『凪のお暇』『きのう何食べた?』ヒットの理由は"多幸感"?【前編】

2019年も年の瀬。今年も各局でさまざまなドラマ作品が放送され、視聴者の心を潤してきた。今回、「Plus Paravi(プラスパラビ)」ではドラマ好きのライター3名を招き、2019年に放送された中で印象に残ったドラマなどについて座談会方式で存分に語ってもらった。前編では「2019年ドラマ 私が選ぶ"この3本"」をテーマに各ドラマの魅力を熱く語ってもらった。そこで見えてきた令和元年のドラマの特徴、共通点とは!?

まずは、座談会参加者3名の"2019年ドラマこの3本"をピックアップ。

■横川良明

ライター。映像・演劇を問わずエンターテイメントを中心に広く取材・執筆。人生で一番影響を受けたドラマは野島伸司の『未成年』。

◇『きのう何食べた?』(テレビ東京)

欠点を見つけるほうが難しい作品。原作の持ち味を生かしつつ、実写化ならではのアレンジも加えて描かれていて。内野聖陽さんはもちろんなのですが、西島秀俊さんの受けの芝居がとても良かった。西島さんがどっしりと構えていたからこそ内野さんが演じるケンジが自由にできたのかなと。

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(C)「きのう何食べた?」製作委員会

◇『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』(NHK)

LGBTというのを2年くらい前からテレビドラマでもよく取り上げられるようになったと思うんですけど、その中でも多感な時期のゲイの男の子の心理を非常にみずみずしく切り取っていて、感動しました。あと、QUEENの曲の使い方の上手さ。うまく映像と融合しながら緊張感とみずみずしさが良いバランスで両立できた作品じゃないかなと心に残りました。

◇『わたし、定時で帰ります。』(TBS)

回を重ねるごとにどんどん引き込まれていきました。僕は、どんなドラマでも恋愛の要素が大事だと思っているので、お仕事ドラマではあるんですが恋愛の要素がきちんと入っているのも良かったです。向井理さんの演じる種田に多くの女性たちが恋をしているのを見て、連ドラの良さを再確認しました。

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(C)TBS SPARKLE /TBS (C) 2018 朱野帰子/新潮社

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■田幸和歌子

1973年長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。週刊誌、月刊誌、夕刊紙、webなどでドラマのコラムを執筆。

◇『凪のお暇』(TBS)

毎週ドラマが始まる時に欠かさずテレビの前に居たくなる作品でした。主人公が"人生をリセットしたくて逃げる"という切迫感に溢れたテーマで、本来は辛い場面も多いはずなのに辛さを感じさせないテンポの良さが秀逸。光や風の演出によって、本当は追い込まれている場面でも風通しの良さや不思議な爽快感がありました。メリハリの付け方や音楽の使い方も抜群です。

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(C)TBS (C)コナリミサト(秋田書店)2017

◇『きのう何食べた?』(テレビ東京)

幸せな気持ちになるドラマ。普通の日常を描くだけで多幸感が感じられるのは、普通は惰性になっている日常の瑣末なことを、2人が大切にしているからこそ。恋愛のドキドキとは違う、適温で丁度いい距離感は、さまざまな経験をしてきた2人の努力の上に成り立っているもの。それが集約されているのが、食事の時間なんですよね。ちょっとボタンを掛け違えると崩れかねない、もろくて美しい幸せな時間は、ずっと見ていたいと感じさせるドラマでした。

◇『少年寅次郎』(NHK)

誰もが知っている『男はつらいよ』を岡田ワールドで味付けしたら、全5話で省くところが全くない素敵な物語になりました。寅さんを知らない人が見ても楽しめますが、寅さんを知っている人だと、お調子者で口がうまくて惚れっぽくて優しい寅さんという人物が、父親の遺伝子と「育ての母」の包容力によって出来上がっていったこと、おいちゃん・おばちゃんがなぜ寅さんをあんなに可愛がっているのかというルーツがよくわかります。

原作では冒頭から自分を愛人に作らせた父への主人公の憎悪が色濃く描かれているんですけど、ドラマの序盤ではあまり見えてこない。それは、育ての母の大きな愛に包まれていたからであり、脚本の岡田惠和さんによるアレンジでした。さらに、物語の途中で生みの母が登場する戸惑いと、自分を捨てた母の辛い思いを知り、はじめて男として父親に対して憎しみの目を明確に向けるようになる。こうした心情の変化は、岡田さんならでは。見事でした。

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■まつもとりえこ

イラストレーター兼ライター。ドラマ・バラエティなどテレビ番組のイラストレビューのほか和文化に関する記事制作も行う。

◇『凪のお暇』(TBS)

感情移入しながら見てしまいました。例えば、転職した時の自分に重ねて「あの時、私もこんな感じだったな」とか。最後も、慎二とヨリを戻すわけでもなく、自立した姿を見せる終わり方がすごく良いなと思いました。

◇『G線上のあなたと私』(TBS)

私はすごく幸せな気分で見ていました。面白いなと思うのは、10代から20代に入りたての若い男の子と20代後半の主人公と40代の主婦、いろんな立場の人を描いているところ。いろんな立場だから感じることもさまざまで、理人(中川大志)のことを見て「若いなぁ」って感じたり(笑)。幸恵(松下由樹)さんの思っていることに対して「分かる~!」ってなりますし。もちろん主人公の恋愛に関しても共感できるところがあって、親目線になったり、同じ年代の目線になったりしながら、いろんな世代の目線があるのが面白いと思いました。

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(C)いくえみ綾/集英社・TBS

◇『ひとりキャンプで食って寝る』(テレビ東京)

「ドラマかな?」と思うほど、劇的な展開があるわけじゃないんですけど(笑)。前クールでやっていた『サ道』(テレビ東京)もそうですが趣味系の起承転結が特にあるわけではないけど、すごい幸せな気分になって終わるというのが良いなと思いました。ドキュメント作品と同じ楽しみ方かなと思うんですが、それともまた違うような感じで楽しかったです。

趣味に没頭したり、幸せそうにしている人を見られるというのは『きのう何食べた?』『監察医 朝顔』(フジテレビ)の食事シーンにも通じるものがあるなと思います。日常のほんわかした幸せを見られるのは良いですよね。

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(C)「ひとりキャンプで食って寝る」製作委員会

2019年国内ドラマのキーワードは"多幸感"と"刺激"

――ありがとうございます。皆さん2019年の国内ドラマの傾向はどのように捉えていますか?

横川:『ひとりキャンプで食って寝る』のように日常系ドラマが増えた感じはします。2019年のキーワードとして「多幸感」が挙げられると思うんですよね。ドラマを通じて「多幸感」を味わいたい人が多いんだろうなというのを感じました。言い換えると、視聴ストレスに対して視聴者がものすごく敏感になってきた。ちょっとでもストレスが強いと、あっという間に視聴者は見切ってしまう。

だから、連ドラに関しては出来る限り1話で脱落しないような作りになってきているなと。たとえば『凪のお暇』なら、原作では慎二が泣くシーンはもう少し後に登場するんです。でも、連ドラではあえて1話に慎二が泣くシーンを入れてきた。そこが素晴らしかったと思うんですよね。あのシーンがないと、慎二がただのダメなモラハラ男という印象で苦手になってしまい、1話で離れてしまう方も多くいたかと思うんです。

田幸:慎二のモラハラぶりに視聴者がドン引きし、嫌悪感を抱いていたとこで、号泣しているラストシーン・・・あれで「慎二かわいい」という感情になりましたよね。もちろんモラハラであることは間違いないのですが。シリアスさ、息苦しさを次回までもちこさず、山あり谷ありを短いスパンの中にいれこんでくるのも、今の作り方なのかなとも。そのスピード感は2019年ならではじゃないでしょうか。

横川:『凪のお暇』に限らず、女性の描き方に関してはかなり多様化していますよね。フェミニズムが浸透し、旧時代的な女性の描かれ方に対して視聴者も非常にシビアになっている。

田幸:『わたし、定時で帰ります。』は飲み会要員のようなポジションの女の子の回を入れたのが良かったなと。

横川:派遣社員の子ですね、あれはすごくリアルでした。

田幸:これまでのドラマだと、若くて可愛くて自分の魅力を理解していて「女」を武器に仕事を取るような女性を悪"として描くことが多かったと思うんですけど、そうしたタイプが抱える悲哀、そうさせてしまう周囲の環境や社会をちゃんと丁寧に描いているのが新鮮でした。

横川:それから、ユースケ・サンタマリアさんが演じる福永さんは原作だともっと手酷い裁きを受けるんですけど、ドラマではそうならなかったのが良いなって。福永さんの言っていることが完全に悪いことだと思わないし、「頑張るのってそんなにダメかな」って思っていたので。吉高由里子さんが演じる結衣の主張を物語の中で完全に押し切らなかったのも今っぽくて良いなと思いました。それも多様性の時代に合わせてなのかなと思うんですけど、どちらかを正解にし過ぎないのはドラマでも重要なんだろうなと。

「強要しない、尊重する」というのが広がっているなと思う中で、『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』とか『あなたの番です』のような極端に事件を起こしたり不幸な境遇にしたりというスタイルは日本テレビさんだけって感じがして、局ごとのカラーの違いが面白いなとも思いました。

まつもと:確かに!

田幸:『3年A組―』とか『あなたの番です』は企画力、話題性が凄い。『3年A組―』は、主張したい内容そのものはシンプルで2、3個のキーワードなんですが、それをドラマチックに膨らませて描いている。なにより演者の気迫やエネルギーにみんなが巻き込まれている感じでしたね。

横川:若い方には刺さっているなと思いました。僕は『未成年』(TBS)がすごく好きなんですけど、いしだ壱成さんが演じる主人公が最終回で演説しているシーンがすごく胸に刺さったんです。でも当時、ドラマ評論家の方は「言いたいこと最後に全部言うのか(笑)」と言っていて、大人だとそう感じるんだなってショックを受けたのを今でも覚えていて。『3年A組―』もそれに近いと思うんですよね。

柊先生の言っていることは、ある程度人生経験を積んだ大人からすると、どこかで聞いたことのあるようなことばかりで、何でも台詞にしすぎている。でも、それは作品のクオリティが云々というより単にnot for meなだけで。多感な時期の人たちにはあれだけ真っすぐ言葉にして言われると心に刺さるものがあった。だから、爆発的なブームを起こせたんだと思います。

田幸:企画力もそうですが、やはり若い世代に向けて作品を作っていく姿勢はすごく大事ですよね。そういうところでは日本テレビさんは意欲的だなあと。

横川:『あな番』は、原田知世さんが1番手なのに1クール目の最後に殺されてしまうという展開が斬新でした。その後、一気に視聴率が上昇していきますが、あの展開に引き付けられた人は多いだろうなと思います。

田幸:日常系が増えている中で、逆に暴力的なものが2019年になって目立ってきたかなとも思います。『ボイス 110緊急指令室』(日本テレビ)とか。

横川:多幸感溢れる作品が愛される一方で、煽り要素やツッコミ要素の強い刺激的なものがSNSを中心に話題を呼んだ。視聴者がエンタメに求めているものが可視化された1年だったと思います。

――後編では、さらに2019年のドラマを振り返り! 特に印象に残った脚本家や演出家、役者について語ってもらった。

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