国民的人気アニメーション『それいけ!アンパンマン』(日本テレビ系、毎週金曜10:55~)の記念すべき第30作目の劇場版『それいけ!アンパンマン かがやけ!クルンといのちの星』が、6月30日に公開され、好スタートを切っている。
本作は、テレビアニメ第1話に登場する“いのちの星”の危機をテーマに突然現われたクルンとアンパンマンたちが、星を救うために奮闘する姿を描いた物語だ。
初日を迎えた劇場には、小さい子どもたちがたくさん足を運んでいたが、アンパンマンの声を担当する戸田恵子さんと、ゲスト声優としてクルンの声を演じた杏さんに、子どもたちに愛される「アンパンマン」の魅力や、更なる未来への思いを語っていただきました。
――戸田さんは30年間「アンパンマン」に携わっていますが、作品に向かううえで心がけていることはありますか?
戸田:作品に力があるので、私たちは与えられたセリフを表現していれば間違いないという気持ちで30年間やってきました。幼少期の大切な時期に、子どもたちが「アンパンマン」を通っていってくれるんだということを忘れずにやろうという思いは常に心のどこかにあります。
――記念すべき30作目にゲスト声優として参加した感想は?
杏:とても光栄なことだと思っています。1~2歳ぐらいから「アンパンマン」の世界に入っていく子どもが多く、ちょうど言葉を覚えている途中の時期なので、方法論は自分でもわからないのですが、しっかりとわかりやすく伝えていければという意識で臨みました。
――クルンという役柄はどのようにとらえて臨んだのでしょうか?
杏:生身の私との共通点がまったくないので、どうやって自分の声でクルンちゃんというキャラクターを表現できるのか悩みました。事前に作り込むことが難しいキャラクターですし、声優としての知識もないので、現場に入って音響の方や監督さんにどうやってアプローチしたらいいかアドバイスをいただきながらアフレコしました。
――30年間で「アンパンマン」への意識も変わったのでしょうか?
戸田:正直、30年前に「アンパンマン」に関わったときは、ほかのお仕事と同じような感覚でした。それが半年、一年、二年と徐々に長く携わっていくうちに、街中に「アンパンマン」のキャラクターが溢れてきたり、子どもたちがグッズを持ってくれたりと、作品がどんどん大きくなっていくのを感じていました。外から教わることも多かったんです。
――プレッシャーみたいなものが増していったのでしょうか?
戸田:日本で初めて絵本からアニメーションになった作品。その意味で、やなせたかし先生も大変な決意だったと思います。アニメになれば声も定着するし、私たちにも責任があるなと感じていました。
――子どもにとって最も影響力の大きなキャラクターに成長しました。
戸田:丸いキャラクター、「アンパンマン」という母音が並ぶ弾みのいい言葉、俗にいうビタミンカラーなど、元気の象徴になっていますよね。改めて考えると、すべてのものが詰まったキャラクターだなと思います。
――杏さんは今回、観る側から、参加する立場になりましたが「アンパンマン」への意識は変わりましたか?
杏:ここ最近は、子どもたちが好きで見ているという立ち位置で、ロールケーキちゃんやメロンパンナちゃんなど、子どもたちがしゃべれるようになったら「これがロールケーキなんだよ」とか「メロンパンナちゃんのもとはこのメロンパンなんだよ」というように名詞を覚えるきっかけになるような作品なのかなと思っていたのですが、今回この世界観に入れたことで、より親しみは増した気がします。
――毎回豪華なゲスト声優さんが参加されています。レギュラー陣にとってどんな気持ちで迎え入れているのでしょうか?
戸田:ただただクルンちゃん役を受けていただいて感謝という気持ちです。特に今回参加してくれた杏ちゃんは、大の仲良しで、関係者よりも先に彼女から「今度出るんですよ」と聞いたぐらい。30周年という節目にうれしいニュースでしたし、これまでも毎回出演してくださるゲストの方が楽しんで参加していただけるのがうれしいです。
――杏さんのクルンはいかがでしたか?
戸田:私が正解、不正解を言える立場ではないのですが、とても自然体で大正解だなと思いました。子どもってわからないことがいっぱいあるじゃないですか。杏ちゃんの家に遊びに行っても、お子さんが好奇心旺盛で聞きたいことがたくさんあるんです。その代表みたいな存在がクルンちゃん。杏ちゃんがすごく自然に演じていたので、とてもよかったです。
――杏さんにとって声の仕事はどんな位置づけなのですか?
杏:超新人です(笑)。だからこそもっと重ねてやってみたいという思いがあります。今回もわからないことが多く、いろいろな人の力を借りているので、もっとできるようになりたいという思いが湧いてきます。アニメってどんなキャラクターにもなれるのが魅力ですよね。今回のクルンちゃんも実写では絶対できないキャラクターですから。
――「なんのために生まれてきたのか」というテーマが色濃く作品に出ています。
戸田:アンパンマンは自分がなんのために生まれてきたのかをはっきり言える、唯一無二のヒーローなんです。でもほとんどの人がそんなことはわからない。大人だってわからない。はっきりと「これが、私が生まれてきた理由だ」と言える人は幸せだと思います。
――お二人にとって「自分が生まれてきた理由」と漠然と感じた瞬間はありましたか?
戸田:難しいです。はっきりとは言えませんが、敢えて言うなら、私の人生の半分が「アンパンマン」という作品に関わってきたので、「アンパンマンをやるため」なのかもしれません。そしてそれ以上に長くやっているのがお芝居。お芝居をすることによって、見ていただいた方が元気になったり、喜んでくれたりしてもらえるならば、それは私にとっては、意味のある仕事なのかなとは思います。
杏:一言では言えませんね。「なんのために生きているのか」ならば漠然と見えてくるものはありますが「なんのために生まれたのか」は難しいです。そのなかで、敢えて答えを導き出すなら、いまは家族のためということは大きいですね。
――「100年続く作品」とおっしゃっていました。
戸田:私たち声優はそこまで長く続けられませんが、やなせ先生の世界観をしっかり守り続けていければ、ずっと続けていけるものだと確信しています。次から次へと赤ちゃんは生まれ、みんな「アンパンマン」の世界を通っていく。ずっとつながっていくんだろうなと感じています。パンと菌のように、いろいろなキャラクターが共存するという考え方も普遍的なテーマであり、どの時代でも色あせないものですよね。
杏:言葉では説明できない魅力がありますよね。子どもたちがほぼみんな通る作品。そこにはすごい力があるんだと思います。
――プライベートでも懇意だとお聞きしましたが、杏さんからみた戸田さんの魅力とは?
杏:最初にお会いしたとき「何者?」というぐらい、いろいろなキャラクターを演じられている人だなと思いました。仲良くなって家にもよく遊びに来てくださるのですが、身内にように家族を見守っていただいています。みんなの安全をパトロールしてくれているようで、戸田さん自身がアンパンマンのような素敵な存在です。
――最後にメッセージを
戸田:ぜひ「アンパンマン」で映画館デビューをしてもらいたいです。多少暗くて泣いてしまっても、それも楽しめると思います。大きな画面でアンパンマンやクルンちゃんを見て、同世代のお友達と一緒の時間を楽しんでほしいです。
杏:初日舞台挨拶で、劇場の子どもたちが、みんなで「アンパンマンのマーチ」を歌っているのを観てグッときました。歌のコーナーや踊りのコーナーもあり、みんな一緒に共有できるのは劇場ならでは。ぜひ初めての映画体験をこの作品でしてもらえたらうれしいです。
(取材・文・撮影:磯部正和)