坂口拓、映画『キングダム』で圧倒的な存在感&アクションが話題に。今後は「最高級の侍映画をやりたい」

公開: 更新: テレ朝POST

2011年に撮影、77分間ワンシーンワンカットで延べ588人もの剣士と死闘を繰り広げた『狂武蔵』で、左手の指と肋骨(ろっこつ)も骨折、奥歯4本が砕け、肉体的にも精神的にもボロボロになったという坂口拓さん。

2013年に一度は俳優業を引退し、戦う者を演じる「戦劇者」として活動。自らのアクション道を追い求め、古武術を基に、肩甲骨の動きでスピードや威力を高めてゼロ距離で相手を倒すという格闘術「ゼロレンジコンバット」(零距離戦闘術)の創設者・稲川義貴さんに弟子入りしたのを機にアクション俳優に復帰。2017年、映画『RE:BORN』に主演する。

◆盟友・下村勇二監督の映画『RE:BORN』でアクション俳優に復帰

坂口さんが師と仰ぐ稲川義貴さんとの出会いは、2011年、『狂武蔵』を撮影するにあたり、本物の剣術家を探していたときだったという。

「色々な人に会いましたけど、実際に会ってみると、皆さん実際に合戦に出たことはないので、時代劇での基本の『もっと腰を落とした方がいい』と言われたりして、『実際の合戦で何人も同時に斬り込んで来るときに、毎回腰を落とすわけがない』と納得のいく結果が得られない日々が続いていたとき、紹介された方が稲川先生でした。

戦場に出た経験があって、本当に刀を振るったことがある方に会いたいと思っていたので、会った瞬間に『ああ、この人は本物だ』ってすぐわかりました。手合わせなんてする必要もなく、目を見るだけで十分でした。

それで、「『狂武蔵』で使える技を教えるので、『狂武蔵』の撮影が終わって拓さんが生きていたら、もう一回会いたいですね」って言われて。

そのときにはまだガッツリ教えてもらうという関係ではなかったので、技を三つ教えていただいて、『狂武蔵』で使わせてもらいました。それで、撮影が終わったあとで会ってという感じですね。

俺はもう俳優をやるつもりはなかったんですけど、先生の格闘術『ゼロレンジコンバット』の『ウエイブ』に惚(ほ)れて、『ウエイブ』をマスターしたら、また『RE:BORN』で映画に戻ってきたっていう感じで(笑)。先生と再会したことで、『RE:BORN』の企画が動き出しました。

『ゼロレンジコンバット』は古武術を基に、肩甲骨の動きでスピードや威力を高めてゼロ距離で相手を倒す格闘術なんですけど、いろんな格闘家の前でやって見せたら、みんなそのスピードに驚いていましたよ。

『RE:BORN』のときは実際のスピードで戦っていたので、速すぎてカメラに映ってなかったんです。それで、スピードを落として撮り直しました。

俺が演じた主人公・元傭兵の敏郎は稲川先生がモデルなんですよね。だから、先生が普段話されている言葉もセリフとして使われているし、先生が体験したエピソードも映画用にアレンジして盛り込んでいます」

-下村(勇二監督)さんから『RE:BORN』のお話が来たときにはどうだったのですか-

「勇ちゃんとはいろんなことがあって、その勇ちゃんが、『本当に俳優を辞めて引退することになったとしても、最後の1本だけ撮らせてくれよ。やろうよ』って言ってくれていたんですね。

その最後の1本をやろうというのが、『RE:BORN』だったんです。だから、それだったら、悔いなく、俺のリアリズムプラスウエイブでって思っていたので、稲川先生に戦術・戦技スーパーバイザーをお願いして、出演も承諾していただきました」

-『RE:BORN』で復帰されてから「戦劇者」TAK∴(たく)という名義にされたのは?-

「『戦劇者』というのは戦う者を演じることなんですけど、俳優さんができることには限界があります。命をかけて作品を作るという言い方がありますけど、俺は本当に命をかけているんです。

でも、俳優さんはそれをやってはいけないと思うんです。俳優さんはケガをしてはいけないので。『一緒にやろうよ』ではなくて、それは俺の仕事で、戦う者を表現するために命を削っていきたいと思っています。

ケガをしようが、骨を折ろうが、命を削り、表現するのが自分の仕事なので、『戦劇者』ということにこだわっているんです」

-アクション監督を担当する際はどのように?-

「自分のやり方とは違いますし、ケガをさせてはいけないので、俳優さんにリアリズムは求めません。

だから、自分自身がアクションをするときのやり方は自分のやり方で置いておいて、アクション監督のときは、その俳優さんのいいところ、アクションで引き出せられるような表情だったり、そういうのを出させられたらいいなあと思って演出するスタイルでやっています」

-坂口さんと同じレベルでは誰もできないですものね-

「そうです。イメージを大切にする俳優さんだったら自分がやって見せて、頭で考える俳優さんだったら理詰めで教えます」

-色々なタイプの映画に出演されていて、『デッドボール』(2011年)のようなユニークな作品もいくつかありますね-

「なつかしいですね。俺はコメディーもやりますからね。『RE:BORN』で共演したとき、斎藤工が『拓さんのアクションがすごいのはすごい。だけど、拓さんの何がすごいかって、コメディーもやるし、振り幅がすごい。まんなかがないけど、振り幅がすごい』って言っていました(笑)」

-たしかにすごい振り幅ですよね-

「そうなんです。だからYouTubeも、『狂武蔵たくちゃんねる』と『たくちゃんねるバラエティー』があるんですけど、みんな強い俺が見たいみたいで、全然バラエティちゃんねるに流れてこないですね。だから、バラエティのほうは今、求められてないんだなって感じです」

(C)2020 CRAZY SAMURAI MUSASHI Film Partners

◆映画『キングダム』で圧倒的な存在感とアクションが話題に

2019年に公開された映画『キングダム』では残虐すぎるため、将軍を解任された左慈(さじ)役を怪演。はじめて剣を振るうシーンでは、目にも留まらぬ速さで3人を斬殺。圧巻の存在感を見せつけた。

-『キングダム』の坂口さん、怖かったです-

「いやあ、左慈はいい人ですよ。すごくいい人なんです。信(山﨑賢人)に『戦場というものは、中途半端な気持ちで行っちゃだめなんだよ』ということを死んで教えてあげた、すごくいいやつだと、俺は思っています。

『キングダム』は、監督(佐藤信介)に『本当の強さを表現したい』と言われたのがうれしくて出ました」

-アクションシーンが圧巻でした。山﨑賢人さんが、『坂口さんは現代の侍』とおっしゃっていましたね-

「それはうれしいですね、本当に。賢人は、最初に会ったときの印象は男の子という感じだったんですけど、『キングダム』の撮影が進んでいくうちに、どんどん男の顔に変わっていったんですよね。俳優さんってすごいなって思いました」

山﨑さんは、坂口さんが自ら監督もつとめて9年前に撮影し、長い間日の目を見ぬまま眠っていた『狂武蔵』が世に出る立役者のひとりに。

(C)2020 CRAZY SAMURAI MUSASHI Film Partners
映画『狂武蔵』公開中
出演:TAK∴(坂口拓) 山﨑賢人 斎藤洋介 樋浦勉
監督:下村勇二
原案協力:園子温
企画・制作:WiiBER 、U’DEN FLAME WORKS、株式会社アーティット
配給:アルバトロス・フィルム

「『キングダム』のアクション監督だった勇ちゃんと『狂武蔵』の話をしたところ、賢人が自ら『出る!』って言ってくれて、すぐにマネジャーに連絡してくれました。

賢人が出るような予算の映画じゃないんですけど、彼は77分戦いきった俺に華を添えたいという気持ちで前後のシーンをやってくれたというか。賢人が熱い思いだけでやってくれたんですよね。それがやっぱりうれしかったですね」

山﨑さんにとって初の時代劇となった『狂武蔵』は、坂口さんの盟友で『キングダム』のアクション監督だった下村勇二さんが監督として、2019年に冒頭と最後のシーンを追加撮影。山﨑さんは武蔵に討たれた親友・吉岡清十郎の仇討ちに燃える武士・忠助を演じ、『キングダム』で剣を交えた山﨑さんと坂口さんが再び対峙(たいじ)する姿も話題に。

-冒頭と最後の追撮の前後が加わったことで、完全なストーリーになりましたね-

「そうですよね。おもしろいですよね。あれがないと俺が戦っているだけでしたからね(笑)」

9年前に『狂武蔵』を撮ったときには、公開するということも決まっていなかった。下村さんと10代のときに「倉田アクションクラブ」で一緒だった実業家の太田誉志さんが、SNSをきっかけに下村さんと約30年ぶりの再会をし、下村さんの、『お蔵入りになっている「狂武蔵」を公開して、呪縛(じゅばく)を解いてあげたい』という想いを聞いた太田さんが、9年前に撮影した映像素材の権利を買い取り、クラウドファンディングで公開のための資金を募り実現したという。

「正直、俺のなかでは9年前に終わっていたことでしたけど、応援してくれるみんなの熱い思いだけで、もう1回作り直してくれた。それがうれしいし、感謝しています。

実は完成した『狂武蔵』を『キングダム』の原(泰久)先生と一緒に見たんですね。

そのときに、一番思ったのは撮影監督だった長野(泰隆)さんやスタッフ、そして77分間俺と一緒に絡みで戦って、延々と殴られ斬られ続けてくれたみんなへの感謝でした。こんな俺に付き合ってくれたことに対しての感謝はすごくありましたね」

-坂口さんは本当に男に惚れられるというか、愛されていますよね。下村さんをはじめ、皆さんがなんとか坂口さんの思いを叶(かな)えようと尽力されて-

「本当にありがたいです。YouTubeチャンネル登録者も95%が男なんですね。だから女性に声をかけられることもないですし、結婚できない一番の理由なんだなと思って日々反省をしております(笑)」

-結婚願望はあるんですか?-

「ありますよ。だけど、やっぱり言いたくないですけど、完全にアクションと結婚しているようなもんなんだろうなって思いますね。

でも、結婚願望はあります。一度くらいはしたいなと。してみてダメだったら仕方ないですけど、一回ぐらいはね。周りからも『最強の遺伝子を残さなくていいのか?』って言われていますし(笑)」

-今後はどのように?-

「自分にしかできない、俳優さんができない『戦劇者』としては侍映画がやりたいですね。『狂武蔵』の最後の昨年撮ったシーンの俺の動きを見てもらったらわかると思うんですけど、あれは俳優さんには絶対にできないと思います。

それをもっとさらに進化させて、黒澤監督とかが作ろうとしていた日本の最高級の侍映画をやりたいです。

侍映画は、この国に生まれてこの国で死ぬんだからこそ、文化として自分が力を添えてできるんだったら、命をかけてやりたいもののひとつです。それをやったらもう辞めます。からだがボロボロになってくると思うので。それまではアクションと結婚し続けます」

現在はゼロレンジコンバット(零距離戦闘術)のウエイブマスターとなった坂口さん。77分間死闘を繰り広げた9年前より今のほうがもっと強くなっていると話す。進化し続ける坂口拓さんにはスクリーンがよく似合う。(津島令子)

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