徳力基彦氏に聞く、テレビのネット活用論(前編)〜テレビはファン獲得型に変われるか〜 インタビュー「テレビを書くやつら」

公開: 更新: 読みテレ
徳力基彦氏に聞く、テレビのネット活用論(前編)〜テレビはファン獲得型に変われるか〜 インタビュー「テレビを書くやつら」

徳力基彦氏は誰もが発言できる場としてブログが浮上した2000年代、ブロガー第一人者として知られるようになった。またネットマーケティングの様々なイベントでは名モデレーターとして評価されている。現在はクリエイターの発信の場、noteのプロデューサーとしてその啓発活動に勤しむ。そんな風にネットで活躍する徳力氏はテレビについても多く発言し、二つの世界の橋渡し役でもある。そこで徳力氏に、ネットから見たテレビについて話を聞いてみた。

【聞き手/文:境 治】

2画面でテレビを見ていた学生時代

境治(以下、S):徳力さんはかなりのテレビっ子だと思うのですが、子どもの頃や学生時代のテレビとの関わりをまず教えてください。

徳力基彦氏(以下、T):
小学3年から高校3年まで過ごした山口県は「恐怖の基本4チャンネル地帯」、当時は民放が2局しかありませんでした。だからテレビのど真ん中が見れてない。「笑っていいとも!」は夕方4時に放送していて「お昼休みにウキウキウォッチン!ってなぜ?」と思ってました。「欽ちゃんのどこまでやるの?」「8時だよ!全員集合」「おれたちひょうきん族」あたりは見てたけど、ガンダムは生で見れてなかった。夏休みにいとこの家に遊びに行った時に再放送で、アムロがドムを「新型か」って言ってるのを覚えて、山口に戻ってドムのプラモデルを「これ新型だろ」って言ったらめちゃめちゃバカにされました。(笑 だからテレビに対しては憧れがあるんです。

S:学生時代はどうでした?

T:名古屋の大学に入り一人暮らしをはじめて、家にいたらずっとテレビをつける生活でした。帰宅したら電気より先にテレビをつけて寝る直前までテレビをつけていた。安い14インチテレビを持ってたのに大きいテレビデオを買って、捨てるのがもったいなくて一時期は2台持ってました。大晦日に格闘技が2つの局であると同時に見たり、レンタルビデオの映画を見ながらテレビはつけっぱなしにしてたり、ゲームやりながらテレビつけていた。そういう2画面男でしたね。

大学に入るまでは「系列」がわかってなかったので、友人がチャンネル番号で喋るけどついていけませんでした。テレビっ子としては知識が浅いんです。最近になって学んでる感じ。

S:徳力さんは「ネット第一世代代表」というイメージがあります。76世代とか言いますけどネットで新しいことをする人たちの一人ではないかと。

T:いやあ、そういう人たちを見ているウォッチャーです。

S:そういう世代の中には、ネットから見てテレビを嫌う人も多い気がしますが、徳力さんはテレビっ子ですよね。

T:ぼくは72年生まれで、76世代にも憧れたしテレビ世代にも憧れてました。95年にウィンドウズが発売されたのは社会人の時で、会社に入ってからネットに触れた世代です。76世代は大学時代にネットに触れて、ライフスタイルに入り込んだ人たちですからかなり違うんですよ。

ネットは地道にファンと繋がる場

S:なるほど、4年の違いは大きいんですね。徳力さんは「遅れてきたテレビっ子」なのかもしれません。だからテレビとネットの仲介役もやってらして、先日は日テレR&D(日本テレビのReseach & Developmentチーム)のnoteに登場してましたね。

T:あれは日テレR&Dのみなさんがnoteを始めるというのでブレストに呼んでいただいたんです。

S:noteの使い方をアドバイスしつつテレビがネットをどう使うかも話してましたね。

T:テレビ世代でネット側の人間なので、テレビとネットの融合は個人的にも“悲願”でした。前職(アジャイルメディアネットワーク取締役)でもテレビ局の人たちにソーシャルメディアを使った企画をやりませんかと言って回っていました。現場の人はやりたいと言ってくれても、上の人に話すとうまくいかない時期もありつつ、だんだん氷が溶けていった感じです。自分はずーっとネット側でテレビ局の人がネットに来てくれるのを待っていて、一番最初に来てくれたのが土屋敏男さんでした。初めてお会いしたのはずいぶん前でしたが、2019年に僕がnoteに来て「感謝祭」をやった時にダメ元で案内をお送りしたら来てくださって。そしたら日テレR&Dでnoteやるというので土屋さんからお声がけいただきました。

S:徳力さんから見て「テレビとネットの融合」のポイントは?

T:テレビ局の方は視聴率を上げるためにネットを使おうとします。Twitterで話題にして番組を見てもらいたいとおっしゃいます。でもネットはバズる力より、地道にファンと繋がる力が大事です。瞬間的にバズが広がるのはテレビの独壇場で、ネットは徐々に関係を深めていく方が得意。そこからだんだん大勢とつながっていく場です。テレビ局の方は放送中に見てもらわないと意味がないからと、ネット側で番組放送前に盛り上げようとしがちです。ただ、ネットは宣伝力は弱いので、それではうまくいきません。


日本のテレビは本当にパワーがあって、みんながチャンネルで局を覚えてボタンを押せば見られる。こんな国ないですよ。海外に行くとケーブルでたくさんのチャンネルから探して見るわけで、4、6、8とかではないですから。

S:瞬発力はテレビが圧倒的ですよね。

T:正直、ネット側で何をやっても「宣伝」ではテレビにはかないませんでした。ソーシャルメディアで売上が上がったらいいなといろいろと企画しましたけど、テレビコマーシャルが放送されてるとネットで何をやっても影響が見えません。テレビコマーシャルで口コミのグラフがドカンと上がるけど、イベントで話題になっても数が桁違いに足りないんです。


でもファン獲得はテレビでは難しいので、前職ではここに活路を見出したわけです。テレビコマーシャルではできないところをネットでやるとしたらなんだろうと考えて、今で言うファンベースにたどり着いた。

T:徳力さんが先日書いてらしたアメトーークとまっちゃんねるの記事ではテレビがファン獲得型を目指すことを捉えてましたね。

T:そこが個人的に現在注目しているところです。テレビがあまりに強かった結果、テレビ局の方々は自分たちも一般企業がやってることができるのに気づいていなかったと思うんです。番組を作っている人はコンテンツホルダーでもあるので広告主と同じ立場に立てるのでは、ということです。エンタメでは芸能プロなども始めていますよね。オーディション番組を通じてファンを作っていたり、みんな同じ構造です。BTSもそうです。テレビとネットを組み合わせて自分達のファンを作れば大きな力になる。

テレビは枠があまりに強いからそんなまどろっこしいことしなくてもと、積み上げをせずにやってきてしまった気がします。それはもったいないですね。

数を揃えるとネットの価値が薄く見えちゃう

S:この議論は前から出ていたことでもありますがなかなかテレビ局の人たちは理解してくれない。

T:この15年くらいぐるぐる回っている議論です。なにしろテレビコマーシャルのモデルが儲かりますから。あの収益性はネットでカバーは無理でしょう。ネット企業もテレビコマーシャルに頼っています。Sansan(名刺管理アプリ)がテレビコマーシャルを使い始めて成功してから、BtoB企業も雪崩を打ってテレビコマーシャルを使い始めてます。

ただテレビ局としては、今後放送収入が減っていくのは見えているので他のこともやらないわけにはいかないと思います。例えばYouTubeなんかもファン獲得型なので、そこにはテレビ局も入りやすいと思います。


S:でもテレビ局は少しずつ獲得するのは我慢できないみたいですね。

©ytv (8992)

T:結局は「数の問題」になるんですね。この図も、ポジショントークで同じくらいの高さにしてるけど、左は数百万とか数千万の規模なのに対し右は数万とか数十万です。グラフを被せると右は消えちゃう。(笑


視聴率は1%でも数百万単位ですよね、テレビ番組がファンを作ってもが数万とかではどうしても少なく見えちゃうわけです。YouTubeだと再生数が100万とかも増えてきたので、ようやくテレビ局の方にとって比較対象になるようにはなりましたけどね。でも、そういう、数字を並べた途端に「価値が薄く見えちゃう問題」になってしまう。


テレビとネットの違いと、そこから生じるジレンマについて、かなり本質的な話になってきた。テレビというビジネスモデルはよくできているし、日本では他の国に比べてずっとうまくいっていた。だからこそ、なかなか次へ動けない。ではどうすればいいか、後編でさらにコアな議論になるのでご期待を!

PICK UP