2020年のWRC(世界ラリー選手権)開幕!トヨタ加入のオジェ、そのとてつもない経歴

公開: 更新: テレ朝POST

2020年、いよいよ東京オリンピックが夏に開催されるとあって、世界のスポーツファンの注目は日本に集まるだろう。そんななか、モータースポーツ・WRC(世界ラリー選手権)においても、今年は日本に注目が集まる。10年ぶりの復活開催が決まった「ラリー・ジャパン」の存在があるからだ。

つい先日、2020年のWRC開催スケジュールが確定した。

昨年に暫定で発表されたスケジュールでは年間14戦を予定していたが、南米の「ラリー・チリ」がキャンセルとなり、年間13戦となった。その影響で「ラリー・アルゼンチン」の日程が変更となり、2020年WRCシーズンカレンダーは以下の通りとなっている。

第1戦:『ラリー・モンテカルロ』(1月23日~26日開催)
第2戦:『ラリー・スウェーデン』(2月13日~16日開催)
第3戦:『ラリー・メキシコ』(3月12日~15日開催)
第4戦:『ラリー・アルゼンチン』(4月23日~26日開催)
第5戦:『ラリー・ポルトガル』(5月21日~24日開催)
第6戦:『ラリー・イタリア』(6月4日~7日開催)
第7戦:『ラリー・ケニア』(7月16日~19日開催)
第8戦:『ラリー・フィンランド』(8月6日~9日開催)
第9戦:『ラリー・ニュージーランド』(9月3日~6日開催)
第10戦:『ラリー・トルコ』(9月24日~27日開催)
第11戦:『ラリー・ドイツ』(10月15日~18日開催)
第12戦:『ラリー・グレートブリテン』(10月29日~11月1日開催)
第13戦:『ラリー・ジャパン』(11月19日~22日開催)

ラリー・ケニア、ラリー・ニュージーランド、そしてラリー・ジャパンが新たにカレンダーに加わったことになる。

2020年シーズンは、参加するチーム体制にも大きな変化があった。

まず、フランスのシトロエンチームが最高峰であるWRCクラスから撤退。トヨタ、ヒュンダイ、フォードのマシンを使用するMスポーツの3チームによる争いとなった。

©TOYOTA GAZOO Racing

参加するドライバーも大きく顔ぶれが変わっている。

トヨタには過去6度WRCタイトルを獲得したセバスチャン・オジェとジュリアン・イングラシアのコンビが加入。さらにエルフィン・エバンスとスコット・マーティン、カッレ・ロバンペラとヨンネ・ハルットゥネンが加わりチームメンバーが一新された。

また、日本人ドライバーの勝田貴元とダニエル・バリット(※WRC公式サイトでは愛称でもあるダン・バリットと紹介)が今シーズンは13戦中8戦のWRCに挑戦することが決定している。そして、昨年までトヨタチームに参加していたヤリ‐マティ・ラトバラもスポット参戦という形で何度かトヨタのヤリスWRCに乗ることになりそうだ。

トヨタ最大のライバルチームとなりそうなのが、昨年マニュファクチュアラーズタイトルを獲得したヒュンダイ。トヨタで2019年シーズンWRC王者を獲得したオット・タナックとマルティン・ヤルヴェオヤが加入。ティエリー・ヌービル/ニコラ・ジルスール組との強力ツートップを確立した。

さらに、元王者のセバスチャン・ローブとダニエル・エレナ、ベテランのダニ・ソルドとカルロス・デル・バリオという布陣で挑む。

3チーム目はフォードのマシンを使用するMスポーツ。シトロエンの撤退で行き場を探していたエサペッカ・ラッピとヤンネ・フェルムが加入した。さらにティーム・スンニネンとヤルモ・レーティネン、ガス・グリーンスミスとエリオット・エドモンドソンという3台体制。

ちなみにラッピは2017年にトヨタでWRCデビューを果たしたドライバーであり、2019年にトヨタからシトロエンへ移籍、そして2020年シーズンはMスポーツでWRCを戦う。

◆トヨタチームに新加入、セバスチャン・オジェ

いよいよ始まる2020年シーズンの開幕戦はWRCで最も歴史ある「ラリー・モンテカルロ」だ。1911年から開催されているというから、今年は初開催から110年目となり、WRC開催回数としては88回目を迎えた。

ラリー・モンテカルロが開催されるモナコ公国は、国の面積が2.02平方kmほどしかない世界で2番目に小さい小国であり(※ちなみに世界最小国家はバチカン市国)、WRCのコース自体はフランスの山岳コースを使用している。

またモナコ公国はF1ドライバーや2輪ライダー、ツール・ド・フランスなどの自転車競技のアスリート、有名な映画俳優などが多く住むことでも知られている。

そんなモナコ公国を中心に開催するラリー・モンテカルロの歴代優勝者を見ると、セバスチャン・オジェが6度(2014~2019年)、セバスチャン・ローブが7度(2003~2005、2007、2008、2012、2013年)優勝しており、トヨタのオジェはこのラリー・モンテカルロを得意としている。

©WRC

ところで、トヨタチームに新たに加わったセバスチャン・オジェとは、どんなドライバーなのか。その経歴を見ると、とんでもなくビッグなドライバーであることが分かる。

セバスチャン・オジェ。1983年12月17日フランス生まれの36歳。2008年にWRCの一つ下のカテゴリーでチャンピオンとなり、最終戦のラリー・グレートブリテンにてシトロエンからスポット参戦という形でWRCデビューを果たす。2009年にはWRC本格デビュー。そして2010年にラリー・ポルトガルでWRC初優勝。さらに北海道で最後の開催となったラリー・ジャパンも優勝。つまり、ラリー・ジャパンの“前回優勝者”だ。

2013年からVW(フォルクスワーゲン)に加入すると、そこからVWがWRC撤退する2016年末まで4年連続でWRC王者を獲得。2017年は復活するトヨタ加入の話もあったが、フォードを使用するMスポーツへ加入。ここでも2017・2018年と2年連続でWRC王者を獲得。通算6度のWRC王者となった。

2019年はWRCデビューを果たした古巣シトロエンに移籍。最後までチャンピオン争いをするも、7年連続WRC王者の夢は絶たれた。とはいえ、間違いなく現役最強ドライバーのひとりだ。なにしろWRC通算で136回の出場中46回優勝(勝率33.8%)、77回表彰台獲得(確率56.6%)というとんでもない強さなのだ。

このオジェが記録した6年連続王者や46回優勝がどれだけ凄いかを説明することは難しいが、例えばテニスなら4大大会を16勝しているノバク・ジョコビッチや、19勝しているラファエル・ナダル、そして20勝しているロジャー・フェデラーと肩を並べるほどの強さを見せつけることができるアスリートだと言える。

それほど強いドライバーが、2020年シーズンを勝つべくトヨタに加入した。否応なく期待が高まる。

そんなオジェが、イギリスメディアのインタビューでトヨタとマシンの印象をこう語っている。

「トヨタはWRCにおいて非常に象徴的なブランドだ。多くの歴史をWRCに刻んできた。今回、自分がトヨタと共に新たな歴史を刻めたらと期待している。僕自身はチーム代表のトミ・マキネンを追いかけるようにしてラリーを始めた。マキネン代表と一緒に働くのは、僕にとっての夢がひとつ叶ったよ。

ヤリスWRCの印象は凄くいい。もちろん、実際の競争力はライバルも走ってみないと分からないのだけど、僕自身は凄く自信を持っているよ。チームメートにエルフィン・エバンスが加わったことも嬉しい。彼は非常に優秀なドライバーだし、チームに多くのフィードバックをもたらすだろう。マシン開発においても、大きな後押しになると思う」

こう述べており、シーズン開幕に向け準備万端といった模様だ。

◆勝田貴元「WRCは甘い世界じゃない」

そして日本のファンにとって注目なのは、勝田貴元の挑戦だろう。1月10日~12日に千葉県・幕張で開催された「東京オートサロン」に登場した勝田選手は、2020年シーズンの意気込みをこう語っていた。

「多くのファンの方は、いきなり結果を期待されると思うのですが、WRCはそんな甘い世界じゃないです。まずはしっかりWRCに対応すること。僕自身は5年後にチャンピオン争いが出来ることを目標設定していて、そのために何が必要なのか、どう成長すべきかを考えています」

2020年シーズンはしっかりWRCマシンに慣れ、最終戦のラリー・ジャパンでは1年間の成長を日本のファンに見せたいとのことだった。

幸い、勝田選手はそのキャラクターもあって、WRC全体に仲間として迎えられている。昨年までオット・タナックから多くのことを吸収してきたし、今シーズンからはセバスチャン・オジェからも多くのことを吸収するだろう。

まずはターマック(舗装路)だが、SSによっては雪道となっているラリー・モンテカルロをしっかり走りきり、今シーズンの基準点をつくっていってくれることを期待したい。

©WRC

ラリー・モンテカルロは木曜日の夜からスタートし、木曜日にSS1~2、金曜日にSS3~8、土曜日にSS9~12、そして日曜日にSS13~16と合計16のステージを予定している。

木曜日の現地スタート時間は午後8時38分から。日本時間では金曜日の午前4時38分からのスタートとなる。

2020年シーズンを占う開幕戦。トヨタはどんな戦いを見せるのか、期待したい。<文/モータージャーナリスト・田口浩次>

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