「14球で終わらせます」星稜・奥川恭伸の宣言に隠された“ライバルとの絆”。

公開: 更新: テレ朝POST

10月17日(木)に行われたプロ野球ドラフト会議。指名を待つ選手にとっては、まさに運命の日だ。

10月27日(日)に放送された『Get Sports』では、3球団競合の末、ヤクルトがドラフト1位の交渉権を獲得した星稜高校の奥川恭伸を特集。

朝日放送テレビのアナウンサーで「熱闘甲子園」のキャスターを務めたヒロド歩美が、ドラフト会議当日に密着し、さらにドラフト1位になるまでの成長に迫った。

©Get Sports

◆ここまでの投手になるとは思ってもみなかった

奥川と言えば、今年の夏の甲子園での活躍が記憶に新しい。

150キロを超えるストレートに、多彩な変化球。怪物と言われた江川卓氏の1試合23奪三振の記録にも肩を並べた。

さらには日の丸を背負い、「U18野球ワールドカップ」でも好投。世界でも注目され、この大会で先発投手のベストナインにも輝いた。

ドラフト会議が始まる2時間前、奥川は「甲子園の方が緊張する」「前日もぐっすり眠れた」と落ち着いた様子。ドラフトで自らの名前が呼ばれ、ヤクルトに決まった瞬間も表情は変わらなかった。

それでも、指名後に、ヒロドアナウンサーが指名を受けた時の心境を聞くと「本当に安心していたのですが、何とか表情を崩さずにやろうかなと思っていました」とようやく笑顔がこぼれた。

©Get Sports

そんな奥川が、野球を始めたのは小学2年生の時。幼少期から夢みていたのが「プロ野球選手」中学を卒業の時に選んだのは甲子園の常連で地元石川県の強豪、星稜高校への進学だった。

チームを指揮する林監督は、奥川が1年生の時には、ここまでの投手になるとは思ってもみなかったというが、ドラフト1位で指名されるまでに飛躍したのには“ある理由”があった。

◆逆境を乗り越えた甲子園

奥川が3年間で躍進した大きな理由のひとつに、「甲子園」の存在がある。

2年生で出場した夏の甲子園、2回戦の済美高校との戦い。奥川は先発し序盤から好投を見せていたが、5点リードの4回のマウンドで異変が起きた。

右足が痙攣してしまい、この回で降板。するとチームは同点に追いつかれ、延長13回、ベンチで見守る奥川の前で、逆転サヨナラ満塁ホームランを打たれ、甲子園敗退が決まった。

試合後、最後まで投げ切ることのできなかった奥川は涙が止まらなかった。

©Get Sports

この悔しさを糧に1年間を過ごし、迎えた今年の夏の甲子園。

3回戦、強打を誇る智辯和歌山から三振の山を築いていく奥川だったが、延長11回、またしても右足の痙攣が襲った。

しかし奥川は、ここから150キロのボールを連発。「何度も心が折れそうになった」と語りながらも最後まで投げ切り勝利へと導いたのだ。

ひとまわり大きくさせてくれた舞台、甲子園。

「初めての経験で、すごく苦い思い出でもありましたし、あの負けっていうのも一つ自分を成長させてくれたんじゃないかなと思います」(奥川)

プロとなりヤクルトのユニフォームで、再びそのマウンドに立つことを楽しみにしているという。

◆「14球で終わらせます」宣言の意味

奥川が成長を遂げたもうひとつの理由が、“ライバル”の存在だ。

今年のドラフト会議で1位指名をされた高校生はなんと7人。そのうち、奥川を含めた6人が18歳以下の日本代表メンバーだった。

プロの舞台で対戦するかもしれないライバルたちには絶対に負けたくないという。

そんな仲間でもありライバルでもある存在の中でも、大きな刺激を受けたのが高校最速163キロ右腕、ロッテのドラフト1位、佐々木朗希(大船渡高校)だ。

日本代表合宿で、奥川は佐々木のボールを目の当たりにし、自信を失くしかけた一方で、ストレートだけではなく、コントロールや変化球など総合力で勝負しなければいけないということに気付かされたという。

佐々木の存在が、奥川の進むべき道を示してくれたのだ。

さらに奥川に大きな影響を与えたのは、佐々木だけではない。

夏の甲子園直後に行われた「U18野球ワールドカップ」。

奥川は甲子園での疲労から大会序盤は登板することができなかったが、チームメイトの投手陣たちが奮起する。

決勝リーグとなるスーパーラウンドで投げさせたい、奥川のためにも負けるわけにはいかないと、次々と好投を見せた。

そして迎えたスーパーラウンド第1戦のカナダ戦。奥川は、ついにこの大会初めてのマウンドにあがることになった。

©Get Sports

「他のピッチャーもしんどい中で頑張っている姿を見ていて、絶対チームの力になりたいなって。そこでもう一回燃えたというか、絶対試合で投げて抑えたいなと思いました」(奥川)

仲間たちの思いを受け止め、先発として次々と三振を奪っていく中、7回のマウンドにあがる直前、奥川は“ある宣言”をした。

「14球で終わらせます」(奥川)

この大会は球数制限があり、105球以上を投げると、この先の試合に登板ができない。

ここまで90球を投げていた奥川は、次の1イニングを14球で抑えるという宣言をしたのだ。

最初のバッターを6球、続くバッターを4球に抑え、最後のバッターは3球三振。宣言通り、14球で抑える圧巻のピッチングを見せた。

奥川がドラフト1位になった裏には、甲子園での経験、ライバルたちの思いに応える好投があったのだ。

そして最後に、奥川には大切にしてきた“星稜高校野球部のモットー”があるという。

「必笑」

甲子園でも世界の舞台でも、どんな逆境に立たされても常に笑顔で挑んできた奥川。プロの舞台でも「必笑」を胸に、マウンドで躍動してくれるに違いない。

©Get Sports

番組情報:『Get Sports
毎週日曜日深夜1時30分より放送中、テレビ朝日系(※一部地域を除く)

PICK UP