「デジタルで民主主義深める」「全ての人がマイノリティ」“分断”進む世界でオードリー・タンが見る“前向きな未来”

公開: 更新: テレ朝POST

テレビ朝日が“withコロナ時代”に全社を挙げて取り組む初の試み『未来をここからプロジェクト』

本プロジェクトの先陣を切る『報道ステーション』では、10月26日(月)~30日(金)の5日間にわたり、「未来への入り口」というコンセプトのもと、多岐にわたる分野で時代の最先端を走る「人」を特集する新企画『未来を人から』を展開。

第1回に登場したのは、台湾のデジタル担当閣僚・オードリー・タン(唐鳳)氏だ

幼少期からプログラミングを独学し、20代の若さで米Appleや台湾BenQの顧問を歴任。35歳で史上最年少でデジタル担当閣僚に就任し、今年で4年目を迎える。

米外交政策専門誌『フォーリンポリシー』で「世界の頭脳100人」に選出され、コロナ禍ではテクノロジーを駆使して、わずか3日間でマスクの供給システムを構築したことで世界から注目を浴びるなど、台湾では「ITの神」との異名を持つ。

また自身がトランスジェンダーであると公表し、マイノリティが生きやすい社会構築を模索する彼女は、どのような未来を見ているのか。「デジタル化」によって社会がどのような変化を遂げていくのかについて話を聞いた。

ここでは、YouTubeに入りきらなかった部分も含めて未公開インタビュー部分を公開する。

※プロフィール:台湾デジタル担当政務委員 オードリー・タン(唐鳳)
8歳からプログラミングの独学を始め、14歳で中学を中退。15歳で起業、検索アシストソフトを開発した後にシリコンバレーへ渡る。プログラミング言語「Perl」開発への貢献で天才プログラマーと注目を浴び、Appleなど顧問を歴任。33歳でビジネス現場から引退を宣言して、2014年の「ヒマワリ学生運動」をきっかけに公共問題に興味を持ち、2016年に35歳でデジタル担当閣僚に就任。

――本日はよろしくお願いします。

こんにちは、オードリー・タンです。デジタル担当閣僚として、ソーシャルイノベーションとオープンガバメントを担当しています。

――まずはじめに、日本の好きなところを教えてください。

日本はとても未来的な国だというイメージを抱いています。実際、日本は台湾より1時間先の未来に存在していますよね(時差が1時間あるため)。

「インダストリー4.0」(IoT技術を活用した、製造業における効率的なオートメーション化)だけでなく、「ソサエティ5.0」(IoTやAIを活用し、仮想空間と現実空間を融合させることで社会課題を解決する)にも新しいテクノロジーを組み込んでいるという印象です。

――では、日本にはない台湾の良いところとは?

台湾には20の母国語があり(※)、我々は異文化が共生する共和国の市民です。私たちは、民主主義を誰もが変化を起こすことが可能な“テクノロジー=仕組み”のひとつだとみなしています。また、多数の文化が存在するため、ひとつの民主主義の形式ではなく、文化の垣根を超えた方法で取り組んでいる部分だと思います。

※:漢民族の4言語である中国語、台湾語、客家(閩南)語、馬祖(福州)に加え、16の原住民族が存在すると政府が認定しているため、20の母国語と説明している。
参照:公益財団法人 日本台湾交流会公式サイト
https://www.koryu.or.jp/about/taipei/staffblog/?bid=11&dispmid=6697&bkid=2197

――オードリーさんが考える“デジタル民主主義”とは、どのようなものでしょうか?

ITが機械と機械をつなげる技術であるなら、“デジタル”は人と人をつなげる技術です。ラジオやテレビが中心のアナログ時代には、少ない人数が数百万人に向かって話をすることができましたが、その逆に数百万人の声を聞く方法はありませんでした。

“デジタル”を活用したインターネットを通すことで、数百万人の声を聞くことができるうえ、その人々がお互いの声を聞くことも可能その構造が民主主義を深めることに繋がります

――デジタルを活用し、民主主義を深めることが必要な理由を教えてください。

人々のコミュニケーション方法が変わりつつあるためです。

現在のシステムにおいて、4年に一度の総統選挙ごとに、市民がひとりあたり3ビットの情報をアップロードーーこれは「投票」を意味ーーしますが、これでは共通政策の決定や、間違ったコードを修正するにあたっては、情報量がまったく足りていません。

現代では、たった今この取材をおこなっているのと同様に、誰もがほぼ毎日メガバイトからギガバイトの情報交換をしています。この変化に合わせて、民主主義も情報量を増やす必要がある。その変化が起こせないのであれば、市民は民主主義を自分とは無関係だと感じてしまうことでしょう。

現在の民主主義の形式は、紙の投票用紙や電話によるコミュニケーションが最も効率的であった時代につくられたものですこのテクノロジー自体は素晴らしいものですが、大勢の人々の声を聞くことには適していません

――オードリーさんはSNSで市民と対話をされていますが、この取り組みはデジタルを活用した民主主義を深めるアクションの一部なのでしょうか?

もちろんです。台湾では、ただ単にメディアを視聴、読解する能力である「メディア・リテラシー」と、誰もがメディアやジャーナリズムをプロデュースする能力を意味する「メディア・コンピテンス」という言葉を明確に区別しています。

例えば、あなたたちはこの会話を撮影していますが、我々も自分たちのスタジオで撮影してYouTubeに配信しています。台湾では、誰もがメディアのプロデューサーたりえるのです。

◆高齢者にテクノロジーへの適応を求めてはいけない

――Brexit(イギリスのEU離脱)やアメリカ大統領選例に見ると、市民が意思決定に関わる国民投票がかえって分断を生む場合もあると思いますが、いかがでしょうか?

台湾にも国民投票があり、2年ごとに投票をおこないます。ある年に選挙があれば、その翌年は国民投票、さらにその翌年には選挙がある。どの投票の結果でも2年が経過すれば、前回の投票で決定した事項であっても、自由に議論をすることが可能です。

例えば、「婚姻平等法案」では、同性カップル同士の結婚は認めるが、両家の結婚は認めない。これが以前の国民投票の結果でしたが、そこから2年経ち、この法案を継続案件として再開することもできます。

――日本では政策決定に時間がかかるケースが多いのですが、台湾でも再度の議論に2年が必要となると、日本と同じようにスピード感が失われることはないのでしょうか?

そうは思いません。もちろん、社会に共通する価値観の決定や、新たな問題に対して意見が二極化している場合は時間がかかります。しかし、多くの人が同意する案件に関しては、素早く法制化することが可能です。

――民主主義を深める過程においてはデジタル化が重要でとのことで、日本でもコロナ禍において、社会のデジタル化が課題となっていますが、高齢者が取り残されてしまうという問題が起こっています。この部分について、どうお考えですか?

高齢者たちは社会の中で最も知恵を持つ人々ですただテクノロジーへの適応を求めるのではなく、彼らがアクセス可能な方法でテクノロジーを提供する必要があります

台湾におけるコロナ禍のマスク配布を例に挙げると、6000軒以上の薬局が付近の住民たちからの信頼を得ていたので、そのデータを活用しました。

高齢者は持病を抱えているケースが多く、薬局の処方箋には馴染みがあります。その処方箋のデータを活用することで、まずは最もダメージを受けやすい人々がアクセスできるようにした後で、アプリケーションの整備へ移行しました。

このように、システムへの参加方法をしっかりと設計すれば、デジタルギャップは発生しないと思います。

◆拡張現実のコミュニケーションで人々の結束が高まる

――デジタル技術が人々の生活に役立つ一方で、デマやフェイクニュースが横行するなど、人々の自由を阻害する側面もあると思いますが、いかがでしょうか?

かつては思想や意見、情報を共有するためには、相手に直接会って話す必要がありました。しかし現代では、昔に比べてはるかに速いスピードで情報が拡散します。そして科学で裏付けられた情報に比べて、激しい憤りが極めて速く出回ってしまうことが懸念されています。

しかしながら、激しい憤りのすべてが悪いわけではありませんこの感情を復讐や差別といった方向に向かわせてしまうと問題ですが、共創の精神に向かえば、社会を成長させることが可能です

つまり、「どのように激しい憤りを制限するのか」ではなく、「憤りを抱える人々は、どうすれば共創に喜びを感じられるようになるのか」という問題設定が必要なのです。

――コロナ禍で物理的に世界が分断されつつある今、オードリーさんはデジタルという分野において、どのような役割を果たしていきたいと思っていますか?

デジタル空間において、我々は物理的な距離を感じません。ウイルスのパンデミックは私たちを家族や友人から隔離していますが、インターネット上ではこの取材のように、会話が可能です。実際、この会話をしていてもお互いを身近に感じますよね。

コロナ禍の現状において、インターネットの光の速さは世界中の人々をつなげており、人々は世界全体を“共通の課題に取り組む共通のコミュニティ”として感じているはずですこれは、かつてなかった出来事です

ポストコロナ時代には、さきほど言及されていたデマやフェイクニュースの危機に加えて気候変動などグローバルな問題に対しても、みんなで立ち向かうことが可能になるでしょう。

――世界共通の課題に対して、その解決方法は国や文化によって違いがあると思います。デジタルという分野は、その過程においてどのように役立ちますか?

過去には外交関係を築く際に、外交官が国民の代表となってコミュニケーションをとっていました。しかし近年では、外交ルートを使わずとも、人々が一緒に問題に取り組むことが可能です。

台湾では多くの人が「g0v(ゴブゼロ)」(台湾のシビックテックの団体)のムーブメントにおいて、まずは日本の人々とともに東京都の新型コロナウイルス感染症サイトのダッシュボード作成に取り組み、今では他の都市でも活動しています。

このサイトはソフトウェア開発のプラットフォーム「GitHub」でソースコードが公開されていたので、私も簡単なスペルチェックなどで貢献をしました。このようなかたちで、外交官が承認するかどうかを心配することなく人々の絆を深めることが可能であり、また外交官たちも事後に承認することができるのです

――オンラインのコミュニケーションが当たり前となったことで、社会のデジタル化が私たちの未来をどのように変えると思いますか?

以前に比べて共存感覚が強くなると思います。例えば今あなたが質問をする際に、私が話を聞きながらうなずく姿を見ることで、ジェスチャーでリアルタイムに反応していることを感じ取れますよね。

例えば私は5G対応のVRヘッドセット「XRSPACE」を常に使っていますが、この拡張現実のテクノロジーによって、コミュニケーション相手が遠方にいる場合でも、共通のバーチャル空間に存在することができる。こういった体験により、世界中でコミュニケーションが強化され、結束力も高まっています。

◆「すべての人がマイノリティである」という考えが重要

――共存感覚が強くなるとのことですが、多様性に対する意識はどのように変化していきますか?

2通りの方法で変化すると思います。

まずひとつめは、人々がより共感しあえるようになるでしょう。4年前に初めてVRでインタビューを受けた際、相手は小中学生だったのですが、私はアバターを彼らと同じ身長にしました。彼らは馴染みのある場所で、私を見上げることなく同じ目線で会話ができた。私は文字通り、“彼らの立場になって考えてみた”のです。

2つめの変化は、場所の制限がなくなること。現在私たちはお互いにスタジオにいるわけですが、これは光ファイバーの接続が必要なためです。5Gのテクノロジーを使えばお互いが屋外にいても会話をすることが可能で、次回のインタビューでは、もしかするとお互いの居場所が山や海岸にいながら実施できる可能性もあるのです。

――多様性への意識のなかで、性的マイノリティーという分野で変化は起こりますか?

これまでに比べて、「すべての人がマイノリティである」という“インターセクショナリティ”という考え方が広がっていくのではないかと思います

自分をマイノリティだと感じる人々が、オンライン上で自分をサポートしてくれる人と出会い、同様の体験を共有することができます。私自身も、インターネットを通してより多くの人々に共感できるようになりました。

またこの“インターセクショナリティ”の精神によって、ある環境ではマジョリティである人々でも、マイノリティを支持するようになり、その経験がその人自身にとって名誉になり利点になります。

――社会のデジタル化が進むなかで、テクノロジーは人間の死生観にも影響を及ぼすのでしょうか?

この質問には2通りの答えがあります。

まずいえるのは、デジタル世界においては複製が可能なため、一種の“不死”あるいは“永遠の命”をつくりだすことが可能です。あなたの人生、あるいはその一部を公開すれば、それは永遠に存在し続ける。

しかし、2つめの答えとしては、複製された“不死”は他者から解釈され、再構築される場合があります。この場合、あなたの“永遠の命”は後世の人々が使えるクリエイティブな素材であり、人類の文明を“不滅”へと導くための素材となる。つまり、デジタルテクノロジーは個々人の生命ではなく、文化の永続性に寄与するといえるでしょう

――文化の永続性という部分について、これはアナログな時代から現代までずっと続いていることですよね?

もちろんつながっていますが、テクノロジーの進化によって情報量が増加しています。

かつて岩を彫って石版をつくり、竹に文字を書き、やがて紙が開発された。これらも文明を築く素材でしたが、現代のテクノロジーではデジタル世界で“デジタルツイン”を所有し続けることが可能で、前時代に比較して、はるかに多くの情報を記録することができるのです

ちなみに、「易経(えききょう:古代中国で書かれたとされる東洋最古の書物)」のシンボルを彫れば、それは既にデジタルを意味します。正確に言うと、二次元ではありますが。

◆人々をメディアの“消費者”と考えてはいけない

――オードリーさんから見える、台湾の未来とはどのような状況でしょうか?

台湾では、ユーラシアプレートとフィリピン海プレートが常にぶつかり合うため、地震が多いんですね。そのため建物は、ボートのように揺れてショックを逃がす構造になっており、地震があっても持ちこたえるように設計されています。

私たち台湾市民の考え方や発想も同様に、独裁主義と「サーベイランス・キャピタリズム(監視資本主義)」の間で、いかにどちらにも傾かずにいられるのか。

台湾の未来は、例えるなら国で最も標高が高い玉山のようなものですこの山は地震の影響で毎年2.5cmずつ高くなっている右翼でも、左翼でもなく、上翼に進んでいるのですこれが台湾の未来です

――社会のデジタル化が進んだことで、分断も起こっています。これは、根拠のある情報ではなく、それぞれが信じたいことだけを見ていることに起因すると思うのですが、いかがでしょうか?

私はそうだとは思いません。近年、人々がメディアをただ単に見ていると考えるのなら、それは「メディア・リテラシー」の枠で認識していることが原因です。台湾では、昨年始まった「K2タフカリキュラム」でもその用語を使用することはありません。

人々をメディアの“消費者“という型にはめてしまうため、そのような質問をすることになってしまうのです。前述したとおり、人々をメディアや物語をプロデュースする能力のあるエージェンシーだと考えれば、「彼らがどのように物事を見るのか」ではなく、「彼らがどんな物語を語るのか」という問いになるはずです。

――SNSの閲覧に制限をかける動きについては、どのように思われますか?

SNSはその存在が反社会的ではなく、社会的に意義があると示さなければなりません。

あらゆるコミュニティにおいて、インターネットが反社会的な行動ばかりを促進してしまうのであれば、社会にとってマイナスなものだと捉えられてしまいます。その逆に、人々がインターネットに触れることで社会性が高まるのであれば、社会に貢献する存在だと見てもらえる。

これは、起業の社会的責任のみを論点としているのではなく、企業のミッションと市場は適合しなければならないという話です。市場からの利益のみを追求して、市場の外部性を無視するのではなく、SNSはミッションの一環として社会的価値をつくり出すことと、市場とともに活動することの2軸を両立させる必要があると考えます

――インタビュー冒頭で、オードリーさんは「日本が最先端の国に感じる」と話していたが、日本からは台湾の方こそが最先端に感じます。コロナ禍でもデジタル化が遅々として進まない課題を痛感しているなか、日本の首相は行政のデジタル化を看板政策に掲げているが、我々に対してなにかアドバイスはありますか?

ひとつあります。この4年間、私たちは「DIGI+」プラン(※)を進めてきました。これは、ただ単に既存のプロセス内でデジタル化を進める「デジタイゼーション」ではなく、デジタル化によって既存の仕組みを変革する「デジタライゼーション」を意味します。

そしてこのプランでは、インクルージョンとイノベーション、ガバナンスの3点をしっかり考える必要があります

※:2016年に閣議決定された、デジタル国家・イノベーション経済発展計画、略称「DIGI+2025」。2025年までに国のデジタル経済規模を6.5兆台湾元(約23兆日本円)に成長、国民のデジタル生活のサービス普及率を80%に引き上げ、ブロードバンドサービスの帯域を2Gbpsにする、すべての国民に通信速度25Mbpsのインターネットを利用できるという基本的権利を保障、台湾のICT世界ランキングを10位以内に引き上げなどが目標に盛り込まれている。
参照:https://www.roc-taiwan.org/jp_ja/post/41809.html

まず「インクルージョン=包括」について、もし既存のプロセス内のみでデジタル化を進めるデジタイゼーションをおこなってしまった場合、その仕組にアクセスできない人々を置いてけぼりにしてしまう危険性がありますので、注意が必要です。

次にイノベーションについて。デジタライゼーションにあたって、変革を政府のみの問題として扱ってしまうと在野のイノベーターを排除してしまう危険性があるので、様々な立場の人とともに、より良い新しい社会組織を考える必要があります。

最後にガバナンスについては、複数の利害関係者が存在する共同ガバナンスのモデルを採用する場合、監視資本主義や独裁主義の省庁に権力を集中させることなく、各セクターが仕事をできる。中央集権的なモデルになってしまうと、デジタライゼーションはうまくいきません

◆台湾で最も社会的意識が高い年齢層は15歳と65歳

――日本は世界有数の超高齢社会です。高齢者にもアクセス可能な方法でテクノロジーを提供する必要があるというお話でしたが、その過程で大切なことはなんでしょうか?

最も必要な発想は、世代間の結束です。ソーシャルセクターの参加型プラットフォームである「https://join.gov.tw/」において、最もアクティブな年代は15歳前後と65歳前後です。これは偶然ではなく、この年齢層の人々は比較的に時間的余裕があり、世代間のサステナビリティに対する意識が高い。このように若年層と高齢層を結びつけることが最も重要な部分です。

――日本はデジタル化のみならず、民主主義の成熟度でも劣っているように感じます。例えば投票率も低いです。このような状況の日本に対して、なにかアドバイスはありますか?

民主主義とは一種のテクノロジーであり、イノベーションを導入することが可能です。投票についていえば、台湾では政府の予算やSDGsの優先度、総統選挙などさまざまな事項が、市民の投票によって決定されます。

また、スタンドボックス・アプリケーションにも投票ができます。これは各都市や地方が同意を求める投票箱です。

このように、民主主義的な要素を投票に組み込んでいけば、人々は民主主義を日々実践することができるはずです民主主義――自身の意思を反映される機会――が2年あるいは4年ごとにのみ起こると認識してしまうと、人々は関心を失ってしまいます

――2年から4年に一度の選挙ではスピード感が失われる?

いいえ、投票をもっと楽しいものにして、日常生活のなかに当たり前に存在させるのです。

総選挙を24時間ごとにやろうと言っているのではなく、より民主主義的な要素を入れることが必要です。例えば台湾のPresidential Hackathonでは、新しい投票方式「クアドラティックボーティング」で、どの政策にシナジーがあるのか、または優先されるべきなのかを決定しています。

――我々の感覚では、国民投票により分断が起きているように感じてしまいます。これはなぜでしょうか?

なんらかの決定がなされる際に会話に入れなかった人たちは、自分が疎外されたと感じるでしょうそうならないためにまずは考えるべきことは、多くの人に共通する考えや気持ち、体験を含む価値観の共有です

デザイン思考方法の「ダブルダイヤモンド」モデルーー前半のひとつめのダイヤモンドで課題を発見、理解して、後半のダイヤモンドで解決策の作成と提示をする考え方――で考えるならば、ひとつめのダイヤモンドである最初のディスカバリーのパートでは、共通する価値観を定義します。

立場やイデオロギーが違うとしても、社会に共通する価値観を見つけて共有することで、社会が成熟し、結束力が生まれるのです。ここでは、先程も言及したインクルージョンやサステナビリティが重要になります。

――分断を生んでいる高く厚い壁の向こう側に、どのように呼びかけたらよいのでしょうか?

まず重要なのは市民を信頼することです政府が市民を信頼すれば、市民も政府を信頼できるこれをピグマリオン効果と呼びますもし政府が市民を恐れて壁をつくって距離をとってしまえば、政府だけでなく市民同士すらも信頼できなくなってしまう

どちらかが独りよがりになってしまうと、片方が民主化を進め、もう片方がより高い壁をつくることで独裁主義や全体主義に陥ってしまう危険性があります。

――日本には「オードリーさんに日本のデジタル大臣になってほしい」と考える人がたくさんいますが、いかがでしょうか?

以前確認したことがあるのですが、現在の法律では二重国籍を保有してそれぞれの国で内閣の閣僚を務めることはできません。ですが、喜んで情報共有をしていきたいと思いますし、まもなく発足するデジタル庁とは緊密に協力していきたいと思っています。

――ありがとうございます。最後に、オードリーさんが好きな詩の一節を教えていただけますか?

もちろんです。どのくらいの時間がありますか? 何分? 何秒? コンマ何秒?

――では数行でお願いします。

わかりました。

「(施政者が)信頼を与えなければ(市民からの)信頼を得られない。だから理想的な君主は悠然としてめったに口を挟まず、人々が力を併せて事業を為す様にさせて、民衆が『我々の力で国が良くなった』と自らを誇れる様にするのだ」

老子「道徳経」17章の後半です。

ありがとうございました。長寿と繁栄を!

<構成:森ユースケ>

※番組情報:『未来をここからプロジェクト

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