テレビ業界の仰天伝説は本当なのか?当時の人に聞いてみた 読みテレ編集部のテレビコラム

公開: 更新: 読みテレ
テレビ業界の仰天伝説は本当なのか?当時の人に聞いてみた 読みテレ編集部のテレビコラム

映画界の巨匠・黒澤明監督が撮影したい目の前の風景を見て、「あの家、ジャマだ。はずせ」と指示して、一軒家を移動させたというウソかホントかわからない伝説があるが、テレビ業界にもその種の語り草はある。

ただ、巨匠のようなスケール感はまったくない(笑)。むしろ軽妙ゆえに語り継がれたり、アホすぎて笑い話として伝わっているものが多い。とくに昭和のテレビはそれの宝庫だ。

そこで今回は、そんな仰天伝説の中で気になるものを当時のスタッフに「これ、ホントですか?」と確認してみた。どの業界もそうだろうが、良くも悪くも昔はおおらかだったのがうかがえる。では、どうぞ。

売れっ子放送作家の驚きのかけ持ち術

時は昭和。T先生は各局で番組をいくつもかけ持ちする売れっ子放送作家だ。会議が重なるのは当たり前。それでもなんとか乗り切ろうと考えた方法がすごい。A局で会議中、スケジュールの手帳を机に置いてトイレに行くフリで、そのままB局に移動。「遅れてごめん」と会議に現れて、そのまま仕事しちゃうという作戦だ。A局のほうは机にスケジュール帳があるから「あれ? T先生、トイレ長くない?」と気づかないまま。けど、そのスケジュール帳は何も書かれていない、ただの新品。そうやって各局を飛び回っていたという。

――これ、30年以上前によく聞いた話だが、果たしてホントだろうか? 現在60代の放送作家さんに聞いてみた。

「その人が、会議に手帳を置いて、別のところで別の仕事をしていたのはホント」だそうだ。ただ、それで各局を飛び回っていたというのは、さすがに尾ヒレがついた話らしい。

今、こんなことをしたら信用問題に関わるだろうが、当時は売れっ子の奪い合いで、T先生も不義理をしないように苦肉の策でやっていたようだ。

ちなみに平成になってこれをアレンジした作家もいる。その人の場合はスケジュール帳ではなく、携帯電話。オモチャの携帯を置いて出ていったという。

ADがカンガルーを仕込んだ苦労話

昭和の頃、番組でカンガルーを仕込むことになり、AD(アシスタントディレクター)がカンガルーをレンタルしてきたが、本番まで待機させる場所がなかったので仕方なく自宅アパートまで連れてきた。ところがカンガルーは狭い部屋で暴れまくり、近所迷惑に。
「静かにしてくれよ!」と注意したが、そのまま格闘になり、ADは血まみれのフルボッコに。
苦労しながらもいよいよ本番前日、家に帰ったらカンガルーがいない。どうやら逃げたらしい。
「探さなきゃ!」焦って部屋を飛び出すが、雨が降ってきた。濡れたって気にしている場合じゃない。「早く見つけなきゃ大変なことになる……」しかし近所中、探したがどこにもいない。夜中になり、雨が土砂降りになる中、絶望的な気持ちでADは膝から崩れ落ちた。
「なんでオレはこんなにツイてないんだ! また怒られるのか! ADなんてやってられっかよッ」
そう叫んだ時、ふと雨がやんだ。
「え……??」
いや、雨はやんでいなかった。背後からカンガルーが傘を差し伸べてくれたのだ。その表情は「おまえも大変だな。テレビ出てやるよ。さぁ、立てよ」と言っているようだった。
こうしてADは事なきを得て本番は大成功。カンガルーに感謝して、彼らに友情が芽生えたという。

――これ、テレビ業界のベテラン世代なら聞いたことのある話だが、果たしてホントなのだろうか?

60代の制作会社の社長さんが答えてくれた。「ウソに決まってるだろ(笑)。けど、この話、俺が聞いた話と全然違ってるよ」

そうなのだ。このADとカンガルーの話は当時から耳にするたびにアレンジが加えられ、何が元ネタなのかサッパリわからないほどだった。と思っていたら、今年になって、この話の最初の語り部だったという人が、このエピソードを小説としてサイトに発表されていた。『大矢のカンガルー』というタイトルだ。

読んでみたが、上記で紹介している内容とはまったく違っていて、番組収録につかったカンガルーを動物プロダクションが連れて帰るのを忘れたのでADが仕方なく自宅まで連れて世話してあげたという話だった(もちろん、これ自体も脚色が加えられているものですよ……笑)。当時のテレビ業界の快活さ、手探り感、カオス状態が感じられる面白い読み物となっている。興味のある方は検索すれば出てくるので、ぜひ。

しかし、テレビ業界の人たちはこういう話を膨らますのが巧い。というか、冗談好きが多いので、あっという間にスベらない話に仕立ててしまう。話半分で聞くのがちょうどいいのかも?

大物俳優がなかなか死んでくれなくて困り果てたドラマ監督

時代劇のドラマで某大物俳優が戦死するシーンを迎えた。無事撮影を終えたが、その俳優は「けど、これではまだ俺は死ねない」と言い出した。監督がア然とする中、死んだのに次のシーンにも出ると言い出す。
その俳優曰く、俺が演じた男はそんなことでは死なない。そんなつもりで演じていなかった。あれでは死んでいない。
というので、生き返ったのだ。
が、シナリオではもういないのでどこかで死んでもらうしかない。仕方ないので、監督は改めて戦死シーンを用意。撮影したが、「いや、まだ死んでないな」と言い出し、生き返った。
そんなことを繰り返しているうちに、視聴者からは「あいつは不死身なのか?」と混乱の声が局に殺到したという。

――この話、ホントなのだろうか?

このドラマ枠を担当したことのある50代のスタッフに聞いたところ、「私も先輩から聞いたことがあります。ほぼ、本当らしいですよ」と答えてくれた。どうやら真実らしい。この俳優、ス、スゴイ! ブッ飛んでる。

ちなみにこの大物俳優は最近故人になられた。役者としてケタ違いのスケールを感じる。こういう人の本気な仕事がのちに伝説と呼ばれるのだろう。ご冥福をお祈りします。

【文:鈴木 しげき】

執筆者プロフィール
放送作家として『ダウンタウンDX』『志村けんのバカ殿様』などを担当。また脚本家として映画『ブルーハーツが聴こえる』連ドラ『黒猫、ときどき花屋』などを執筆。放送作家&ライター集団『リーゼント』主宰。

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