全国の民放関係者らが集まる「民放全国大会」で海外展開をテーマにしたシンポジウムが行われました。広く業界関係者が参加するInterBEE(国際放送機器展)でも海外番販の現状を現場担当者が語るセッションがありました。今、日本の放送コンテンツの海外輸出額は右肩上がりで増え、海外に目を向けるプレイヤーも増えていることなどがフォーカスされた背景にあるでしょう。「世界とコネクトテレビ論」の第4回目はテレビ業界が今、語るべき海外展開について、取材を続けている立場からお伝えします。

右肩上がりの放送コンテンツの海外輸出額

総務省の調査によると、日本の放送コンテンツ関連が海外市場に輸出された額は2016年度末で393.5億円に上り、前年より36.4%増加しました。従来から海外と取引されている番組放送権をはじめ、時代とともにネット配信権が急激に伸長しています。バラエティー番組のアイデアやドラマの脚本をもとにフォーマットやリメイク権の販売や、番組コンテンツから広がる商品化権なども共に増えています。右肩上がりの輸出額は今後も増えていくことが予想され、政府の支援も引き続き行われています。そんな現状が民放全国大会で報告されました。

InterBEEでも放送局が取り組む最前線の話題が並ぶなかで、「ここまで来た テレビ番組の海外展開」と題したセッションがありました。世界の番組マーケットでも注目されている日本の番組について現場担当者が語っていました。

例えば、スポーツエンターテイメント番組『SASUKE』(TBS)は165か国・地域で放送が実現し、展開されている各現地でも人気を得ています。世界的にもヒット番組のひとつに挙げられるほどで、カンヌの世界最大級の番組見本市MIPTVで以前、世界のヒット番組事例として日本の番組としては初めてフォーカスされたこともありました。日本のスピリットが詰まった『SASUKE』の勢いはとどまることなく、番販からフォーマット、商品化展開など多角的に広がっています。

ここにきて、ドラマ『Mother』(日テレ)の海外展開の成功も注目が集まっています。トルコで2年前にリメイクされ、現地で放送されて支持を得たトルコ版『Mother』があっという間に世界に広がり、世界31の国・地域で売れています。同じシリーズの『Woman』も続いてトルコでリメイクされ、現在放送中の現地の全ドラマの中で視聴率トップの成績を獲得。ドラマの輸出がアメリカに次いで世界第2位のトルコでヒットしたことで、日本のドラマの海外展開の新しい可能性を見出しています。

想定外だったトルコ版『Mother』の大人気

今となっては成功例に挙げられる『SASUKE』がこれだけ海外でヒットし、世界中のファンから熱い支持を受けるようになるとは当初は予想もつかなかったことでしょう。『Mother』に至っては、そもそも日本で放送されるまでに「4月に放送する内容としては暗すぎる」と社内で反対もあったという話を関係者から聞いています。トルコでも「ドロドロの恋愛劇が主流のなかで、『Mother』のような社会派ヒューマンドラマの人気は予想外のことだった」と、現地の担当プロデューサーが話していました。

これは日本ならではのテーマ性や切り口があり、制作力のある番組はどの番組も国境を超える可能性があることを裏付けます。一方で、どの番組がどの地域で当たるのか、海外展開は特にマーケティングだけではわかりにくい不確定要素が大きくあることも事実です。さらに、商談から成立に至るまで時間とコストがかかる海外展開の難しさも伴います。正直なところ、次から次へと成功例が作り出されているわけでもありません。

海外展開に限らないことかもしれませんが、葛藤の繰り返しです。それでも、取り組んでいる理由のひとつに新興勢の存在が大きいでしょう。Netflixをはじめとするオンラインプラットフォーム事業者は今やオリジナルコンテンツに巨額な制作資金を投じています。その額は年々増加傾向にあり、Netflixはドラマ制作に年間130億円、Amazonプライム・ビデオは年間50億円の規模に上ります。また中国や韓国をはじめとするアジアの制作力やプレゼンスもカンヌのMIP現地で取材するたびに、圧倒されることが増えてきました。

「数年先に日本はアジアの国々に追い越されるかもしれない」これこそ、海外に進出し、それを目の当たりにするプレイヤーの本音。危機感があるから攻めているのです。

海外で競争力を高めるために必要なものは?

けれども、日本勢で手を取り合って、鼻息荒く打倒Netflix、打倒韓国、中国という話でもないのです。もちろん、PR展開などオールジャパンで取り組むことで効果を生むやり方もあるでしょう。日本に限らず、韓国も中国も、アジア以外でもカナダやロシアがまとまってMIPの会場でPR展開を積極的に行っています。

では、なぜ国別やオンラインプラットフォーム事業者対抗だけの話ではないかというと、むしろ柔軟に「組む」やり方が世界の番組マーケットでは主流になっているからです。例えば、日本でもフジテレビが仕掛けているドラマ『Window』の座組みがまさにそうです。ドイツと日本が共同で企画し、制作スタジオはイギリス、出口はまだ発表されていませんが、世界展開で放送も配信も見据えたモデルです。そんなプロジェクトが世界の番組マーケットではあちこちでみられ、国や事業者名にこだわりなく、グローバルヒットを生み出すことを追求しています。

その結果、企画力やアイデアが重視されている傾向も高まっています。Netflixがヒットメーカーのプロデューサーや脚本家を囲い込んでいるのはそんな流れからです。つまり、「人的資源」が海外で競争力を高めるために必要なことだと言えそうです。

民放全国大会では外郭団体の放送コンテンツ海外展開促進機構(BEAJ)事務局長の君嶋由紀子氏(日テレ)が海外展開の5か条を挙げ、そのなかに「人間関係を作る=海外も結局は人対人。どこまで信用を作れるかでビジネスが決まる」というポイントがありました。

これは基本的なことではありますが、永遠の課題です。番組は人の手で作り出され、血の通っているものだと思います。人の顔がみえるものです。その番組を売る際も人の信用が動かすものであることを、海外マーケットの商談の現場で思うことがあります。輸出額が伸び、国内でもヒットと言える番組が作り出されているうちに、目を向けるべきことはまだまだありそうです。


【文・長谷川朋子(はせがわ・ともこ)】
執筆者プロフィール
テレビ業界ジャーナリスト。放送業界専門誌のテレビ、ラジオ担当記者。仏カンヌで開催されるテレビ見本市MIP現地取材歴は10年。番組コンテンツの海外流通ビジネス事情を得意分野に、多数媒体で執筆中。「Yahoo!個人ニュース」「日経トレンディネット」「マイナビニュース」「オリコン」「週刊東洋経済」など。国内外で番組審査員や業界セミナー講師、ファシリテーターなども務める。

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