菅田将暉&神木隆之介&仲野太賀、主役は全員!『コントが始まる』が示す青春の終わらせ方

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「水のトラブル」「屋上」「奇跡の水」「捨て猫」「カラオケボックス」「金の斧銀の斧」「無人島」「ファミレス」「結婚の挨拶」……。これらは『コントが始まる』(日本テレビ系、毎週土曜22:00~)の初回からのサブタイトルであり、そのままマクベスというお笑いトリオのコントネタ。放送と同時にお笑いライブの醍醐味である出囃子が鳴り、いきなりコントから始まるのがこのドラマのお約束だ。出囃子が鳴り終わって暗転明けするワクワク感は、実際に劇場で味わうライブの興奮とよく似ている。

視聴者はドラマを通して毎週お笑いの劇場に通う疑似体験をしてきたわけだけど、最近はオープニングの出囃子を聞くだけでせつない気持ちが湧いてしまう人も多いのではないだろうか。いよいよマクベスの解散ライブの日が近づいている。

第8話より)中浜つむぎ(古川琴音)、中浜里穂子(有村架純)
第8話より)中浜つむぎ(古川琴音)、中浜里穂子(有村架純)

マクベスは、高岩春斗(菅田将暉)、朝吹瞬太(神木隆之介)、美濃輪潤平(仲野太賀)の高校の同級生同士で結成したコントトリオ。月一の単独ライブを開催しても客席には空席が目立ち、わかりやすく言うと売れていない芸人たちだ。芸風は売れ線ではなく、シュール。デビューから10年、次の単独ライブをもって解散することが決まっている。本作は3人に加え、マクベスがネタづくりのために集うファミレスでバイトをしている、マクベス推しの中浜里穂子(有村架純)、そして妹のつむぎ(古川琴音)の、5人による青春群像劇となっている。

まず注目すべきは、メインビジュアルの強さからも分かるこの豪華な顔ぶれ。菅田将暉、神木隆之介、仲野太賀、有村架純はみんな1993年生まれ(華の93年組!)。劇中で4人は28歳という実年齢の役を演じているので、各キャラが抱える20代後半の悩みや悲哀がより切実に伝わってくる。それにそれぞれが何度も共演歴があり、実際に親交があるところもドラマにリアリティを持たせる意味で良い影響を与えているように思う。古川琴音も4人とは年齢は少し違うものの、『連続テレビ小説 エール』や『この恋あたためますか』とはまた違うキャラで存在感を放っている。

中村倫也はマクベスのマネージャー・楠木実籾役で出演
中村倫也はマクベスのマネージャー・楠木実籾役で出演

そしてもうこれだけのメンツを揃えているにも関わらず、脇にも映画やドラマ、舞台で活躍する主演級の俳優陣が勢揃いしているから驚く。芳根京子中村倫也木村文乃明日海りお……これはもう完全に朝ドラ並みのキャスティング力(メインキャストのほとんどが実際に朝ドラ経験者)! 現行のプライムタイムドラマ1本でこれだけの人気俳優陣が一堂に会するのはすごいことだと思う。しかもこれほどの贅を尽くしているのにも関わらず、誰かが目立ちすぎたり中身が濃すぎたりすることもなく、しっかりまとまっているから不思議だ。

このドラマは主人公にスポットを当て、それを取り巻く人々という見方で脇役を描くのではなく、登場人物一人ひとりにスポットを当ててひとつの物語が動く群像劇。複数のキャラクターのストーリーが並行しながら、回ごとに異なるキャラクターに焦点を当てている。もちろんメインの5人を中心としているものの、ほかの人物もただのサブキャラではなく、それぞれの人生を生きながら物語に関わっている。ここまで主役級の俳優を揃えた脇役不在ともいうべきこのキャスティングは、「人は誰かの人生の脇役ではなく、自分の人生の主役でしかない」ということを分かりやすく思い起こさせてくれる。みんな異なる境遇を生きている身で、抱えているものも違う。一見するとバラバラに進んでいる複数の人生模様が、マクベスの解散というひとつの事柄へと収束していく様は圧巻だ。また、平行した複数の視点でひとつの事柄を描くことで、物語の伏線に整合性を与えているところも見逃せないポイントだろう。

マクベスの3人や里穂子、つむぎを見ていると、青春の苦しさや尊さを改めて感じることができる。20代後半の青春は厄介だ。カルピスのように甘酸っぱいものではなく、ファミレスのコーヒーや発泡酒のような苦味ばかりを味わう日々。他人と比べて落ち込んだり、やりたいことや人生の意味を模索して袋小路に迷い込んでしまったりすることもある。でもその苦しさは、まだ理想に憧れ、希望を持ち続けている証拠でもあるように思う。だからこそ、もがき続けているみんなのことが余計に眩しく見えてしまう。このドラマは青春という大切な期間の終わり方を、マクベスの解散を通して丁寧に描いてくれている。解散は一見バッドエンドのようにも思えるが、それは違う。解散は人生という喜劇の中の一場面でしかなく、彼らはまだ壮大なコントの途中にいるのだ。

最後、マクベスはどんな解散ライブを観せてくれるのだろうか。新作コントはどんなネタなのだろうか。まさか解散なしもありえるのだろうか。いちファンとして、最後の出囃子が鳴り響く瞬間を楽しみに待ちたいと思う。笑いながらコントを鑑賞したいけど、私はきっと泣くだろう。

(文:綿貫大介)

<6月12日放送 第9話あらすじ>
無事に里穂子(有村)の就職先が決まり、片倉奈津美(芳根)とともにマクベス開幕の聖地「ポンペイ」にて就職祝いをするマクベスの3人。その会話の中で、奈津美の実家への挨拶のことを尋ねられる潤平(仲野)。そんな潤平にはずっと心のシコリになっていることがあった。それは、奈津美の元彼氏であり、現在新進気鋭の実業家として活躍している小林勇馬(浅香航大)の存在であった。そして、その関係のこじれは、ある「春斗に対してずっと抱いていた思い」に関係することがあり……。

一方、春斗(菅田)は、引き篭もりを脱して印刷会社で働くようになった兄・俊春(毎熊克哉)と再会する。手を差し伸べてくれた大切な人を満足させるために頑張ってみようという決意を語る俊春の言葉に、春斗は耳を傾ける。そんな中、潤平はついに奈津美の実家に挨拶へ。一見柔和な笑顔で現れる奈津美の父(でんでん)だが……。そして、春斗と瞬太(神木)は高校の担任・真壁権助(鈴木浩介)の家にバーベキューに招待される。2人は真壁の息子・太一から「夢」について、ある問いかけをされる……。

人生の勝ち負けとは? いよいよマクベスの解散ライブまで残りわずか。夢に敗れた若者たちの最後の瞬間は思いもしない色彩を帯びる……。ここに、初めて垣間見える彼らの本音がある。長い長い1日の中で語られる彼らのその声を聞いた時、我々は体験のしたことのない「何か」を見ることになる。

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