テレ東の「池の水を抜く」というヒット番組が誕生した理由

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4月21日、業界人によるトークセッション「シェイク!Vol.9」が、株式会社IPGの本社(東京都中央区築地)にて開催された。テーマは、「どうしたら作れる、面白い企画」の第二弾。第一弾から引き続き、テレビ東京のプロデューサー伊藤隆行氏(『やりすぎコージー』『モヤモヤさまぁ~ず2』)、ゲーム作家の米光一成氏(『ぷよぷよ』『トレジャーハンターG』)、アートディレクター/プランナーの佐藤ねじ氏(『Kocri』『しゃべる名刺』)の3人がトークを繰り広げた。

■「池の水を抜く」というヒット番組誕生の裏側

若者のテレビ離れは、業界でも切実な問題となって久しい。そのようななか、テレビ東京のプロデューサー伊藤隆行氏は、ヒット番組を生み続けている。今年の1月15日に放送された日曜ビッグバラエティ『緊急SOS危険生物から日本を守れ!池の水を全部抜いて絶滅大作戦』は、池の水を抜いたら何が出てくるか? という奇抜ではありながら、シンプルな企画。しかし、普段気づくことのない池の生態系や、池の水を抜くさまざまな重機などが番組内で明らかになり、大きな反響をよんだ。すでに、第二弾も放送され、次回の制作も進んでいるという。

もともとは、某事件で警察が、“池の水位を下げて捜索した”というニュースを見て、「池の水は抜けるんだ!」と発見したことがきっかけだったという。佐藤氏が、その企画が成功するという確証があったのか問うと、伊藤氏は、そこまでのものはなかったという。むしろ反対意見もたくさんあったそうだ。「でも、そこまで反対されるものは、“何か”がある」と、独自の着眼点を述べた。

米光氏が注目したのは、番組の制作手法だった。伊藤氏は、現場の出演者やスタッフに細かく指示することはない。企画のタイトルと番組の仕組みを整えたら、あとは各自で最善を尽くしてもらうスタンス。「現場から工夫して上がってきたものに、文句は言わない」とのこと。伊藤氏個人の「おもしろそうだ」という着眼と、現場の一人ひとりの積み重ねがヒット番組につながっているというのだ。米光氏は、「出演者の力量に頼る番組はあるが、その枠にスタッフも入っているのが素晴らしい」と絶賛した。

■楽しむポイントも、いつ楽しむかも、「個人」に委ねられる

今のヒットは、「個人」の視点が求められる傾向にあるのかもしれない。米光氏、佐藤氏も「個人」から企画がスタートしている。米光氏が最近考えたボードゲーム『んーって言うゲーム』は、考え込むとき、キスをねだるときなど、さまざまなシチュエーションの「んー」を言い当てるというもの。これは「飲み会で手軽に遊べるものがほしかった」という個人的な思いから誕生した。一方、佐藤氏は、読むたびにかすれたり、黄ばんだりしていく「劣化するWebメディア」を開発。これも、佐藤氏本人がおもしろいと思うものを、追求した結果である。

さらに、たくさんの人に同時刻に同じ番組を見てもらう、という考え方から、テレビは脱却する必要があるかもしれない。伊藤氏のお子さんは、まだ小さいとのことだか、新聞のテレビ欄を見て、「なぜ、この時間じゃないと、パパの番組は見られないの?」と聞くという。情報がいつでも手に入る時代になった今、これからの世代にとって、ゴールデンタイムというのは、意味を成さないのではないかと伊藤氏は分析する。

これまでの番組制作は、60代の方がテレビを見る時間に、60代向けの企画を考えるというのがセオリーだった。新人時代、「60代以上が楽しめる企画を立てられなければダメだ」と叱責されたADは多いという。しかし、もはや現状はそれに適さないと言えそうだ。

■作り手側も、多様な企画を受け入れる環境づくりを

何より作る側も、「自分と離れた年代に向けて、企画を作るのは無理がある」という意見で、3人は一致した。米光氏は、倉本聰氏が脚本を手掛けたテレビ朝日の昼ドラマ『やすらぎの郷』を引き合いに出した。あるとき劇中で、理想の老人ホームについて、15分にわたって延々と語られるシーンがあったというのだ。「あそこまで語れるのは、80代まで生きた倉本氏だからこそ」と米光氏は考える。

同様に、20代、30代、40代ならではの企画の方が、それぞれの世代に共感を生む可能性が高いと言えよう。佐藤氏は「せっかくさまざまな年代の人がいるのだから、それぞれが求めるものを出すことに、意味があるのではないか」と意見を付け加えた。

伊藤氏は「20代で、むしろ『テレビなんか見ません』という人の企画に期待したい」という。また、そういうふうに若手が勇気を持って言える環境を、自分たちが作らなければ、テレビは変わらないと考えている。多様な価値観をいかに取り入れ、アウトプットしていくか。それが、テレビの将来を切り開くカギとなりそうだ。

尚、次回(6月14日)の「シェイク!Vol.11」は、「マンガやアニメをつくる側の視点」をテーマに、諏訪道彦氏(読売テレビ 編成局アニメーション部 エグゼクティブ・プロデューサー)、うめ・小沢高広氏(漫画家)、高山晃(株式会社ファンワークス 代表取締役社長)が出演する。

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