古田敦也「最初の2、3歩が速い」陸上部→社会人クラブ経由、“異色の韋駄天”・和田康士朗のすごさ

公開: 更新: テレ朝POST

現在、パ・リーグで首位争いを繰り広げる千葉ロッテマリーンズには、次世代を担う若手が数多く存在する。

今シーズン4番にも抜擢された安田尚憲。甲子園での優勝経験をもつ藤原恭大。高校生史上最速163kmをたたき出した佐々木朗希

しかし、今ロッテでもっとも輝いている男は高校時代、野球部ではなく陸上部出身だった。

和田康士朗(21歳)。50メートル5秒8の俊足で、パ・リーグ盗塁王トップを争う活躍を見せている。

9月6日(日)深夜に放送したテレビ朝日のスポーツ情報番組『GET SPORTS』では、“異色の韋駄天”に迫った。

◆陸上部出身社会人クラブ経由「異色の経歴」

開幕直前。育成選手だった和田は、プロ3年目にして支配下に登録されていた。

ほどなくしてはじまったシーズンを1軍で迎えると、6月19日(金)の開幕戦(対ソフトバンク)に代走として初出場。プロ初盗塁は日本を代表する強肩捕手、甲斐拓也から決めてみせた。

その後も足で存在感を示していく。スタートを遅らせて相手の意表を突く“ディレードスチール”を決めるなど、現在盗塁数はリーグトップを争うほど。

なかでも和田を一躍有名にしたのが、8月19日(水)のソフトバンク戦。

1回、和田は四球で出塁すると、センターへのヒットの間に3塁も回って一気にホームへ。なんと、シングルヒットで1塁からホームインする韋駄天ぶりを見せつけたのだ

ヒーローインタビューで「自分が一番求められているのは足だと思うので、いい場面でいい走塁ができるようにがんばりたいです」と話していた和田。

この驚異的な“足”が脚光を浴びるまでの道のりは、ほかのプロ野球選手と比較すると、明らかに「異色」だった。

野球をはじめたのは小学4年。当時から足の速さは断トツで、和田を指導していた久保監督は「盗塁はほかの選手と比べる数字ではないぐらいでした」と話す。

卒業までの3年間、積み重ねた盗塁の数は実に194。中学でも野球部に入り、プロの世界を夢見ていた。

ところがその後、壁にぶつかる。

「中学2年生のときに怪我をして中学3年生のときにスランプに陥ってしまい、野球はもうやめようと決意しました」(和田)

中学卒業と同時に野球を辞め、高校では陸上部に所属。天性の脚力ですぐに頭角を現した。

そんな和田にある日、転機が訪れる。

高校1年生の夏の埼玉大会で、同級生の友達がベンチに入っていて。テレビで見て、それでもう一度野球をやりたいと思いました」(和田)

友人の姿に感化され、野球への思いが再燃。陸上部を辞め、地元の社会人クラブチームで再び夢を追いかけることに。

和田の父・守雄さんは、当時をこう振り返る。

『野球をやりたい』って言いだしたんですが、普通は『高校で』という話ですけど、『高校ではやりたくない。レベルが高いところでやりたい』と言っていましたね

高校の野球部で甲子園を目指すわけではなく、よりレベルの高い社会人野球で腕を磨く日々。クラブの大会で優勝するなど結果も残した。

その後、BCリーグのトライアウトを受験。高校卒業後は、富山GRNサンダーバーズへ入団する。当時、富山の監督を務めていた吉岡氏は、和田をはじめて見たときこんな印象を抱いた。

「まだ17歳だったので、これはおもしろいなと。足のタイムを見たら速いなと。2、3年後にプロのスカウトに見てもらえるような魅力を非常に感じました」

プロを目指す若者が集うなかでも、その才能は光っていたという。

当時の和田を取材した貴重な映像が残っている。富山では家賃9800円の市営住宅でひとり暮らし。はじめて埼玉の親元を離れ、不慣れな家事もこなしていた。

「ひとり暮らしで誰も助けてくれない環境で、ひとりでこなしていくのがどれだけ大変かわかりました」という言葉を残していた和田。

月給は手取りで10万円以下。ハングリーな環境に身を置き、ただひたすら野球に打ち込んだ。すると驚くべき速度で成長し、レギュラーをつかみ取ると、わずか1年でドラフト候補と呼ばれるようになった。

迎えたドラフト会議。和田は見事、ロッテの育成ドラフト1位で指名され、入団会見では力強くこう語った。

「育成はまだまだということなので、自分の魅力である足を生かして、支配下登録を勝ち取って、いつかは1軍で活躍できる選手になりたいと思います」

こうした異色の経歴を経て夢であるプロの舞台へとたどり着き、3年目の今シーズンは主に代走で出場。盗塁数でパ・リーグのトップ争いを演じている。

テレビ朝日野球解説・古田敦也はその理由について、「スタートするときの最初の2、3歩が速いんです。キャッチャーから見るとスタートが速いランナーと徐々に速くなっていくランナーでは、スタートが速いランナーの方がキャッチャーは焦るんです」と語る。

和田はスタートを切った際の最初の数歩が速いため、キャッチャーが焦って送球が逸れることが多くなり、盗塁の成功率が上がっているという。

この絶賛されたスタートについて、和田は「陸上部のときに、そういうスタートを練習していたので、それが活きているのかなと思います」と振り返る。

高校時代に陸上部で練習したスタートが、盗塁にも活かされているという。

スタート直後はやはり、低い姿勢は意識しています。スタートしたときはずっと下を向いて、ピッチャーの投げたボールをバッターが打ったかどうか1度見る程度で、それまではずっと下を向いています」(和田)

陸上部仕込みの低い姿勢でスタートし、打者を見るまではずっと下を向いて走る。こうすることで最初の数歩が速くなり、盗塁成功へ結びつくのだ。

そんな高い盗塁技術をもつ和田を、古田はこう評した。

「パ・リーグではソフトバンクの周東、西武の金子、日本ハムの西川の3人が足が速い。そこに和田は入ってきたと思います。日本を代表する選手になれると思いますよ

8月16日(日)。

和田は1番・センターで初のスタメン出場を勝ち取ると、1打席目の初球でプロ初ヒットを記録。さらに、初球ですかさず得意の盗塁。この試合、3安打の猛打賞に加え、3盗塁の大活躍。そして初のお立ち台と、まさに初物づくしの日となった。

着実に成長を続ける韋駄天、今見据えるのは…。

代走ではなくスタメンで出続けて、盗塁だけでなくホームランも打ちたいと思っています。ホームランを打ってゆっくりダイアモンドを駆け抜けたいですね

番組情報:『GET SPORTS

毎週日曜日夜25時30分より放送中、テレビ朝日系(※一部地域を除く)

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