木村文乃インタビュー 映画『イニシエーション・ラブ』の恋愛観を語る

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――今回の作品は、時代設定が1980年代後半です。この世界観の中で演じてみて、どんなことを感じましたか?

みんな、自分がやりたいことを素直にやっていた時代だと思いました。今は制約も多いですよね。80年代は、ただ単純に面白いものが流行するような、大らかで活き活きとした時代ですよね。

――80年代の名曲の数々も、見事に映画のストーリーを盛り上げています。

いいですよね。私は80年代の曲がすごく好きなんです。この映画の中では、特に「ルビーの指輪」が好きですね。歌詞がストレートで力強くて、この時代の“熱”が込もっている。80年代の曲は聞いていてしっくりきます。

――恋愛観では、80年代と現代の違いを感じることがありますか?

恋愛に関しては、きっと本質は変わらないんじゃないでしょうか。ただ、今の方が息苦しいだろうなとは思います。例えば、携帯やインターネットが普及してしまっているから、相手の情報を知ろうと思えばいくらでも知ることができる。でも、見え過ぎない方がいいこともありますよね。あの頃の方が、そういう意味では自由だったのではないでしょうか。ちょっと羨ましいです。

――完成した作品を観た感想を教えてください。

純粋な恋愛映画として、すごく素敵なお話だなと思いました。その一言に尽きますね。鈴木くんも、マユちゃんも、美弥子も、登場人物はみんな純粋なんだと思います。ある意味、自分の気持ちに従って、やりたいことをやっているだけ。その後どうなるのか、誰がどうなるのか、気を遣いすぎてない。そういう部分は、誰しも心のどこかに持っているから、恋愛ドラマの部分も観ている方にきっと伝わるんじゃないかなと思います。

――この映画の“全てが覆る最後の5分”について、木村さんはどんな風に観ていましたか?

私は素直にラスト5分のことを忘れてしまうくらい、すごく面白く、純粋に恋愛映画として楽しんで観てしまっていたんです。だから、あのシーンが来た時に「そうだった!」と。もちろん台本で読んで知っているんですけどね(笑)。出演している私さえ、そのネタばれ部分をつい忘れてしまうくらいに作り込んだ堤監督はスゴいなと思いました。

――この結末に対しては、観ている人の感想も意見が分かれると思います。木村さんは、“救い”はあると思いますか?

うーん……。何を“救い”とするかですよね。救いがないと言えばないような気もします。ただ、この映画は、誰しもが通ったであろうもの、つまり“イニシエーション・ラブ”を肯定してくれる映画だと思いました。後から思えば“通過儀礼”だった恋愛を振り返って「あの時うまくできなかった」と後悔したり、「申し訳ない」と懺悔したり、まだ思い出を引きずっていたり、それ以上の恋愛が出来ていないと悩んでいたり、色々な人がいると思いますが、そういう恋愛を一度は通らなければならないということに気付かせてくれる。そういう意味では、観た人が救われる映画とも言えるかもしれません。

――この映画を観る人に向けてメッセージをお願いします。

純粋に恋愛映画として、マユと美弥子という対照的な女性を比べて観るのも楽しいです。男性も、女性も「あるある」と感情移入できるのではないかと。また、80年代を懐かしいと思う方からすると、使用されている音楽や楽曲も、時代背景にしても細部まで再現されているので、そこに注目しても間違いなく面白いです。そして、原作が好きな方も、まだ読んでいない方も、最後のどんでん返しで良い意味で裏切られるので、期待していただきたいですね。とはいえ、冒頭から堤監督のポップさが全開なので、まずは気軽な気持ちで楽しめますし、最後にはビックリできる。本当に“良い映画だな~”と満足してもらえる作品だと思います。

――ありがとうございました。木村さんは、今年の4月から連続ドラマに初主演も果たし、今回の作品で堤監督の現場も初めて経験されましたが、今後の女優としての目標はありますか?

役者として楽しむこと、遊び心を忘れちゃいけないなと、改めて思いました。実は、実際の撮影期間はすごく短かったんです。なので、もっとガッツリと堤監督と一緒にお仕事をして、楽しみながら挑戦して、役者としての幅を広げることができたら嬉しいです。あと、私は声の仕事もやってみたいという欲があります。

――声優ということですか?

そうです。ナレーションは経験したことがありますが、声優はまだやったことがないので。自分ではない人や絵に声を乗せるということは、映像で表現しようとしていることを必死で汲み取って、その登場人物の気持ちを代弁することだと思います。今やらせていただいている役者もそうなのですが、“自分以外のこと”についてあれこれ考えるのが好きなんです。そして声の仕事はもっと“自分”を切り離して、色々なことを想像して表現しなければならない。とても難しいとは思いますが、ぜひ挑戦してみたいですね。

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