石井裕也監督、岩田剛典に「ぴったりの役」とオファーした理由は?映画『町田くんの世界』

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岩田剛典、石井裕也監督
岩田剛典、石井裕也監督

国内外から注目を集める天才・石井裕也監督の最新作『町田くんの世界』が、6月7日(金)より全国公開。映画公開を直前に控えた石井監督と、高校生の氷室雄役を演じた岩田剛典(EXILE /三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE)さんに、本作の魅力や、共演者とのエピソードなどについて話を伺った。

本作は、第20回手塚治虫文化賞を受賞した安藤ゆきによる「町田くんの世界」を映画化したもので、主人公の町田一(細田佳央太)は、これまでのどんな主人公とも異なるキャラクター。物静かなメガネ男子、でも成績は中の下。アナログ人間で不器用。運動神経は見た目通りに鈍い......。そんな平凡な彼が、不思議な魅力でクラスメイトからご近所さんまで老若男女から愛されまくるという、ユニークな物語。

主人公・町田くん役の細田さんとヒロイン・猪原奈々役の関水渚さんは1000人超えのオーディションを見事勝ち抜いた“まっしろ”な新人俳優。共演には岩田さんのほか、高畑充希さん、前田敦子さん、太賀さん、池松壮亮さんら豪華キャストが集結した。

劇中、猪原さん(関水)や氷室(岩田)をはじめとした町田くんの学友たちは、知らず知らずのうちに世間の悪に触れて、どこか歪んだ一面を抱えてしまっている。また、池松さんが演じる吉高洋平も、小説家の道を半ば諦め、週刊誌記者として日々、ゴシップを追いかけるうちに世の中に蔓延する悪意に染まってしまった男だ。そんな人々がどこまでもまっすぐで、人が大好きな“町田くん”と出会い、優しさ純度100%の“町田くんの世界”と交わることで、少しずつ変わっていく姿が描かれていく。

――「石井監督×少女漫画原作」と聞いて映画ファンとしてはワクワクしましたが、このお話が来たときの率直な感想をお願いします。

石井裕也監督(以下石井):実は少女漫画原作をやりたくてしょうがなかったので「来た!」って思いましたね。最近は、少女漫画原作ものがやり尽くされているというか、飽きられかけているんじゃないかなとも思っていたので、だからこそ逆にやり甲斐があると感じました。

――石井監督と岩田さんは以前短編映画『ファンキー』(2018年)でご一緒されていますが、今回は長編作品でのタッグ。2度目の現場は、いかがでしたか?

石井:『ファンキー』を撮った時に、岩田くんは自分の限界を超えてどんどん新しい可能性を見つけていきたいという欲が強い人、という印象でした。それに気がついたからこそ、長編でがっつり時間をかけてやらせてほしいなと思っていて、今回オファーをさせていただきました。高校生の役ということもあって、とても迷ったり悩んだりしていたけど、それでも新しいものを見つけようともがいていたし、とにかく向上心のある人だな、と思いました。

――岩田さんは石井監督との現場、いかがでしたか?

岩田剛典(以下岩田):前回石井監督とご一緒した時はショートフィルムだったので、撮影もあっという間に終わってしまい、石井監督ともコミュニケーションが充分じゃなかったな、と思っていたので、今回のお話を頂いたときは思い切りやりたいと思いました。僕が演じた氷室雄という役は面白いキャラクターですよね。“遊び”がいっぱいある役。年齢の設定の壁も考えましたが、それ以上に魅力的なキャラクターだと感じました。石井監督から、お話を頂いたとき「ぴったりの役があるよ」って言われたので、楽しみにしていました。

――「ぴったりの役」とは、どういうところを思われてオファーされたんですか?

石井:「ぴったりの役」というのは……僕、たまに詐欺的な言い方をするんですよ(笑)。岩田くんは好青年なので言わないと思いますが「え!? 高校生? これ、ぴったりなの?」って思ったはずです(笑)。でも、僕は岩田くんに、ある種悩みながら制限をかけられた中で、大いに炸裂してほしかったんです。そうすることで、岩田くんが持っている人間的な部分が見えてくるんじゃないか、と思っていましたね。前の作品では、サングラスをずっとかけさせられて(笑)。あんなことされたら、ねえ? 芝居もなにも……ってなるでしょう(笑)。

岩田:あのときは、真っ黒で透けないサングラスでしたからね(笑)。今回の現場では、いろんなことを考え出して、悩んだりもしましたが、すごくいい緊張感のある撮影現場でしたね。みんなが向いているベクトルが一緒、という環境の作品に携われるのは、本当に嬉しいです。それに、(石井監督とご一緒するのは)2回目だから前回より成長してないといけないし、自分自身にも発破をかけながら挑みました。

石井:2回目はもっと悩んでほしかったから。

――高校生の氷室雄という役を作っていく上でどのような事を意識されましたか?

岩田:高校生には、大人にはない躍動感がありますからね。そういうフレッシュさって、普通に演じても出てこないので、まず、そこをつくるのが氷室雄になっていく第一段階でした。干支が一回りくらい違う細田くん(現在17歳)と向き合うわけですから、同じ画面に高校生として収まるので、振る舞いや仕草とかもそういうふうに見えるように、やれることをやりました。氷室というのは人間臭い役だと思うので、自分の殻を敗れずにいる感じや、プライドが邪魔をしている感じとか、そういう気持ちはよくわかるので、悩みながらもすごく演じがいがあり、楽しい役でした。

――岩田さんと高畑さんも久しぶりの共演でしたね。こういうキャスティングには、何か監督の狙いがあったのでしょうか?

石井:そういうフォーメーションというか、配役のバランスは気にしました。岩田くんと高畑さんの共演経験があるのは知っていましたが、仲良しチームでやってほしいからというわけではなくて、お互いが10代の役をやるという悩みと戸惑いみたいなものが、どこかで共有できている状況を作るっていうことですね。それがどういう効果を及ぼすかはわからないですが、居心地が良くもなるし悪くもなるというか、すごく危うい立ち位置になるんじゃないか、というね。例えば、岩田くんと高畑さんが現場で、共演経験があるからといって楽しそうにワイワイやっていたら、変な空気になるんじゃないか? とか、みんなそれぞれがいろいろ考えると思うんですよ。そういう“居心地の悪い感じ”が、今回高校生役をやる上で、この映画のためになると思ったんです。とにかくたくさん考えて、悩んでほしかった。最終的には無垢なる町田くんに会って世界がひっくり返される、っていうことですから。

岩田:高畑さんとは映画『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』(2016年)以来の共演で、まさか制服を2人で着るシーンがあるとは思いませんでした。現場だと、「制服姿、似合っている、似合ってない」なんて話はしますけど、「この役をやる!」と腹を決めて現場に入っているので、逆にそれは信頼して挑みました。前回は本当にお芝居を始めたばかりというか、まだまだ何もわかっていない時だったので、そういう意味では、石井監督とも2度目ましての緊張感と一緒で、芝居の段取りから「どう来るのかな?」っていう緊張感はありましたね。段取りを重ねていくうちに、変えてきたり、こっちも変えたり……。あのバランスは現場にいる人にしかわからないですけど、そういうのが楽しいんですよね。戦っている感じ、というか。実際に戦うシーンではないけど、カメラが回っているときはすごく研ぎ澄まされた世界なので、そういう中で共演できたのはすごく良かったです。

――今作には主役級の豪華キャストが大勢出演されていますが、石井監督はどうやってキャストを口説いたのですか?

石井:岩田くんに関しては、直接言いました。それは僕が勝手に暴走したわけじゃなくて、プロデューサーもちゃんと同席した上で、ですよ(笑)。話し始めたらキリがないですが、一言では言えないいろんな思いがある中で、今回お願いをしました。高畑さんに関しては、2年位前に僕が舞台の演出をしたときに、観に来てくださって、楽屋で「また映画をやろう」なんていう話をしていました。他の方に関しても、いろんなストーリーがありますよね。前田敦子さんとは初めてですけど、別のところでお会いしていて。どうしてもこの人じゃなければいけない、という必然性が全員にあった……という感じですね。こんなことを言うと偉そうかもしれないですけど、それぞれの方が、「そういうことであれば、引き受けます」という感じで、出演してくれたんだと思います。

――35mmフィルムカメラを使って撮影されたことについて「奇跡的な掛け合い」を一発で捉えるためとおっしゃっていましたが「あ、今撮れた!」みたいな瞬間は感じますか?

石井:それはありますね。35mmフィルムカメラが回る音、カラカラカラカラっていう音が好きなんですよね。“撮る”って“奪う”ということだと思うんですよ。今起きている出来事、芝居、情景、今の一瞬をどう奪うかみたいなことですよね。だからあの音が好きなんです。

岩田:深いですね……。

――今作でそういう瞬間が撮れたと思うシーンは?

石井:理屈を超えたところにあるものはグッときますね。若い2人(町田くん役の細田佳央太と猪原さん役の関水渚)が意味もなく原っぱを走り回っているシーンとか。ああいうものに意味なんか無くて「説明してください」と言われても困るんですけど。とにかくあの2人はわけも分からず、暑い中一生懸命走っていたんですよね……。あれはグッときました。

――試写で本作をご覧になられた方たちからは「町田くんのまっすぐな優しさが心地よかった」「温かい気持ちになれる」「私自身も変われる気がする」といったコメントが寄せられており、ヒーリングムービーとの呼び声も!? これからご覧になる方へメッセージをお願いします。

岩田:町田くんという人が軸にいて、彼と関わった人たちがどんどん変わっていくんですが、みんなうまくいっていない人たちなんですね。ちょっと大げさかもしれませんが、生き辛さだったり、抱えているものがあったりと、なんかみんなスッキリしない感じなんです。それが、町田くんと出会うことで“自分が変われるきっかけ”に繋がっていく映画だと思います。何の悩みの無く、順風満帆に生きている人って、そんなにいないはずだから、絶対に共感できるところがあると思います。だから、ご覧になった方は、「頑張ろう」「ひとに優しくしよう」とかそういうふうに思ってもらえるんじゃないでしょうか? 学校の中の話が中心ですが、社会人にも同じことが言えると思いますし、見る方の環境によって、感じることは違うかもしれませんが、前向きになれる映画であることは間違いないと思います。自分と照らし合わせて楽しんでいただけたら嬉しいです。

石井:「町田くんみたいに、ひとに優しくなりましょう」キャンペーンをやったつもりは僕の中には一切ないです。それより、自分で生き方を決めてほしいなと思います。「町田くんのようには生きられない」でもいいですし、まぁ「町田くんみたいな人になりたくない」「町田くんの逆をいきたい」という人はあんまりいないと思うんですけど……(笑)。その上で、自分で決めていい、自由に生きていい、っていうふうに思うんですよね。映画の最後には、好きな人を追いかけて空を飛んじゃいますし、出来るか出来ないかは置いておいて、自由でいいと思うんです。そういうようなスタンスのほうが、僕としては大きかったですね。

■映画『町田くんの世界』
2019年6月7日(金)全国公開

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