タレントは動画へ、YouTuberはTVへ…国民総クリエイター時代に、有名放送作家が肩書きを超えて挑む未来

公開: 更新: テレ朝POST

「エンタメの未来」をテーマにした、テレ朝POSTの新企画第4弾。

現役放送作家として多くの地上波テレビ番組を担当する一方で、講談師・神田伯山や元メジャーリーガー・上原浩治など、さまざまな著名人のYouTubeチャンネルを手がけるクリエイター・谷田彰吾(たにだしょうご)氏。3月にはインターネット広告費がテレビメディア広告費を追い抜いたというニュースが報じられるなど、新しいコンテンツ作りが確実に求められつつある今。ますますボーダレス化する「番組」と「動画」、そしてエンタメの未来について聞いた。

クロスボーダークリエイター / 放送作家の谷田彰吾(たにだしょうご)氏。

ーーまずは谷田さんの会社・Wednesdayが昨年2019年11月に立ち上げた「DML」(デジタル・メディア・レーベル)についてご説明いただけますか?

谷田:一言で表すと、タレントやアスリートのデジタルメディア活動をプロデュースするサービスです。つい先日も佐藤健さんのYouTubeチャンネルが開設3日で登録者数100万人を突破して話題になりましたが、今や毎日のように芸能人がYouTubeに参入しています。僕自身、中田敦彦さんの「中田敦彦のYouTube大学」の立ち上げをお手伝いしたときに、やりがいはもちろん手ごたえとニーズ、そして将来性をとても感じたこともあり、チャレンジしてみようと思いました。

芸能人の皆さんにとって「はじめたい」と思っていても「動画」のハードルってなかなか高く、ブログとは違って専門的な編集技術が必要なので、どうしても代行するスタッフを用意しないといけない。

今、大人気の江頭2:50さんの「エガちゃんねる」もテレビのスタッフが作っていますし、YouTubeがテレビマンの新しい働き方として広がりつつあるという側面もあります。そういう状況のなか、自分たちがテレビの現場で積んだ経験や知見を生かし、そのお手伝いが出来ればと。

今や芸能人も過渡期の真っ只なかです。とにかくテレビに出ればいい時代は終わりました。そんななか、問われるのは芸能人としての「価値の向上」。僕はそれをYouTubeやSNSのプロデュースで実現したい。

会社としては、芸能人YouTubeのシェア日本一を目指しています。

ーーそのなかで谷田さんはどのような役割を担っているのでしょう。

谷田:テレビと動画の大きな違いはスタッフの数です。テレビの場合「プロデューサー」という肩書きひとつをとっても「アシスタントプロデューサー」もいれば「キャスティングプロデューサー」もいたりして、役割が徹底的に細分化されています。ゴールデンタイムで毎週放送されているバラエティー番組だと、関わっているスタッフの数は優に100人を越えていると思います。

一方、YouTubeは非常に小規模なチームで作られており、弊社の場合だと、週3回配信の動画で多少の増減はありますが、スタッフはだいたい4~5人です。そのなかで自分の肩書きは何だろうと考えると、「プロデューサー」としてタレントの所属事務所と交渉することもあれば、「キャスティングプロデューサー」みたいなこともやりますし、「放送作家」のように企画を出し、ディレクターが編集した動画を見て細かい修正を指示する「総合演出」の役割も担当するなど、ものすごく多岐に渡っています。

ーーすでにYouTubeの現場では動画編集をこなす放送作家がいると聞きました。

谷田:そうですね。今後、当たり前になっても全然おかしくないと思います。僕の先輩で50代の放送作家さんはいまだにパソコンを使わず手書きで台本を書いていますが、その一方で、20代前後の放送作家たちは動画編集のスキルを持っている人が多いです。

10代の頃からスマホとSNSがあり、YouTubeやVineなどで映像を編集して公開することが当たり前の世代ですよね。それが仕事にも結びついているんです。

もっとも、今もテレビの現場は厳しい世界ですが、彼らはそういう現場に身を置きつつ、新しいメディアに何のためらいもなく積極的に飛び込んでいる。これが40代の放送作家だと「YouTuberの動画は面白くない」「Web動画はテレビで使えない人がやる仕事」といった感じで、心のどこかに偏見と抵抗感がある人も多かったんですが、若い世代にその逡巡はまったくない。

また、登録者数が数百万人単位の売れっ子YouTuberになると、物理的に編集する時間が足りない、という事情もあり、若手放送作家が編集を請け負うというケースもあります。ディレクターではありませんが、曲がりなりにもテレビ番組の制作に関わった自分から見ると、今のYouTubeの動画編集は、ある程度ツールを使いこなすスキルと多少のセンス、YouTubeへの知識があれば決して難しいことではありません。

ちなみに、とある地方には某有名YouTuberの動画を編集してお金を稼いでいる中学生がいるそうです。このまま行けば小学生も必ず出てくるでしょうね。「働き方改革」どころではなく、10代が自分でビジネスをする時代はもうそこまで来ていると思います。

インタビューはテレビ電話で行った。

◆コンテンツメーカーであることが重要になっていく

ーーそのような状況のなか、クリエイターのあり方はどう変化していくと思いますか。

谷田:「肩書き」がよくわからない人ほど強くなると思います。「動画編集もできる放送作家」なのか、「放送作家もできる編集マン」なのか、肩書きはどっちでもよくて、両方のスキルを持っていることが重要。ムダを省き、効率化を求める時流は加速しますから、“あの人ならオールインワンで頼める”という個性が重宝されます。まるっとまとめて言えば、総合的な「コンテンツメーカー」であることが、それぞれの分野のクリエイターにとって重要になっていくと思います。

放送作家の場合「企画」と「台本」だけで生きていける人は一握りです。それ以外の放送作家は、発想力においてデジタルネイティブ世代にいずれ勝てなくなるかもしれない。そのとき、テレビ以外の市場で自分は買ってもらえるのか、常に考えることが大事です。

ちなみに、僕の名刺には「放送作家」の前に「クロスボーダークリエイター」という肩書きが載っています。テレビ、YouTube、広告、コラム…ジャンルという名の国境を飛び越えて仕事をする、という志とスキルの表明です。みんな肩書きがよくわからなすぎて触れてくれませんが、それでいいんです。僕だって昔は高城剛さんの「ハイパーメディアクリエイター」って結局なんなんだよ、と思ってましたが今は“なるほどな”と思います。人と同じ肩書きより、唯一無二の個性を主張する時代ですから。

さらに、今、僕がめちゃくちゃおもしろいなと思っているのが、YouTuberのセカンドキャリアです。たとえば登録者数5万人前後のYouTuberがめちゃくちゃ稼げているかというと、必ずしもそうではない。そうしているうちに大学卒業などでどうしても進路について考えるタイミングが訪れてくる。でも、動画編集やエンタメは好きだから続けたい…。そういう人たちを積極的に採用する受け皿が必要になってくると思います。弊社の場合だと「プロジェクトマネージャー」といった呼び方で、タレントさんとコミュニケーションを重ねながら、企画・制作・編集・分析もする総合的な仕事を担ってもらっています。実際、弊社の制作の従業員は全員が元YouTuberです。

僕が彼らを採用する理由は、編集ができるからではありません。YouTuberはセルフプロデュースに長けているからです。YouTuber=“動画を上手に編集する人たち”という捉え方は浅い見方で、本質は「ブランディング目線を持って体現できる人たち」なんです。

この先ますます「会社」というものに頼っていられなくなり、「個人」が自分をどう演出し、どれだけ価値を高められるか問われていく時代に変化していくなか、そういった能力に優れていたり、少なくとも考えてきた人たちだと僕は思います。

ーーなるほど。

谷田:僕もそうなんですが、30代半ばから40代のサラリーマンって「自分の価値の高め方」なんて全然考えてこなかった人の方が圧倒的に多いと思うんですよ。当然、人にもよりますが、10代からTwitter、Instagram、YouTubeを通して考えている人たちとはもはや比べものにならないかもしれない。

ちなみに、すでに就活の履歴書にSNSのフォロワー数を書き込む欄を作った会社があるそうです。セルフプロデュースや個人の影響力を重視する流れの象徴ですよね。

ーーところで、谷田さんは今の「テレビ」にどんな思いを感じていますか?

谷田:モヤモヤしていますね、めちゃくちゃ。

「テレビがつまらなくなった」と言われて久しいですし、僕も放送作家としてそう言われて腹が立つこともありましたが、ここ数年、テレビを作っているクリエイターたちもテレビを見なくなっています。少なくとも僕の周りには多い。問題だなと思うのは、視聴者も制作者もテレビへの期待値がものすごく小さくなっていることです。

僕もここまでテレビに育ててもらったという気持ちがありますし、なんとかしないといけないと思いながらも、なかなか復活のきっかけがつかめないというか、閉塞感をものすごく感じるというのが率直な気持ちです。

ーーそれを打破するためには何が重要だとお考えですか?

谷田:テレビのクリエイターが新しいフィールドで仕事をすることだと思います。YouTubeも広告も、いろいろやってみてヒットを目指す。そこで得た知識と経験をテレビで活かす。そうすれば、新しい発想の番組が生まれると信じています。僕は4年前からYouTubeの仕事をしてきたし、自分が先頭切って「動画」の経験を「テレビ」に還元したいと思っています。

大事なことは「おもしろい仕掛け」をどれだけ考えられるか。それが広告だろうかYouTubeだろうが、映像じゃなくたっていいんです。問題なのは、かつての自分も含めてテレビで働いている人たちがテレビのことしか知らなすぎて、頭のなかが凝り固まってしまっていることなんですよね。

テレビのクリエイターって「おもしろいもの」を作り出す力ってめちゃくちゃすごいと思うんですよ。でも、テレビというフィールドが今はクリエイターのポテンシャルを引き出せなくなっている。そこが非常に歯痒いです。

だから、僕なりのアクションとして、テレビのトップクリエイターたちを集めた「VVQ」という会社を、昨年の11月に作りました。

ーー「VVQ」という会社は、どういうものなんですか?

谷田:テレビのトップクリエイターが、テレビ以外のフィールドで活躍するための会社です。

メンバーが携わってきたのは『水曜日のダウンタウン』『世界の果てまでイッテQ』『笑ってはいけないシリーズ』『モニタリング』『逃走中』などです。テレ朝でいうと『アメトーーク』『しくじり先生』『ロンドンハーツ』『フリースタイルダンジョン』など、各局の超人気番組を中枢で作っているクリエイターが揃ってます。

テレビ以外にも『全裸監督』『バチェラー』『カジサック』『中田敦彦のYouTube大学』などを作ってきた人もいるし、UNIQLOのCM、『パプリカ』のMVに携わった広告系のプロデューサーもいます。なんなら受賞歴がある写真家まで。

テレビのクリエイターとその他のジャンルのクリエイターをミックスした会社です。VVQと書いて「バーベキュー」と読みます。業界の垣根をとっぱらってさまざまなプロフェッショナルが集まり、みんなでバーベキューみたいに楽しく新しい料理を作り出そうよ、という思いを込めました。

ーーどうやってこのメンバーを集めたんですか?

谷田:僕が一緒に仕事をしたことある人を中心に声をかけつつ、お会いしたことのない人でも、「この人と一緒にお仕事がしたい」という人には、知人に紹介してもらいました。半分以上、はじめましての人たちでした。昨年の夏をまるっと使って、一人一人直接お会いしてプレゼンさせていただきました。はっきり言って、僕の何倍も番組を抱えている売れっ子ばかりですが、僕のビジョンに共感してくれました。本当に嬉しかったですね。

クリエイターって、意外と業界をまたにかけている人が少ない。テレビはとくに。僕はたまたまキャリアのなかでYouTubeや広告も作ってきた。だから僕の仕事は、クリエイターの活躍の場を広げることなんじゃないかと思ったんです。正直、同じクリエイターとして嫉妬していた人もいましたが、そんな相手こそ最高におもしろいものを作ってくれる。放送作家というよりはプロデューサー、「みなさんの違った才能に火をつける」、そういう立ち位置ですね。まだはじまったばかりですが、どんなことが出来るかとても楽しみにしています。

出演者においては、ヒカキンさんやフワちゃんを例に出すまでもなく、動画とテレビの入れ替わりはすでに起きていて、タレントはYouTuberを目指し、YouTuberはタレントを目指すという不思議な逆転現象が見られます。この流れは今年一気に広がり、クリエイターにも本格的に及んでいくと思います。

いろいろ動き出してあらためて思いますが、やっぱり「行動」「アクション」あるのみですよ。「アクションしなければ死ぬ」とまで言ってもいいかもしれない(笑)。

だって成功しても失敗しても道は必ず開けるし、次へのヒントも見つかる。ですから失敗してもまったく恥ずかしくないです。やらないことで死ぬことが一番格好悪いですから。

テレ朝動画「logirl」収録中の谷田彰吾氏。

◆誰でも作って誰でも楽しませられる時代

ーーこれから先、1人のクリエイターとして大切にしたい思いは何でしょう。

谷田:もともと「人を楽しませたい、笑わせたい」という純粋な思いでこの世界に入りましたから、その気持ちはずっと持ち続けたいし、消えないと思います。「お金がめちゃくちゃ儲かるぞ!」って聞いて入ってきた世界ではないので(笑)、フィールドが変わっても原点が変わることはないです。そのなかで、とことんまで「おもしろい仕掛け」ものを作りたい」と思える人が優秀なクリエイターとして評価を受けるでしょう。

ーー今、谷田さんが注目している次世代のクリエイターを教えてください。

谷田:「あるごめとりい」という2人組のYouTuberがいるんですが、彼らはTBSを2年で辞めて専業YouTuberになっているんですよ。去年の秋に彼らを知ってすぐさまコンタクトを取って会いましたが、聞けばそのうちのひとりは自分が企画して通った特番がゴールデンタイムで放送された直後に辞表を提出したそうです。

こう言っては何ですけど、テレビ局員はエリートというイメージがあるじゃないですか。しかも入社2年目で企画が通って総合演出を務めるって優秀だったと思うし。その人生をあっさりと捨てて、やりたいことや可能性を追い求める新しい世代がいるんだなと、純粋に驚きました。

彼らが作っている動画って、これまでのYouTubeの常識とはかけ離れた、めちゃくちゃテレビ的な作りをしているんです。YouTuberは視聴者との距離を縮めるためにあえてチープな感じのテロップを使用するし、街中でスマホで見ることを考えてナレーションを入れないんですよ。でも、「あるごめとりい」が作る動画はテロップにもすごくこだわっているし、ナレーションもある。今後も彼らを応援したいし、僕は逆に彼らとテレビ番組を作ってみたいですね。

ーーでは最後に、谷田さんが思い描く「未来のエンタメ」とは?

谷田:めちゃめちゃ難しい質問ですね。『プロフェッショナル 仕事の流儀』で秋元康さんに聞くやつですよ、それ(笑)。でも、こうなっていくんじゃないか、という予想であれば、国民全員がクリエイターになる時代があっという間に来る、いや、ほぼほぼもう来ていると思います。言い換えれば、プロとそうでない人の境目って何だ? という時代。

僕はそれがめちゃくちゃおもしろいと思っていて、食えているから「プロ」なのか、食えないから「素人」なのか、もはや分からないじゃないですか。だってYouTubeは究極の自主制作メディアですよね。誰に発注されているわけでもない、独学でおもしろいコンテンツを作り出している人がたくさんいて、これだけ世のなかに受け入れられている。誰でも作って誰でも楽しませられる時代ですよね。

自分が撮った写真をInstagramにアップしてめちゃくちゃバズれば、人気においてはプロのカメラマンより上じゃないか、という見方も成立するかもしれない。また、最近、新型コロナウイルスの影響で街に出ないようにするためにドラマのネタバレを載せたNetflixの街頭広告(※Netflix非公式)がニュースになりましたが、あれを考えたのはドイツの専門学校に通うタイ人の学生2人なんですよ。

それから、去年までTBSで放送していた『PRODUCE 101』というオーディション番組で、ファンが自分の推しMENを合格させるために、自腹で広告を出したのもおもしろかった。有志でお金を集めて、「私の推しMENはこんなに素敵な人なので、ぜひ投票お願いします!」と、駅などの広告スペースに応援広告を出稿したんです。

その発想はもはや広告プロデューサーですよ。まさに「国民総クリエイター時代」。こういった具合に、アイデアをすぐに形にし、プロと一般の人が一緒になって盛り上げていく、それが新しいエンターテイメントであり、未来のエンタメの形のひとつではないかと僕は思っています。

<取材・文/中村裕一>

※谷田彰吾 (クロスボーダークリエイター / 放送作家)プロフィール
コンテンツラボ 株式会社Wednesday COO / TVクリエイターギルド 株式会社VVQ CEO
ドキュメンタリー番組『プロ野球戦⼒外通告』『バース・デイ』『情熱⼤陸』、有吉弘⾏、乃⽊坂46、池上彰などのバラエティ番組を構成。
過去に『中田敦彦のYouTube大学』アドバイザー。
芸能人のYouTubeをプロデュースする『デジタルメディアレーベル』を設立。
Mr.都市伝説 関暁夫、神田伯山、上原浩治、島田秀平登坂淳一、よしお兄さん、イガリシノブなど、約20チャンネルを運営。
https://webnesday.net
https://vvq.tokyo
https://note.com/showgo_wednesday

※番組情報:テレ朝動画「logirl」
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