【あの人気俳優のブレイク前夜】第5弾:高橋一生

動画配信サービス「Paravi(パラビ)」で楽しめるあの人気俳優のブレイク前夜。第5弾は、俳優・高橋一生をフィーチャーする。

高橋一生のキャリアは長い。あの大ヒットアニメ映画『耳をすませば』(1995年公開)の天沢聖司の声が高橋一生だったことは今でこそ多くの人の知るところだけれど、彼の名前がメディアを賑わせるようになるのは、それから20年を過ぎた頃から。きっかけは、『民王』(テレビ朝日系)のツンデレ秘書・貝原茂平だったと思う。有能だけど、どこか可愛らしさのある貝原は、スピンオフまで制作されるほど視聴者から愛され、演じた高橋一生も人気沸騰。その後、2017年に『カルテット』(TBS系)、大河ドラマ『おんな城主 直虎』(NHK総合)で、人気も実力も兼ね備えた俳優として評価を定着させた。

今回は、パラビの中から高橋一生の過去作品を発掘。宮藤官九郎が脚本を務め、カルト的な人気を集めた90年代のあの作品から、これぞ高橋一生という存在感を見せたタブー破りのあの作品まで。高橋一生らしいクセのあるラインナップとなっている。

『夜のせんせい』(2014年/TBS系)

本作は、定時制高校を舞台に、元スナックのママである38歳の新米教師・夜野桜(観月ありさ)と、スネにキズだらけの生徒たちが織りなすハートフル学園コメディだ。高橋一生は、生徒のひとりである歌舞伎町のホスト・山田一郎を演じている。

本作の愛でるべきポイントは、「強がる高橋一生」。高橋一生は、本心と反対のことを装おうときの芝居が抜群にうまい。心にもないことを言ったり、強情を張ったり、そうしたときにあふれる動揺や恥じらいや寂しさが一瞬の表情から溢れ出てくるのだ。

この山田一郎という役もそのひとつで、人気ナンバーワンだった時代も今は昔。今では指名も減り、年下のホストからもバカにされる落ち目のホストだ。年金暮らしの母親を田舎に残し、もはや人生はどん詰まり。それでもプライドだけは捨てられず、いつか自分は大物になるんだと豪語し、周りの人たちの人生を取るに足らないものだとしてバカにしている。

そんな山田一郎にスポットライトが当たるのが第6話。一発逆転をかけた山田は、会社経営者の夫を持つクラスメイトの主婦・宗村真理(堀内敬子)をたぶらかし、自分の店に通わせることで、多額のお金を巻き上げようとしていた。これが最後のチャンスだと、独立して自分の店を持つことを夢見る山田。しかし、真理はすっかり山田のことを本気で慕うようになっていた。周囲にはまるで心が痛んでいないとばかりに強がる素ぶりを見せながら、野心と良心のあいだで揺れる山田の表情が最大の見どころだ。

特に、性同一性障害を抱える仙波剛三(大杉漣)、元職人の高倉富雄(織本順吉)とのシーンは絶妙。「いったい山田くんさ、何になりたいの、そんなに無理して」と問う仙波に、これまでの過去を語る高橋一生の「強がり」は、観る者を引き込む力がある。一生懸命表情を保ちながらも、まるでコップいっぱいに張った水のように小刻みに震えながら内心を語る山田。そして、高倉の話を黙って聞いているときのかすかな眼球の揺れ。高橋一生は、こういう悪そうに見えて悪に徹しきれない役をやらせると、胸が痛いほどの人間臭さを見せてくれる。

本作の魅力は、夜野桜という強烈なキャラクターを中心に据えながらも、毎回起こる生徒たちのトラブルに関しては、桜が直接解決するというより、それぞれの生徒同士がお互いに影響を受け合いながら前進に向けた一歩を見出していくところ。高橋一生の他にも、田中圭、仲野太賀、岡山天音と20~30代の実力派が贅沢に揃っているので、過去作品を掘り出したい役者ファンにもぴったりの作品だ

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『コワイ童話「親ゆび姫」』(1999年/TBS系)

脚本は宮藤官九郎。プロデューサーは磯山晶。のちに『池袋ウエストゲートパーク』『木更津キャッツアイ』(共にTBS系)などを生み出すゴールデンコンビが最初にタッグを組んだのが、この『コワイ童話「親ゆび姫」』。宮藤官九郎にとってはテレビドラマ初単独執筆作であり、高橋自身もその後『池袋ウエストゲートパーク』や、『吾輩は主婦である』(TBS系)、『11人もいる!』(テレビ朝日系)などでクドカン作品に参加していくわけだけど、こんなところに原点があったのかと感慨深い想いに浸る掘り出し物的な1本だ(ちなみに映画『世界の中心で、愛をさけぶ』では宮藤官九郎の演じる役の高校時代を高橋一生が演じている)。

本作の愛でポイントは、「小さくなった高橋一生」だ。内気な女子高生・町田冴子(栗山千明)は謎の露天商からもらった不思議な液体を、意中のクラスメイトであるは君島祐一(高橋一生)にかける。すると、祐一の体が親指サイズにまで小さくなってしまう。

以降、祐一は冴子の机の引き出しの中で暮らすことになるのだけど、ちぎったキャベツを食事に出されて「俺はカブトムシじゃねえぞ!」と怒ったり、ハムスターにビビったり、とにかく散々な目に。想像もしていなかった事態にふてくされて抗議する「小さくなった高橋一生」は何とも言えない愛らしさがある。湯飲み茶碗を湯船にしてお風呂に入ったり、ラジコンに乗ってはしゃいだり。「小さくなった高橋一生」でしか見られない場面が出てくるたびに、自分も冴子のように高橋一生を胸ポケットに忍ばせたいという願望が膨らんでくる。

が、そんな身勝手な支配欲こそが、この「親ゆび姫」がコワイ童話である理由。内気だったはずの冴子も、絶対的な権力を自覚するや否や、その愛情を歪んだ方向へと暴走させてしまう。同様のジャンルで言えば、内田春菊の名作コミック「南くんの恋人」を想起する人も多いと思うけど、「好きな人が実際に小さくなったら、あんなピュアではいられないだろうな」と、自分の中に眠る凶暴性に気づいて背筋が寒くなる。

ふんどし一丁で紙相撲をさせられたり、よくわからないショートコントを強制させられている高橋一生を見ているうちに、一瞬でも「小さくなった高橋一生」にフェティシズムを感じた自分に罪悪感を覚えてしまう。全4話ながら、宮藤官九郎のストーリーテリングの巧さが光る秀作だ。

すでに20年以上も前のタイトルだけに、ヤマンバギャルやケータイにつけた大きなストラップなど「懐かしい!」と声をあげたくなる場面も多々。主題歌は、木村由姫の『Deep Sky Heart』。イントロだけでわかるバリバリの浅倉大介サウンドからも90年代の匂いが色濃く伝わってくる。また、今や人気者となった佐藤二朗がほんの一瞬だけ出演しているのも見逃せないポイント。

「小さくなった高橋一生」と共に、90年代末期の独特の空気を楽しんでほしい。

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『モザイクジャパン』(2014年/WOWOW)

高橋一生には、「破綻」がよく似合う。まっとうになりきれなかった人間特有の虚無や空洞、いびつなねじれ。そういった空気感を自然にまとい、流れる血液から沸騰する何かを発することができる俳優はそう多くない。高橋一生の本領は、人間のアブノーマルさを感じさせる作品でこそ発揮する。

本作は、そんな「破綻した高橋一生」が全開の作品だ。主人公は、東京の証券会社をリストラされた青年・常末理市(永山絢斗)。職を失い、生まれ育った故郷へ帰ると、さびれた地方都市だったはずの地元は、日本最大級のアダルトメーカー・GALAXYZグループが支配する一大アダルト産業都市へと変貌していた。

高橋一生が演じるのは、GALAXYZグループの社長・九井良明。いちエンジニアから日本最大級のアダルトメーカーをつくり上げた切れ者だ。そして、人間の欲望が最も露骨に表出するAV業界の頂点に立つ人間ならではの「破綻」を、高橋一生が平静と狂気の切っ先で踊るように見せてくれる。

とにかく第1話の冒頭からフルスロットル。ボタンを一切とめずに白シャツをだらしなく羽織り、ボクサーパンツ姿でペヤングを貪りながら、まるで演説をするように早口で『ゼロ・グラビティ』や日本の刑法についてまくしたてる九井。時にペヤングに降りかけた七味唐辛子でむせながら、手に持った箸をヘリコプターのプロペラに見立ててくるくる回す。こうやってそのシーンを描写しただけでも意味がわからないけど、意味がわからないのになぜか説得力があって、目が離せないのが高橋一生のすごさ。

しかも、そこに愛人の前田美織(宮地真緒)が現れて、突然吠えるようにして理市の前で美織と性行為に及ぶ。常識という定規では九井良明という男は捉えられない。だけど、ただのイカれた人間と定義したら、その時点でステレオタイプに陥る。

どこに発火点があるかわからない。踏み抜く箇所を間違えたら一瞬で辺り一面を焼け野原にする地雷のような男だ。どうしようもなく危うくて、どうしようもなく魅力的。九井良明の「破綻」をエンターテインメント性たっぷりに、だけど生臭く高橋一生は構築している。

独特のリズムと音階から紡ぎ出される"高橋一生節"としか形容のできない台詞回しも、くすんでいるように見えて透き通ったあの眼差しも、異常性の中に覗く滑稽さも、多くの女性たちをとらえて離さない高橋一生像はこの時点ですでに完成している。

脚本は、『Mother』(日本テレビ系)、『最高の離婚』(フジテレビ系)の坂元裕二。『Woman』(日本テレビ系)、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(フジテレビ系)、そして『カルテット』と高橋一生との相性の良さは誰もが認めるところ。おそらく今、最も高橋一生を魅力的に描ける作家とのコラボレーションは、何度見ても色褪せることのない鮮烈な「破綻」を放っている。

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『ペテロの葬列』(2014年/TBS系)

色気と狂気をむんむんに放出する高橋一生もいいけれど、それらのすべてを封印し、じっと黙する高橋一生もたまらない。そんな「秘めた高橋一生」の魅力を浴びさせてくれるのが、この『ペテロの葬列』だ。

原作は、『火車』『理由』『模倣犯』など数々の傑作ミステリーを生んだ宮部みゆき。本作は、俗に「杉村三郎シリーズ」と呼ばれる作品群の一編で、2013年に連ドラ化された『名もなき毒』(TBS系)に続くシリーズ第2弾だ。

ある日、主人公・杉村三郎(小泉孝太郎)らを乗せたバスがバスジャックされる。犯人は、謎の老人(長塚京三)。老人は「三悪人」と称した3人の人物を連れてくるよう警察に要求し、三郎たち人質には慰謝料代わりに賠償金を支払うことを約束する。

警察の機転によりバスジャック事件は解決。老人の自死をもって事件は終わったかのように見えた。しかし、数日後、人質たちの自宅に多額の現金が入った小包が届く。いったい老人は何者だったのか。何のためにバスジャックを起こしたのか。その謎を追ううちに、人間の中に蠢く悪と、その贖罪についてを突きつけられる至高のヒューマンミステリーだ。

高橋一生が演じるのは、三郎の勤める今多コンツェルン広報部会長秘書室付き・橋本真佐彦。大卒が当たり前という大企業で、高卒ながら会長・今多嘉親(平幹二朗)の側近にまで上りつめた有能な人物だ。そして、嘉親の娘であり、杉村の妻である菜穂子(国仲涼子)との道ならぬ関係が、この橋本というキャラクターの見せどころ。

菜穂子が女子高生の頃からずっとその成長を見守ってきた橋本。けれど、いち社員である自分が会長の愛娘である菜穂子に想いを寄せることなど許されるはずがない。そう言い聞かせ、内に秘め続けてきた橋本の恋心が、あることをきっかけに綻びはじめる。その密やかな想いの発芽を、高橋一生は抑制の効いた、どこか文学の匂いすら感じる叙情的な演技で見せていく。

印象的なのが、菜穂子と車に乗っているシーンだ。第5話では、急に発熱した杉村の娘・桃子(小林星蘭)を菜穂子と共に病院へ連れて行く。その帰り、母を亡くした悲しみを隠し、嘉親のために明るく振る舞っていたと語る菜穂子に対し、「強い人だなと、遠くから」と称えたときの、ほとんど顔は見えないのだけれど、見えない表情さえ想像させてしまうような、愛しさのこもった微笑みは、なんとも高橋一生らしい。

また第6話では、今、橋本に彼女がいないことを知った菜穂子が「今度、私のお友達紹介します」と笑いかけるのだけど、そこで「お願いします」と頷きながら、本当は恋い慕っている菜穂子にそんな残酷な言葉をかけられて傷ついていることが、悲しい顔なんて何一つしていないのに伝わってくる。言葉にしていることと、言葉にしなかった想いがまるで異なるときのお芝居をさせたら、高橋一生はやっぱり抜群にうまい、と思わず天を仰ぎたくなるワンシーンだ。

バスジャック事件の真相を追うミステリーである一方、夫婦のズレとそこから生じる危機を描いたドラマでもある本作。その面白さは、さすがの宮部みゆきブランド。菜穂子と橋本の間に生まれた危険な感情がどんな結末を辿るかにも注目しながら、ぜひ最後まで観てほしい。

(文・横川良明/イラスト・月野くみ)

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