脚本家歴35年、大石静が求められ続ける理由。「わからないことは相手が年下でも全部聞く」

公開: 更新: テレ朝POST

4月30日(金)にスタートした金曜ナイトドラマ『あのときキスしておけば』。

本作は、松坂桃李演じる主人公・桃地が恋をしたヒロイン(麻生久美子)が突然事故で亡くなってしまい、中年のおじさん(井浦新)に魂が入れ替わってしまうという衝撃の”入れ替わり“ラブコメディー。

完全オリジナルとなる脚本を手がけるのが、脚本家の大石静だ。

大石氏が脚本家として本格的にデビューを果たしたのは1986年。以降、『長男の嫁』(TBS系)、『ふたりっ子』(NHK)など数々のヒット作を生み、近年は『セカンドバージン』(NHK)、『大恋愛〜僕を忘れる君と』(TBS系)など“恋愛ドラマの名手”として名高い。

テレ朝POSTでは、大石氏にインタビューを実施。前編では今作『あのときキスしておけば』の見どころ、そしてラブストーリー作品を作るうえでの”こだわり“を聞いた。

後編となる今回は、35年という長いキャリアや年齢に対する捉え方、脚本家としての仕事観に迫った。「わからないことは相手が年下でも全部聞く」と潔く語る姿に、脚本家として引っ張りだこであり続ける理由が隠されていた――。<取材・文/横川良明>

◆一生懸命生きていることが一番のインプット

――仕事人としての大石さんの心得を聞かせてください。『あのときキスしておけば』の貴島彩理プロデューサーは現在31歳。若いプロデューサーと組む上で心がけていることはありますか。

別に若くても年をとっていても何にも変わりません。若いからひるむってこともないし、ベテランだから怖いってこともないです。私たちの仕事は一期一会。毎回が勝負で、面白くなければ次は使ってもらえないという点は、私も俳優さんと同じです。そういう緊張感と相手の年齢というのは関係ないですね。

――なるほど…。私も日々悩むのですが、仕事ってキャリアを重ねれば重ねるほど若い感性についていくのが難しくなったりしませんか。

(さっぱりと)まったくないですね。というか、若いからこそ価値があるとか、若い人ほど感性が鋭いという考えもズレていると私は思うんですね。むしろ長く生きれば生きるほど瑞々しく育つ個性もあります。

確かに私は年齢はいっていますが、今を生きていることに変わりはないわけで。今が切り取れないとか、若い人の感性についていけないと思ったことは一度もないです。むしろ若い人が気づかないことを、60何年以上生きている私だからこそ描けるかもしれないし、それを見て若い人はびっくりするかもしれない。

以前、仕事でパリに滞在したことがあったんですけど、パリでは女の人は40歳を過ぎないと相手にされないんです。若い子が身を小さくして、40代以上の大人が堂々としているんですよね。日本では見かけない風景だから驚きましたし、若さに対して過剰に価値を置く日本の考えというのはやっぱりおかしいなと。だから、そんなにビビることはないという気持ちでやっています。

――年齢と共に自分の感性が衰えていくというような危機感も、大石さんにはないですか。

体力は衰えてますが、感性という点では、古さにも価値があるかもしれないし、そのズレというのが表現として成り立つこともあるかもしれない。やりようはいろいろありますから。私が私の感性を曲げてまで、若い人たちに媚びることはないと思っています。

――すごいです。日々の仕事に追われていくうちに、どんどん自分の感性がすり減っているような気がして。本当はもっとインプットをしなきゃと思うんですけど。

私も忙しくて出すばっかりではいかんなと思うけど、あまり勉強家でもないですね(笑)。観たいものを観るくらいで。それよりも結局、私が一生懸命生きていることがすべてじゃない?と思います。

昔はね、仕事もして、男性とお付き合いもして、いろんなことが全部できて、時間の使い方がうまかったんだけど。年をとってくると一番悲しいのは、体力がなくなる。集中力が持つ時間もどんどん短くなってきて、だから確かに以前ほどインプットするパワーが落ちている自覚はあります。

ただそうは言っても、この歳で一生懸命生きていることが一番のインプットだなと思ってやっていますね。

――インプットが足りないとわからないことがどんどん増えるじゃないですか。たとえば桃地は漫画オタクですが、あの感覚は大石さんは分かりますか。

漫画のこと全然知らないの(笑)。だから全部貴島さんに教えてもらいました。貴島さんの言うことを「へえ! そうなの?」「これは何て言うの?」ってほとんど書記のようにメモして。お恥ずかしいですけど、頼るのは楽しかったです(笑)。

――そこで聞けるのがすごいなと思います。

私は使っていただく身ですもの。確かに自分の子供より若いプロデューサーなんですが、立場としては仕事をいただいているわけだから、エラそうな気持ちはまったくありません。わからないことは全部聞きます。

だって、作品が良い方がいいもの。私たちのやるべきことは作品を良くすることだから。そこに、どっちが年上だとかどっちがエラいだとか、そういうのはないですよ。

◆求めてくれる人がいる限り、モチベーションは衰えない

――お話を聞きながら、これだけキャリアがあるのに全然威圧感がないことにびっくりしています(笑)。

(大笑いして)いやあね、どんなイメージを持たれていたのかしら(笑)。 私、他の方からもよく「随分フレンドリーですね」とか言われるんだけど、みんなどれだけエラそうな人だと思っているの?って(笑)。

――ベテランの先生だと、台本を直されるのも嫌がるとか聞きますから…。

ないですよ(笑)。だって、それで結果良くなったら、私が褒められるんですよ。「この台詞がいい」とかいろいろよく言うじゃないですか。それが全部私の手柄になるわけだから、何でも教えてっていう感じです(笑)。だから、言いたいことがあったら全部言ってくださいっていつも言います。

――モチベーションという意味ではどうですか。毎年新作を発表されていますが、創作意欲に衰えを感じることはありませんか。

呼んでもらえれば書きたいですね。需要がないのに、あがいてもしょうがないけど。貴島さんみたいな方が私を呼んでくれるのは、たぶん私が素敵だからだろうと自分を勇気づけてやっています(笑)。

こんな私でも呼んでくれる人がいるなら、精一杯応えようといつも思っているので、モチベーションが落ちることはないです。だって求めてくれる人がいるんですよ。幸せじゃないですか!

――タイトルのように「あのとき〜〜しておけば」という後悔はありませんか。

細かいことを言えばいろいろありますけど。でもまあ、それなりに刺激的に生きてきたなあとは思いますね。やりたいことをやってきたなと思うので、明日死んでも悔いはないです。でも別に後悔があることが悪いことだとも思わないです。後悔の味わいというのも、人生の楽しみのひとつですよね。何もかもうまくいってても、つまらないと思います(笑)。

――素敵です。では、最後にもうひとつだけ。これから先も人生は楽しいとは思いますか。

それはそうは思わないです。やっぱりだんだん体力が衰えてくると、嫌だなとも思うことも増えてくるので。でもまあ、そうは言っても生きている以上は手応えがないとつまらないですし、これからも一か八かで生きていこうと思っています。

 

※番組情報:金曜ナイトドラマ『あのときキスしておけば』第2話
2021年5月14日(金)よる11:15~、テレビ朝日系24局(一部地域で放送時間が異なります)

※『あのときキスしておけば』最新回は、TVerにて無料配信中!

※過去回は、動画配信プラットフォーム「TELASA(テラサ)」で配信中!

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