女優・しゅはまはるみ、いま振り返る『カメ止め』の怒涛の日々。毎日がお祭りのようで「どういう状況!?」

公開: 更新: テレ朝POST

スーパーモデルのナオミ・キャンベルに変身するエステのCMで話題を集め、舞台やテレビに出演していたが、一時期女優業を引退。結婚と離婚、そして半年あまりの引きこもり生活を送っていたというしゅはまはるみさん。

エステのCMディレクターだった山内ケンジさんの舞台で女優活動を再開。舞台をメインに活動しながら『痛快TVスカッとジャパン』(フジテレビ系)などにも出演していたが、2018年、ミニシアター2館での公開から300館以上の劇場で拡大公開になるという異例の大ヒットを記録した映画『カメラを止めるな!』(上田慎一郎監督)に出演したことで女優人生が激変することに。

◆東日本大震災が人生の転機に

2006年に半年間の引きこもり生活から脱し、演劇仲間と再会したしゅはまさんは人の優しさに触れ、芝居の楽しさをあらためて実感したという。

「お芝居はやっぱり楽しいなって思いました。それで演劇ユニットを立ち上げたりボチボチとやっていたんですけど、もちろん食べてはいけないのでアルバイトもしていました。でも、ダサい言い方なんですけど、『生きる意味がない。ていうか生きる意味って何?』ってずっと思っていて。『別にいつ死んでもいい』と思っていたので自堕落な生活をしていたんですよ。

でも、2011年に東日本大震災が起きて…。母方はみんな福島で、いっぱい親戚がいたんです。なのに何もできない自分が悔しくて。『(私は)実際の被災者じゃないのに、私が参っちゃうなんてどうなのよ』って思いながらも、やっぱりすごく参ってしまいました」

-人生の転機にもなったとおっしゃっていましたね-

「はい。それまでは『食えなくなったら、別に死ねばいいんじゃない?』みたいな感じでしか生きていなかったんですけど、本当に大切な人たちを自分の力で守ろうと思ったらお金がないと守れないということにそのときに気づいて、そこから意識が変わりました。生活態度も本当に変わって、『あれっ?私もまともな暮らしができる人間になれたんだ』って自分でびっくりしました」

-睡眠障害も自力で克服されたとか-

「そうなんです。ネットで調べていたら、『夜、明かりをつけていると眠れなくなる。逆に朝は明かりがないと起きられない』と書いてあったんですけど、私の部屋は西陽が入るからダメかもしれないと思って4万円の光療法器具を買ってみたんです。

その頃の4万円は私にとってすごく大きかったんですけど、買ってみようって。それぐらい本気で睡眠障害を治したいと思っていて、その頃の行動力は自分でも褒めたいと思います(笑)」

-チーママになったというスナックのアルバイトもその頃ですか?-

「本当はチーママじゃないんですけど、ただただやっていたら古参になっちゃっただけで(笑)。2011年からなので長いですね。今でも在籍はしていますよ(笑)。そこは本当に生まれてはじめて続いたバイト先です。第二の我が家だと思えるくらい居心地のいい環境なんです」

-そういう居場所があるというのはいいですね-

「本当にそうですね。生まれてはじめて『辞めたくないな、ずっとここでみんなと一緒にいたいな』と思えた場所なんです。根気がなくて気が弱ってるとすぐにバイトをサボっちゃうような私をなだめすかしてくれて、『メンタルがつらくて来れないというんだったら、普通に言って。必ず連絡だけして』って言ってくれて。

『お客さんと楽しくしゃべる気力がないので行きたくない』なんて言いづらいじゃないですか。なのに、ウソをつかなくてよくなったからすごく楽になったんですよね。ダメなときは『ごめんなさい。今日ちょっとムリかも』って普通に言えばいいんだというふうになったら、逆に行けるようになったんです。

『今日ムリかも』と何度言っても『いいよ、わかったよ』って返してくれる人のもとにだったら逆に行けるようになって、続けられるようになりました。受け入れてくれたから行けるみたいな」

 

◆『カメラを止めるな!』に出演することに

2017年、上田慎一郎監督と出会ったしゅはまさんは、ENBUゼミナールのワークショップに参加。オーディションを経て『カメラを止めるな!』に出演することに。

-映画『カメラを止めるな!』に出演することになったのはワークショップで?-

「はい。舞台もワークショップからオーディションみたいなのがたくさんあるんですが、映像でそういうことがあるというのを知らなかったんです。小劇場の舞台をやっている人間と、自主制作系で映像をやっている人間ってなかなか交わらないんですよ。なので、正直知らなかったんです。

でもその頃、舞台のオーディションとか舞台の学校にあらためて入りなおそうと思っていて、ネットで調べていたら『あれ?これは舞台じゃないな。自主映画というのがあるんだ』ということがわかって。それで映像に関わったことがある友だちに聞いて、オススメのワークショップに通い出したりしていたんです。その流れで『カメ止め』のワークショップがありました」

-上田慎一郎監督の印象は?-

「はじめて会ったのはじつはワークショップではなくて、その直前に山岸謙太郎監督が作った自主映画の上映会を見に行ったときだったんです。

山岸監督と顔見知りだったので見に行って、終わった後『おもしろかったです』って言って帰ろうとしたら、『しゅはまさんに紹介したい人がいる』と言って紹介してくださったのが上田監督夫婦(上田監督&ふくだみゆき監督)で、『ものすごくおもしろいものを作るから、今度上映会とかあったら絶対見に行ってね』って山岸監督に言われたんです。

同業者で、しかも同年代の同性の人がこれだけ褒めるってなかなかないよな、これは本当におもしろいんだろうなと思ったから、15万円かかるからやめておこうと思ったワークショップに参加してみようって。山岸監督の言葉を信じて行ったら、こんなことになったんです」

-ワークショップには何人ぐらい参加していたのですか?-

「30人ぐらいだったと思います。そのうち『カメ止め』に選ばれたのが12人」

-選ばれる自信はありました?-

「自信はなかったですけど、その直前に参加していた別の監督のワークショップでものすごく初心に帰らされるような出来事があったんです。『謙虚にではなく、もっと野性的にガツガツ、自分は本当に何を目指しているのかをしっかり掴み取りに行きなさい。周りの顔色をうかがったり、人に譲っている余裕なんかないんじゃないの?』みたいなワークショップに参加していたんです。なので自信はわからないですけど、掴み取りに行くしかないなと思っていました(笑)」

-すごいタイミングでそういうワークショップに参加されていたのですね-

「本当にそう。だから、かなりガツガツしていたのでしょうね。一緒にワークショップに受かった『カメ止め』の出演者たちからは『怖い人がいる』って思われていたらしいです(笑)」

-撮影はいかがでした?-

「撮影はもう本当にすべてが生まれてはじめての経験で、本当に駆け足で必死で走り抜けたみたいな表現が正しい5日間でした。前半部分を5日間で撮って、映画全体は8日間で撮りました」

-撮影は予定通りに順調にいきました?-

「進まないですよ(笑)。まず時期が梅雨だったので、撮影期間が限られているのに、『雨だから明日の撮影は中止で別のシーンを撮ります』みたいなのが日々ぐるぐる入れ替わって。『やっぱりやります』とか、『午後から晴れるから、やっぱり前の予定に戻します』という感じで大変でした。

『えっ?そういうものなの?現場って、よくわかんない』みたいなのもあったし。あと、廃墟だから雨漏りとかしていて水浸しになっちゃうんですよ。それで、撮影のためにみんなで廃墟の床を雑巾で拭いて。

『こんなとこ拭いたって何も変わらないんじゃないの?』って思うじゃないですか。でも、みんなで拭くと水がなくなるものなんですね(笑)。拭いて絞ってというのをやって、雨なんか降っていませんでしたというような状況にするという感じで、『映画ってすごいなあ』って思いました(笑)。

それまでも映像のお仕事はちょこちょこといただいてはいたんですけれども、どういうふうに取り組んだらいいかわからなかったというか…。だいたい1シーンだけの出演とかだったので、どういうふうに取り組んだら楽しめるのかというのが全然わからなかったんです。でも、『カメ止め』でガッツリ自分たちで考えてアイデアも出して。

台本が上がってきても、『この台本に対して何か思うところがあるなら言ってください』って監督が何でも聞いてくれたので、何でも言って。10アイデアを出したら、そのうち半分くらいは取り入れてくれるみたいな感じだったので、『アイデアがあったらどんどん言ったりやったりしていいんだ』というのをはじめて経験できたのが『カメ止め』でした」

◆『カメラを止めるな!』公開で女優人生が激変

『カメラを止めるな!』は2018年に公開され、ミニシアター2館での公開から300館以上の劇場で拡大公開になるという異例の大ヒットを記録することに。

-完成した映画をはじめてご覧になったときはいかがでした?-

「不思議な気持ちでした。こんなにずっと自分が映像に出ているものを見ることはなかったので、『ずっと出ているなあ』って(笑)」

-とても印象的な役でしたね。「ポン!ポン!」というセリフも-

「自分では出来上がるまでちゃんとは意味がわからなかったんです。どこで自分が映っているのか、映っていないか、出来上がるまで私はわからなかったので。『このシーンでカメラはこっちを向いていたのに、映ってなかったんだ』とか、『ポン!ポン!』って自分が映っていないところで声が上がっているというのも、はじめて見たときにやっとわかりました(笑)」

-マスコミ試写がはじまった当初からかなり話題になっていて、公開されたらすごいことになりました-

「本当にね。よくわからなかったけど、今から振り返って思うと、それこそ『カメ止め』に出るときに自分で掴み取りに行かなきゃっていうときの思いが一回も切れなかった作品でした。上映が決まった後もみんなでチームを組んで、チラシを配りに行ったりとかしていたんです。

あんなに必死になってチラシを配ったのは、それまで出演した舞台でもなかったと思うくらいでした。居酒屋さんやレストランに飛び込みで行って、『今度これをやるんですけど、チラシを置いてください』って、多分100店舗くらい飛び込みで行ったんじゃないですかね。チームで一緒になって」

-その甲斐もあって記録的な大ヒットに-

「そうなんですよ。映画が話題になったあとにTwitter上で『うちにチラシを置きにきてくれたあの映画じゃん』みたいに、たまにお店さんがあげてくれることがあったので、『あれだけチラシ配りの努力をした甲斐が、ちゃんとつながっているんだな』と思いました」

-上映期間、日替わりで監督やキャストの皆さんが舞台あいさつに登壇されたことも話題になりました-

「あんなことはもう二度とないだろうなと思います。見た人全員で文化祭に参加したみたいな雰囲気で、ロビーは『打ち上げようぜ、イェーイ!』みたいな感じした。みなさんと一緒になって」

-毎日がお祭りみたいな感じで?-

「本当に。『私たちのことなんて誰も知らないはずなのに、みんながパンフレットを買ってサインをくれと言って並ぶって、どういう状況!?』って本当に思いました」

-周囲の状況もどんどん変わっていったと思いますが、その変化はいかがでした?-

「本当にこんなことがあるんだなあということの連続でしたね、日々。あれから2年ぐらい経ちますけど、自分がお芝居だけでご飯が食べられるようになるなんて夢としか思っていなかったですから」

-「東スポ映画大賞」では助演女優賞でノミネートされていたのが、(ビート)たけしさんの一言で新人賞を受賞されました-

「そうなんですよ。残念ながら授賞式には行けなかったんです。たけしさんに直接いただきたかったのに、授賞式と撮影が重なってしまって。そんなこともあるんですね。それまではときどき入るCMのオーディションとバイトのシフトの調整しかしてこなかった私が、授賞式とドラマの撮影が重なってしまうなんて、想像すらしなかったことが起きていました」

『カメラを止めるな!』で話題を集めたしゅはまさんは、『家政夫のミタゾノ』(テレビ朝日系)、『俺のスカート、どこ行った?』(日本テレビ系)、連続テレビ小説『スカーレット』(NHK)など話題作に次々と出演することに。

次回後編では、有名パーソナルジムでの約15キロのダイエット、公開中の映画『あらののはて』の撮影裏話、海外ドラマへの挑戦などを紹介。(津島令子)

©︎ルネシネマ

※映画『あらののはて』全国順次公開中
配給:Cinemago
監督:長谷川朋史
出演:舞木ひと美 髙橋雄祐 眞嶋優 成瀬美希 藤田健彦 しゅはまはるみほか
高校2年の冬にクラスメートで美術部の大谷荒野(髙橋雄祐)に頼まれ、絵画モデルをしたときに感じた理由のわからない絶頂感が今も忘れられない野々宮風子(舞木ひと美)は、8年後、荒野にもう一度自分をモデルに絵を描けと迫るが…。

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