佐久間宣行が企画を作り続ける理由「“見せたい”より“見たい”」【わたしのTVerマイリスト第1回】

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佐久間宣行が企画を作り続ける理由「“見せたい”より“見たい”」【わたしのTVerマイリスト第1回】

――ここからはお仕事についても聞かせてください。プロデューサー業など仕事をするにあたって大切にしている信念は?

人生いつ死ぬか分からないから、楽しい方を選ぶということですかね。父親を55歳で亡くしたり、友だちが亡くなったりしているのもあって、30代からそういうことを考えていました。

すごく変な言い方すると、来週何かあっても“まぁいいか。耐えていないし”って思えるように、心の健康を選んでいる感じです。今の世の中で心の健康を保てないのはよくないし、“頑張ってきたから、もういいだろう”って気持ちもある。楽しい仕事だけをやろうって(笑)。

いま本当に楽しい仕事ばっかり受けているんですけど、楽しい仕事で逆に忙しくなって(笑)。このあと信じられないくらい忙しくなるんですよ。だから目的が逆になってきちゃったんですよね(笑)。でも現場に行くのが嫌な仕事はしないし、それでいいかなって。人生何があるか分からないから。

――局員時代、現場に立ち続けていらっしゃったのをテレビで拝見していました。

現場が好きですね。好きな人、面白いと思う人、面白くしたいと思う人と仕事したいですね。

――「佐久間さんの番組なら」ということで、めったにゲスト出演しない大物芸人さんやタレントさんが番組出演することもあると思います。演者の方との信頼関係があるからこそだと思うんですが、その信頼を築くために、面白い企画を作って舞台を整えるというのは大事にしていらっしゃるんですか?

そうですね。あと、せっかくなら何かのきっかけになってほしいと思って番組を作っています。売れるきっかけ、新しいことをやれるきっかけ、この人が面白いって世の中に思ってもらえるきっかけ……。せっかくやるんだったら、誰かの足を引っ張るより、そっちの方がいいなって。

――『あちこちオードリー』でいうと、東野幸治さんが「お笑いやっているっていう気もないし、テレビに映っているフロアディレクターの気持ちでテレビに出ている」と発言して話題になりました。視聴者としてはかなり驚きましたが、東野さんの新しい顔が見えた瞬間だと思います。

そうですね。ゲストのこともオードリーのことも「(番組を)見れば好きになっちゃう」という意見はよく聞いているので、それは狙いだったし、今後もそうなってくれればいいなと思います。思いの丈が走りすぎて、めちゃくちゃ喋ってくれたけど、オンエアではカットになってしまうこともあるんですけどね。

――『あちこちオードリー』のゲストに田村淳さん(ロンドンブーツ1号2号)がいらっしゃったとき、淳さんの話を聞いた若林さんが、グッとした表情になっていたのが印象的でした。聞き手の立場である若林さんも、深い思いを持って番組に取り組んでいらっしゃるなと感じます。

あの番組は、ほぼ若林くんの力量ですからね。(若林さんが)裁量権が全部与えられて任せてる分、自分の血肉を出してくれている感じはします。

――若林さんのトーク力はラジオなどで承知の上でしたが、相手の胸中を聞き出す質問力というのも注目されていたんですか?

ずっとラジオを聴いているので、若林くんの価値観がどう変わってきているかは分かりますし、それにプラスして、5年前に若林くんと、小説家とトークする番組『文筆系トークバラエティ ご本、出しときますね?』(BSジャパン、現BSテレビ東京)をやったんですけど、そのときは、価値観がある人同士が話すと面白いなって思っていて。

あれはルールがあるトーク番組でしたけど、その1クールの経験で、“若林くんたちとゲストのフリートークバラエティをしたら面白いな”って思っていたのを、今回やっと実現できた感じですね。(番組を作る際は)オードリーもそうだし、『キングちゃん』の千鳥もそうだけど、彼らの良さを知ってもらうきっかけになればいいなと思っています。

――佐久間さんの番組がきっかけで、チャラ男だけどじつはいい人のEXITさん、バラエティ能力の高い朝日奈央さんなど、多くの人が新しい一面を見せてブレイクをしてきました。“この人たちは面白いんだ”というのを世間の方に見せたい気持ちがあるんですか?

見せたいという気持ちもあるんですが、どちらかというと“見たい”。人が新しい魅力を出しているところを、僕が近くで見ていたいって感じですね。

――「キス我慢選手権」(※1)では、劇団ひとりさんのアドリブが物語になり、最終的に映画にもなりました。このように、お笑い番組では、笑いの中に奇跡が起きるシーンも多くあると思います。佐久間さんがテレビを作るうえで感動した瞬間を教えてください。

『ゴッドタン』は15年もやっているので結構あるんです。「マジ歌選手権」(※2)でひとり、バナナマンの日村(勇紀)さん、角ちゃん(東京03角田晃広)、フットボールアワーの後藤(輝基)さんたちが信じられないくらい笑いをとっているときは感動するし、この企画で武道館やさいたまスーパーアリーナに行った瞬間はグッときましたね。

それ以外だと“新しいかな”って思う企画が生まれた時は感動します。「キス我慢」もそうだったんですが、僕だけが見えていて、(スタッフに事前に企画を)説明しても「はっ?」って言われる企画がたまにあるんですよ。

――でもいざ撮ってみると、爆笑を生む企画でシリーズ化もされました。

そうですね。だから、そういう企画が生まれたときは感動します。

※1「キス我慢選手権」:あらゆる手段を使ってキスを迫る美女の誘惑に耐える企画。劇団ひとりのアドリブが壮大な物語を生み出しシリーズ化。2度にわたって映画化もされた。

※2「マジ歌選手権」:芸人がマジで作った楽曲を披露。牛乳を口に含んだ審査員が、吹いてしまったら即終了となる。これまで大きな会場でライブも行われた。

――最後に、TVerのようなネット経由でテレビコンテンツを視聴するなど、コンテンツの消費の仕方が多様化しておりますが、それについて佐久間さんはどう考えていらっしゃいますか?

これは、業界全体でポータルや見逃しをどう考えていくかっていう話かと思うんですよね。でも、手軽に好きな時にコンテンツに触れることができるため、そのコンテンツのファンは増えるんですよね。そのファンが増えると、ファンとその“熱”で、できることがたくさんあるから、どちらかというと、今の時代、見逃し配信もあっていいじゃないかと思います。

どちらにしても、便利な方に流れちゃうのは確実なんですよ。便利な方に流れるんだったら、便利なものの使い方と儲け方をみんなで考えないと、“ただ単に強い方に負けるだけなのではないか”と思います。

YouTubeもサブスクリプションも勢いがあってTVerも同じです。もしなくなった場合、違法サイトが出てくるだけ。“だったらみんなで、TVerやポータルを使ったビジネスをもっと考えていかないと”とは思いますね。

(取材・文・写真:浜瀬将樹)

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