WRCで表彰台独占、WECでシリーズチャンピオン。トヨタ、モータースポーツの現在

公開: 更新: テレ朝POST

現地時間の9月12日~9月15日、2019年WRC(世界ラリー選手権)第11戦「ラリー・トルコ」が行われる。

©WRC

昨シーズンWRCカレンダーに新しく登場したラリー・トルコを制したのは、トヨタのオット・タナックだった。そのタナックは、今年はシーズンすでに5勝。しかも、「ラリー・フィンランド」、「ラリー・ドイツ」と直近2連勝しており、トルコに勝利すれば3連勝。ドライバーズチャンピオンシップでも大きくリードが見込める。

さらに、前戦ラリー・ドイツでトヨタは表彰台を独占。トヨタにとって1993年以来の快挙であり、現在のトヨタは競争力だけでなくチームの士気も高い。

そんなトヨタの好調ぶりは、じつはWRCだけにとどまらない。

©TOYOTA GAZOO Racing

「ル・マン24時間レース」が有名なWEC(世界耐久選手権)において、トヨタは初めてシリーズチャンピオンを獲得。

しかもトヨタドライバーの中嶋一貴が、チームメートで元F1世界王者フェルナンド・アロンソ、セバスチャン・ブエミと共にWEC世界王者の栄冠を手にした。これは日本人初の快挙だ。モータースポーツにおける世界選手権は、F1・WRC・WEC・WRXと現在4つある。その一角で中嶋一貴が上り詰め、日本人がついに世界選手権を制したのである。

©TOYOTA GAZOO Racing

また、WRCやWECでのトヨタの活躍だけではなく、近年モータースポーツ人気が世界的に復権してきている。

WRCと並び世界最高峰のモータースポーツとして日本における知名度が高いF1では、シャルル・ルクレール(フェラーリ)やマックス・フェルスタッペン(レッドブル)といった21歳の若き次世代王者が台頭し、レッドブルのマシンにはホンダがエンジン供給していることもあり、今年の日本GPのチケットもかなり好調に売れているという。

©Red Bull

WRC関係者の間では、来年の“ラリー・ジャパン”開催がかなり濃厚だと言われており、もし2020年のラリー・ジャパン開催が正式発表されれば、こちらも現在のトヨタの強さと相まって多くのファンが観戦に行くことだろう。世界中で復権してきたモータースポーツ人気が、日本まで波及しているのを実感できるに違いない。

◆トルコは、「トラブルからいかに距離を置くか」が重要

さて、話をラリー・トルコに戻そう。

ラリー・トルコはグラベル(未舗装路)ラリーなのだが、2019年シーズン中、もっとも悪路のラリーだと言われている。そのため、ラリーを走るマシンに最も多くスペアパーツを搭載して走っている。

©TOYOTA GAZOO Racing

実際、昨シーズンは現王者のセバスチャン・オジェ(当時フォード)や、ヒュンダイのティエリー・ヌービルはこの悪路に苦しみ結果が残せなかった。

マシンをドライブする能力に加えて、どれだけ車体の仕組みを理解しているか、どれだけ構造部分にまで知識があり、そして実際に修繕する能力があるか。ドライバーだけではなく、メカニックとしての能力も兼ね備えていることがラリー・トルコでは重要な要素となる。

このことはドライバーたちも認めており、現王者オジェは、

「ここは工具類をいちばん多く持ち込んでいる。スペアパーツもいちばん多く持ち込む。このラリーに勝つためには速く走らないことも重要だ。つまり、トラブルから距離を置くこと。ここが怖いのは、いくつかのステージで、見た目は良い状態に見えるのだけどじつは岩がゴロゴロと隠れていること。こうなると生き残ることが重要になる。荒れた路面との戦いがラリー・トルコだね」

と、ライバルたちとの争いの前に路面との戦いがあることを明かしている。

そして、前戦ラリー・ドイツで表彰台を独占したトヨタは、自信を持ってこのラリー・トルコに挑む。3連勝を狙うオット・タナックのコメント(リリース)を紹介しよう。

「トルコでの我々の目標はもちろん連覇ですが、昨年は本当に厳しいラリーでした。自分は優勝し、チームは1‐2フィニッシュを飾りましたが、正直なところ我々にはそれほど速さがなく、スマートな戦いをしたことが好結果に繋がったのです。きっと今年もステージは非常に荒れると思うので、いかなる問題も起こさないようなアプローチをとることになるでしょう。しかし、今年はパフォーマンス面に関しても向上させたかったので、チームは懸命な努力を続けてきました。フィンランド、ドイツと連勝したことで努力が報われ、チームのモチベーションは高く保たれています」

©TOYOTA GAZOO Racing

間もなくスタートするラリー・トルコは、4日間で17ステージを予定している。

木曜日は顔見せとなるSS1(2km)。金曜日はSS2からSS7の6ステージ。土曜日はSS8からSS13までの6ステージ。そして最終日日曜日はSS14からSS17までの4ステージだ。

とくに重要となりそうなのが金曜日で、SS2とSS5はステージ距離が24.85km、SS3とSS6が38.15kmとかなり長い。途中でパンクやクラッシュといったトラブルに見舞われると、だましだましステージを走りきって対応する、という選択も難しい。

王者オジェの言葉ではないが、トラブルからいかに距離を置くかが重要になる。それでいて、速く走らなければ勝負には負けてしまう。そうした多角的な視点で対応していく必要があるのがラリー・トルコだ。

トヨタは現在、ドライバーズチャンピオンシップではタナックがトップにいるが、チーム間の争いであるマニュファクチュアラーズチャンピオンシップでは、ヒュンダイにリードされている。

その差は7ポイント。今回十分逆転が可能だが、実力がそのまま出せないとなると、3人のトヨタドライバーがどうラリー・トルコを攻略するかがポイントだ。タナックの3連勝はあるのか。そしてトヨタは、今回も表彰台上位に複数台を上げることができるのか。注目したい。<文/モータージャーナリスト・田口浩次>

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