M-1グランプリ、コロナ禍での開催。漫才師たちに送った言葉「漫才は止まらない」の“真実”

公開: 更新: テレ朝POST

国民的イベントにして12月の風物詩、漫才日本一を決める「M-1グランプリ2020」が12月20日(日)に開催される。

※写真はすべて©M-1グランプリ事務局

エンタメからスポーツまで、あらゆるコンテンツが新型コロナウイルスの影響によりイベント開催に二の足を踏まざるをえない事態となったこの2020年。それは、M-1グランプリも例外ではない。

1回戦が無観客で行われたり、3回戦がなくなったりと、例年とは違う形式で進んでいった今大会。開催に至るまでの経緯について、チーフプロデューサーとして同大会に携わるABC朝日放送テレビ・田中和也プロデューサーに話を聞いた。

田中P:「僕ら制作チームや吉本興業、そして運営に携わる会社で、何度も話し合いました。週1回くらいリモートで会議をして、主に感染対策をどうするかについて。もちろん、“大会はやる!”という意識で統一されていました。M-1はやっぱりやれるようにしないとダメだろうと。でも、(その時期は感染拡大がおさまっていても)冬になればまた感染者が増えてしまう可能性もあった。各所で非常に慎重に進めてきました」

そうして“慎重に”スタートした1回戦は、なんと無観客での開催。漫才を無観客でやるということはつまり……

田中P:「ほとんど“ネタ見せ”ですよね(笑)。漫才師の方々はやりにくかっただろうなぁと思います。(プロの)審査員はあまり笑うことはしないだろうから、本当にただネタを見られているだけですし、会場内に入れる人数は時間を区切って制限していたので、会場に到着したらすぐに漫才してすぐに外に出てもらうという感じでした」

そんな1回戦、開催にあたったスタッフたちにも相当の苦労があったという。

田中P:「今回のエントリーは5081組。史上最多です。このコロナ禍にあって本当に驚くべきすごいことですけど、同時にそれだけの人数の感染対策を考えていかなければならない。みなさんを検温して、フェイスシールドしてマスクして、漫才が終わるごとに1回1回マイクを拭いて……。実際に会場で運営に携わったスタッフのみなさんは、本当に大変だったと思います」

そうしてなんとか乗り越えたという1回戦。例年であれば、2回戦、3回戦、準々決勝、準決勝、決勝と行われるM-1グランプリだが、今年は3回戦がなくなった。その意図は?

田中P:「(3回戦を)やめることで、そこでひと月くらいのスパンをおいて、その間に(新型ウイルス関連で)何か状況が変化していた場合のクッションの時期にしようと話をしていました。

それで、2回戦の次が準々決勝になった。言い方は“3回戦”でもよかったんですけど、今後のことを考えたとき、漫才師のみなさんにとって『3回戦敗退』と『準々決勝敗退』では傷の大きさが違うなと考え、あえて“準々決勝”という呼び方にさせてもらいました」

田中プロデューサーは、「M-1のスタッフはみんな、芸人のことが好き過ぎてちょっとおかしいんです(笑)」と話すが、こうした“準々決勝”というネーミングひとつにも愛情が垣間見られる。

そして、そんな“愛”が文字通り大きく掲げられたのが、無観客で行われた1回戦の会場にかけられた「漫才は止まらない」という横断幕だ。

田中P:「今大会のエントリー数は5081組で、史上最多。おそらく、昨年の大会が史上最高といわれるほど盛り上がったことで多くの人の漫才熱が上がったということが間違いなくあって、それはコロナとは関係のないことですけど、それでもこのコロナ禍でこれだけの数字っていうのは、アマチュアの方々を含め“笑い”というものへの飢え、『笑わせたい!』っていう強い気持ちを感じますよね。

この数字を聞いて何かしたいなぁと思っていた7月くらい、家で夜にお酒を飲みながら『情熱大陸』を観ていたんです。その回は、東京フィルハーモニー交響楽団がホールに観客を呼ぶコンサートの再開を決めた模様に密着した内容でした。その中で、『音楽を止めちゃいけない!』というような言葉が出てきたんです。

これにやられてしまいまして、パクったろと(笑)。すぐに『漫才は止まらない』って横断幕をつくろうとみんなにLINEしました」

◆決勝を席巻する“おじさんパワー”

そうして止まることなく進んできたM-1グランプリ2020。

決勝に進出したのは、アキナマヂカルラブリー見取り図錦鯉ニューヨークおいでやすこがオズワルド東京ホテイソンウエストランドの9組。ここに敗者復活の1組が加わった計10組で、12月20日(日)に漫才日本一が決まる。

今大会の決勝メンバーの特徴のひとつが、“おじさんパワー”だ。

コンビ結成は2012年でありながらそれぞれ芸歴が長く、2人ともに40代である錦鯉。同じく40代のピン芸人同士が組み、ユニットとして初の決勝進出という快挙を成し遂げたおいでやすこが。

この2組の決勝進出は、お笑いファンを大いに驚かせた。

錦鯉:長谷川雅紀(左)と渡辺隆(右)

田中プロデューサーは、どんな感想を抱いたのか。

田中P:「錦鯉のボケの長谷川さんは49歳ですからね。いやぁ、すごい。でも、準決勝を見ていた印象としては、錦鯉もおいでやすこがも、もう通らざるをえないという納得の感じでした。どうしようもなくウケがすごくて、僕自身は2組とも涙を流して笑いましたね。観客席も“うねってる”感じがあって、そりゃ通るやろうなって」

さらに、こう続ける。

田中P:「錦鯉に関しては、数年前からいつでも決勝にいけると言われていました。芸歴は長いのでもちろん実力はあって、ずっと“いつ決勝いくねん!”って感じだったんですけど、毎回準決勝で力を発揮できてなかった。今年はついに、そこを凌駕してくれました。

おいでやすこがも、おいでやす小田とこがけん、それぞれピン芸人としてすごく実力がある。まさに奇跡の2人が出会って起こった奇跡の決勝進出みたいに感じられるけど、じつは去年もM-1に参戦していて、結成2年目なんですよね。

これまで、フットボールアワーをはじめ結成2年目で決勝まで進んだ漫才師はふつうにいます。だから、ちゃんと漫才に取り組んでいた実力者がちゃんと決勝にいったということでもあると思うんです。錦鯉もおいでやすこがも、年齢(芸歴)をかさねて得た身に染みた実力があり、それがようやく世に出る。がんばってほしいですね」

おいでやすこが:こがけん(左)とおいでやす小田(右)

ちなみに、この2組の優勝に期待を寄せる芸人は少なくないようだ。

田中P:「最近いろんな芸人さんに話を聞くと、この2組を優勝候補に推す人が結構いて、特に錦鯉のボケの長谷川さんについては、『こんな大変な世の中に、あんなアホみたいな49歳のおじさんが出て来る。つるっぱげで、なぜか白い服を着て。もう、それだけで笑えるじゃないですか。時代が、世の中がそういう笑いを待っているとしたら、とんでもないことになりますよと』と言っている芸人がいました(笑)。可能性は、めちゃくちゃありますよね」

◆「何気ない顔をしながら漫才をする芸人の姿」を見てほしい

また、今回の決勝メンバーの特徴として、東の漫才師が多いということも挙げられる。9組中、マヂカルラブリー、錦鯉、ニューヨーク、オズワルド、東京ホテイソン、ウエストランドの6組が東の漫才師だ。

東京ホテイソン:たける(左)とショーゴ(右)

このうち、最年少となるのが東京ホテイソン。備中神楽をつかったフレーズが代名詞であるツッコミのたける(25歳)は、自身の父親が錦鯉・長谷川と同じ年齢だと決勝の会見で明かし、会場を驚かせていた。

田中プロデューサーは、東京ホテイソンについて次のように話す。

田中P:「ずっと、陰ながら応援してたんですよ。僕はひとりのスタッフとして、東の漫才師にがんばってほしいなという思いがある。圧倒的に西の漫才師の優勝が多いなかで、じゃあ東から誰がいけるかって考えたときに、東京ホテイソンがあるなと。勝手に“強化選手”って呼んでね(笑)。元のカタチからどんどん2人で漫才を進化させていって、いま、行き着くところまでいってる感じがしますね」

ここまでピックアップした3組以外の6組にも、三度目の正直であったり、審査員と“因縁”があったりと、どの組にもお笑いファンなら注目のストーリーがある今回のM-1グランプリ。

田中プロデューサーは、優勝候補については「ほんとわかんないですね、今年は……」と悩みながらも、チーフプロデューサーとしてどんな大会になることを期待しているか尋ねると、「無事に終わって欲しい。みんな無事に当日を迎えて欲しいですね」ときっぱり一言。コロナ禍ならではの切実な思いがそこにはある。

そんななか、注目してほしいポイントについて聞いたところ、やはり“芸人愛”あふれる答えが返ってきた。最後に紹介したい。

田中P:「こないだ、M-1の事前番組の収録の中でフットボールアワーの後藤さんがすごくかっこいいことを言ってたんです。“何気ない顔をしながら漫才をする芸人の姿を見てほしい”って。どれだけ大爆笑が起きていても、間も乱れることなくいつも通りやる姿。それを見ると、そこに至るまでの蓄積、そこに至るまでの1年が見えると言っていました。

この1年、みんななかなかライブが出来なかった。それでも1年間必死にやってきて、決勝の舞台、きっと彼らは何事もないように普通に漫才をやるでしょう。当日、そんな姿を見せてくれると思うだけで、もう泣けてきますね……。今年もたぶん、泣いてしまうんだろうなぁ(笑)」

ちなみに、今回の「M-1グランプリ2020」の放送では、“ステージに向かう漫才師たちの姿”も見どころになるという。

田中P:「これまではステージの袖を決勝進出者たちのスタンバイエリアにしていたんですけど、今年はそれができないので、スタジオを出てすぐの大きな部屋をスタンバイルームにします。スタジオまでストロークがあるので、“選手入場”のようにステージへと向かう姿が見られると思います。その背中をぜひ見ていただきたいですね」

番組情報:『M-1グランプリ2020』【決勝】
2020年12月20日(日)午後6:34~午後10:10、ABCテレビ・テレビ朝日系24局

番組情報:『M-1グランプリ2020』【敗者復活戦】
2020年12月20日(日)午後2:55~午後5:25、ABCテレビ・テレビ朝日系24局(※一部地域除く)

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