「俺と一緒に死んでくれ!」日本ハム栗山英樹監督、選手に陳謝も。物議醸した“投手起用”の真実

公開: 更新: テレ朝POST

1月26日(日)の『Get sports』では、北海道日本ハムファイターズ・栗山英樹監督とナビゲーター・南原清隆による対談が行われた。

2人は番組が始まった1998年から14年に渡ってナビゲーターとして共演。栗山監督が再びユニフォームを着ることになった2012年以降は、毎年のように対談を重ねてきた。

テレ朝POSTでは、2020年シーズン開幕を前に、2人の対談を前編・後編に分けてお届け。前編となる本記事では、昨シーズン物議を醸した “投手起用”の全貌に迫る。

◆野球の常識を覆す投手起用

「先発、中継ぎ、抑えという今の野球に対して、ムチャクチャしてみようかなと頭のなかにあります」

2019年のはじめ、栗山監督は番組のインタビューでこんな言葉を残していた。その言葉通り、昨シーズンはこれまでの固定概念を覆すような投手起用を実践。

初回を中継ぎ投手が投げ、2回以降に本来の先発投手が登板する「オープナー」、打者一巡をメドに継投していく「ショートスターター」、すべてリリーフ投手で短いイニングを継投していく「ブルペンデー」

これらの投手起用法は賛否の声とともに、日本球界に新たな風を吹き込んだ。

©Get Sports

南原:「先発の概念を外してきましたが、オープナー、ショートスターター、ブルペンデー、どれがイメージに当てはまりますか?」
栗山:「先発2人制という考え方がありますよね。クライマックスシリーズや日本シリーズ、『世界野球プレミア12』では、先発投手の後ろに(第2の)先発投手を準備して短期決戦を戦っていました。それをシーズンでもできないのかという発想です」

短期決戦で当たり前の起用法を、シーズンを通して出来ないものか――。栗山監督がそう思うに至った理由は、シンプルに「それが一番勝ちやすい形」だからだと話す。

栗山:「選手によっては立ち上がりが良い投手、打者一巡は完璧に抑える投手がいます。それらの特徴を最大限に活かして適材適所で登板させたら、一番勝ちやすいんじゃないかと。ここ何年かずっと考えていました」

◆「すまんな加藤!俺と一緒に死んでくれ!」

栗山流の投手起用の代表ともいえるのが加藤貴之。

2019年は打者1巡をメドに先発した結果、2018年より防御率は4.53から3.52へ、平均投球回数も4.36から3.54へ下がった。

南原:「シーズン中(加藤選手と)話していましたか?」
栗山:「加藤には会う度に謝っていました。『すまんな加藤!行くぞ!俺と一緒に死んでくれ!』と。勝つためにやっていることだけど、選手としては無茶苦茶なことをしている」。

そんな栗山に対し、加藤はどう感じていたのだろうか。対談に合わせ、加藤はこんなコメントを寄せていた。

「2巡目以降になると打たれるという傾向が多く出ていたので、個人的にはひと回りを抑えるというのは良かったと思います。悪かった点ではないですけど、勝ち星が付かず負けが付くことがあるので、そこはちょっと気持ちの整理がつき辛かったかなと思いました」

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南原:「加藤投手も言っていましたよ、やっぱり勝ちが付かないから苦しいと」
栗山:「何で5回投げないと勝ち投手にならないんだろう。これは野球の本質(チームが勝利すること)とは違うじゃないですか。短期決戦はシーズンの成績と関係なく求めるのは勝利だから、途中で変えられても投手は何も思わないのに」

“勝ち星”ではなく“勝利”が野球の本質。だがそう考える一方で、葛藤もあったという。

◆「こんなに苦しんだ試合はない」

それは去年の5月3日(金)、西武戦。先発・加藤が強力西武打線を3回まで打者一巡、パーフェクトに抑える。打線は大量得点を奪い、4回で8対0。すると栗山監督は、打者一巡をメドに交代する予定だった加藤を5回まで投げさせ、加藤は勝利投手となった。

栗山:「勝ち投手は関係ないと言いながら、こんなに苦しんだ試合はない」
南原:「代えない方が良かったのか? 代えた方が良かったのか?」
栗山:「その試合は間違ってないと思う。野球は状況判断するスポーツ。3回だと思って投げていた投手が突然4回から崩れたりすることがある。投手には『次の回どう?』と聞くと『行けます』と返ってきても行かせない方が良いことが多い」
南原:「人間って自分のことわかっているつもりで、入り込んでいると自分のことが客観できないですよね」
栗山:「自分のことが一番わかんないので、そのために我々が手伝っているっていう感覚。まだまだすぐには答えは出ないと思います」

◆「みんなが時代を作っているんだ」

模索しながらの新しい挑戦。それは監督だけではなく、選手も同様だ。

投手陣のリーダー・宮西尚生は、「先発が短いイニングなのか、長いイニングなのかが明確ではなく、調整のやり辛さ、準備の大変さがありました」と課題を実感。しかしその一方で、「監督らしいスタイルだと思うので、すごいやっていても楽しいです。結果を出して監督を胴上げしてあげたいです」とポジティブな印象を抱いている。

©Get Sports

栗山監督自身も手ごたえを感じていた。

南原:「2019年の投手陣は、そんなに悪くなかった」
栗山:「FIPという数値はパ・リーグでトップ」

FIPとは、被本塁打、与四球、奪三振で投手の能力を計る指標で、運が左右される防御率よりも投手本来の実力を示すとされている数値。日本ハムはこの数値がリーグで最も良かったのだ。

栗山:「ひとつの目安というか。こういうやり方をみんながやっていって、10年後に全部ではなくてもどこかに取り入れてると思っている。やってみないとデータが集まらないんで。今は選手たちも大変かもしれないけど、もっともっとチャレンジしていかなければいけない」
南原:「2020年シーズンは、2019年の投手起用法を踏襲しながら進化させていく?」
栗山:「必ず生かします。こういういろんなやり方が幅を広げて日本ハムらしくなるために、生かしてくれると信じている。僕は選手たちに迷惑かけましたけど、『みんなが時代を作っているんだ』という風には思っています

「すまん」「謝りました」「迷惑かけました」…選手への陳謝の言葉が続出するという、栗山監督の本音がむき出しとなった対談。勝利のために始めたこととはいえ、監督自身苦しみながらの挑戦であったことが言葉の端々からうかがえた。

対談の終わりには、そんな栗山に対し「僕も一生懸命頑張りますので、『すまん』という言葉は少なめでお願いします(笑)」という加藤のコメントが。

2020年シーズン、“時代を作る”栗山監督の挑戦はどんな答えを見つけるのだろうか…。

日本ハム栗山英樹監督×南原清隆対談の後編では、清宮幸太郎選手覚醒へのカギに迫る。

番組情報:『Get Sports

毎週日曜日夜25時30分より放送中、テレビ朝日系(※一部地域を除く)

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