<WRC>シーズン中もっとも“悪路”のラリー、王者オジェが制す「宝くじみたいなもの」

公開: 更新: テレ朝POST

2019年WRC(世界ラリー選手権)第11戦「ラリー・トルコ」(9月12日~9月15日)が終了した。このラリー・トルコを含めて残り4戦、チャンピオンシップ争いも佳境に入ってきたなか、王者セバスチャン・オジェ(シトロエン)が今季3勝目を上げ、現在トップのオット・タナック(トヨタ)を追撃した。

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ラリー・トルコの上位陣の最終結果は、

1位:セバスチャン・オジェ(シトロエン)
2位:エサペッカ・ラッピ(シトロエン)/1位から34秒7遅れ
3位:アンドレアス・ミケルセン(ヒュンダイ)/同1分4秒5遅れ
4位:ティーム・スンニネン(フォード)/同1分35秒1遅れ
5位:ダニ・ソルド(ヒュンダイ)/同2分25秒9遅れ
6位:ヤリ‐マティ・ラトバラ(トヨタ)/同2分59秒1遅れ
7位:クリス・ミーク(トヨタ)/同3分53秒3遅れ
8位:ティエリー・ヌービル(ヒュンダイ)/同5分34秒8遅れ

となっている。

©TOYOTA GAZOO Racing

ラリー・トルコは、2019年シーズン中もっとも悪路のグラベル(未舗装路)ラリー。

グラベルラリーでは走行順が非常に重要で、スタート順が早いドライバーほど滑りやすい路面の掃除役となってしまいタイムが出ない。

金曜日のSS2からSS7はチャンピオンシップの上位順走行となる。各ステージの走行順は、1番手タナック(トヨタ)、2番手ヌービル(ヒュンダイ)、3番手オジェ(シトロエン)、4番手ミーク(トヨタ)、5番手ミケルセン(ヒュンダイ)、6番手ラトバラ(トヨタ)、7番手スンニネン(フォード)、8番手ソルド(ヒュンダイ)と続いた。

初日の木曜日はたった2km、しかも市内を走る顔見世同然のSS1だけに、走行順は関係ない。勝負は2日目金曜日からだ。

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そして始まった2日目、チャンピオンシップ上位3名には厳しい金曜日のはずだった。

しかし、この悪路に真っ先に対応してみせたのが、シトロエンの2台だった。9番手スタートのラッピは、最長距離を走るSS3でステージトップを獲得したほか、別のステージでも常に5位以内に入る走りを見せて総合トップ。17秒7遅れでオジェが続き、シトロエンは2日目の金曜日からワン・ツー体制を整えた。

トヨタは、SS2とSS4でラトバラ、SS5でミークがステージトップを獲得し午前中は速さを見せるのだが、SS6で降雨による路面変化に苦しみ、さらにタナックはパンクにも見舞われ、結果的にトヨタの3台は2日目から7~9位と出遅れてしまった。

このため、3日目の走行順も2番手ラトバラ、3番手タナック、4番手ミークとトヨタの3台が事実上掃除役となり、ライバルであるヌービルは8番手、オジェは9番手と、タナックにとっては厳しい3日目となることが予想された。

◆3日目、タナックとヌービルに不運

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そして3日目の土曜日、この日はオジェとチャンピオンを争うタナックとヌービルに不運が襲う。

最初に不運が襲ったのは、2日目を終えて総合3位につけていたヌービル。この日最初のSS8を走行中、土埃が舞い視界がない状態となり、17km地点でマシンがコースを外れて横転してしまったのだ。

総合3位につけていたヌービルだったが、このSS8でトップから4分38秒8遅れのタイムとなり、優勝争いから脱落してしまった。

そして、次の不運がタナックを襲った。SS8終了後、SS9へ向かうときにエンジンがかからずストップ。原因はエンジンをコントロールする電子機器ECUの不調だった。ドライバーが修復できる部分ではなかったため、デイリタイアを選択。こうして、オジェのライバル2台が優勝争いから消えることとなった。

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こうなるとシトロエンは2台を最後まで走らせることが重要になる。

オジェはSS12でラッピを逆転して総合トップに浮上。最後のパワーステージも加点して最高の形を狙う。しかし、チームメートのラッピもシトロエン移籍後の初優勝が掛かり、こちらもオジェの空きをうかがう。

また、大きく順位を落としたヌービル、そしてデイリタイアとなったタナックは、最大5ポイントを獲得できる最後のパワーステージにすべての照準を合わせて最終日を戦うことになった。

◆混戦状態が示す“良い状態”

シトロンのワン・ツーで迎えた最終日。

この日最初のSS14は、最後のパワーステージと同じコース。最後の加点を狙うためにも、このSS14を速く走ることが重要となる。結果、SS14ステージトップはタナック(トヨタ)、2位ミケルセン(ヒュンダイ)、3位ラトバラ(トヨタ)、4位ヌービル(ヒュンダイ)、5位オジェ(シトロエン)と続いた。

このあとタナックは、最後のパワーステージにタイヤを残すため、SS15とSS16を抑えてすべてをSS17にかけた。

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また、シトロエン移籍後初優勝を狙ったラッピだったが、SS16で痛恨のスピン。SS15で5秒7差だったものが19秒9まで開いてしまい、優勝を諦め、2位表彰台を確保する走りへと切り替えた。

こうして各ドライバーがそれぞれの思いを持った最終パワーステージ、誰が1位から5位の加点を獲得するかに注目が集まった。

そしてその結果は、1位タナック(トヨタ)、2位ヌービル(ヒュンダイ)、3位オジェ(シトロエン)、4位ラトバラ(トヨタ)、5位スンニネン(フォード)となり、タナックが最大限の失地回復をし、ヌービルがそれに続いた。

しかしながら王者オジェも3位で加点を獲得したことで、チャンピオン争いはまだまだ激戦が続くことになった。

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優勝直後のオジェは公式TVのインタビューに答え、

「これは僕たちのプラン通りというか、必要な要素だった。ここで勝つしかチャンピオンシップ争いに戻るチャンスはなかった。ただ、ここは悪路のラリーで、いくつかのステージはもはや生き残るかは宝くじみたいなものだ。ここでの勝利はチームにも大きい。モチベーションを取り戻した。この調子で前に進みたい。この週末、多くの部分が進化していたけど、残りもいい感じに行きたい。まだチャンピオンシップは僕たちが後塵を拝している。まだまだポイントが必要だけど、(ラリー・ドイツ終了時の)40ポイント差よりずっとマシだ。最後に向けて、良いステップを踏めた週末だったよ」

と勝利を喜んだ。

そして今回、ラリー・トルコを訪れていた元ラリードライバーでもあるFIA会長のジャン・トッドは、激しいチャンピオン争いを非常に好意的に見ていた。

「まずトルコという大きな国でラリーが開催されて、WRCの一部であることは重要だ。そしてこの悪路とも言えるグラベルラリーは、大変だがそれがラリーだからね。グラベルにターマックに、様々な違いがドライバーやマニュファクチュアラーにとって挑戦だが、それは非常にオープン(公平)なもので、残り3戦も同じようにオープンに最後まで続くだろう。誰が勝つか最後までわからない。それこそが良い状態のレギュレーションであり、良いゲームであり、ドライバーにも良いことだ」

このように話し、混戦であることは、現在のWRCレギュレーションが良い状態にあるからこそとした。

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シトロエンのワン・ツー・フィニッシュで終えたラリー・トルコ。

その結果ドライバーズチャンピオンシップは、

1位:オット・タナック(トヨタ)/210ポイント
2位:セバスチャン・オジェ(シトロエン)/193ポイント
3位:ティエリー・ヌービル(ヒュンダイ)/180ポイント
4位:アンドレアス・ミケルセン(ヒュンダイ)/94ポイント
5位:クリス・ミーク(トヨタ)/86ポイント
6位:ヤリ‐マティ・ラトバラ(トヨタ)/84ポイント
7位:ティーム・スンニネン(フォード)/83ポイント
8位:エサペッカ・ラッピ(シトロエン)/80ポイント

となっている。また、マニュファクチュアラーズチャンピオンシップは、1位ヒュンダイ/314ポイント、2位トヨタ/295ポイント、3位シトロエン/259ポイント、4位フォード/184ポイントという状況だ。

さて、世界ラリーも残り3戦、「ラリー・グレートブリテン」、「ラリー・スペイン」、そして「ラリー・オーストラリア」を残すのみだ。

次戦は、10月3日~6日に開催予定の「ラリー・グレートブリテン」。

再び未舗装路のグラベルラリーだが、ラリー・トルコほどの悪路ではなく、トヨタのマシンは比較的相性が合っているコースだ。

また、トヨタのクリス・ミークにとっては母国ラリーでもあり、チームはモチベーションを高めて挑めるだろう。ドライバーズチャンピオンシップ、マニュファクチュアラーズチャンピオンシップ、どちらもひとつも落とせない混戦のなか、果たしてトヨタはどのような戦いを見せるのか、最後まで注目していきたい。<文/モータージャーナリスト・田口浩次>

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