M-1グランプリ2019は「絶対面白い」 チーフPが感じる“霜降り明星が押したスイッチ”

公開: 更新: テレ朝POST

漫才日本一を決める「M-1グランプリ」。もはや説明不要、国民的イベントにして12月の風物詩ともなっている大会だ。

昨年2018年大会の王者・霜降り明星は、コンビ結成6年目にして優勝を果たした。

©M-1グランプリ事務局

この“史上最年少王者の誕生”は、M-1チャンピオンを目指すあらゆる芸人たちを奮起させたようだ。

そう見るのは、2003年からM-1グランプリのディレクターになり、2007年からは6大会連続で総合演出を務め、現在はチーフプロデューサーとして同大会に携わるABC朝日放送テレビの田中和也プロデューサー。

田中プロデューサーは、霜降り明星が優勝したことは“M-1の歴史”という観点から見ても重要な出来事だという。

「“史上最年少優勝”ということももちろん大きいですけど、彼らの世代、すなわち結成10年以内のコンビでも勝てるんだということが証明されたのが大きいですよね」(田中P)

2001年から始まったM-1グランプリは、2010年の第10回大会までは“結成10年以内”を出場資格としていた。しかし、5年の休止期間を経た2015年大会(第11回大会)からは、出場資格が“結成15年以内”となっている。

“15年以内”になってからの3大会(2015年~2017年)、優勝したのはどれも結成10年以上のコンビだった。霜降り明星は、その流れに風穴を開けたというわけだ。

「結成10年以上のコンビたちによる熟練した漫才が評価されてきたなかで、霜降り明星が優勝したことによって、結成10年以内の芸人たちが“おれたちもいけるんだ!”って奮起したと思うんです。

その結果今年、フタをあけてみたら、“からし蓮根”や“オズワルド”をはじめ結成10年以内のコンビが複数決勝に残り、決勝の9組自体も2組が決勝経験者、7組が決勝初進出という並びになっている。

そこには当然なんの意図もなく、僕としてはその結果になんの不思議もないというか、これはやっぱり霜降り明星が優勝した効果だと思いますね。霜降り明星が、たぶんみんなのスイッチを押してくれたんじゃないかなと。

そして、奮起した10年以内の漫才師たちがいる一方、常連組は“なにくそ”と思ってやってくれている。今年の大会、これは絶対面白いです」(田中P)

◆M-1が“盛り上がり続ける”理由

今年ラストイヤーを迎える“かまいたち”が優勝するのか、初の決勝進出組が旋風を巻き起こすのか、はたまた敗者復活組が下剋上を果たすのか…。

すでに多くのお笑いファンが自身の予想や期待を語っており、開催前から大いに白熱している今年の「M-1グランプリ2019」だが、そもそもM-1はなぜ、これほどまでに盛り上がり続けるのか?

初開催から約20年、他の大きなお笑い賞レースとも一線を画した国民的な注目度を保ち続ける要因。田中プロデューサーはそこに、“魂”と“ルール”があると分析する。

「僕らがよく話しているのは、その年いちばん(M-1に対する)思いがある人たちが優勝しているってことなんです。その1年でいちばん魂を削っている人たちが優勝する。

もちろん、思いは皆さんある。漫才師にとってみたら、M-1チャンピオンという称号はやっぱり取りたいんでしょうね。2007年、キングコングが出場して3位になりましたけど、当時キングコングは(テレビなどで)あれだけ売れていたのに、西野(亮廣)さんは負けて泣いていましたから。

漫才でトップを取りたい。そのために魂を削る。魂と魂がぶつかり合う真剣勝負がちゃんと見られる場だから面白いんだと思います。お笑いなんだけど、真剣勝負。そこに不思議なギャップが生まれていることも面白い。

そしてやっぱり、“結成〇年以内”という出場資格のルールがあること。その期限を過ぎたら終わってしまうから、それまでに絶対やってやるという思いをもって、出場者たちはより魂を削っていく。そこに関しては、(創設者の)島田紳助さんがすごいルールを考えられたなと思います。

漫才日本一になりたいという思い、そして、いつかは終わりがあるというルール。そこがうまく合致して魂と魂のぶつかり合いになっているからこそ、M-1は盛り上がり続けるんだと思います」(田中P)

◆大会・競技としても進化し続けるM-1

そうした漫才師たちの“魂と魂のぶつかり合い”がお笑いファンのみならず国民を魅了している一方、M-1グランプリはまた、形式やルールの変更を大胆に行うことで大会・競技としても進化し続けている。

なかでも近年、大会の性質自体を大きく変えた変更が、2017年の「笑神籤(えみくじ)」の導入だ。

それまで、決勝でのネタ披露の順番は“事前抽選方式”となっており、出場者は決勝当日に自身が何番目にネタを披露するのか分かっていたが、2017年からは放送中に司会者やゲストが引く“笑神籤”によってリアルタイムにネタ披露順が決まるようになった。

これにより、決勝出場者たちは事前に「どんなネタをもってくるか?」という対策が練りづらくなり、また決勝の放送中、自分たちの名前が引かれるまで常に極限の緊張状態に置かれるようになる。

田中プロデューサーいわく、この“笑神籤”方式について芸人たちは「そりゃ当然“イヤや”ってリアクションですよ(笑)」とのことだが、前述の通り、M-1グランプリが人々を魅了する要因のひとつは“ルール”。

漫才師たちもそのことを分かったうえで、ルールと割り切って大会に臨んでくれていると田中プロデューサーは話す。

◆2019年は“笑神籤”にも進化が

そんななか今年の「M-1グランプリ2019」では、“笑神籤”方式にさらなる進化が加わるという。

これまで、敗者復活戦で勝ち上がるコンビは決勝の本戦開始直前に発表されていたが、今回からは笑神籤の中に“敗者復活組”という札が入れられ、本戦中にその札が引かれたと同時に敗者復活戦を勝ち上がったコンビも発表される、という形式になった。

つまり、敗者復活戦で勝ち上がるコンビは、いつ発表されるか分からない状態で決勝が行われるテレビ朝日本社近くの外の会場で待ち続け、発表された数分後にはステージに立つというわけである。

今年から始まるこの新しいルール・演出について田中プロデューサーは、

「(敗者復活コンビは)もしかしたら寒いなか外の会場でずっと待っていないといけないかもしれないし、トップバッターにもなるかもしれない。どこで発表されるか分かりません。“敗者復活”というのも、M-1を盛り上げてきた代名詞のひとつ。ここでドラマチックさ、そしてドキドキするようなライブ感を演出し、大きなうねりが生まれるといいなと思っています」

と説明。続けて、「なんかすごいことが起きそうじゃないですか?(笑)“M-1”というのは、大きな形はしっかりと出来ている番組ですが、そのなかでやはり、(制作陣には)毎年何か新しいことにトライしていきたいっていう気持ちがあるんです。僕自身、どうなるか楽しみです」と期待を込めて話していた。

©M-1グランプリ事務局

◆「ともに泣く」M-1スタッフの強すぎる芸人愛

そして、M-1グランプリのテレビ中継を楽しむうえでもう一つ欠かせない要素。それは、放送開始してすぐに流れる、これから始まる決勝戦を盛り上げる“アバンタイトル”だ。

人によっては“煽りVTR”などという場合もあるが、これまで行われてきた予選の裏側の映像、過去の大会の映像、決勝に出場する芸人たちのコメント映像などが繋ぎ合わさり、最後に必ず「ただ証明したい、俺たちが、一番、おもしろい!」というナレーションで締まるこのアバンタイトル。

舞台袖で緊張によってえずいてしまう芸人や、壁に向かって黙々とネタ合わせをする芸人、決勝に進出し喜びで慟哭する芸人、はたまた敗れて静かに泣く芸人…。決勝進出者のみならず、M-1に出場したすべての漫才師を温かく包み込み、そのかっこよさを称えるようなこのアバンタイトルには非常にファンが多い。

また、このアバンタイトルで流れるシーンのみならず、毎年のM-1グランプリ開催後に放送されるドキュメンタリー番組を観てみると、その膨大な映像量に驚かされる。たとえば、後に決勝に出場するコンビが10年以上前、まったく無名な養成所時代に初めてM-1に出場した際のコメント映像までもが登場してくるのだ。

一体どれだけ裏側で密着しているのか聞いてみると、田中プロデューサーはM-1に携わるスタッフの“異常性”について話し始めた。

「M-1のスタッフはみんな、芸人のことが好き過ぎて、ちょっとおかしいんですよ(笑)僕もまぁ、そうですね。ほんとみんな、アホになってしまうというかね…。

僕自身も、(ドキュメンタリー番組の映像などを観ていて)よく撮ってたなって思うシーンがあるし、なにより“よく探してきたな!”って思う映像がたくさんあります。15年分、テープは1万本くらいあるはずですからね。(制作スタッフの努力は)すごいと思います」(田中P)

続けて、こんな“教え”があることを明かす。

「M-1スタッフやABCテレビには代々受け継がれている“イズム”のようなものがあって、若いディレクターでもなんでも、『とりあえず芸人と飲みに行け』と。そうして仲良くなって、“ともに笑い・ともに泣き”ができるような関係性をつくりなさいという教えです。

そこで培われた芸人さんとの関係性があってこそ、なかなか撮れないところも撮らせてくれるし、喋りにくいことも喋ってくれるんだと思います」(田中P)

田中プロデューサーが言う“なかなか撮れないところ”とはすなわち、負けた後やラストイヤーで挑み敗れてしまった後などの場面。

本来であれば、悔しさや悲しさで芸人たちにとってはカメラを向けられるのも嫌な瞬間かもしれないが、M-1のアバンタイトルやドキュメンタリーでは、その瞬間の芸人たちの映像が数多く登場する。

田中プロデューサーは続ける。

「僕の中で“名シーン”というのはいくつもあって、たとえば、敗者復活戦で負けてしまった芸人さんがいて、彼らにカメラを向けているディレクターまでもが一緒に泣いてしまってるシーンなんかもあるんですよ。そこまでの思いがスタッフにもあると、芸人さんたちもみんないいこと言ってくれるんですよね。それこそ、一緒に泣きながら」

純粋な漫才愛と「日本一になりたい」という強い思いをもって魂を削りながら戦う漫才師たちがいるその空間に、同じく純粋な愛と強い思いで彼らと向き合うスタッフがいる。

だからこそ、そこにいる人たち全員の愛と思いを観ているだけで感じられるからこそ、「M-1グランプリ」は“お笑い”という枠を超えて人々を魅了し続けているのかもしれない。

※放送情報:
『M-1グランプリ2019』
12月22日(日)午後6時34分 ~午後10時10分、ABCテレビ・テレビ朝日系列全国ネット生放送

『M-1グランプリ2019 敗者復活戦」
12月22日(日)午後1時55分~午後4時25分、ABCテレビ・テレビ朝日系列全国ネット生放送

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