『この世界の片隅に』松坂桃李が教えてくれた“静かなるエロス”の魅力とは

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ツイッターで「ママ閉店」(※)が話題ですけど、私はたまに「人間閉店」をするときがあります。顔も洗わず、タオルケットにくるまって録画した番組を見続ける約12時間。ご飯はウーバーイーツ一択です。

さて今回は、現在日曜劇場『この世界の片隅に』(TBS系、毎週日曜21:00~)に出演中の松坂桃李さんについて。たまにバラエティ番組で彼をお見かけすると、まあ可愛いのに謙虚! 私はまだ未経験なのですがお仕事をご一緒した方からも「控えめで優しい」とすこぶる評判のいい松坂さん。でも仕事スイッチが入るとたまらなくエロくなるのが個人的なツボです。その魅力について。

■言葉がなくても役のセリフを見る側に妄想させる存在感

舞台は戦時中の広島県呉市。幼いころに出会っていたことのある浦野すず(松本穂香)と北條周作(松坂)。ふたりは時を経て夫婦となり、すずは北條家に嫁ぐ。おっとりした性格ながらも周作の優しい愛に包まれながら北條家の一員として、妻として、女として成長してゆく。しかし戦争という悲劇が幸せだった生活をむしばんでいくのだった。

戦争を題材にしたドラマが放送されると終戦記念日を思い出す。そんな季節、7月にこのドラマは始まった。戦時中を題材にしたストーリーなだけにスタート当初は「朝ドラっぽい」と話題に。舞台は昔ながらの大家族のいざこざ、ヒロインの成長、そして戦争によって何もかもが思い通りにならない世の中……と内容を反芻すると物悲しさが確かに残る内容だ。

でも朝ドラと一線を画すのはこの作品の大テーマが、純度の高い夫婦愛であることだと私は思う。平成のこの世では揶揄されがちな「夫の三歩後を下がって歩く」慎ましやかさを求められる関係性。夫にはもちろん敬語を使う。イクメンだ、家事分担なんて言語道断。ストーリーの舞台は昭和19年にも関わらず、周作はすずにそっと優しい愛を贈り続ける。その優しさの証かのように彼は妻を「すずさん」と呼んでいることにキュンとする。

第1話は幼い頃に出会った記憶を頼りに、どうしてもすずを妻にしたかった周作。なぜ自分が嫁に選ばれたのか分からぬまま、北條家にきた妻に

「今回は急いてすまんかった。よう来てくれたのう」

と愛おしそうにお礼を言う。

第5話で普段は穏やかな周作が、すずと水原哲(村上虹郎)の仲のよさを見て

「ほんまはあの人と結婚したかったくせに」

と嫉妬心をあらわにする。

本当はもっと言いたいことがあったに違いない。でも感情を抑えて抑えて出た本音がなんだか微笑ましかった。

松坂さんは、戦時中ならずとも現代に存在しても、ベスト・オブ・夫と呼びたくなる優しい青年を演じている。

少し前まで松坂さんは舞台『娼婦』(2016年)、映画『娼年』(2018年4月公開)と立て続けに、タイトルからいろいろ彷彿させる役柄で女性を抱きまくっていた。たまたま両作品を見た。そこで彼はただセクシャルなだけではない、ちょっと怖さも漂わせていたように思う。

多くを語らないのに「この人(役)、何かおかしなことを考えていそう」とセリフ以外のワードを妄想させる松坂さんの演技。これはグッときた。静かなるエロス、小さな狂気。

なのにバラエティ番組に出ると人の良さが全面に滲み出てくる性格の良さがありありと分かる。彼は『侍戦隊シンケンジャー』(テレビ朝日系、2009年)といういわゆる戦隊モノ出身だ。一年間、過酷すぎる撮影をクリアできる俳優はやっぱり強くなって、優しさが増すのだろうか。ライダー系だけど竹内涼真くん、福士蒼汰くんも性格良さそうだもんな……。

さて『この世界の片隅に』。こうして松坂さんの魅力を考察していくと、今回の周作役は“語らずとも腹の中で何かを考えている”演技で見る側を惹きつけていく彼にすごくよく似合っている。(会ったことないけど)ひょっとしたらご本人の性格にも通ずるものがあるかもしれない。

劇中でも描かれている、今から74年前に日本で起こっていた戦争という悲しい出来事。決して目を背けてはいけない。心苦しい出来事もある中、すずと周作という優しい愛のフィルターをかけて伝えていく。このドラマにはそんな役割があるのかもしれない。

※ママ閉店……とある母親がテレビを見たりスマホをいじったりと、自分の時間のために、母親業務を休憩すると家族に宣言した言葉。夫がSNSで発信し話題となっている。

(文・スナイパー小林)

■9月2日放送『この世界の片隅に』第7話あらすじ
すず(松本穂香)が目を覚ますと、そこは北條家だった。全身包帯だらけで身体は動かない。まだ夢を見ているようだ。しばらくたち、すずは現実を理解し始める。防空壕を出たところで不発弾の爆発に遭い重傷を負ったのだ。すずを看病していた径子(尾野真千子)だが、悲しみのあまり意識を取り戻したすずを罵倒してしまう。サン(伊藤蘭)はすずに径子のことを本意ではないと謝る。そんな径子は隣保会館で会った幸子(伊藤沙莉)と志野(土村芳)にすずの精神的なケアを頼む。

数日後、呉中が空襲に遭い、北條家の周辺も焼夷弾の被害に。そんな中、戦局の変化で訓練が中止になった周作(松坂桃李)が家に帰ってきた。周作はすずを労うが、夫の顔を見て緊張がゆるんだすずは倒れてしまう。

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