コロナ禍の影で、番組制作の現場は大きく変化していた! 『かんさい情報ネットten.』のもうひとつの物語

公開: 更新: 読みテレ
コロナ禍の影で、番組制作の現場は大きく変化していた! 『かんさい情報ネットten.』のもうひとつの物語

コロナ禍における新しい生活様式が取り入れられ、世界規模で人々の暮らしは大きく変わりました。ソーシャルディスタンス、3つの密の回避、マスク着用…。
それはテレビ番組をつくる制作現場でも同じ。『かんさい情報ネットten.』(以下『ten.』)では、新型コロナウイルス問題を受けて刻々と変わる状況に柔軟に対応し、時にはピンチをチャンスに変え、前向きに番組作りに取り組んでいます。
はたして、コロナ禍における番組づくりは、どのように行われているのでしょうか?

コロナ禍で明確になった視聴ニーズにいち早く対応した『おでかけしないコンシェルジュ』

ytv屋上テラスでコーナーを進行するヤナギブソンytv屋上テラスでコーナーを進行するヤナギブソン

新型コロナウイルス問題による外出自粛ムードが広がる中で、『おでかけコンシェルジュ』を担当する三輪宗滋チーフプロデューサーの脳裏にまずよぎったのは「“おでかけ”はできないな」という危機感。ですが、コーナー休止は「一切考えていなかった」と言います。「もともと、スタッフの間で『視聴ニーズのある情報をなるべく早く拾おう』という意識があったので、早い段階でリサーチャーから『最近、デリバリーやテイクアウトが流行っているようです』という情報が上がってきたんです。それで大阪市内の飲食店を調べてみたら、案外と情報が集まり、『これならいけるな』と」。

ロケコーナーは総じて“特別編”として過去の放送を再編集して放送する番組が多い中、『おでかけコンシェルジュ』はどこよりも先駆けて『おでかけしないコンシェルジュ』に移行して、4月21日から新企画をスタート。デリバリーに焦点を当て、テイクアウトできるグルメを紹介するというスタイルに変更し、コーナーを存続しました。とはいえ、4月の段階では情報収集に試行錯誤したこともあり、「本当に成立するのだろうか」という不安もよぎったといいます。しかし5月に入ると明るい光が。「飲食店さんも生き残りをかけて、新しいサービスを始めたところが多かったことが大きいです。普段行けないようなしゃぶしゃぶの名店や有名イタリアンが、本格的なテイクアウト用のお弁当を出すなんて、誰も思っていなかったと思うんですよ」
“おうち時間”が長引き、鬱屈とした暮らしの中で「食べること」は大きな楽しみのひとつ。また、家族の外出自粛により3食作らなくてはならないという家事の負担が増えた主婦層にとって、デリバリーサービスの情報は重宝するもの。見事に視聴ニーズに刺さり、高視聴率を獲得しました。

三輪宗滋チーフプロデューサー三輪宗滋チーフプロデューサー

進行のヤナギブソンも大きな助けに。「ヤナギブソンさんにとっても、これまではゲストとにぎやかに進行していたのが、ゲストと顔を合わせることなくひとり別の場所からリモートで進行をするわけですから、MCの腕が試されるわけです。それはゲストの方も同じ。出演者同士のコミュニケーションが非常に取りづらい中で、自分なりに工夫して楽しそうに試食される姿にはプロ意識を感じます。これまで経験したことのない収録方法が、ヤナギブソンさんやゲストの方に刺激になっているようで、よりよいものに日々変化していっています」

今後も、新型コロナウイルスの状況を見ながら、現場の感染予防対策を徹底して『おでかけコンシェルジュ』と『おでかけしないコンシェルジュ』のダブルスタンバイで、フレキシブルに対応していくそう。「ヤナギブソンさんにも『人間って、追い込まれるとすごいアイデアが出てくるものですね』と言われました(笑)。視聴ニーズに合う企画を作ろうと常々考えてきましたが、かえってコロナ禍によってニーズが明確になったのかもしれません」

これまでの経験が生きた報道番組における美術のひと工夫

新しい生活様式に合わせ、スタジオセットにも大きな変化がありました。『ten.』でも、緊急事態宣言が発令された4月7日には“新しい生活様式”に合わせたスタジオに変更。出演者は2mのソーシャルディスタンスを取り、さらに出演者の間にはアクリル板のパーテーションが設置されるようになりました。その分、広いセットが必要となったコロナ禍で、それに合わせて作り直したのでは…?
「実は『ten.』はそこまで大きな調整はしていないんですよ」と、美術を担当する尾前江美さん。
『ten.』は、報道番組という特性上、識者や記者をスタジオに招くことが多く、大勢の人がセットに美しく収まるようにと想定して、あらかじめフレキシブルにセットを作っていたそうです。
大勢が座っても対応できるようにテーブルを追加しても違和感のないデザインの工夫、カメラで広い画を撮ってもセットが切れたりしないように、スタジオの端まで作り込まれたセット、普段、見慣れたあの風景に、創意工夫が隠れています。

美術担当の尾前江美さん美術担当の尾前江美さん

「新セットでの放送がスタートする前に、万が一の事を想定してシミュレーションを重ね、余裕を持たせた“懐の深い”セットづくりをしていたことが、コロナ禍の放送で功を奏しました」
これらのアイデアは、美術歴20年以上の経験があってこそ。「これまで担当してきた番組で『こうしておけばよかった』と感じた経験を活かした結果、『ten.』の懐の深いセットにたどり着いたという感じですね」

とはいえ、ソーシャルディスタンスというこれまでにない状況では多少の調整は必要。テレビ画面で観た時に、ともすれば余白が多すぎて淋しい画になりそうですが、決してそうならないように工夫が光ります。出演者一人ひとりの背後に違和感なく装飾物を置くのもそのひとつ。
「『ten.』のほかにも、バラエティー番組のセットも担当しているのですが、とくにバラエティーは大勢の出演者がにぎやかに収録している画は演出的にも効果的。しかしソーシャルディスタンスを取ると、一人ひとりの存在感が薄くなってしまうんです。でも、背景にアニメーション映像が流れるモニターを置くだけで、視覚効果で“シズル感”がプラスされ、出演者同士が距離を取っていても画が華やかになるんです。コロナ禍になって『他の番組ではどう工夫してるだろう?』とチェックするようになりました」

スタジオセットだけでなく、今や番組収録に欠かせないアクリル板のパーテーションを用意するのも美術の役割。持ち運びできるロケ用のアクリル板から風に吹かれても倒れない野外用の自立型アクリル板まで各種取り揃え、どんな収録でも対応できるようにスタンバイ。「こんなにパーテーションに対してポテンシャルが上がったことは初めてです(笑)」

懐深くデザインされたtenのスタジオ アクリル板も立っている懐深くデザインされたtenのスタジオ アクリル板も立っている

また、メイクや美術進行を担当するスタッフも。とりわけこの両スタッフは、現場でスタッフや出演者との接点が多く、新型コロナウイルス感染症予防対策を徹底しているそう。
「とくに『ten.』はメインキャスターが中谷アナウンサーひとりなので、メイクスタッフも専属の1名が担当しています。メイクする際にはマスクに加え、フェイスシールドまで着用、かつ、会話もしないよう徹底しています。また、美術進行スタッフも放送前、放送後にセットを必ずアルコール消毒。コロナ禍の今、一番気をつけている点ですね」

『めばえ』消滅の危機…!?ピンチをチャンスに変えた第2章の幕開け

その日に生まれた赤ちゃんと、そのご家族を紹介するおよそ1分20秒のドキュメンタリー『めばえ』は、コロナ禍において特に翻弄されたコーナーです。

世間全体を新型コロナウイルス問題が重くのしかかってきた当時を林浩三チーフディレクターは振り返ります。「もともと、『めばえ』は赤ちゃんとお母さんの健康を第一に考えて手指の消毒もマスク着用も欠かさず、衛生対策を万全にして撮影に臨んできましたが、国内で初めて感染者が確認された1月の時点で、どんなカタチなら、コロナ禍でコーナーを続けられるか、検討し始めていました」
しかし感染拡大するにつれ、万全の対策を講じて撮影していても、視聴者から不安の声が寄せられるようになりました。
3月、ロケや収録を自粛する番組も増え始めました。
2007年から13年間、一日も休まず続けてきたこのコーナーですが、
さすがに「このままでは『めばえ』は存続できない」。社内では徐々にそんな声が上がり始めました。
そして訪れた3月27日、運命の日。『めばえ』を統括する上司に呼び止められた林ディレクター。
「『めばえ』を続けるためには、来週から、ご家族撮影に切り替えるしかない。コーナー存続が危ぶまれる中、上司が報道局長に直接掛け合い、この手法に切り替えるから『めばえ』を継続したい!と熱く伝えたと聞きました。あの時、認めてもらえなかったら『めばえ』は“休止”に追い込まれていました。私たちを信頼してくれた報道局長に感謝しています」

林浩三チーフディレクター林浩三チーフディレクター

林ディレクターは、さっそくご家族に説明する撮影マニュアルを作成するなど、準備に追われます。そして3月29日、初めてご家族撮影に切り替える前日のこと。上司から激励のメールが届きます。
そこには「これまでの、プロのカメラマンでは撮れなかった画、瞬間を使って創る!ということをやってみませんか!?」「ぜひ、赤ちゃんに話しかけながらカメラを回して下さいと、ご家族にお伝え下さい」「ピンチをチャンスに変えましょう!」。熱い想いがこもった言葉の数々。“『めばえ』を絶対終わらせない。”その気持ちが『めばえ』チームをひとつにしました。
3月30日、ついに初めてご家族撮影の『めばえ』取材。赤ちゃんのパパに携帯電話での撮影を託し、産院の駐車場で待つこと45分。パパが撮影した映像を受け取り、その場で確認した瞬間、身震いがしたといいます。
「驚きで鳥肌が立ちました。『何なんだ、この映像は…!』と。パパとママが醸し出す雰囲気や会話があまりにも自然で、2人とも笑顔がいっぱい。これまで私たちが病室にお伺いして撮影した映像と180度違うんです。映像を見るまで成立するか心配でしたが、不安が一気に吹き飛びました」
その後、会社に戻り、映像を編集している時には「『めばえ』第2章が始まった」と確信したといいます。

めばえ“第2章” 初日のご家族めばえ“第2章” 初日のご家族

確かにプロのカメラマンと比べると、ピントが甘かったリ、手ぶれしていたり
しているカットもあります。
しかし、世界で一番愛している家族が撮るからこそ、愛している人でしか撮れない瞬間や、言葉があるーー。ご家族撮影に切り替えた3月30日以降の『めばえ』は、そんな家族のリアルな温もりにあふれる映像ばかり。

なかでも印象に残っているご家族を聞くと…林ディレクターはなんと『めばえ』での“お決まり”である「名前発表」が失敗?してしまったご家族を挙げました。

「産院の外で合流したのは、49歳のパパ。2人目の女の子誕生に、頬は緩みっぱなしでした。撮影の手順を説明すると、『ハイハイ』と、二つ返事で早く病室に向かいたいと言わんばかり。およそ1時間後、小走りで戻ってきたパパとともに映像を確認すると…どうやらパパは、携帯電話で動画を撮影するのは不慣れな様子。画面が傾きながらも、ママと協力して撮影スタート。
『ママの今の気持ちは?』『赤ちゃんの顔見て、どう?』『一緒にしてみたいことは?』と矢継ぎ早にママへの質問を繰り出す一方、いざ、パパが赤ちゃんを抱っこする時は、少し緊張した様子。
腕の中で眠るわが子に向けて発した言葉は『嫌がんなよ、嫌がんなよ』でした。(笑)
名前発表では、色紙の半分以上が画面から外れていてママと声を合わそうと、何度繰り返してもしゃべり出しのタイミングや語尾の言葉が一致せず、結局あきらめることに!?それでも、お互い見つめ合って苦笑いする姿は、何とも微笑ましい!最後に、画面に向かって手を振るパパの隣で、笑顔のママに抱っこされた赤ちゃんが収まった映像はこの日一番のパパ渾身の“1シーン”でした!」

肝心の“名前の色紙”が見えていない!?肝心の“名前の色紙”が見えていない!?

「私の個人的な意見ですが、コロナ前を“第1章”と呼ぶなら、第1章は手法に完全にフォーマットがありました。それはそれで意味があったと思います。しかし、コロナ後の“第2章”は、赤ちゃんが生まれた日に家族がどんな会話をしたか。そんな自然な姿を切り取って残すという、ドキュメント色の濃いものに仕上がることが多いです。まだコロナが完全に終息していない中で、もともとのコンセプトである『お茶の間に、ポッと心温まる1シーンを…』を再認識し、いまこそやっている意義を感じます。つくり手としては、日々刺激的で、どんな映像が上がってくるのかわからないので、毎日ドキドキしているのですが…(笑)」
ピンチをチャンスに変える。その想いが、コロナ禍でも『めばえ』を守り、むしろ新たな章への幕開けへと導いたと思えてなりません。

ご家族が撮影した赤ちゃんご家族が撮影した赤ちゃん

PICK UP