徳力基彦氏に聞く、ネットから見たテレビ(後編)〜テレビ局は巨大なオウンドメディアを持っている〜 インタビュー「テレビを書くやつら」

公開: 更新: 読みテレ
徳力基彦氏に聞く、ネットから見たテレビ(後編)〜テレビ局は巨大なオウンドメディアを持っている〜 インタビュー「テレビを書くやつら」

ブロガー第一人者でnoteプロデューサー、徳力基彦氏にテレビをネット側から語ってもらうインタビュー。前編ではテレビはネットを活用してファン獲得型にもなるべきだが、数の圧倒的な違いでハードルをなかなか越えられない話を聞いた。後編ではさらにそこを掘り下げてもらう。テレビ局が企業として今後どう進むべきか、ネットマーケティングに携わってきたテレビっ子の、貴重な意見にぜひ耳を傾けてほしい。
【聞き手/文:境 治】

テレビ番組の役割を分解して考える

境治(以下、S):テレビっ子だった徳力さんから見て、今のテレビは面白いですか?

徳力基彦氏(以下、T): いまも結構見てますよ。次男がテレビっ子ですから。長男は中学生になってから自分の部屋でiPadを見てるみたいで、もうリビングでテレビを見なくなりましたが。

S:下のお子さんとは何を見るんですか?

T:有吉さんの番組とか好きですね。リモートワークになって僕も一緒に、夜の番組を普通に面白く見てます。ただ、時間を決めて視聴する前提の番組作りだけをいつまで続けるのか、とは思いますね。テレビコマーシャルのモデルが儲かるから、タイムテーブルを埋めるための番組が中心になってるのは当然だとは言えます。ただ、例えば、世界に見てもらうことを前提にした番組作りにも挑戦する方が、作り手も面白いのではないでしょうか。

次男はNetflixで「水曜どうでしょう」にハマってます。私も先日「電波少年W」でやってた昔のアラファト議長や地雷撤去の回を見て大笑いしました。面白いテレビは時代も世代も関係ないですね。土屋さんが「電波少年W」をやってるのもYouTube世代に当時のバラエティを見せたい意図があると聞いたことがあります。それは有りだと思います。

人間のむき出しの欲望に対するような「元気が出るテレビ」的な番組は、何度見ても面白い。「アメトーーク」もそういう傾向があるからDVDでも売れたりするのでしょう。Netflixにテレビ東京がたくさん番組を出していて、「孤独のグルメ」を見た次男が近所の店が出てたと喜んでいたりもしました。

S:普遍的に面白い番組を目指そうということでしょうか。

T:今を切り取るのがテレビの大きな役割ではあるけど、テレビの役割や要素を分解してそれぞれにベットする考え方が出てきてもいいんじゃないでしょうか。時代に合ったタイムリーな番組もあれば、ストックとして作り長く広く見てもらう番組もあっていい。

ぼくらは「テレビ」という言葉を安易に使うけど、受像機の話か番組の話か会社の話かごっちゃになりがちですよね。各番組の制作チーム毎に、自分達は最終的にどの要素で勝負するのか、真剣に突き詰めて考える必要が出てきていると思います。

S:すべての番組が視聴率獲得のみを目指さなくてもいい、ということですかね?

T:テレビってなんだっけ、というのを少し狭く切り取らなくてはいけないタイミングが来ているのではないかと思います。マーケティング的な話ですが、いますべてのブランドが「ブランド」で選択されないといけない時代になっています。ヤフーは様々なメディアのポータルですが、最近は自らも記事を作っている。スマートニュースやLINEニュースに攻められていて、オリジナルの記事も必要という考え方です。コンビニも同じことで、最近はプライベートブランドの商品が棚を占拠するようになっています。当然ナショナルメーカーからすると売り場が減ると困るでしょうけど、コンビニとしては他のコンビニに対抗する必要がある。

テレビも同じで何を見たいのかで選ばれる時代です。若い世代は、私たちのようにとりあえずテレビをつけてザッピングするのではなく、見たい番組を自分の見たいタイミングで見るのに慣れてしまいました。彼らが見たいものを作る必要があるわけです。

つまりテレビ局も、「どういう人に何を届けるか」を考えないといけない。マスメディアは「広くあまねく」で考えがちで、大手新聞社の方々がそこで悩んでいます。一時期新聞社の記者の方にニュースを作る相手は誰かと聞くと「国民」と答える方が多くいました。でも、読者は「日本国民」だからと、新聞を選ぶ時代ではないですよね。
ビジネスマンだから「日経新聞」とか、業界の最先端の情報を知りたいから業界の新聞とかを選ぶわけです。

テレビは「みんな」のための番組作りってなっちゃうと、YouTubeやNetflixがライバルになる時代の中、どう選んでもらうのかという問題にぶつかることになります。テレビ局の方々も、自分たちはどういう人に喜んでもらうために何を作るのかに向き合わないと。コモディティ化するとライバルに市場を削られちゃいます。

テレビ局が制作会社と違うのは?

S:するとテレビ局は制作会社に近づくのでしょうか?

T:番組だけで見ると制作会社と同じ、となりがちかもしれませんね。でも逆にテレビ局は自らの地上波という宣伝枠を持っていてタダで使えると考えてみて下さい。企業はいま一生懸命ネットにオウンドメディアを作ってるけど、テレビ局は実はテレビの地上波という巨大なオウンドメディアを持っていると考えることも出来るわけです。これはすごい能力ですよ。自分たちが作ったコンテンツをタダで大勢の人に宣伝できるのですから。「鬼滅の刃」はテレビで放送して配信サービスも使ってファンを作って、最終的に大きな映画ビジネスになりましたよね。

テレビ局はコンテンツを宣伝する能力を持っているんです。今は、テレビのコマーシャルの放送枠を埋めるために番組を作っているような意識の方もいるかもしれないですけど、テレビ局の方々は、企業がコマーシャルの費用を支払ってでも使いたいテレビの放送枠を自らのコンテンツを流すために使えると考えてみたら、世界が違って見えると思います。
日テレさんは、そこをうまくやっていると思っていまして、最近もhuluと「スッキリ」を上手に使ってNiziUを成功させましたよね。ああいうことだと思います。無料だから大勢が見てくれる枠があり、Huluという有料課金の仕組みも持っていてビジネスを回せる。そこが制作会社とまったく違います。そんな力を持っているテレビ局ならではのコンテンツ作りがあると僕は思います。

S:テレビは巨大なオウンドメディア、というのは至言ですね。読売テレビは関西のローカル局でもありますが、ローカル局の今後はどうでしょう?

T:ローカルの重要性は私は上がっていくと思っています。地域の価値を高めることに貢献できれば、地域のメディアの価値は唯一無二になるでしょう。北海道テレビさんのように観光に貢献するとか、やり方はいくつかあるはずです。

一方、読売テレビさんは全国ネットの番組も作ってますよね。電波に頼らずに番組を作るポテンシャルがあるわけで、コンテンツ制作を軸にできる可能性がある。

いままでは地上波の電波の枠組みが確立していたからこそ、がんじがらめの面もあり動きにくかったでしょうけど、この変化のタイミングはチャレンジしたい人からすると面白い局面とも言えるのではないでしょうか。

新たなポートフォリオを組み立てればいいと思います。地上波に流す番組作りだけではなく、読売テレビならではのコンテンツを作ることでNetflixに売ることもできれば関西を盛り上げるローカル文脈もあるかもしれないし、ニッチなコンテンツもあるかもしれない。それがブランド、読売テレビとは何を目指す会社なのかとシンクロするのが理想ですね。

テレビ局もブランドを問われる時代

S:それぞれのテレビ局らしさが大事だということですね?

T:企業はみんなブランドを問われています。同じコンビニでもどういう特徴を出すのか、靴を作るにも環境を重視するのか機能を重視するのかとか。いままでは横並びだったのが、ネットによってこの番組が面白いから見ようと選ばれるようにならなければならないので、そこを追及しないといけないでしょう。

読売テレビさんの場合は、会社名の下にサブブランドを作ったほうがいいかもしれませんね。読売テレビ全体で議論するとごちゃっとしちゃうので。でも尖った番組を作る力があれば、独特のやり方はあるはずです。

S:いまのお話はぜひまた機会を作って上の方たちに話してもらうといいですね!最後にテレビ局のみなさんへのアドバイスをお願いします。

T:テレビの門外漢の人間が偉そうに勝手な話をしていて恐縮ですが、失礼を承知で付け加えるとしたら、ぜひ、自信を持っていただきたいとお伝えしたいです。これだけテレビが愛されてる国はないですから。それに若者のテレビ離れはあるけど、彼らが結局何を見ているかというと、テレビの影響を受けたYouTuberや違法配信のテレビ番組、つまりテレビ的なコンテンツの価値は下がってはいないしむしろ上がっているんです。

そして人類がこれほど動画を見ている時代はありません。テレビは終わっていると言われがちですし、地上波だけで見る時代は終わったかもしれませんし、コマーシャルでこんなに稼げる時代はもうないかもしれません。でも「動画コンテンツ」と考えると黄金時代が来ています。是非、自信を取り戻してテレビの新しい可能性を楽しんでいただきたいです。


徳力氏の話は苦言を呈しているようで、テレビっ子としてのテレビへの愛が奥底に感じられる。そして希望のある話をしてくれているのも伝わっただろう。視聴率に縛られていたのを、自分なりの目標を持ってのびのび番組を作ればいい時代になると言っているのだと思う。動画コンテンツの黄金時代にテレビはどうなるのか?徳力氏に話を聞いて、楽しみになってきた。

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