WRCトルコ優勝と、ル・マン24時間3連覇。トヨタ豊田章男氏コメント「“もっといいクルマづくりの戦い”を」

公開: 更新: テレ朝POST

第5戦「ラリー・トルコ」の週末は、WRC(世界ラリー選手権)だけではなくフランスの地でWEC(世界耐久選手権)のル・マン24時間レースも開催されており、どちらにも参戦しているトヨタにとって特別な週末となった。

©TOYOTA GAZOO Racing

まずラリー・トルコは、次々とアクシデントが発生する波乱のサバイバルラリーに。

それこそ、現在のWRC開催地でもっとも悪路として名高いラリー・トルコの異名をさらに高めたことだろう。

そんなラリー・トルコ上位の最終結果は以下の通り。

1位:エルフィン・エバンス(トヨタ)
2位:ティエリー・ヌービル(ヒュンダイ)/1位から35秒2遅れ
3位:セバスチャン・ローブ(ヒュンダイ)/同59秒4遅れ
4位:カッレ・ロバンペラ(トヨタ)/同2分35秒9遅れ
5位:ガス・グリーンスミス(Mスポーツ)/同4分8秒3遅れ
6位:エサペッカ・ラッピ(Mスポーツ)/同5分36秒2遅れ

7位以下はWRC3クラスとWRC2クラスという格下マシンがずらりと並び、いかに今回が厳しいサバイバルラリーだったかを物語っている。

©TOYOTA GAZOO Racing

今回のラリー・トルコ、RC1クラスと言われるトヨタ、ヒュンダイ、Mスポーツ・フォードが参加する最高位クラスのマシンたちがとことん苦しめられたのが、悪路によるパンクとメカニカルトラブルだ。

土曜日朝一番のSS3。この洗礼を最初に受けたのは、前戦のラリー・エストニアで見事な母国勝利を挙げたヒュンダイのオット・タナックだ。

マシンは荒れたグラベル(未舗装路)のストレートを走行中、コースの左側に吸い込まれるように突っ込み破損し、デイリタイアを選択。このアクシデント直前、タナックはマシンのステアリングを大きく右に切っており、ステアリング周りが原因のメカニカルトラブルによるリタイアだった。

◆悪路が牙をむいた日曜日

©WRC

そしてラリー・トルコの悪路が牙をむいたのが、日曜日朝一番のSS9だ。

ここの悪路はTV画面を通じてもハッキリわかるほどで、大きな石や岩と呼べるものがゴロゴロと路面中にあるほど酷く、Mスポーツ・フォードのエサペッカ・ラッピを筆頭に、トヨタのカッレ・ロバンペラ、セバスチャン・オジェ、ヒュンダイのティエリー・ヌービル、セバスチャン・ローブと、上位ドライバーたちのマシンが次々とパンクしていき、大きく順位を変動させていった。

さらにMスポーツのティーム・スンニネンは、この悪路でマシンのメカニカルトラブルが発生して無念のリタイアを選択することに。

タイヤ交換に手慣れたWRCドライバーでも、交換作業には1~2分前後掛かる。このタイヤ交換の早さも順位変動に影響した。

土曜日最後のSS8を終えた時点での上位陣は、

1位:ヌービル(ヒュンダイ)
2位:ローブ(ヒュンダイ/1位から33秒2遅れ
3位:オジェ(トヨタ/同33秒2遅れ)
4位:エバンス(トヨタ/同1分0秒8遅れ)
5位:ロバンペラ(トヨタ/同1分18秒8遅れ)
6位:スンニネン(Mスポーツ/同1分35秒0遅れ)
7位:ラッピ(Mスポーツ/同2分28秒0遅れ)
8位:グリーンスミス(Mスポーツ/同3分15秒4遅れ)

だったものが、日曜日最初のSS9終了時には、

1位:エバンス(トヨタ)
2位:オジェ(トヨタ/1位から46秒9遅れ)
3位:ヌービル(ヒュンダイ/同47秒7遅れ)
4位:ローブ(ヒュンダイ/同52秒4遅れ)
5位:ロバンペラ(トヨタ/同2分12秒1遅れ)
6位:グリーンスミス(Mスポーツ/同2分56秒6遅れ)
7位:ラッピ(Mスポーツ/同3分41秒0遅れ)

そして、スンニネン(Mスポーツ)のリタイアとなった。このとき、前日のSS3でデイリタイアとなったタナック(ヒュンダイ)はラリーに復帰しているが、SS9終了時は総合19位とポイント争いとは無縁で、最後のパワーステージに向けタイヤとマシンをセーブする走りを見せていた。

◆トヨタ、総合順位わずかにリードも拮抗した状態

©TOYOTA GAZOO Racing

これで波乱は最後かと思いきや、最終日はもうひとつ大きな波乱があった。SS11でのオジェ(トヨタ)のメカニカルトラブルだ。

走行中突然マシンをストップさせ一度はコース復帰したものの、マシンは本来の速さを見せることができず、そのうちボンネットから煙と一瞬の火が見え、再びマシンはスローダウン。

オジェはコース脇にマシンを止めると、苦渋のリタイアとなった。残り3戦というチャンピオンシップ争いの中でのリタイアは、あまりにも厳しい結果だったと言える。

最後のパワーステージとなるSS12。ここでチャンピオンシップ争いを生き残るために実力を出し切ったのがヌービルとタナック、そして今回が最後のWRC参加ではないかと噂される“レジェンドドライバー”ローブというヒュンダイ勢だった。

土曜日に無念のリタイアをしたタナックはSS12を2位で通過し見事4ポイントを獲得。SS11終了時点で2位につけていたヌービルはSS12を1位で通過。総合2位の18ポイントに加えてパワーステージ1位の5点を加算し、合計23ポイントを荒稼ぎした。

そして、マニュファクチュアラーズタイトルのために最後のパワーステージはゴールすることだけに集中したというローブは、SS12は5位で通過。3位表彰台と1ポイントの加算を獲得した。

SS12でゴールしたローブは、公式TVのレポーターに「これが最後のラリーですか?」と問われると、「ちょっと意味がわからない…」と笑って誤魔化していた。

一方、総合1位と4位につけていたトヨタのエバンスとロバンペラは、SS12でロバンペラが3位、エバンスが4位となり、それぞれ3ポイントと2ポイントを加算した。

ただし、総合2位を狙えたオジェがリタイアしていたため、2台のマシンを確実にゴールさせることがチームの至上命令だったこともあり、ロバンペラもエバンスも大きく余力を残したなかでのSS12走行であった。

実際、SS12ゴール後のロバンペラは、公式TVリポーターに対して「クリーンに走ったし、リスクは背負わなかったよ。もっと速く走れたけど、不確定なリスクは負えないからね」と語り、SS12の2位タナックや1位ヌービルとも互角に戦えるマシンポテンシャルがあることを伺わせた。

こうしてサバイバルラリーは終了。トヨタにとっては、勝利は嬉しいものの、オジェのリタイアという厳しい一面もあった。

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トヨタのエバンスが今季2勝目を挙げ、チャンピオンシップ争いでもトップに躍り出る。順位は以下の通りだ。

ただし、2位から5位までも激しく争っており、残り2戦次第で大きく順位が変動しそうだ。

1位:エルフィン・エバンス/97ポイント
2位:セバスチャン・オジェ/79ポイント
3位:オット・タナック/70ポイント
4位:カッレ・ロバンペラ/70ポイント
5位:ティエリー・ヌービル/65ポイント
6位:エサペッカ・ラッピ/38ポイント
7位:ティーム・スンニネン/34ポイント
8位:クレイグ・ブリーン/25ポイント
9位:セバスチャン・ローブ/24ポイント

マニュファクチュアラーズチャンピオンシップは、トヨタが174ポイントを獲得。2位ヒュンダイが165ポイント、3位にフォードを使用するMスポーツが101ポイントとなっている。今回トヨタは37ポイント、ヒュンダイは33ポイントを稼ぎ、トヨタが僅かにリードを広げたが、いまだ拮抗した状態は続いている。

さて、今回はトヨタにとって特別な週末だったと冒頭に書いたが、それはこのラリー・トルコの勝利から約1時間15分後、もうひとつ大きなビッグニュースが飛び込んだからだ。

ル・マン24時間レースにおいて、トヨタが3年連続優勝を飾った。

©TOYOTA GAZOO Racing

また、ドライバーの中嶋一貴とセバスチャン・ブエミは、この勝利でドライバーとしても3年連続勝利を飾り、88回開催のル・マンの歴史において3連覇を飾った9人目と10人目のドライバーとなった。

このダブルの吉報にトヨタ自動車代表取締役社長の豊田章男社長も熱いコメントを寄せた。

◆豊田章男社長コメント「“もっといいクルマづくりの戦い”を」

©TOYOTA GAZOO Racing

「2020年のル・マン24時間耐久レースを勝利することができました。そして、同じ週末にWRCラリー・トルコでも勝利することができました。

ブレンドン、セバスチャン、一貴! TS050 HYBRIDで戦う最後の24時間レースで、他のどのクルマよりも長い距離を走らせてくれて本当にありがとう。

エルフィン、スコット! 厳しいトルコの道を他のどのクルマよりも速く駆け抜けてくれて本当にありがとう。

今年は、どちらの現地にも行けず、みんなと一緒に戦うことができず残念です。ル・マンのみんなとは一緒に表彰台に上がる約束を、また果たすことができませんでした。(心の中ではル・マンとトルコの両方にいき一緒に表彰台に上っていましたが…)

ル・マンもトルコも無観客でしたが、私のように中継を通じて、世界各国から多くファンがこのレースを見守ってくれていたと思います。応援いただいたファンの皆さまにも感謝申しあげます。ありがとうございました。

ル・マンは、今年で3連覇を達成することができました。多くのファンの皆様の声援、多くのスポンサーパートナー様の支え、そして多くのスタッフの努力で成し得た3連覇です。大きなトロフィーも自分たちの手にすることができて、とても嬉しく思っています。

しかし、それ以上に大きな悔しさを感じているというのが正直な気持ちでもあります。

勝利した8号車もノートラブルで走り切れた訳ではありません。レース前半にブレーキトラブルでピットインを余儀なくされ、一時は順位を落としてしまいました。

7号車のマイク、ホセ、可夢偉の3人には、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。可夢偉は『忘れ物を取りに行ってくる』と言って、この決勝に向かっていきました。ここ数年の彼のル・マンを見ていれば、そんな気持ちでいることも、よく分かります。マイクもホセも、きっと同じ気持ちだったのだろうと思います。

可夢偉は決勝前、私に『このプレッシャーを楽しんで、クルマ、メカニック、エンジニアを信じて、しっかり24時間走り抜けます』とメッセージを送ってくれました。

しかし、クルマを信じてくれていたのに、我々は彼のクルマにトラブルを発生させてしまいました。そのせいで、また彼らは忘れ物を受け取ることができませんでした。本当に申し訳なく思います。

トルコでもエンジントラブルによって上位を走っていたオジエのクルマをラリー途中で止めてしまいました。

我々トヨタは、WRCでチャンピオンを獲ったり、ル・マンでも3回勝つことができるようになりました。しかし、まだまだドライバーの気持ちに応えるクルマづくりが出来ていないことを、今回も痛感しています。

ドライバー達が不安なく、もっと気持ちよく、ゴールに向けて走っていけるクルマを作っていけるよう、我々は “もっといいクルマづくりの戦い”を、これからも続けてまいります。皆様、引き続き、応援いただければ幸いです。これからもよろしくお願いいたします」

この言葉通り、勝利してもまだ上があると、トップが「兜の緒を締めよ」という熱い姿勢を崩さない。勝負は冷静沈着でなければならないが、その内側に秘めるこの熱量こそがレースやラリーには必要不可欠だ。

2020年のWRCも残り2戦。次回は第6戦「ラリー・イタリア」だ。

ここでは日本人ドライバーの勝田貴元が参加する。ラリー・エストニアでは最終日にリタイアしてしまったものの、その速さでトップドライバーたちと互角に渡り合った。

才能の開花が確実に感じられる勝田の走りに期待したい。<文/モータージャーナリスト・田口浩次>

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