民放キー5局とNHKの6局共同による防災プロジェクトの特集ページが民放公式テレビポータル「TVer (ティーバー)」に公開されており、プロジェクト参加番組が順次配信されている。共通のテーマ「キオク、ともに未来へ。」のもと、各局それぞれが撮影した震災関連映像を共有し、制作した番組が揃う。東日本大震災10年を機に、なぜライバル同士のテレビ局が手を組み、防災プロジェクトに取り組んでいるのか。

■他局の映像を組み合わせることで検証映像が実現した

民放キー局5局とNHKの6局が発足した共同プロジェクト「キオク、ともに未来へ。」は東日本大震災の体験を「風化」させず、次の世代へメッセージを伝えることが目的だ。被災各地の歩みを撮り続けてきた各局のカメラの記録を共有し、記者やアナウンサー同士の取材協力と、被災地の系列局の協力も得ながら、新たな番組や企画VTR等を制作し、放送している。さらに、民放とNHKがタッグを組んだ今回のプロジェクトに、民放公式テレビポータル「TVer」も参加協力することになった。設置された特集ページには3月6日から各局で放送されているプロジェクト参加番組が並ぶ。

そもそも、今回のプロジェクトは異色の連携によって、2011年3月11日から10年を経て「進む復興」と「直面する課題」に向き合う映像が作られたことが注目に値する。フジテレビ情報制作センター室長 濱潤氏はプロジェクトが立ち上がった経緯をこのように説明する。

「東日本大震災から10年の節目の年に、『災害によって失われる命を無くすために“テレビでできること”を考えませんか』と、NHKと共に各局の報道や制作の現場に声をかけたところ、各局の皆さんがその趣旨に賛同していただき、それぞれの立場を超えて集まり、このプロジェクトが立ち上がりました」。

局の壁を超えて“テレビ”というメディアが一つになり、社会貢献できる可能性を模索した結果、初の連携プロジェクトが生まれたというわけだ。NHK編成局コンテンツ開発センターチーフ・プロデューサー 浜野高宏氏は「次世代に震災の経験を伝えていき、次世代の防災減災に役立てたいと思っているのは、自分だけじゃないということは、大発見でした」と強調する。

実際の番組制作において様々な気づきを与えている。例えば、フジテレビのプロジェクト参加番組『Mr.サンデーSP わ・す・れ・な・い宮古市を襲った5つの津波』を担当した『Mr.サンデー』のプロデューサー宮下佐紀子氏は「宮古市の津波検証において、NHK、テレビ朝日系(岩手朝日テレビ)が元々入手していた視聴者映像の3つを時系列で組み合わせることで、河口を遡りながら重なって速度と水位を増す、重なる津波の恐ろしさを明らかにすることができました。他局の映像があることで可能となった検証です。これによって、今後の災害報道に関して、局の垣根を越えた映像の共有で得られる具体的なメリットが見えました」と話す。

またTBSのプロジェクト参加番組『つなぐ、つながるSP』の総合演出・プロデューサーの山岡陽輔氏は「各局の担当者が皆、震災が忘れ去られてしまうことに対して、並々ならぬ“危機感”を持っていることに気付かされました」と明かす。この危機感は共通テーマ「キオク、ともに未来へ。」にも表れていると指摘し、「同じ問題意識を共有している各局の担当者と知り合えたことには、大きな意味があり、節目節目の防災報道だけでなく、将来、何かが起きたときにも連携ができる可能性が生まれ、防災報道の強化に繋がるのではないかと思います」と続けた。

■未来の防災・減災により役立てることができるはず

危機感が普段はライバル同士のテレビ局を繋げた一つに理由にある。テレビ東京 報道局次長兼社会部長 川口尚宏氏はこのように言葉にした。「普段は民放のキー局やNHKは“ライバル”ですが、大きな災害が起きたときに、その垣根を越えて情報や映像でも連携して視聴者に伝える協力関係を実現させるためにも、今回のプロジェクトを実現した意味は大きかったと思います。テレビというメディアの価値が問われているいま、さまざまな形で、視聴者、一般の人たちに役立つ情報を伝えるための連携・協力は大切と感じました」。

また、テレビ朝日報道局ニュースセンターニュース統括担当 森本尽氏は「普段はライバルでもある6社が集まり、行き着いたのは、千年に一度という未曽有の災害の“キオク”=テレビ各社が持つ映像記録が、未来の命を守ることにつながるのではないかという気づきでした。各局・各系列それぞれに事情が異なり、難しい面もありましたが、災害報道に関して“垣根を取り払う”という場面が今後広がっていけば、テレビが新たな役割を果たせる可能性も見えてくるように思います。今回は小さな一歩にすぎませんが、たとえば災害関連のアーカイブ映像をメディア間で共有していく仕組みを構築できれば、未来の防災・減災により役立てることができるはずです」と具体案を示す。

民放5局のプロジェクト担当者それぞれが防災報道の強化に繋がっていく可能性を強調している。日本テレビ報道局次長 日本テレビ報道局次長 小林景一氏小林景一氏は「報道においては各メディアがそれぞれの目線や切り口で取材し報じることが大切と考えていますが、災害報道における“命を救う報道”の必要性については各局に共通する思いがあります。たとえば、一つのエリアの津波をあらためて各局の映像を合わせて多角的に検証することで、津波の特徴や避難方法のあり方を分析できた点など、今後の防災報道の強化にも繋がる取り組みだったと感じています」と話す。

前述のNHK浜野氏も「取材や番組制作、アナウンスなどの担当者レベルでが交流が図れましたので、今後、少なくとも平時の防災で、気軽に相談ができる関係を築くことができると思います。今回のプロジェクトで実現した映像・情報などの交流は、本当に防災に役立つ形で今後も続けていきたいです」と、前向きに検討している。

そして、前述のフジテレビ情報制作センター室長 濱氏が「参加した各局のメンバーで話していたのは、これを一過性のものに決してしてはいけないということ。大震災から10年間、テレビを巡る環境は大きく変わってきています。SNSなどで個々人の情報発信が可能になっている時代に、防災、減災のためにテレビというメディアにしかできないことを求められていると思います。今後、テレビ各局が災害時の社会インフラとしての役割を様々なフェーズで果たすために協力し合う礎の一つに、このプロジェクトがなれれば、と思っています」と、改めて各局の想いをまとめた。

通常、「TVer」では放送から1週間の見逃し配信が前提とされているが、今回はプロジェクト期間の3月31日(水)まで配信可能となっていることも特徴にある(NHKの番組を除く)。「TVer」を運営する株式会社TVerのコンテンツ戦略部部長 渡辺実氏は「こういう新しい試みのプラットフォームが、『TVer』であることにも意味があると感じています。10年前とは視聴環境が変化し、テレビ受像機がなくても、テレビをあまり見ない若い世代にも届くかたちが求められているからです。今回のプロジェクトをきっかけに、災害時の情報インフラとしてTVerも役割を担っていくことを目指したい」と強調する。視聴者にも必ずや気づきを与えるであろうプロジェクト参加番組をこの機会にじっくり見る価値はある。

【各局の主な参加番組】

放送日時:3月11日(木)13時55分~19時

放送日時:3月11日(木)13時50分~15時43分

放送日時:3月6日(土)14時~15時54分

放送日時:3月11日(木)13時55分~15時49分

放送日時:3月7日(日)27時10分~27時40分

放送日時:3月11日(木)15時15分~16時50分
※FNS系列24局で放送、一部地域では別日時

■NHK『あしたの命を守りたい ~NHK民放 取材者たちの震災10年~』
放送日時:3月14日(日)[総合]13時50分~15時 ※一部地域では別日時
※NHKの番組は、「TVer」テレビアプリ及びChromecastでは視聴できません。

この記事のライター

長谷川朋子(Tomoko Hasegawa)

テレビ業界ジャーナリスト、コラムニスト。 国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、コンテンツビジネスの仕組みについて独自の視点で解説した執筆記事多数。Netflixオリジナルのオススメ連載なども。得意な分野は海外流通ビジネス。フランス・カンヌで開催される世界最大規模の映像コンテンツ見本市MIP現地取材を約10年にわたって重ね、日本人ジャーナリストとしてはこの分野におけるオーソリティとして活動。また業界権威の「ATP賞テレビグランプリ」の「総務大臣賞」の審査員や、業界セミナー講師、行政支援番組プロジェクトのファシリテーターなども務める。

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