滑る“パラレル”と、急斜面にある複数のフラッグをターンで通過する“回転”が合わさった競技で、フィニッシュラインまでの速さを競うアルペン種目。これまで欧州勢が優勢で、竹内もソルトレークシティ大会で22位、続くトリノ大会で9位と結果が振るわず、周囲からも「日本人にメダル獲得は無理だ」と言われてきたという。しかし、不振にあえぎ引退が頭をよぎる中、ある“気付き”が彼女を変えたという。

竹内は「なんで日本人なんだろう?」という根本的な問題に着目。「ヨーロッパの強国で生まれ、その環境で育っていたらもっと簡単にメダルが獲れたのではないか?」「本当に通用しないのか、本場で1回試したい」と考え、06年のトリノ五輪で男女金メダルを獲得した強豪・スイス代表チームの練習に参加するという大胆な策に打って出る。2007年、何の確約があるわけでもなくスイスへと向かった竹内は、なんとかチームに受け入れて貰うことに成功。竹内自身が「もう2度とできない(笑)」と振り返るアグレッシブな作戦は見事に功を奏し、スイスで5年間練習した結果、12年のワールドカップで初優勝を果たし、14年のソチオリンピックで成し遂げた、同種目初の銀メダル獲得へと繋がっていく。

しかし、スイス代表の練習に面食らったことも多かったのだとか。スイス代表は思っていたよりも練習量が少なく、それまで練習量が重視される環境にいた竹内は、10日間のオフがあった際に「もっと練習させて欲しい」とコーチに懇願。しかし、「せっかくスイスに来たのだから、こちらのやり方を試してみては?」と提案され、スイス流に身を委ねることにしたという。スイス代表の練習について竹内は、「集中する時としない時のメリハリがしっかりしていて、短い練習の中でクオリティが求められる。しかし、(必要以上の)練習をしないので疲労が溜まることもなく、それがケガ予防にも繋がっている」と分析。さらに「休暇後に雪の上に立った時には“滑りたい”という欲求があり、吸収速度も上がり良いサイクルに入っていけていると感じた」と振り返った。

そんなスイスの生活の中で、竹内はさらなる“気付き”を得る。スノーボードのアルペン種目は、“プロトタイプ”と言われる最先端のボードがトップ選手だけに提供され、それ以外の選手たちには1年遅れのモデルが提供される。このように“戦う前からハンデがある状態”が普通とされてきた。

しかし、ここでも竹内は大胆な行動に出る。「無いなら、作っちゃえ!」と、スイス代表の仲間と共にスノーボードの作成に乗り出したのだ。竹内たちは、最初はスキー板などを研究し、自分たちで木を切り、金型を作り、まさに手作りでボードを作成。今ではブランド「BLACK PEARL」を立ち上げ、新潟の工場で職人たちが腕を振るい、海外のトップ選手たちのサポートや、製品の販売を行うまでに成長を遂げている。当初、ここで稼いだ資金はすべて開発費用やテスト費用に回していたが、現在では「セカンドキャリアに繋げたい」と考えていると明かした。

こうして「海外へ行く必要性」や「道具の大切さ」に気付いた竹内だが、さらにマスコミとの付き合い方にも気付きを得たという。実は、キャスターとしてオリンピックに行きたいと考え、アナウンサースクールに参加したことがあるという竹内。去年の夏に、キャスターとして取材する機会に恵まれ、いつもは選手として取材される側として「どうして今そんなことを聞くの?」と思うこともあったが、聞く側の立場や、何時間にもおよぶ取材が最終的に5分のVTRになっているという裏側を知れたことで、「こういう人たちがいるから、自分たちの競技を伝えてもらえている」と感じられるようになり、選手として取材を気持ちよく受けられるようになったという。

番組MCの勝村政信から、「常に真逆の方向からも考えるのですね?」と聞かれると、「道具もスポンサードされて当たり前の感覚でしたが、自分がサポートする立場になると、一本作るコストや、職人さんの体力を考えるようになり、大事にしなくちゃなって道具に対する気持ちも変わった」と語り、「180度違う世界に行くことで、反対側にある自分の世界に活かせるものがあると気付いた」と話した。また、日本からのサポートを受けられない状態をスイスで経験したことなどもあり、「“失って気付くことは多い”とよく言われますが、“違う世界に行って気付くこと”は、それと似ているのかなと思います。スイスで苦しい経験もしましたし、そこから人として成長できることが多かった」と話した。

最後に日本サッカー界への提言を求められると、「日本がワールドカップで優勝するということを夢のように考えていると思うのですが、アルペンスノーボードでメダルを獲ることも皆が不可能だと思っていました」と語りはじめ、選手やサポーターだけでなく、これから世界を目指す子どもたち、そしてメディアに対して「勝てると信じること。それが勝利を引き寄せられると思う。今の時代、何にでも可能性を秘めているし、皆が優勝という言葉を信じることが大事」とメッセージを送った。

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