帰宅部の中学生が、YouTubeきっかけでスター選手になるまで。話題の競技“パルクール”の本質

公開: 更新: テレ朝POST

BMXパークやボルダリング、ブレイクダンスなど25種目を超えるアーバンスポーツが一同に揃う大会、「FISE(フィセ)」。発祥地のフランス・モンペリエでは5日間で50万人以上を動員した年もあるなど、世界規模で高い集客力を誇るイベントだ。

そんなFISE、日本では4月19日(金)~21(日)に、昨年に続き広島県で「FISE WORLD SERIES HIROSHIMA 2019」、通称“FISE広島”として開催される。

そして、同大会の数ある競技の中で一際異彩を放っているのが、「パルクール」だ。

パルクールは、体身ひとつで移動しながら“走る・跳ぶ・登る”などを行うフランス発祥のスポーツ。バク転やバク宙なども織り交ぜられたその動きはまるでCGやアニメのようでもあり、実際にアクション映画などでパルクールのパフォーマー・アスリートが登場することも珍しくない。

そんなパルクールで注目を集める日本人選手を紹介しよう。

数々の世界大会で実績を残し、映画『HiGH&LOW』シリーズにも出演。2019年4月時点でのInstagramのフォロワーは約27万人と、パルクールのみならずアーバンスポーツ界全体でも随一の人気を誇る選手、ZEN(ゼン、25歳)だ。

◆帰宅部だった中学生が、YouTubeでパルクールに出会った

ZENがパルクールと出会ったのは、15歳、中学3年生の頃。

当時のZENは、部活に入っていない所謂“帰宅部”であり、スポーツに打ち込んだ経験もなかった。自ら当時を「この先やっていきたいこと、目指したい夢がないまま過ごしていた」と振り返る。

またZENの兄は、のちにプロフットサル選手になったほどのスポーツマン。当時からサッカーの選抜メンバーに入って活躍していた兄の存在もあって“帰宅部”の劣等感は拭えず、「自分は何も向いてないし、何の才能もないと思っていた」という。

ZENがパルクールと出会ったのは、そんな時期だ。きっかけはYouTubeだった。

「クラスメイトが、“これ見たことある?”って外国人がパルクールをやっているYouTubeの映像を見せてくれたんです。衝撃でした。人間は体一つでここまで動けるのか、人間ってこんなに可能性あるんだって。人はここまでしかできないんだ、ここから先はファンタジーの世界だと自分のなかで固定概念で線引きをしていて、そういうものをぶっ壊されました。

その日以来、“人間の可能性”というものに魅せられてしまって、毎日毎日公園で(パルクールの)真似をしてみたりとハマっていっちゃった感じです」(ZEN)

“帰宅部”の生徒がネットで見つけた動画から新興のスポーツに魅せられ、クラスメイトたちが学校で部活に汗を流している時間に、公園で同じく練習に励む。そして、独学のもと技術を身に着けていき、高校1年生から本場ロサンゼルスで武者修行。ついには、オリンピック出場の可能性まで見えてきている。(※パルクールは、2024年パリ五輪追加種目候補)

ZENの歩みからは、まさに現代ならではのスターアスリート誕生の兆しがみえる。そして、彼の心に火をつけたきっかけも、非常に現代的だ。

「(YouTubeの動画を初めて観たときに)すごく覚えているのが、コメント欄。そこで日本人から書かれているコメントがみんなネガティブで、『外国人だからできる』とか『外国人がやるからかっこいんだ』みたいなものが多かったんです。

日本は体操競技が強いじゃないですか。日本人選手が金メダルも獲ってあれだけ国際舞台で活躍しているなかで、『日本人はここまではできないよね』ってコメントまである。そんなことないはずなのに、と思いました。

とにかく、そのときのコメント欄が引っかかっていて、日本人だから…というような、そういう固定概念もぶっ壊してやりたい。活動していくうえでの永遠の課題です」(ZEN)

“あの日”に目にした、顔も名前も知らないコメント欄のネットユーザーたちの考え方を変えてやりたい。パルクールと出会っておよそ10年が経ち、国際大会で日本人初の優勝まで果たしたZENだが、その思いは消えるどころか今でも強い原動力となっている。

◆パルクールの本質は「想像と結果のギャップを埋めること」

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日本のパルクール第一人者として走ってきたZEN。「自分の生きている限り、すべてパルクールに捧げる」と豪語する彼はいま、パルクールの魅力を外にアピールし、パルクールを普及させていくということを使命のひとつにしている。

パリ五輪で追加種目候補になっていることも踏まえ、「つい数年前まで誰も知らない、無名のカルチャーだったパルクールなんですけど、ワクワクするような展開になってきている。これまでは、パルクールの魅力というのを外の知らない人に対してアピールしていく人間がいなかった。じゃあ自分がそれになろうと」と話すZEN。

その思いを証明するように、彼はパルクールの本質や魅力について、非常に論理的に言語化している。

パルクールを一言でいうと、「自分の体だけを使って、周囲にある街中をすばやく移動するなかで、自分のこころと体を鍛えていく(こと)」とするZEN。“こころと体を鍛える”とは、どういうことなのか。

「パルクールは哲学なんだということが、昔から言われています。ちょっと武道の精神に似ているところもあって、パルクールの精神がほかの筋力鍛練とどこが違うのかというと、メンタリティーを鍛えることにあるんですよね。

(高所でのトレーニングなど)危なっかしい映像を見ることもあると思うんですけど、あれは何なのか。スリルを求めた若者の無謀なチャレンジって誤解されやすいけど実はちゃんと理由があって、“自分のパフォーマンスを自分の恐怖心で制御しない”ところに狙いがあります。

例えば、道に引いてある歩道の白線からはみ出ずに歩くというのは、きっとほとんどの方が出来ると思うんですが、これが同じ幅で、下が見えないほど高い場所の崖から崖の間に繋がっている1本の柱だったら、そこを歩けるか…。

これが出来ないのは、自分が持っているパフォーマンスをメンタルが制御してしまっているってことじゃないですか。それをなくしていくというのが、パルクールのトレーニングにおいての最も特殊な部分だと思います」(ZEN)

そしてまた、ZENはパルクールの“本質”について、「ギャップを埋めていくこと」と語る。その意味は?

「最初にYouTubeの動画を観たとき、そこから“できそう”なものを見よう見まねでやっていました。そうすると毎日新しい発見があって、『これくらいだったらできる』や『これはちょっと無理だろう』という推測のほとんどが間違っていたんです。いかに自分が自分のことを知らないか、いかに自分の能力について今まで関心がなかったかを思い知らされました。

そこからの作業は、自分の想像と実際の自分のパフォーマンスに誤差がないよう、そのギャップを埋めていくことです。自分がこういう風に体を動かしたいと思っても、実はそんなに飛べないとか、コントロールができないとか、足が上がっていないとか。そういう“想像と結果のギャップ”。このギャップを埋めていくことこそが、パルクールの本質かと思います」(ZEN)

門外漢の人にとって、これほど分かりやすくパルクールのプレーヤーたちが目指していることを説明する言葉はないだろう。「パルクールを普及させていく」という使命に燃えた、ZENの思考の積み重ねがうかがえる。

そして、「パルクール好きですね」と言われたZENは、こう答えた。

「パルクール、好きです。そう思っているし、そう言えますけど、『パルクール好きですか?』って聞いてくれる人はなかなかいない(笑)。

やっぱりパルクールをしている瞬間が最高に幸せですし、ありがたいことにパフォーマンスで大きな舞台に立たせていただいて、そこで最高の気持ちいいパフォーマンスができて、天にも昇るような気持ちになった翌日、近所の公園で地味な練習をしていても、やっぱり楽しいなって思う。

何よりもその気持ちがあるから、毎日生きる意味をもらっているから、パルクールに恩返ししないといけないなと思ってます」(ZEN)

そんなZENも出場する“FISE広島”は、4月20日(土)・21日(日)に「AbemaTV」にて独占生中継される。

FISE WORLD SERIES Hiroshima 2019 04.20
放送日:4月20日(土)午前11時30分~
放送チャンネル:SPORTS LIVE1

FISE WORLD SERIES Hiroshima 2019 04.21
放送日:4月21日(日)あさ9時55分~
放送チャンネル:SPORTS LIVE1

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