筒井道隆、親父役・奥田瑛二と撮影期間中ほとんど視線を合わせなかった理由

公開: 更新: テレ朝POST

©テレビ朝日

映画『バタアシ金魚』で主演デビュー以降、映画、ドラマ、舞台で活躍している筒井道隆さん。

自転車好きとしても知られ、小学生のときにひとりで約350km離れた名古屋の祖母の家まで行っていたほど。2013年にはフランスとイタリアで開催された自転車レースにも挑戦。それは7日間で獲得標高2万メートル以上という過酷な山岳ステージレースだったという。

©テレビ朝日

◆レース直前にまさかの事故に遭っていた

-かなり過酷なレースだったようですね?-

「楽しかったですよ。海外のレースに行ってみたかったし、1日に200km以上、5日間走ったこともあったので、そんなに過酷だとは感じませんでした。獲得標高とか、そういうのはあまり気にしてなかったですね。僕はそのレースに2度出ているんですよ。1回目はチームで出て、2回目はその2年後にプライベートで」

-1回目はプライベートではなくチームでの出場でしたが、そのために何か制約があったりしたのですか?-

「いえ、基本的には自転車のフレームとウェアとか一部しか供給されないんですよ。あとは全部自腹なんです。だから、もうほとんどプライベートなので、カメラマンの人が帯同していたけど、『これはほとんど自腹なんだから、自分のやりたいようにやろう』と思って、『こうやってくれ』とか色々と指定されても、イヤなことはイヤだとはっきり言っていました。

それは自分に言い聞かせていました。油断すると僕は全部従っちゃうから(笑)。でも、結果的には良い関係が結べたので良かったんですけどね。それもいい勉強になりました」

-それで2年後に今度はプライベートで?-

「そうです。実は1回目のときに僕、レースの2カ月ぐらい前に事故に遭ったんですよ。自転車の練習をしているときに後ろから車に引っかけられて。結構そのレースに出られないくらいのケガをしていたんですけれども、無理矢理出ちゃったんです。だから、全然不本意な順位だったので」

-その状態でよく完走しましたね-

「そうですね。右手を傷めたので、右手を使わない練習をずっとしていたんですよ。その悔しさがあったので、前回一緒に行った知人から『行かない?』って言われて2年後に行ったんです」

-今後もレースに出る予定はあるんですか?-

「ないです。全然ないです。今は歴史とか日本史、哲学に興味があるので、自転車にはあまり乗ってないんです。自転車に乗ると3、4時間取られちゃうから、その時間がもったいなくて」

-歴史を勉強しようと思ったきっかけは?-

「歴史のことをあまりに知らなさすぎて、今あるニュースとかを冷静に判断できないからです。歴史を知らなければ何も言えないじゃないですか。何も答えが出ないし、自分は何も知らないんだなっていうことに気づいて。すごい前から、いつかやらなきゃいけないとは思っていたんですけど、『もうやらなきゃダメだ』と思って始めました。

できるだけいっぱい情報を集めて調べていくと、世界で起こっているさまざまな出来事がすべてつながっているということがわかってきて、すごく楽しいし勉強になります」

-楽しみながら勉強しているというのはいいですね-

「知れば知るほど頭にくることもたくさんありますけど、ケンカしても何も解決しないから、やっぱりちゃんとみんな議論を冷静にして、その中でこれからの子供たちに何が1番ベストかというのを模索するのが大人の役目なんじゃないかと思います」

真剣なまなざしで日本の未来を案じる姿は、大学教授か政治家のよう。映画などの撮影の合い間にも、他愛のない話から「きょうのあのニュース見た?」という展開になることがあり、「政治家になれば?」と言われることもよくあるとか。

©テレビ朝日

◆ガレッジセールのゴリ監督映画で父に対する怒りを放出

30代半ばから仕事に対して自分の意思も示すようになったという筒井さんが、自身の姿と重なるという役を演じた映画『洗骨』が2月9日(土)に公開される。北米最大の日本映画祭「第12回JAPANCUTS」では観客賞を受賞。モスクワ、上海、ハワイなどの国際映画祭で高い評価を受けている。

これはガレッジセールのゴリさんが本名の照屋年之名義で監督・脚本を務めた作品。今も沖縄の一部離島で今も残っている「洗骨」(一度土葬あるいは風葬を行い、遺体が骨となった後、その骨を海水や酒などで洗い、再度埋葬する)という風習が題材。

愛する人の死から洗骨までの時の流れを通して、バラバラだった家族が再生していく姿を描くこの作品で、筒井さんは、妻の死を受け入れられず、酒浸りですさんだ生活を送っている父を嫌悪しながらも、父親の借金を返し続けている長男を演じている。

-この作品のお話があったときはいかがでした?-

「最初に台本を読んだときにすてきなお話だなと思いました。それまで洗骨という風習を知らなかったので、撮影に入る前に実際の洗骨の様子を撮影したDVDを見させていただいたのですが、それは本当に衝撃的でした。でも、シリアスで重い作品になりそうですが、コメディーの要素もたくさんあるので、楽しく見ていただける作品だと思います」

-しっかり者だけど、自身も色々と悩みを抱えている長男・剛役ですが-

「そうですね。奥田瑛二さんが演じるのはすごいダメな父親役なんですけど、僕の父親もダメだよなぁと思うところがたくさんあるので、そのフラストレーションをぶつけました。本当に設定がすごく似ていて、妹もいるし、台本を最初に読ませてもらったときに『あぁ、なんか自分と近いなあ』と思ったんですよ」

-元ボクサーで武道家でもあるお父様の風間健さんは、厳しくてちゃんとしているというイメージですが-

「僕もずっとそう思っていたんですけど、でも、実際は全然ちゃんとしてないので、『そういうのは実際どうなんだ?』って最近すごく思います。子供のときにはそんなこと言えなかったですしね。だからそれに対するフラストレーションが、今すごくあるんです。そういう思いを今回芝居ですべてぶつけました(笑)。『ありがとうございます、ゴリさん』という感じです」

すさんだ生活を送っている父、そんな父に愛想を尽かしている息子という空気感を出すため、奥田瑛二さんとは撮影期間にほとんど視線も合わさず、言葉も交わさなかったそう。2人の様子を見たゴリさんは、本当に仲の悪い人をキャスティングしてしまったかもしれないと思ったほどリアルだったという。

「やっぱりその空気感って大切だと思って。奥田さんとはお互い自然にそうしていましたね。奥田さんも僕もお互いの存在を意識しているんだけど、あえて見ないし言葉も交わさない。そういう張り詰めたものがあったからこそ、洗骨を通して、バラバラだった家族の心がほぐれて再生していく様がリアルに感じられるのだと思います」

-沖縄での撮影期間はどのくらいだったのですか-

「ひと月ちょっとです。僕は何回か仕事で離脱していますけれども、ほとんど向こうにいました」

-撮影が終わったらみんなでお酒を酌み交わすという感じですか-

「奥田さんは飲んでいましたね。役柄の父親と同じようによく飲んでいて、そこもリアルでした。僕は飲まないので、みんなが飲んでいるときには寝ていました。僕は結構いつもそうなんですよ。あとはほとんど空や海を見てボーッとしていました。ボーッとしているのが好きなので」

(C)『洗骨』製作委員会

沖縄ロケでは笑えるエピソードがあったことを監督が披露。未婚で臨月の長女・優子役の水崎綾女さんはお風呂と寝るとき以外はシリコンで作った臨月のお腹のままで過ごしていて、先に撮影が終わって奥田さんと2人でお店に入っていたところ、はたからは奥田さんが妊娠させた若い女性を島に隠していたようにしか見えなかったとか。

しばらくしてスタッフとキャストが合流して誤解は解けたが、周囲の疑惑のまなざしは痛いほど奥田さんも感じていたという。

-監督としてのゴリさんはどんな感じでした?-

「『こういう画が撮りたい』というのがはっきりされている方なので、それに沿って。僕もそういうのは嫌じゃないので。それで、やっぱり役者さんもやられているので、役者サイドのこともすごくわかっていてやりやすかったです」

-撮影で印象に残っていることはありますか-

「半分が沖縄のスタッフだったんですよ。だから、沖縄のテンポで撮っていましたね。小道具とかも決まっていたものじゃなくて、違うものが用意されていたりするんですよ。最初に決まっていた小道具じゃないと成立しないんじゃないかと思っていたんですけど、ゴリさんは『もういいよ、これで』とかって言っているし(笑)。

何か問題があっても、『大丈夫、大丈夫』って、細かいことにこだわらない。こだわらない感じが沖縄っぽくて楽しかったです。シリアスな題材だけどコメディーベースで、大事なこともちゃんと伝えている。こういう作品はすごい好きです」

トレンディー俳優としてブレークした当時はすごく悩んだそうだが、誰でもなれるわけではないのだから、今はすごく感謝しているという。

時が経ち、自分の意思で仕事を選択するようになった筒井さん。精魂こめて取り組んだ映画の公開を控え、「沖縄に洗骨という風習があったことを多くの人に見てもらって、命の大切さを伝えてほしい」と熱い思いを話していた。(津島令子)

(C)『洗骨』製作委員会

※映画『洗骨』2月9日(土)より丸の内TOEI、シネマート新宿ほか全国ロードショー。
配給:ファントム・フィルム
監督・脚本:照屋年之 出演:奥田瑛二 筒井道隆 水崎綾女 大島蓉子 坂本あきら 鈴木Q太郎 筒井真理子

PICK UP