時任三郎「本能的に反応しあえる」盟友・中井貴一と見せた“阿吽の呼吸”を振り返る

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君塚良一監督の最新作『グッドモーニングショー』(10月8日公開)に出演する俳優の時任三郎にインタビュー。君塚作品の魅力や、80年代から90年代にかけて放送された大人気ドラマシリーズ『ふぞろいの林檎たち』で苦楽を共にした中井貴一との久々の共演を振り返っていただいた。

本作は、朝のワイドショー「グッドモーニングショー」のメインキャスター澄田真吾(中井貴一)を中心に描いたオリジナルコメディ。澄田が妻・明美(吉田羊)と息子の言い争いに巻き込まれ、職場ではサブキャスターの小川圭子(長澤まさみ)に“身に覚えのない交際”を発表しようと迫られ、プロデューサーの石山聡(時任三郎)からは番組の打ち切りを告げられるなど気分は最悪。さらには、爆弾と銃を持った立てこもり事件に名指しで呼び出され、武装した犯人・西谷颯太(濱田岳)を相手にマイク一つで対峙することに。まさに踏んだり蹴ったりとなった澄田の一日が描かれていく。

時任演じる石山プロデューサーは、中井演じる澄田キャスターとは同期で、それぞれをよく知る間柄。物語の展開と共に、盟友同士が見せる“大人の芝居”も注目の作品となっている。


<インタビュー>

――台本を読まれたときの感想を教えてください。

良い脚本に出会えると、自分が出ることを忘れて物語に入り込んでしまう。まさに今回はそれで、自分の役が何を言ったかとか抜きにして楽しめました。また、澄田と西谷が対峙する場面を実際に映像にしたらどうなるんだろうとワクワクしました。話に引きずり込まれる力強さや面白さがあります。

――演じた石山Pについては、君塚監督から何か要望がありましたか?

バックグラウンドについて書かれた資料を監督に見せてもらったのですが、現場に入ったら全部忘れてしまいました(笑) どういう経緯でテレビ局に入ったとか、何を目指して、どうやって生きてきたかが書かれていたと思うんですけどね……。最終的に役作りをした石山は、どこかで視聴率さえ取れれば良いという思いがある。もちろん、その中には彼なりの正義があって、人としてこうあるべきだという思いがあるのだけど、どうしても視聴率が行動の元になっているという男ですね。

――どのようなプロデューサー像を造ろうと考えられましたか?

普段の番組作りの中では上から見渡している感じで、現場は若いヤツで回っていて、最終的な判断をしなくちゃいけないときはするというタイプですね。俺が仕切っているという感じはそんなに出していません。ただ、今回は事件を扱うことになりますから、そこからは責任者として判断せざる獲ない状況に追い込まれるので、その辺は芝居どころかなと思いました。

――君塚監督は複数台のカメラでカット割りをせずに長回しで撮影されるとのことですが、役者としてやり応えがあるのではないでしょうか?

臨場感ある撮り方でしたね。とても繋がりがスムーズで、“今から芝居します、芝居が終わりました”という形で積み上げていくのではなくて、映り込んでいる人も、映り込んでない人も、一緒になって役として演じていく。この方法は役者として大変ではあるものの、好きな撮影スタイルです。普通にカット割りして撮影していくと、100%出せなかったなと思っても撮り直してもらわない限りはそれを使うしかないじゃないですか。この方法だと、それが気にならないし、より良い素材があるかもしれない。その安心感もありますね。

――「100%やりきった」と思っても使われない場合も出てきますよね?

そういうこともあります(笑) ですが、「切られて残念……」という思いではなくて、「こういう風に面白く編集したんだ」という感じです。そこが監督のセンスの見せ所でもありますから。

――中井さんとの共演も大きな見どころだと思います。

若い頃に濃厚な時間を過ごしてきたので、本当に久しぶりだったけど、そういう感じはしませんでした。特に今回は同期という設定なのですんなりと入っていけました。ただ、普通の何気ない会話はしましたが、撮影の中でこうあるべきだとか難しいことは話していないです。貴一が演じる澄田がメインの話なので、彼の中で思うことはあるだろうけど、石山まではそれは影響してこない。本当に阿吽の呼吸でやれましたね。

――当時を思い出すような瞬間などはありましたか?

物語の終盤に、屋上で語り合うシーンがあります。ここで、役ではなくて普段の二人の間柄を一瞬出したやりとりがあったんです。それは台本にはない間や微妙な空気感があったのですが、編集でなくなっていました(笑) メイキングとかで使われたら面白いかもしれないですね。

――同じ世代で昔からやってきた俳優同士、負けられないなと思うことはありますか?

当時もそういうことを言っていられないような状況の中で、厳しい台本、演出の中で共に過ごしてきたので、お互いに張り合うということはありませんでした。「この難局を互いに乗り越えるために、共に頑張ろうぜ」というような仲間意識が強くて、それは若い頃と変わることはなかったですね。むしろ「向こうがこう来るだろうから、こっちもこうやって返す」みたいな、お互いを知り尽くした同士だから本能的に反応しあえる部分はありました。

――逆に、若い世代との共演の面白さはどのようなところにありますか?

この台本でこういう芝居をするんだって面白い発見はありますね。今回で言えば、濱田くんは台本を越えているなと思いました。立てこもりしながら貴一と対峙するシーンは二人とも真に迫っていた。言ってみれば大ベテランの中井貴一に対して、若手の濱田くんが対等にやり合っているところは役者魂を感じした。

――この作品をご覧になる方々にメッセージをお願いします。

自分の出演作品を観ていると、たいていの場合「あそこはこうしておけば良かったな……」と思うものなのですが、今回は単純に見て楽しめました。それは貴一の素晴らしさでもあります。基本線を全部抑えて100%脚本を表現してくれる上に、現場で起こる突発的なことに対応する柔軟さも持っている。こういう役者は滅多にいません。笑いながらでも、いろんな深読みしながらでも、単純に楽しみながら、有意義な時間を過ごせる作品だと思うので、是非、一人でも多くの方にご覧いただきたいと思います。

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