片桐はいり、大島の自然に圧倒「芝居どうこうなんて感じじゃない」連ドラ初主演『東京放置食堂』

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現在、テレビ東京「水ドラ25」枠で放送中の『東京放置食堂』(テレビ東京ほか、毎週水曜25:10~)。大自然溢れる東京・大島にある居酒屋「風待屋」を舞台に、若い店主と、店で働く元裁判官の女性・真野日出子が、島にやってくる人たちの心を愛ある叱咤と激励で癒していく人間ドラマだ。そんな本作で、日出子を演じているのが、連続ドラマ初主演となる片桐はいりさん。

オファーを受けたとき「なにかの間違いかと思った」と、胸の内を明かした片桐さんに、作品の魅力や撮影エピソード、さらには自身のことについて伺いました。

真野日出子(片桐はいり)
真野日出子(片桐はいり)

――本作のオファーを受けたとき、どんな感想をお持ちになりましたか?

主演という話で、なにかの間違いかなという思いがありました(笑)。また大島が舞台ということで、最初は江東区の大島(おおじま)なのかなと思っていたのですが、伊豆大島と知り「えー!」と思ったのが最初の印象ですね。

――オファー受けた決め手となったのは?

俳優としてだけではなく、見る側の立場として、50代の女性が主人公の作品というのは、そんなに多くないと感じているんです。そんななか、こうしてお話をいただけたことはすごく光栄だし、しっかりと面白いものを作ることができれば、こういう年代の女性が主人公の作品も増えるのかなという思いがありました。だからこそ一生懸命向き合いました。

――日出子さんは元裁判官で曲がったことが大嫌いという女性ですが、台本を読んでどんな印象を持ちましたか?

折り目正しい女性という印象は持ちましたが、一途に仕事に取り組んできた50代の女性としては「もうちょっとで終わりなんだ」という気持ちは理解できました。

――どうやって日出子という女性にアプローチしていったのでしょうか?

最初に相談したのは、もうちょっとおっちょこちょいであってほしいなということですね。私はあまり「こういう役だろうな」という視点で役柄を見ないのですが、自分で演じる役の欠点や弱点を見つけられると、がぜんやる気になるんです。裁判官ってものすごい仕事だと思うので、そういう人を演じるのって、雲をつかむ感じなんです。だから、例えば虫が苦手とか、魚が苦手とかって想像することで、より身近に感じられるんです。日出子は人にお説教をしてしまう性格なので、自分が未熟にも関わらず、まっとうなことを言ってしまうという隙みたいなものを意識しました。『男はつらいよ』の寅さんも、自分の恋愛が成就していないのに、人に恋愛についてアドバイスするじゃないですか。そんな感じですかね(笑)。

――映像を見ていても大島の景色は壮観です。

「やっほー」って自転車で坂を下りるシーンがありましたが、本当に最高でした。車もほとんど走っていないし、裏砂漠という日本で唯一の砂漠もあり、「本当にここは東京都内ですか?」というぐらいの大自然なんですよね。ハリウッド映画の『キング・コング』なんか、ここを使えばいいんじゃないかというぐらいすごい。もうこんな場所では芝居どうこうなんて感じじゃないですよね(笑)。

――みなさんが集まる「風待屋」。片桐さんにとって、行きつけと言えるような場所はありますか?

コロナ禍になる前は、基本的に家で夕食を食べることがあまりなかったので、近所には和洋中それぞれの行きつけのお店はありましたが、やっぱり私にとって欠かせない場所というのは映画館ですね。映画館に映画を観に行くという目的もありますが、そこのスタッフや支配人などと、映画の話をしにいく場所なんですよね。そこが私にとっての行きつけです。

――「風待屋」の店主・小宮山渚役の工藤綾乃さんとのお芝居はいかがですか?

工藤さんが映画初主演した『劇場版 怪談レストラン』という作品でご一緒していたのですが、そのころ彼女は14歳ぐらいだったので「大きくなったね」というところからご挨拶した感じでした。とても良いお嬢さんになって、何事にも動じない雰囲気を持っている方でした。待ち時間などにスマホを見ている女優さんが多いなか、彼女は普通に現場に佇んでいる感じで、あまり緊張している様子もなかったですね。

真野日出子(片桐はいり)、小宮山渚(工藤綾乃)
真野日出子(片桐はいり)、小宮山渚(工藤綾乃)

――座長として意識されたことは?

特になにか意識したことはなかったのですが、第1話で近藤公園さん演じる水科に説教する台詞のなかで「会社の部下のことどれだけ知ってる?」というのがあったので、私もせめてスタッフさんの名前は全員覚えようと思いました。

――島名物の「くさや」が、物語において重要なアイテムになっていますが、片桐さんにとって、くさいけれど癖になるみたいなものはありますか?

ちょっと質問の趣旨とは変わってしまうかもしれませんが、コロナ禍になって、急に休みが多くなったんですね。そのとき「いままでなんでこんなにノンストップで走り続けていたんだろう」と思ったんです。それまでは一日外出しない日があると「無駄な時間だったな」と負の感情に苛まれていたのですが、いまはそういう時間も大切なんだなと思えるようになりました。無駄だと思っていた時間から、なにかが生み出されていくというのは、すごく豊かなことだなという風に感じるようになりました。

――本物のくさやを焼いているとお聞きしましたが、ゲストの方のリアクションはいかがでしたか?

第2話のゲストに桜井玲香さんが登場されたのですが、結構すんなりとお食べになったので「大丈夫ですか?」って思っちゃいました。食べる前は「無理!」って言っている方も、いざ食べると「意外とおいしい」と言う人が多かったですね。私もそんな感じで、普段はお酒をそんなに飲むタイプではないのですが、くさやを食べたときは、焼酎が飲みたくなりました。

――日出子の説教が作品の見どころの一つだと思いますが、片桐さんが女優のお仕事をしてきたなかで、心に残っている言葉はありましたか?

いっぱいあるのですが、なかでも強く覚えているのは、俳優でもあり劇作家でもある岩松了さんに言われた言葉ですかね。岩松さんには、私の一人芝居を作っていただき、全国を回っていたことがあったのですが、そのときいろいろなことを言われたなかで、「自分の見た目と声だけ信じとけ」とアドバイスされたことが、すごく心に残っています。今回この作品に臨むにあたって、その言葉は意識しました。

――お芝居をするとき、大切にしていることは?

いろいろな役を演じますが、なにものにもなれるとは思っていないんです。一番重要なのは、私が演じる人を「変だよね」と笑えるかどうか。演じるキャラクターに愛情とおかしみがないと、演じられないんです。そういう部分を大切にしています。

――作品を通してどんなことを感じてもらいたいですか?

都会からたった1時間45分のところに、こんな離島があり、こんな暮らしがあるんだということですかね。いまなかなか移動することが難しい時期ですが、これだけ近いところに、こんな壮大な風景を感じられる場所があるんだと思っていただくだけでも、少し気持ちが軽くなるのかなと思うんです。

大島での撮影の合間に、リモートで行われた取材会。終了後には、片桐さんがパソコンのカメラ機能を駆使して、島の風景を紹介してくれる時間も……。片桐さんが話す通り、こんな時期だからこそ、大きな癒しと救いが映像のなかに溢れている魅力的な作品になっている。

(取材・文:磯部正和)

山中正平(竹中直人)、真野日出子(片桐はいり)
山中正平(竹中直人)、真野日出子(片桐はいり)

<第3話あらすじ(9月29日放送)>
六法全書を読む日出子(片桐)に男の子が近づいてくる。日出子は、男の子に「裁判官だったから、悪いヤツに恨まれてない?」と尋ねられる。その言葉を聞いたせいか、夕方、渚(工藤)と歩いているときに、背後にだれかつけてきていないか気になってしまう。そんな予想が的中したのか、大島に山中正平(竹中直人)がやってくる。「女にケジメをつけに来た」という正平。

その女とは、まさかの日出子!? はたして、二人の間には一体何があったのか……。

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