『散歩する侵略者』黒沢清監督「大杉漣さんのアドリブはカットなし」裏話を告白

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黒沢清監督の最新作『散歩する侵略者』と、そのスピンオフ『予兆 散歩する侵略者 劇場版』の勢いが止まらない。

『散歩する侵略者』は、行方不明の後に夫が侵略者に乗っ取られて帰ってくるという大胆なアイデアが国内外で絶賛を受け、北米、フランスなど全世界31の国と地域で上映が決定している話題作。第70回カンヌ国際映画祭での「ある視点」部門正式出品を皮切りに、第41回日本アカデミー賞における黒沢監督の優秀監督賞、長澤まさみの優秀主演女優賞をはじめとした国内での受賞も相次ぐなど、まさに国内外の映画祭・映画賞を席巻している。

そして『予兆 散歩する侵略者 劇場版』は、黒沢が引き続き監督を務め、不穏な空気が渦巻く恐怖と驚愕の世界をアナザーストーリーとして別の視点で描き、第68回ベルリン国際映画祭でのパノラマ部門へ正式出品され現地でも絶賛された注目作だ。

この度、ベルリン国際映画祭から帰国したばかりの黒沢監督にインタビュー。この2作品に対しての国内外での評価への実感を含め、改めて話を聞いた。

――『散歩する侵略者』の公開後、ご覧になった方から様々な反応があったのではないかと思いますが、Blu-ray&DVD化を前に思うことは?

公開時、僕の想像以上に「感動した」という感想をいただいきました。それは狙っていたことでもありますが、夫婦のラブストーリー、愛の物語が強烈に伝わったのだなと思いました。いわゆる「わかりやすい」ラブストーリーではありませんが、夫婦役の長澤さん、松田龍平さんのお芝居もあって、予想以上に一般の方々に届いた。一方で、自分としてはハリウッド超大作ではないですが、宇宙人侵略SFとして侵略の描写もこだわったので、そこにももっと注目してもらえたら嬉しいのですが(笑)

―ー長澤さん、松田さんをはじめ、長谷川博己さん、高杉真宙さん、恒松祐里さんと、皆さん演技が素晴らしかったですね。

作った僕が言うのもなんですが、長澤さん、松田さん演じる夫婦のパートと別のもう一方のパート、長谷川さん演じるジャーナリスト・桜井と高杉くん演じる侵略者・天野、恒松さん演じる立花あきらのパートも最終的にすごく感動すると思います。特に長谷川さんと高杉くんの、最初は反目していた宇宙人と人間が、ひとつの目的に向かって協力していくという展開は、なかなか日本映画ではない。おふたりの力は大きかったのでそれが評価にもつながったのだと思います。高杉くん演じる天野という役はものすごく難しかったので、最初の頃は「そこまで感情を込めなくてもいい」と話した記憶はあります。でも、彼は2日目くらいには感触をつかんで、あとはもう完ぺきでした。

――『散歩する侵略者』でチャレンジしたこと、撮ってみてよかったことは?

長谷川さんが演じるジャーナリストというキャラクターは、いままでの僕の映画には登場しなかった、一種のアウトローです。仕事ではあるけれども、自分の欲望で動いている。仕事と欲望が一致しています。今回やってみて、そういうキャラクターって物語を進めて行くと、あれよあれよと言う間に世界からはみ出してしまうことを発見しました。それは初めての経験でした。観ていても気持ちのいいぐらい思い切った反体制の存在になっていきます。長谷川さんに演じてもらわなければ、彼がこうなるとは想像もつきませんでした。

――『予兆 散歩する侵略者 劇場版』は第68回ベルリン国際映画祭に出品され、現地でも大好評を獲得したそうですね。

皆さん緊張する場面では緊張し、驚くところでは驚いていましたよ。ストレートに笑いも起こっていて、いい反応がありました。熱狂的な僕の映画のファンも何人かいて、質疑応答では作品の気に入った点を話してくれて、とても気持ちのいい映画祭でした。『予兆』の音楽がラース・フォン・トリアー監督の『メランコリア』(11)に似ているという思わぬ意見もあって、どこに影響を受けたのかというマニアックな質問も飛び出すほどで、さすがドイツだなと思いました。

――『予兆』には、先日他界された大杉漣さんも出演されていました。

『予兆』が、大杉さんとは最後の作品になってしまいました。本当に長いお付き合いで、僕のデビューに近い頃からテレビドラマも入れると、20本以上ご一緒しました。ここ最近の大杉さんは人気者でお忙しく、久しぶりにご一緒することに興奮しましたが、現場に行ってみると昔とまったく変わらないんですよ。それは、お互いに感じていたことだと思います。現場では大杉さんが意表を突くことを試されるので、こっちも負けずに脚本にないことを当日お願いする。お互いに「そうきましたか」という感じが何とも言えず気持ちがいいものなんですね。『予兆』でもまさにそういう関係で、とっても楽しかった。ただ、これまでは本筋に関係のないアドリブなどはカットになってしまうことも度々だったのですが、今回の『予兆』では大杉さんが試されたことを、全部使いました。こういうケースは稀で、ヘンな言い方ですが、『予兆』で大杉さんのアドリブをいっさいカットしなかったということは、僕にとってある種の救いみたいなところが正直、ありますね。

――『散歩する侵略者』と『予兆 散歩する侵略者 劇場版』を楽しみに待っている方々へメッセージをお願いいたします。

『散歩する侵略者』は、メインとなる5人の俳優それぞれが、これまでにない思い切った演技をしています。ごく普通の日常の、そのへんにいる人間から一歩、二歩、もっとはみ出しているかもしれない、そういう存在を演じ切っているので、5人の人間ぶりと非人間ぶりを楽しんでいただきたい。『予兆』も『散歩する侵略者』も、ジャンルで言えば宇宙人侵略SFに分類されるわけですが、そういうジャンル映画として考えると『予兆』のほうがより明確にそのスタイルを持っています。ですから、そうとう怖いです。世界が、とりかえしがつかないことになっていくさまを、心して観てほしいです。

3月7日より、『散歩する侵略者』のBlu-ray&DVDが発売。詳細は以下の通り。

■『予兆 散歩する侵略者 劇場版』 Blu-ray
【価格】¥5,200+税
☆特製アウタースリーヴ付 

■『予兆 散歩する侵略者 劇場版』 DVD
【価格】¥4,200+税
☆特製アウタースリーヴ付

【収録時間】本編140分+特典映像
【映像特典】メイキング/初日舞台あいさつ/予告編集
【発売/販売元】ポニーキャニオン

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