映画『キネマの天地』(山田洋次監督)や、ドラマ『東京ラブストーリー』(フジテレビ系)の清純派で優等生なイメージを払拭すべく、ヤクザの情婦、殺人犯などさまざまな役柄に果敢に挑んできた有森也実さん。

映画『新・仁義の墓場』(三池崇史監督)では、覚せい剤中毒にさせられて正気を失っていくさまを鬼気迫る演技で体現。演技の幅も広がり、映画・テレビ・舞台に多数出演している。

順風満帆な女優人生を歩んできたように見えるが、女優引退を考えたこともあったそう。しかし、そんなふうに悩んでいた時期にいい作品に出合い、引き留められることになったという。

◆ぶっ飛んだ“魔性の女”に

15年ほど前からは徐々にマネジャーと話し合いながら仕事を選択するようになったという有森さん。さらに多くのことにチャレンジするようになっていく。

2008年には、映画『小森生活向上クラブ』(片嶋一貴監督)に出演。この作品は、やる気のない中年サラリーマン・小森正一(古田新太)が痴漢でっち上げ常習犯の女を殺してしまったことをきっかけに自己流の正義感で暴走していくさまを描いたもの。有森さんは正一の妻・妙子を演じている。

-正一だけでなく、妙子さんもどんどん変わっていきましたね-

「あの役も最初は普通の奥さんの役だったんですけど、監督に『ちょっとこういうふうにやってみたらおもしろいんじゃないですかね』って言ったら監督もノッてくれて、だんだん妙子さんが膨らんできました(笑)。

目覚めて女っぽくなっていくんですよね。それまでは倦怠期みたいな感じだったのに、夫が痴漢でっち上げ常習犯をはじめ、法で裁けない迷惑な人を始末していくことで活力が湧いてきて一変しますからね。旦那さんに女として見られるようになってどんどん変わっていく。おもしろい役で私は好きでした」

-片嶋一貴監督とは多くの作品でタッグを組んでいて『TAP 完全なる飼育』もありましたね-

「あれも本当にいっちゃってますよね。ぶっ飛んでいました。高校生の娘が自分の愛人のヤクザにいたずら(性的虐待)されているのに気づかないフリをしているし、自分も愛人の所属している組の親分ともできていて(笑)」

-あれも魔性の女でしたね。劇中でバレエも披露していました-

「踊りは大好きなんです。本当に好きなの。なかなか思うようにからだが動かないというのもあるんですけど、ダンスは心の解放ができるんですよね。

8年ぐらいブランクがあったんです。学校を卒業して仕事場と家の往復だけになったとき、友だちと交わる時間がなくなって。いつも仕事で演じることばかり考えて、プライベートと仕事の線引きがうまくできなくなってしまって…。

『私って誰?』みたいなことになっちゃっていたんですよね。そんな私を見て母が『もう一回バレエをやってみたら?』って言ってくれて、母と一緒に通っていたスポーツクラブにバレエのクラスがあったので、はじめてみたら何か気持ちよかったんですよね。子どもの頃からやっていて頑張っていた私の原点を見つけられた安心できる場所だったんです。それからずっと続けています」

◆全裸、コスプレ、濡れ場…すべてを晒す

片嶋監督とは『TAP 完全なる飼育』の前に『たとえば檸檬』でもタッグを組んでいる有森さん。この映画では、引きこもりの娘をもち、自身も万引きや行きずりの情事を繰り返すなどの問題を抱えている大手企業の役員秘書・香織を演じている。片嶋監督の作品での有森さんはどれも一筋縄ではいかないキャラばかりだが、極め付きは2017年に公開された主演映画『いぬむこいり』だ。

上映時間4時間5分という長尺のこの映画で有森さんが演じたのは、何をやってもうまくいかないイケてない教師・梓。彼女の一族には「敵の大将の首を獲った家来の犬がお姫さまと結婚する」という不思議な「犬婿入り」の物語が語り継がれていた。

長年付き合っていた恋人に振られた日、突然空から「神のお告げ」を聞いた梓は学校を辞めて宝探しの旅に出る。そして、お告げによって訪れた島でさまざまな体験と挫折を繰り返しながらも前に進んでいくが、想像を絶する展開になっていく。

-どんどん奔放な役もやられるようになって-

「そうですね。でも、そのときしかできない役ってあるじゃないですか。もうギリギリだなあと思いました。『TAP 完全なる飼育』にしても、『いぬむこいり』にしても、今やらなきゃできないって(笑)。いろいろやって冒険心が激しくなっていったんでしょうね」

-『いぬむこいり』は4時間を超える長尺で-

「あんなに長尺になるとは思わなかったんですけどね(笑)。上映するにしてもDVDにするにしても、相当ハードルが上がっちゃいますよね。映画祭で上映するにしても、『これを全部見てくれる人がどれだけいるんでしょう?』みたいな感じで」

-もともとは原作があったのですが、映像化権が取れなくなってオリジナルストーリーになったとか-

「そうです。さまざまな事情で挫折しかけてしまいましたが、オリジナルでシナリオを作ろうということになったのです。それで『犬婿入り』という伝承民話からインスパイアされた作品を、片嶋監督のテイストで練り直したら大作が出来上がってしまったんです」

-あの主人公は有森さんにアテ書きをしたということですが、結構イタい女性なのでイメージが違いますね-

「本当ですか? ダメダメな話がいっぱいありますよ(笑)。私は意外とダメダメなんです」

-撮影期間は32日間だったそうですが、イメージ通りに進んだのですか-

「監督はイメージ通りだったみたいですけど、私は全然イメージ通りじゃなくて、『えーっ?』という感じでした。最初はね。準備期間でいろいろディスカッションしたことが、監督はそれでよかったのかもしれないけど、私はやっぱり活かされてないなというふうに感じたので。でも、何回か見ているうちに、こういう作品があってよかったんじゃないかって。1年ぐらいかけてやっと腑に落ちて来たというか」

-撮り終わってしばらくは、あの作品の話はしたくないとおっしゃっていましたね-

「自分の中で抹殺していました。撮影が終わってしばらくは『女優を辞めたい』と思っていましたし、体力的にも精神的にも疲れはててしまいました」

-演じた梓は市長選挙に出るハメになってコスプレ姿も-

「そうそう(笑)。80年代のアイドルのようなブリブリ衣装で選挙活動ですからね、笑えるでしょう?」

-エロティックなシーンもかなりありましたね-

「そうですね。でも、エロスは女優としてひとつのテーマなので挑戦できてよかったと思います」

©︎ YUDAI UENISHI

※映画『ねばぎば 新世界』(上西雄大監督)
2021年7月10日(土)より新宿ケイズシネマほか全国順次公開
配給:10ANTS、渋谷プロダクション
出演:赤井英和 上西雄大 田中要次 菅田俊 有森也実 小沢仁志 西岡德馬

◆37年間所属した事務所からの独立

2020年、有森さんは大きな決断をする。5月末、37年間所属した事務所を退社して独立。仕事や取材の判断、事務作業も自ら行っているという。

-コロナ禍で大きな決断をされましたね-

「1年くらい前からずっと考えてはいたんです。でも、なかなかタイミングも難しかったり。前の事務所には15歳からずっとお世話になっていたので社長はお父さんのような存在ですけど、このままではなく一度親離れしてみようと思って。

“有森也実”という女優に魅力があれば、社長が舞台などのプロジェクトを立ち上げたときに新たな気持ちで一緒にまたお仕事ができるというような関係になれたらいいなと思いました」

-大きく変わったことはどんなことですか-

「やっぱり自由ですよね。もちろん責任もあるからそれは大変で、慎重にならざるを得ない部分というのはありますけど、自分でジャッジして自分で責任を取れるというのはいいかなと。

これからも自分発信で何かができる可能性はありますし、世の中もそういう流れになってきていますからね。女優というカテゴリーの中だけじゃなくて、もっといろいろ活動してみたいなということもあったので」

-独立されて1年になりますが、いかがですか-

「私自身はやっていることはあまり変わらないので、そこまで大変ではないですね。もっと変わらなければいけないんですけど」

7月10日(土)には、映画『ねばぎば 新世界』(上西雄大監督)が公開される。大阪新世界を舞台に、かつてヤクザの組を潰してまわっていた勝吉(赤井英和)と弟分のコオロギ(上西雄大)が、一人の少年と出会ったことをきっかけに怪しげな新興宗教団体を潰すべく戦うことになるというストーリー。有森さんは、勝吉たちのかつての恩師(西岡德馬)の娘で、その新興宗教団体の幹部の琴音を演じている。

「『ねばぎば 新世界』の上西監督と出会ったきっかけが『いぬむこいり』なんです。映画を大阪に見に来てくださったんですけど、すごく気に入ってくださったんですね。そのあと京都で上映したときにも劇団員の方をいっぱい引き連れて見に来てくださって、それから今回の『ねばぎば 新世界』の話になったんです」

-今回もユニークなキャラですね-

「そうですね。すごくいかがわしい役でしたけど、監督がのせ上手なので(笑)。回想シーンで若いときのシーンもあったんですけど、若いときのシーンは白黒になっていて助かったなって(笑)。

若いときがあって、洗脳されたときがあって、勝吉が宗教団体に踏み込んでくる現在があって、エピローグがあって…変わり目というか顔が変わるから、それをどういうふうにやるか工夫が必要でした」

-結構悲惨な目に遭っている設定ですよね-

「そうです。父親の借金の取り立て人に暴行されて死のうと思ったんだけど、新興宗教に入って…結構ディープなんですよね。母親もいなくて父親が娘よりボクシングに夢中になっていて、やんちゃな男の人たちばかり面倒見て、本当に嫌で嫌でしょうがなかったんでしょうね。それで父親も蒸発しちゃって…無責任すぎますよね」

-結構個性的な方たちが出てらっしゃいますが、現場はいかがでした?-

「今いわゆるヤクザものってなかなか難しいじゃないですか。昭和の懐かしいにおいがあって、おもしろかったです。今見ると、反対に新鮮でストレートな人情もの。『人間っていいなあ』って思える作品なんじゃないかなと思います。昭和世代も頑張っていますよ(笑)」

-今後やってみたいことはどんなことですか-

「もちろん舞台はやりたいです。映画もやりたい。翻訳ものをこれまでやったことがないんです。だから翻訳ものもぜひやりたいですね」

-お仕事の幅も広げてらして、『NHK短歌』(毎月第3日曜日の司会)も3年目になりますね-

「はい。最初は本当にダメでした。本当に大変だったけど、今は楽しくやらせていただいています。今期からの先生も個性的な先生なので、先生の個性を引き出すというのもなかなか難しいんですけど、1年間ありますからね。短歌は日本人独特の文化が凝縮されたものなので、それに毎月1回触れられるというのはありがたいです。

あとダンスも、どういう形になるかわからないですけど、ダンスの楽しさを広げる何かをやりたいなと思っているんですよね。今、プライベートでバレエを教えたりもしているので、そんなことも少しずつ広げられたらいいかなと思っています」

やりたいことがいっぱいあると目を輝かせる有森さん。6月17日(木)~27日(日)は劇団民藝+こまつ座公演『ある八重子物語』(紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA)、8月17日(火)~29日(日)はこまつ座 第138回公演『化粧二題』(紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA)の公演も控え、多忙な日々が続く。(津島令子)

※舞台『ある八重子物語』(劇団民藝+こまつ座公演)
2021年6月17日(木)~27日(日)
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
作:井上ひさし 演出:丹野郁弓
出演:日色ともゑ 有森也実 篠田三郎
ある病院を舞台に、新派を愛する人びとによって語られる八重子の芸と生きざまとは…。

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自分の好きな番組を、好きな時、好きな場所、好きなデバイス(PC、スマホ、タブレット)で自由に視聴できる民放公式テレビポータル「TVer(ティーバー)」。見逃したドラマや、もう一度見たいバラエティなど、番組放送終了後から約7日間無料で見放題ということもあり、多くの人に利用されています。

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