田中美里、自信がないからこそ前向きに!彼女が信じて芝居を続けた“ある監督の言葉”

公開: 更新: テレ朝POST

©テレビ朝日

連続テレビ小説『あぐり』のヒロイン役で一躍注目の的となり、ドラマ、CM、映画、舞台と引っ張りだこで超多忙な毎日を送ることになった田中美里さん。

2003年には日本でも大ブームになった韓国ドラマ『冬のソナタ』のヒロインの吹き替えを担当。チェ・ジウさん本人からも絶賛され、冬ソナ以外の作品でも田中さんが声を担当していることでも知られている。

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◆自信のなさが私の強み

凛とした佇まいに力強いまなざしが印象的で、どんな役柄でも難なくこなすイメージだが、実はずっと自信がなく、理想と現実のギャップに悩んでいたという。

「私は2月生まれなんですけど、同じクラスでも2月と4月生まれでは1年ぐらい違うじゃないですか。そのせいだけにはできないんですけど、かけっこも幼稚園のときから遅かったし、『私は不器用で何をしても人より時間がかかるんだ』っていう自信のなさがずっと小さい頃からあって。

お芝居をやるときも、やっぱりちょっと考えすぎてしまったり、周りはできるのに、私はどうしてすぐにできないんだろうっていう葛藤があって、どんどん自分らしさが失われていった時期があったんです」

-それが変わったきっかけは?-

「そんなとき、『一絃の琴』(2000年・NHK)というドラマをやらせていただいた23歳のときにちょっと体を壊してしまったんですけど、そのドラマの大森青児監督が女優としての私をとても大切にして下さっていて、『ずっと女優を続けて欲しいから、今抜けきらなくていいよ。でも、ちゃんと乗りこえたときに振り返ったら、どんなに大きくて分厚い壁でも絶対に障子紙一枚のような薄さだよ。こんなことで悩んでいたのかって思うときがくるから』っておっしゃってくださったので、その言葉を信じてお芝居を続けてきたという感じです。

今では自信がないからこそ人より時間をかけてでも色んなことに挑戦しようと前向きに考えられるようになりました」

2001年、田中さんは転機となる映画『みすゞ』(五十嵐匠監督)に主演する。自身が人との出会いやつながりには本当に恵まれていると話すだけあって、五十嵐監督との出会いも驚くべきものだった。

「『ゴジラ×メガギラス G消滅作戦』を撮影しているときに、五十嵐監督の『地雷を踏んだらサヨウナラ』という映画を見て、当時のマネジャーさんに、『私この監督とやりたいので、もし小さい役でもいいのでオーディションがあったら受けたいです』って言っていたんですね。

そうしたらその一週間後に、五十嵐監督から手紙が届いたんです。私が監督とお仕事がしたいと言っていることは知らなかったのに、金子みすゞさんの『私と小鳥と鈴と』という詩と、『みすゞをやりませんか。一緒にやりませんか』というお手紙が入っていました」

-田中さんが一緒に仕事をしたいと思っていたことを伝える前にですか?-

「そうなんです。だからもうビックリしちゃって…。ご縁だなあって。20代の頃は、お芝居はこうじゃなきゃいけないんだみたいな若さゆえの変なこだわりがあって…。そんな私の視野を広げてくれた監督でもあります」

-具体的にはどんな感じだったんですか-

「人物そのものにならないと撮ってくれないんですけど、それは決して憑依(ひょうい)するということではなくて、みすゞさんというのは、いろんな視点から物事を見られる方なんですね。

みすゞさんの気持ちになって、田中美里にはない動きになっていくとき、監督が『今、みすゞになってきたね』って言ってくださって。

でも、それができるようになったのは、どうやって演じればいいかわからないときに、監督が、『みすゞ、いなくなりたかったらいなくなっていいんだぞ』っておっしゃったんですよ。普通は画面からいなくなったらだめじゃないですか。どのくらいまで映っているのかを計算をして演じていたのに、『えっ?画面からいなくなってもいいの?』ってビックリして。

そんな演出をされたことがなかったので、そこまで自由にできるのであれば、自分で色々制限しないでもっと自由にお芝居をしようと思うきっかけになりました」

(c)映画「二宮金次郎」製作委員会

◆夫役の合田雅吏さんは、かつて浴槽に沈めて殺害?

『みすゞ』の五十嵐匠監督と三度目のタッグを組んだ映画『二宮金次郎』が現在公開中。この映画で田中さんは金次郎の妻・なみを演じている。

※映画:『二宮金次郎』
幼い頃に両親が早死にし、弟二人とも離れ離れになった二宮金次郎。働きながら自分で勉学に励み青年になった金次郎(合田雅吏)は、“仕法”と呼ぶ独自のやり方で村を復興させようとするが、保守的な農民たちの反発に遭い…。

-田中さんの転機となった映画『みすゞ』の五十嵐監督との撮影はいかがでした?-

「今回またお声をかけていただいて本当にうれしかったです。脚本を読んで『なみを演じたい!』と強く思いました。『みすゞ』のときは20代でしたが、40代まで歩んできた私自身の生き方を見透かされるような気がして身が引き締まる思いでした」

-金次郎役の合田雅吏さんとは共演経験があるそうですね-

「はい。だいぶ前になるんですけど、そのときには私が合田さんをお風呂場で沈めて殺すという設定で(笑)。そんな二人が夫婦を演じているんですから、この仕事って不思議ですよね(笑)」

-その合田さんが二宮金次郎役ということを知ったときにはどんな感じでした?-

「二宮金次郎がそんなに大きい方だと思っていなかったので驚きました。合田さんは182センチぐらいあるので。薪を背負って本を読んでいる銅像の印象が強かったので、小柄なイメージだったんですよね。

でも資料を読み始めたら、実際の金次郎も身長が182cmだったと書いてありましたし、合田さんが『おじいちゃんが金次郎の銅像に似ている』とおっしゃっていたので、やるべくしてこの役がきたんだろうなって思いました」

-体重の増減も含め、真摯に取り組んでいる様子が伝わってきますね-

「すごかったです。撮影は金次郎が21日間断食をして戻ってくるところからだったんですけど、合田さんは7kg体重を落として撮影に臨んで、わずか数日でまた体重を元に戻してという感じで、すごい気迫でしたね。鬼気迫るものがありました」

-合田さんは田中さんの演じたなみにずいぶん助けられたとおっしゃっていましたね-

「この映画では、なみをどう演じるかよりも、金次郎の言葉、目つき、息遣い、動きなど、すべてを見逃さないように心がけていて、それでそこからあふれ出る思いはどういう行動につながるんだろうかという風にずっと思っていました」

-雨の中の泥まみれのシーンは圧巻でした-

「あれは3月のまだ寒い時期に雨を降らせての撮影だったんですけど、金次郎となみが何も言葉を発しなくて心が通じ合う大切なシーンでした。地面を濡らしたらヒルがたくさん出てきて、『ああ、しゃがむ芝居にしてしまった。どうしよう』って(笑)。

田んぼのなかでギリギリまで細心の注意を払って、どこに手をついたら大丈夫なのかを見ていました(笑)」

-大変でしたね。それにしても二宮金次郎が600以上の村を復興されたということを初めて知りました-

「勤勉で働きながら勉強していたという、その印象が強くて私もそういう表面的なものしか知りませんでした。でも、たくさんの復興をされた方でもありますし、平成は『復興』ということがすごくニュースでもよく出てきたワードですけど、だからこそ、今の時代にいてほしい人だなあと思います。

金次郎の人物像だけでなく、それぞれの人間の悲喜こもごもみたいなものが描かれているので、とても見応えのある作品です」

昔は小学校の校庭には必ずと言っていいほど、薪を背負いながら本を開いている二宮金次郎の銅像があった。そして「二宮金次郎のように勤勉であれ」と教わったものだが、近年では「歩きスマホを誘発する」という苦情が寄せられ、撤去する学校も多いというのだから驚く。

photo by fujiko

◆望むものを引き寄せるパワーが

今から8年前、田中さん自身がパーソナリティーをつとめていたラジオ番組の企画で「帽子を1日で作れる教室」を紹介することに。帽子が大好きだった田中さんは後日、スタッフとともにその教室を訪れ、すっかりハマってしまい、最近帽子のブランドまで立ち上げたという。

「昔から帽子は大好きだったので、すごく楽しくて、人にプレゼントしたりするときに通って作ってはプレゼントして…みたいな感じだったんですね。そういうことを話していたら、それを気にとめてくださって…。

でも、まさか帽子のブランドまで立ち上げることができるとは思っていなかったのでビックリしました。本当にありがたいなって思います」

-ブランド名がユニークですね-

「『Jin no beat shite cassie(ジンノビートシテカッシ)』という覚えにくいブランド名なんですけど、能登弁で(笑)。私のふるさと石川県の方言が、ちょっとフランス語とかイタリア語みたいな響きに似ていたので、それに当てはまるものはないかなと思って色々探してみたんですね。そうしたら『のんびりしていってくださいね』っていう意味の方言がすごくしっくりきたので、それに決めました」

-昔から帽子のブランドを立ち上げたいという思いはあったんですか-

「ないです。20代の頃の私に言ってあげたいです。『帽子を作っているよ』って(笑)。そのぐらい何もなかったですし、今でも不思議な気持ちになります」

-『あぐり』のヒロインをはじめ、五十嵐監督との出会い、帽子のブランド設立…色々なことを実現していくうえで引き寄せるパワーがすごいですね-

「そうですね。それは感じます。磁石が付いているみたいな感じで。それはすごく恵まれているなあと思います。誰かを思い描いていたら目の前にいらっしゃったりとか、お仕事で御一緒したりとか、そういうことはすごくよくあるので、恵まれているなあと思います」

-帽子作りの方も忙しくなりそうですね-

「はい。今、夏物が販売されていますが、秋冬物も撮影が終わって、今はまた次の春夏物を作っているところなので、結構細かく携わっているんですね。

最初に『名前だけだったらイヤです』っていう話をしていて、本当にしょっちゅう会って、デザインや素材について話し合っています。『うざいと思わないでくださいね』って言うくらい自分のなかではすごいこだわってやっています。

役者のお仕事とはまた違うお仕事をすることによって、相乗効果というか、どちらも自分にとって大切だと改めて思えるので、今はとてもバランスがいいなあって思います」

何事にも一生懸命に臨む真摯な姿勢がすがすがしい。いつも背筋をしゃんと伸ばしている美しい人。意外なことに一人で行動するのが好きで電車やバスで知らない土地に行き、地元の人においしいラーメン屋さんを教えてもらって行くこともあるとか。その行動力と引き寄せパワーで次に何をするのか楽しみ。(津島令子)

ヘアメイク:根津しずえ

(c)映画「二宮金次郎」製作委員会

※映画『二宮金次郎』
東京都写真美術館ホールにて公開中
全国各地の市民会館・公民館などで順次上映中
600以上の村の復興に命を懸けた二宮金次郎の生き様を描く感動作。
配給:株式会社映画二宮金次郎製作委員会
監督:五十嵐匠  出演:合田雅吏  田中美里 成田浬  榎木孝明(特別出演) 柳沢慎吾  田中泯

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