「殺したいくらい嫉妬している」名匠・大林宣彦監督も認めた才能…山元環監督の原点

公開: 更新: テレ東プラス

痛ぶる恋 山元監督 後編
スリーピースロックバンド・This is LASTの楽曲の世界観を原案に映像化した、木ドラ24「痛ぶる恋の、ようなもの」(毎週木曜深夜24時30分)。

脚本・監督を務める山元環監督インタビュー【後編】は、映画・ドラマ界が注目する若きクリエーターの原点やこだわりに迫ります!

※【前編】では、ドラマの舞台裏についてトーク!

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兄は芸人、双子の兄は俳優


痛ぶる恋 山元監督 後編痛ぶる恋の、ようなもの」第3話より

――山元監督は、大阪芸術大学映像学科のご出身。高校も芸術系の学科だったとか?

「そうです。大阪府立東住吉高等学校の芸能文化科というところで、1つ上の代にビスケットブラザーズの(原田)泰雅がいました。仲がよすぎて名前で呼んでますけど(笑)、そういう面白い人たちが集まっていました」

――出身者には、令和喜多みな実野村尚平さん、ロッチコカドケンタロウさん、宇都宮まきさん、実のお兄さんで芸人のネコニスズヤマゲンさん、同期には双子の兄で俳優の山元駿さんなどがいらっしゃって。

「基本的には古典芸能を勉強する学科で、お琴とか三味線、狂言なんかを学ぶんです。で、2年生になると放送の授業を選択できて、渡されたビデオカメラで短編作品を撮るんですけど、それがやりたくて芸能文化科に入りました。ただ、双子の物語を作ろうとしたら、まあ上手くいかなくて(笑)。その悔しさもあって、大阪芸大でスキルを上げようと」

――当時、影響を受けたもの、人、作品などありますか?

「大阪芸大に行こうと思った最大の理由は『リンダ リンダ リンダ』の山下敦弘監督の母校だから。監督の卒業制作『どんてん生活』という作品を見て、よし行こうと。あとは、豊田利晃監督の『青い春』。THEE MICHELLE GUN ELEPHANTさんの音楽と映像の親和性、リズム感は影響を受けています。この作品を見て、自分も映像の仕事をやってみたいと思いました」

痛ぶる恋 山元監督 後編「痛ぶる恋の、ようなもの」第3話より

――「痛ぶる恋の、ようなもの」の主人公・根津晴(望月歩)も芸術大学の映像学科3年生ですが、監督ご自身の大学生活はいかがでしたか?

「バンドの、ヤバイTシャツ屋さんが映像学科の同期やったんですけど、いろんなヤツらがいて面白かったです。あの時がなかったら今の自分はないと思います。今でも忘年会とかあると集まったりはしますね」

――卒業制作「ゴロン、バタン、キュー」が「PFFアワード2015」審査員特別賞ほか受賞。準グランプリと最優秀役者賞を受賞した「第27回東京学生映画祭」では、審査員を務めた大林宣彦監督が「今、山元くんに対して殺したいくらい嫉妬している」と激賞した逸話も。

「めっちゃ、うれしかったですね。生まれて初めて評価されたので。お亡くなりになる前に表彰式でハグできて、そういう評価をいただいけたことが励みになりました」

傷つきの“えぐみ”で共感性を呼ぶ


痛ぶる恋 山元監督 後編「痛ぶる恋の、ようなもの」第3話より

――ご自身の作品を説明する上で、こだわっている部分、特徴はどこだと思われますか?

「特徴は、編集のリズム感と音や音楽を入れるタイミングだと思います。誰もが見やすい間尺で描くことがやっと板についてきたことで、このリズム、テンポで編集して、ここで音を入れたら伝わる。そんな自分の特徴、ストロングな部分が俯瞰できるようになってきました」

――監督・脚本を務めたBUMP配信ドラマ(1話1〜3分の短尺ドラマ)「今日も浮つく、あなたは燃える。」の切り抜き動画などがSNSで総再生回数2、3億回を超え大バズリ。それも、そのリズム感あってのことでしょうか?

「これまでの経験が役立ったと思います。3分という尺のどこで区切るか。どう区切れば続けて見てもらえるか、ですね」

――具体的に取り組んだことは?

「何も起こっていないところは描かない。何か起こったところだけを点でつなぐことです。ある程度、間が抜けてもお客さんが補完してくれるんですよ。ポンポンと駆け足で進んでいく方が、次はどうなるんだろうと最後まで見てくれる。感情のつながりさえ途切れさせずに描けば、人は付いてきてくれるということがわかりました」

――ドラマを描くミュージックビデオ(MV)のような?

「それに近いですね。This is LASTさんの楽曲の世界観を映像化した『痛ぶる恋の、ようなもの』も、MVとBUMPの要素を取り入れているところはあるかもしれません。あえて今のお客さんに合わせたものを…とは思わないですけど、最後まで見てくれて、何か伝わったらいいなとは思い作っています」

――昨今、ドラマ制作が曲がり角にきていると思います。今、監督・脚本家として注目しているポイントは何でしょう?

「たぶん、なんですけど…ポイントは“えぐみ”だと思っています。めちゃくちゃ夢みたいなキレイな世界で、見て癒し空間を与えてくれる作品か。傷ついている人が多い世の中で、傷つきのえぐみで共感性を呼ぶ作品のどちらかが今の時代はウケていて。その中でも僕は、えぐみの方に魅かれますね」

――インタビュー前編でも「傍から見ると気持ち悪い2人と思われるくらい振り切ろうと思いキャラクターを作り上げた」と。

「そうですね。あくまで僕個人の意見ですけど、今の時代、真ん中はないと思っているので、どちらかに振り切ることが大事なんじゃないかなと思います」

――では、物語を作る上でゆずれないところや「人間のここを描きたい」と思う部分はどこですか?

「こっけいであることと、情けなさを感じさせるものは描きたいと思っています。『痛ぶる恋の、ようなもの』でも、主人公の根津晴もヒロインの久我ユリ(小川未祐)も、どこかこっけいで情けなく見えるよう台本を書いたつもりです。あと今回は、誰の気持ちも救いたくなかったので…傷つけ合う時代の物語だと思ったので、“根津晴キモイ”、“久我ユリ嫌い”と言ってもらえたらうれしいです(笑)。もう1人のヒロイン、臼井都(河村花)もこれからだんだん彼女のヤバさを垣間見せてきますので、楽しみに見ていただければと思います」

【プロフィール】
山元環(やまもと・かん)
1993年1月22日生まれ。大阪府出身。大阪芸術大学映像学科を卒業。卒業制作『ゴロン、バタン、キュー』が「PFFアワード2015」で審査員特別賞と神戸賞、「第27回東京学生映画祭」で準グランプリと最優秀役者賞、「第18回京都国際学生映画祭」では沖田修一賞、李鳳宇賞、観客賞を受賞。文化庁委託業務「ndjc2018:若手映画監督育成プロジェクト」で短編映画『うちうちの面達は。』を監督。2019年に公開されたショートフィルム『ワンナイトのあとに』がYouTubeで300万回再生され話題に。さらに、監督・脚本を務めたBUMP配信ドラマ「今日も浮つく、あなたは燃える。」の切り抜き等がSNSで総再生回数2、3億回を超える。近年は、ドラマ「夫婦が壊れるとき」(日本テレビ系)、「沼オトコと沼落ちオンナのmidnight call~寝不足の原因は自分にある。~」(テレ東)を監督。
X(旧Twitter):@AtomicFILMMER
Instagram:@kan_ymgn

(取材・文/橋本達典)

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