<WRC>初開催のチリでトヨタが優勝!WRC2クラスではトヨタ育成の勝田貴元も勝利

公開: 更新: テレ朝POST

現地時間の5月10日~5月12日、2019年のWRC(世界ラリー選手権)第6戦「ラリー・チリ」が開催。初開催地・チリでのラリーは、想像以上のサバイバルラリーとなった。

©TOYOTA GAZOO Racing

最終結果は、優勝はトヨタのオット・タナック。

続いて、2位セバスチャン・オジェ(シトロエン)/1位から23秒1遅れ、3位セバスチャン・ローブ(ヒュンダイ)/同30秒2遅れ、4位エルフィン・エバンス(フォード)/同1分36秒7遅れ、5位ティーム・スンニネン(フォード)/同3分15秒5遅れ、6位エサペッカ・ラッピ(シトロエン)/同3分45秒4遅れ、7位アンドレアス・ミケルセン(ヒュンダイ)/4分39秒0遅れ、8位クリス・ミーク(トヨタ)/同7分33秒4遅れとなった。

◆有力ドライバーが次々と餌食に

この週末は、想像以上にタフだった。最終日前日となる土曜日、ラリー・チリの餌食となったのは、トヨタのクリス・ミーク。

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SS7をスタートして2.4kmの時点で低速の左コーナーでマシンが横滑りし、マシンの右後ろを当てるような形でマシンを横転させてしまう。その後、マシンが修繕されるまで、フロントウインドウが無い状態でステージを走る羽目となった。

次の餌食は、ヒュンダイのティエリー・ヌービル。SS8の13.9km地点でマシンを大きくクラッシュさせた。この場所については、クラッシュしたヌービルのマシンをうまくかわしてSS8をゴールしたトヨタのラトバラが解説してくれた。

「あそこは危ない区間なんだ。ヌービルがクラッシュした地点は、ちょうど丘というか上り坂の先、ジャンプして次の右コーナーに備える場所で、先が見えない。手前にマーシャルがいたから、僕は気をつけてマシンを避けることができたけど、たしかに難しい場所だよ」と、ヌービルのクラッシュ地点を説明している。

実際、ヌービルのマシンは上り坂をジャンプして次の右コーナーへ飛び込むときにマシンの左側をコースに当ててしまい、そのまま回転しながらクラッシュしていった。かなりスピードが出ている区間であり、クラッシュ中にフロントウインドウが外れるなど衝撃は大きく、ドライバーたちを守る代わりにマシンは大破してしまった。これによってヌービルはラリー・チリをリタイアすることになった。

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さらに餌食となったのは、二度も他者のクラッシュや横転に邪魔されていたトヨタのラトバラ。SS12の7.1km地点で突然マシンを止めた。マシンからは煙が出ている。一度マシンを確認したラトバラは再スタートを図ろうとしたが、マシンの油圧が落ちてしまったのか、緊急スタートの手順を取ってもマシンが動かない。結局、マシンはドライブシャフトが破損しており、そのままデイリタイアとなってしまった。

◆タナック、優勝&パワーステージも1位

このように有力ドライバーが次々と苦しむなか、最終日、トヨタのタナックは2位とタイム差を確認しつつSSをこなしていく。

前日までの12あったSSのうち5つのSSでトップタイムを獲得したタナックだったが、最終日ばかりは最後のパワーステージまで力を温存した。代わりに、トヨタのミーク、シトロエンのオジェ、ヒュンダイのローブがそれぞれSS13・14・15を獲得し、オジェとローブは最後まで総合2位を争うこととなった。

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こうして迎えた最後のパワーステージ。ここで再びトヨタのタナックが卓越したドライビングテクニックと集中力を発揮し、パワーステージを勝利。優勝の25ポイントに加えて、パワーステージの5ポイントも獲得するフルスコアを決めた。

2位にはシトロエンのオジェが入り、オジェもまたドライバーズチャンピオンシップを競う上でしっかりと結果を残した。

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また、トヨタはこのパワーステージで1位、3位、5位を獲得。この週末、クラッシュやトラブルがなければ上位独占を果たした可能性もあっただけに、タナックの勝利は嬉しいが、本来の力を見せつけるラリーが出来なかったという点では、次回以降に克服すべき課題も残るラリーとなった。

公式会見でのタナックの様子は以下の通り。

――タナック、ラリー・チリ最初の勝者となりました。そして、チャンピオンシップ争いでも2位に浮上しました。この週末はどれくらい楽しめましたか。

「今はただ安心している。この週末は本当にタフだった。(コースを調べる)レッキの時点でコース状況はかなり難しいものになると思ったよ。そして初開催のラリーはタフなものだ。とにかく限界を超えないようにしないといけないが、限界ギリギリで走ることが難しい。だからこそ、大きなトラブルもなく、この場に座っていることは本当に嬉しく思う」

――実際、金曜日の初日を走ったとき、どのように感じましたか。

「金曜日の午前中はすべてが新鮮な感覚だった。マシン自体の限界ポイントと、攻め込んだときの限界ポイントを学ぶことが出来た。最初のステージでは、こうした感覚がなくて苦労した。SS1直後にすぐセッティング調整をした。そして次には自分がSS最速になり、マシンの感覚も理解できるようになった。おかげで金曜日午後は良い調子で走ることができ、少しずつギャップを築けるようになった。それ以降は、マシンをマネージメントできるようになったよ」

――今日のラリー中、すぐ後ろで2人のフランス人が迫ってきていて状況は落ち着かないと言っていましたが、それは本当だったのですか?

「ステージは狭いのに速度域は速く、集中力が必要とされて、とにかくタフだった。後ろとの差をうまく守りたかった。ただ、それと同時に最後のパワーステージにタイヤを残しておきたかった。(そうしたなか後ろが迫ってくるので)高いレベルでリズムを保つことは決して楽な仕事ではなかった」

――パワーステージで勝つことは期待していましたか。

「それを予定というか想定するのは難しいね。いい感じだったので、とにかくリスクは取らないギリギリのところで攻めた。状態は午前中より向上していた。今日のような形でラリーを終えられることは重要だ。ここまでの数戦、自分たちは間違っていたから、ポイントを失ってきた。それだけにこの週末は結果を残してポイントを獲得することは重要だった。もしこれでなにも得られなかったら、さらにモチベーションが下がったところだ。これでやっと本来の道に戻ってきた。ここからはプッシュしていくだけだ」

◆トヨタ育成ドライバー・勝田貴元、WRC2クラスで初優勝

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実はこの週末、WRC2クラスに挑戦している日本人ドライバーとしてWRCへのステップアップが期待されているトヨタの育成ドライバー・勝田貴元もラリー・チリに勝利した。公式会見の様子は以下の通り。

――今シーズンWRC2で初優勝おめでとうございます。この週末を通じて、2位の選手との争いが非常に激しかったですね。ラリー・チリはタフな挑戦でしたか。

「この週末は誰にとっても非常に難しいものだった。高速ステージなのにトリッキーだったりと、僕にとって楽ではなかった。ただ、初開催ラリーを戦うという非常に貴重な体験が出来た。まずは目標としていた結果を出せたことで嬉しく思っている」

――週末はずっとアルベルト・ヒーラーとの戦いでした。(※最終日SS14の16.8km地点でヒーラーがクラッシュし、激戦はこの時点で終了した)

「そうだね。ここは彼にとってはホームイベントだっただけに、ずっとプッシュしてきていた。そんななか、僕は勝ちたかったし、自分のベストを尽くした。だから彼のこと(クラッシュ)は残念だ。すごく速かったからね。本当なら最後のステージまで競い合うところだった。そうはならなかったけどね。正直言って、チャンピオンシップは僕の本来の目標ではない。僕の目標は未来のための経験を得ること。だから、良い結果を取ることはもちろん良いことだ。それ自体が僕自身(近い)未来で挑戦すべきことだからね」

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各ドライバーに大きく牙をむいたラリー・チリ。これによってチャンピオンシップポイントにも変動があった。

まずドライバーズチャンピオンシップは、1位にセバスチャン・オジェ(シトロエン)が122ポイントで浮上。2位オット・タナック(トヨタ)/112ポイント、3位ティエリー・ヌービル(ヒュンダイ)/110ポイント、4位クリス・ミーク(トヨタ)/56ポイント、5位エルフィン・エバンス(フォード)/55ポイントと続く。

マニュファクチャラーズタイトルの争いは、1位ヒュンダイ/178ポイント、2位トヨタ/149ポイント、3位シトロエン/143ポイント、4位フォード/100ポイントとなっている。

次戦は、ヨーロッパの地に戻り、5月30日から6月2日にかけて「ラリー・ポルトガル」が行われる。こちらも、アルゼンチンとチリに続きグラベル(未舗装路)ラリーだ。

欧州開催ということで、各チーム万全の体制で勝負することになり、各チームの総合力が垣間見ることができるラリーとなる。果たしてトヨタは連勝なるか、注目したいところだ。<文/モータージャーナリスト・田口浩次>

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